彼方には、目指すべき高みが有る。
彼方には、支えるべき人が居る。
彼方には、戦うべき敵がいる。
彼方には、傍にいるべき人が居る。
彼方には、私は必要ない。
− 光る道 −
「……食べないのですか」
「……」
男は呆然としていた。
「……食べないのですか」
「……」
男は、数日前友を失った。
友の名は孫策。江東の虎と呼ばれた孫堅の息子で、小覇王の異名を欲しい儘にした。しかし若く勇敢な友は食客に襲われ、介抱虚しく還らぬ人となった。
男は衝撃の余り破棄を失っていた。
男の名は周瑜。美貌と知勇の名高い、呉の水軍を預かる都督である。
「……食べないのですか」
侍女−−が今日何度目かの質問をした。
は、こうして日に何度も周瑜の寝室に食事を運ぶが口を付けてもらえた試しが無い。しかし、正妻の小喬に良く頼まれている為止める訳にも行かない。小喬は夫を亡くした姉を慰める事で手一杯なのだ。
「周都督」
の手が肩に触れると、周瑜が腕を掴んで泣いた。
「伯符……」
周瑜は三公を排出する名門の出だ。その所為か些か気位の高い所がある。しかし、妙に人懐っこい孫策と一緒にいる事で其の性格は大分緩和されていた。二人は一緒にいる事が極当然の様に思われた。それだけに周瑜の嘆きは尋常ではない。其れは、まるで半身を無くしたかの様だった。
「……大丈夫だ」
袖の下でくぐもった声が聞こえた。
「私は、大丈夫だ」
もう一度、周瑜は繰り返した。
「私には成すべき大道がある。だから、大丈夫だ」
其れはに伝えていると言うよりは、自分に言い聞かせている様だった。
「……はい」
は頷いたが、其れでも暫く啜り泣きが聞こえた。
何れ立ち直れば、私に縋った事など彼方は忘れるだろう。
だが、其れで構わない。
彼方には成すべき大道が有り、私は必要ないのだから。
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全く持って夢小説ではない話。
叶わない夢を諦められる程人は賢くない。愚かだから愛しい。
2004.04.15 viax
BGM : T.M.Revolution [DISCORdanza Try My Remix 〜Single Collections]