あの男は風だったと呟いた私の背に、彼の手が触れた。
身体は未だ熱を持っているのに、彼の手は冷たかった。
あの男は酷い男だったと呟いた私に、彼は困った顔で微笑んだ。
私が男を憎む感情も翳むほど、彼は男を慕っていたのだ。
私は、今は亡き諸葛亮の顔を思い出そうとしたが、酷薄そうな口元しか浮かばなかった。
遠くの風
組み敷いた身体は、見た目より遥かに逞しかった。
「将軍……?」
姜維は事態を理解出来ない儘、呆然とした眼差しでを見つめた。
「私はな、彼方をみすみす死に追いやる気は無いよ」
姜維は信じられないという顔でを見た。
は蜀の軍人だった。諸葛亮の遣り方を良しとせず、諸葛亮亡き後楊儀が跡を継ぐと若くして引退してしまった。姜維にとっては昔の上官であり、淡い恋心を抱いていた。
「将軍、何を?」
は姜維の声を無視して、素早く臥床の端に姜維の四肢を結わえた。
「彼方は……女を知らぬそうだな」
の顔は大層美しかったが、そう言いながら笑う彼女は、この上なく卑猥だった。
「な……!」
姜維は言葉を失いながらを見つめた。
「子龍がな、言っていたぞ」
姜維には、趙雲が自分の話しをしながらを口説く様がはっきりと思い浮かんだ。趙雲は出来た人物だが、自分に靡かぬの事となると些か形振り構わぬ所があった。恐らく、姜維を引き合いに出し自分の閨の素晴らしさをそれと無くに伝えようとしたのだろうが、当然のことながらは興味を持たなかったのだろう。
「将軍は私をからかうのですか?」
姜維の眼は羞恥で潤んでいた。しかし、は其れを笑うでもなく、微笑んで指で涙を救うと深く口付けた。
其れは今まで姜維が体験したことの無い接吻だった。舌を絡めるように吸われたかと思うと、歯列をなぞられ、其の感覚に身体が震えると唇を繰り返し吸われる様に噛まれた。
「正直な身体だ……流石に年相応か」
馬鹿にするでも無く愛しそうに笑いながら、は足に当たる姜維の昂ぶりに触れた。
「や……止めて下さい……!」
姜維は顔を真っ赤にして懇願したが、は笑うだけだった。
そうして笑いながら唇が姜維の昂ぶりに触れ、そっと咥え込んだ。姜維は驚愕と快楽の呻き声を上げたが、は気にする事無く唇を上下に動かしながら吸い上げた。自分の性器に纏わりつく舌の巧みな動きと、其れを弄ぶ指の動きに、姜維は思わず赤くなる顔を手で覆い隠そうとしたが、繋がれた身体では其れも叶わず、か細い声で悲鳴を上げた。
「や……やだ……!」
姜維は身体を震わせながら、必死に何かに耐えていた。其れが何のかは、も姜維も解っていたが、とても口には出せなかった。
「私な、彼方を人間として高く評価している……彼方一人、矢面に立たせて知らぬ振り、という訳にはいかんよ」
其の行為には似合わぬ台詞に、姜維は一瞬何か言おうとしたが、が覆い被さった事で何も言う事が出来なくなった。
柔らかい蜜壷が姜維の性器を飲み込み、は姜維の肩に手を置いて腰を上下させた。その性器の絶妙な動きに、姜維はひたすら嬌声を上げた。僅かな抵抗を口にはするが、臥床に結ばれた手はを抱き締めようとしていた。
「彼方が、好きだ……」
の掠れた声が姜維に聞こえたかは解らなかった。
後、姜維は蜀存続の博打を打つ。しかし、鐘会の乱は失敗し、混乱の中魏兵によって命を落とす。
魏兵をもって慄かせた肝は、今なお大剣山の麓に眠る。妻子共に殺され、其の血は終焉を迎える。なお、妻の名は残っていない。
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可愛い子がテーマだというのに暗い話だ。
悲運の名将或いは亡国の乱将。私は、彼は生まれる時代を間違えたのだと思う。そして時代に泣いた武将は彼だけでは無い。
2004.07.10 viax