男は執務室で部下を叱責していた。
「馬鹿めが! 馬鹿めがっ!! この凡愚めがっ!!!」
部下は涙を浮かべながら、顔色が悪い上に青筋立てて怒鳴る上司に謝っていた。
男の隣で先程から成り行きを見守っていた女が、見兼ねて男に声をかける。
「仲達、もう良いでしょう?」
― 軍師様の日常 ―
装飾の美しい小振りな鉄扇で口元を隠しながら、女は眉を顰めた。
「何で貴様は甘いのだっ!」
仲達と呼ばれた男は、紫色の羽扇を震わせて女に怒鳴る。
「だって何度注意しても間違える者は間違えるし、間違えないものは注意しなくても間違えませんもの。」
女の冷たい口振りに男は思わず部下を見やる。
部下は蒼白の顔で土下座をしている。
男は部下に下がるように言うと、女に近付いた。
「お前の言い方の方が酷かったぞ。」
男は女の髪を撫でると、そっと其の髪に口付けた。
「酷く言ったのです。」
女は男の頬を撫でながら、詰まらなそうに言った。
「酷い女だ…」
男は今度は女の唇に口付けた。
「そんな女がお好きなのでしょう?」
女は薄く微笑む。
「そう…そんなが好きで堪らぬ。」
男は女の首筋に唇を這わせた。
「困った軍師様…」
と呼ばれた女は、男を優しく甘やかした。
「…」
男の唇が女の白い肌に鬱血した痕を散りばめて残していく。
「いけませんよ…」
女の手が軽く男の頭を制する。
「…今日は…今宵は来るのか?」
男が縋り付く様な眼差しで女を見詰める。
「軍師様のお呼びとあらば…」
女は男の頬を撫でながら、先程までとは違う優しい微笑を見せる。
「参れよ?」
男は少し赤い顔で女に言う。
「かしこまりました。」
女は紅。司馬懿の弟子にして恋人。
男は司馬懿、字を仲達。紅の師匠にして恋人。
この会話が彼らの日常である。
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態と「男は…」という遠い視点から書いてみましたが、如何でしょうか? イマイチ夢小説ぽくないと反省しておりますが。
なんかこの話は2人の関係の説明みたいになってしまいました。何しろ本編の1話からヤっていたので…。
此れに懲りずに後49話お付き合い頂ければと思います。