今日も今日とて司馬懿の怒鳴り声が響き渡る。
は笑いながら其の様子を見ているだけだ。
「あれはどうにかならんのか?」
夏侯惇と徐晃が呆れ顔で話しかけるが、
「可愛らしいではありませんか。」
は全く取り合わない。
― ドジな私をお許し下さい ―
「殿! いい加減仕事をなってください!」
「お前がやった方が早い!」
怒鳴る司馬懿に顔色を変えぬには、曹操とくらいのものだろう。
「仲達、殿にいくら言っても無駄ですよ。」
は一頻り笑ってから司馬懿に声をかける。
「お前は…いつもいつも殿を甘やかしよって!」
紫色の羽団扇を振るわせる司馬懿に、は艶然と微笑む。
「仲達の事もあんなに甘やかしているではありませんか。」
その言葉に夏侯惇と徐晃は顔を見合わせる。
司馬懿と言えば平素の冷静さは何処へ言ったのか、真っ赤な顔で眼を白黒させている。
「昨夜もアレ程甘やかしてさしあげたのに…本当に殿方は欲張りですわね。」
は震える司馬懿の手を取ると、曹操に微笑みかけた。
「私の可愛い仲達が駄々を捏ねます故、暫し甘やかしてまいります。」
何か喚いている司馬懿の手を取って歩き出したは、呆然としている夏侯惇達に手を振り部屋から出て行った。
「「う…羨ましい…」」
男達の煩悩が思わず零れた事は言うまでも無い。
「はっ…離せ!」
司馬懿はの手を振り解こうとしたが、妖しい笑顔で自分を見る眼に思わず黙る。
「可愛がってさし上げますよ?」
その魅力的な申し出を司馬懿が断れるはずも無く…。
女の前では男は皆愚かになる。