2人はライバル?
ベッドから身を起こし、タバコに火をつける。 隣で眠る男を見て、真田 毅(さなだ つよし)は煙と共に深い吐息を落とした。 「……マジかよ……1回だけなら勢いで済むけどよ…こう続けばシャレんなんねぇ…」 週末の夜、もう二桁に及ぶ情事の合間に漏らされた言葉。 台詞とは裏腹に、毅の指先は眠る相手の前髪を、柔らかく、かきあげていた。 ……愛おしげに。 相手は小・中・高の同級生で、瀬名尾 朗(せのお あきら)と言う。 外見的にモテる要素たっぷりの二人は、学生時代から男女不問で人気者だった。 すっきりとした涼しげな顔立ちに、クールな性格と雰囲気が魅力の朗。 日本人離れした、彫りの深い精悍な顔立ちに、野性的な感じが漂う毅。 互いにモテることは認め合っていたのだが、似たような性分なので、友情というものを育んだ記憶は全くない。 言い寄って来てくれた者がストライクゾーンであれば男女問わずに付き合う節操のなさと、半径5m以内で済ませてしまう手軽さは、可笑しいほどに一致するのだが。 だからこそ、互いを気に食わぬ奴、と認識するのは仕方のない事だろう。 生粋のゲイと言うワケでもないのだから、当然かもしれない。 大学は別だったのですっかり互いに存在を忘れていたある日。 毅の住むマンションの隣室に朗が引っ越してきた。 首都圏のこと、引越しの挨拶があるワケでもないので、毅も 「隣はナニをする人ぞ」 程度の関心しか持たない。 けれども隣に引っ越してきたのを知った理由はワリと単純だった。 高校時代の同窓会の案内が、隣室の朗のものと入れ違っていたのである。 同姓同名か、と思ったのだが、ちょっと変わった名であるから、へエ、隣に来たのかもな、程度にしか思っていなかった。 わざわざ会おうとも思わない相手だったからだ。 朗も毅と同じく、黙って相手側のポストに葉書を入れていたので二人の意思は合致していた事になる。 ……が、期せずして顔を突きあわせたのは、仕事絡みの出来事であった。 航空測量、と言う聞きなれない職種の会社に勤める朗の会社が引越しをする事になり、その引越しの営業をかけたのが、毅である。 競合相手は3社。 黒字の叩ける予算枠だったので、接待をやって落とせ、と言われ、営業所の所長代理を勤める朗を渋々誘いに行けば、ケンもホロロに断られた。 「んだよ、接待禁止令でも出てんのかよ、どうせ会社の金なんだから固い事言うな」 と言えば、そうじゃない、と朗は応えた。 予算段階で毅の会社が一番安価であるから、接待なぞ受けなくても引越しは頼む、と漏らしてくれたのは…それでも同級生のヨシミ、なのかもしれない。 朗も普段はこんなリークなどしないのに、何故毅に言ってやる気になったのか、自分でもよくわからなかったのだ。 クールな朗が珍しく善意を見せてくれたのには感謝だが、貸し借りはナシにしたい。 毅は自分のポケットマネーから費用を出すことを条件に、朗を飲みに誘う事にした。 どうせならお前の行きつけにしろよ、と言う言葉に素直に頷いた朗が選んだ店は…。 なんと…ゲイの出会いスポット、と噂されるバーだった。 何度か会社の同僚と冷やかし半分で訪れたことのあった毅は半分呆れつつ、 「そーいや…お前独身だっけ…女やめてコッチに宗旨変えしたのか?」 聞けば、バツイチだ、と言う応えが返ってきた。 この店を選んだのは安くて良い酒があるからだ、と言う。 「どうせ野郎と顔つき合わすんだし…ヘンに気取っても仕方ないだろ」 ポーカーフェイスとは裏腹に、朗なりにちょっとは気を遣ってくれたらしい。 毅は最近バツ2になったばかりであるから、少し親近感も沸く。 それを聞いた朗は呆れたように 「2回もしたのか?」 と言う。 「んな事言ったって、結婚してくれーっつって向こうが言ってくるからよ。なのに3年もすりゃ、ヤッパリ別れましょうってんだから、女ってなわっかんねーよな。最初の嫁に娘がいるけど、……まぁ慰謝料も請求されないし、時々は会わせてくれっから」 満足してるよ、と言う少しばかり自慢げな毅に、朗は思わぬ言葉をかけてきた。 「お前…ひょっとして…ヘタなんじゃねぇの?」 彼の言葉の意図が掴めなかった毅は、目の前のタンブラーを空けつつ 「なーにがよ」 と聞き返す。 返ってきた答えは突拍子も無いものだった。 「産み分け法ってあるだろうが。女が感じるのが長く深いと男。浅く短いと女。チナミに俺は男の子が2人だぜ…まぁ…一応養育費は払ってるけど」 余裕タップリに相変わらずのポーカーフェイスで毒を吐く朗に、ムッとくる。 ……見かけの爽やかさとは反対に、この毒舌が野郎連中に嫌われていたのを思い出した。 「るせーな、テメー。俺はソッチじゃー男にも女にも凄いとは言われても文句言われたこたー、 1度もねぇぞ!」 低い声で悔しそうに呟くのに、どうだか、と朗は軽く受け流す。 「所詮自己申告の凄いは凄いにならんよ、結果はちゃんと出るからな」 意地の悪い笑みを浮かべながらロックを舐める朗の腕を毅はガッシ、と掴んだ。 「よーし、そんなら証拠見せたろーじゃねーかよ!」 万札を一枚カウンターに叩きつけると、朗の腕をグイグイと引き、手近にあったラブホテルに飛びこむ。 呆気に取られつつも部屋までついてきた朗はボソリ、と呟いた。 「……で、どうやるつもりだ? 女でも呼んで比べるとか?」 「んな無駄なことはしねー」 即答と共に股間に強い刺激を感じた瞬間、ベッドに押し倒され、大いに焦る。 「おい、待て、俺は受身なんか…やだぞっ!」 それ以前に男同士なのだが、どっちも節操ナシなので、その点は余り考慮に入らない。 必死に抵抗はするものの、体格に差がないのに、毅の膂力に及ばない。 「引越屋の体力ナメんなよ…なに、すぐにアンアン言わしてやっから心配すんな」 ふざけるな、と抵抗を繰り返すのだが…言葉通りにキスは上手い。 ヘンな負けじ魂を発揮させて舌を絡ませているうちに…とうとう股間が反応した。 早いな、と言われたのが悔しくて、テメーこそ…と返せば目の前にギンギンになっている毅のご子息があった。 「粗品を見せるな!」 「ほんっと、口わりーなーお前…そこまで言うならさぞかしお前のはご立派な……」 言いつつご開帳した先にあるものを見て、毅は口を閉じた。 身長と体重は僅かに自分が上回るが…朗のソレは余り自分と遜色が無いようだ。 舌打ちをしつつ、 「シックスナインやってよ、先にイッた方の負けにしようぜ? 俺は下側でいいからよ」 毅の狙い目を知らず、負ける気のしない朗はフン、と鼻を鳴らし、彼の上に跨った。 ニヤリ、と笑った毅は朗が気付かぬように、そっ、と手元に潤滑ジェルを手繰り寄せる。 さっさと出して勝利を味わおうと、毅の分身に奉仕をしていた朗は…自分の分身以外の……あらぬ所に刺激を感じた。 コトもあろうに尻までわし掴みにされ、女にするようにやわやわと揉みこまれ…。 「おい! ……ちょっ、ドコさわっ…あ! よ…せって! あ! ひっ!」 潤滑ジェルを使ってスムーズに挿入された指の先で前立腺を刺激され、思わずアラレもない声が出る。 分身が先走りを滲ませたのを知って慌てる朗に 「おい、口が留守になってるぜ?」 とイナされ、上に乗った者が不利だった事に今更ながらに気付く。 そっちをされた事は今まで一度もない…のに、毅は的確にポイントを掴んで刺激してくる。 「こっの…卑怯もの!」 二本目をねじ込まれた痛みに眉をしかめるが、その痛みの中に微妙な感覚があるのを、朗は自覚した。 なに、これ…と思う内にすっかりバックの体位を取られ、乳首や背中、わき腹など散々にいじられる内に…腰が揺らめき始める。 屈辱に眉を寄せながら、それでもたまに漏らす、朗の吐息の色っぽさに毅の心拍数が跳ね上がる。 良く見れば…綺麗な顔立ちをしているし…こうやってるとソソルよな、なんて思ってしまう。 男女問わず、人肌を直接皮膚に感じるのは久しぶりだ。 どうせなら鳴かせてみたい、と思った瞬間、愛撫の方法を一層、丹念なものに切り替えた。 もともと前戯をコマメにして相手を乱れさせることが好きなので、毅のソレは堂に入っている。 指が三本入るまで根気良くほぐし、片手で素早くゴムを装着し、一気に埋め込んだ。 痛い、と叫んだ朗に、じゃあ、少しじっとして…と囁きながら、もう一度、今度は緩急をつけた愛撫を繰り返す。 朗と毅の相違点。 それは、相手のタイプが違うことである。 朗は比較的遊び慣れた相手が多く、毅はバージンキラーの異名を持つほど、初めての相手の破爪を努める事が多い。 朗は人との距離感を大事にし、毅は長続きしないけれど、相手に惚れこむタイプなのだ。 別れ上手な朗と、振られキングの毅、と言えば話は早いだろう。 ……なのでこの場合は最初から毅に軍配があった、と言えるかもしれない。 こんなに長時間、根気強いほどの前戯を朗はした事もないし、当然、された事など全くない。 相手に不満を漏らされたことはないのだが…こんなセックスがあるとは思わなかった。 毅のさっばりとした気性とは正反対の、しつこさ全開の愛撫に、朗はもう、ネを上げてしまいそ うだった。 ここ数ヶ月のご無沙汰を帳消しにするほど、毅に散々あっちこっちを触られるのが…実は口で言うほどイヤでも苦痛でもない。 キライではないが、当然好きでもない男に弄られて、こんなに気持ちがいいのは、人肌が恋しかったせいだろうか、と、余裕のない中で考えてみる。 朗の様子を観察しつつ、ゆるゆると腰を動かしている内に、ある、ポイントを突かれ。 「! あ! あっ! そこ…やめっ…んっ!」 微かに切迫した朗の声色に気付いた毅はそのポイントを重点的に攻め始めた。 「いいなら声聞かせろよ……聞いてんの俺だけだし……なぁ、いい? いいなら声出せよ…」 耳元で低く囁きつつ、グラインドの幅を大きくし、突き上げるピッチを上げていく。 奥を突かれ、抉られるたびに溶けそうになる自分がまるで征服されたようで悔しいのに。 ……もっと滅茶苦茶にして欲しいとすら……感じる。 朗の頭の中はもう、スパーク寸前だった。 どうしよう…こんな…イイなんて…どうしよう、と、それだけが壊れた回路のように、繰り返し脳内を駆け巡る。 「……そろそろかな…イケよ」 低い命令と同時に今まで放出を許してもらえなかった前を緩く扱かれた途端、白濁が立て続けに噴き出した。 「うわ…せの…おっ、すげ締まる…イイっ…俺もっ!」 朗に遅れること数秒、毅も自分の精を放った。 まだ目がウツロになっている朗にディープなキスを与えつつ、そろり、と体内から穿っていたものを抜き出す。 「……ぁっ…」 抜かれる感触に何とも言えぬ、ぬめるような快感を覚え、思わず毅の舌に自分のものを深く絡めてしまった。 それに何も言わず、片手でもう一度コンドームを手にとっている毅に、朗は息を飲んだ。 「おい……まさか……」 「一発で打ち止めってほど淡白なのか?」 ニヤニヤ笑いながら挑まれて、つい、 「んなワケねーだろ!」 と意地を張る。 「じゃ、遠慮なく。お互いダレが待つ家でもなし、週末だし? ゆっくりやろうぜ?」 そう言ってのしかかってくる毅に…朗は嵌められたような気分になってしまう。 「お前の…売り言葉に乗ってヤッちまったはいいけどよ…お前があんないい声で鳴くの聞いてこんな…なっちまうなんて…さ。俺…ひょっとして嵌められたのか?」 腑に落ちない口調ながらもじわじわと絡められる口付けに応えつつ、朗も内心、 「………なら…ヤられて最初からヨガっちまう俺は……もっと…ヤバイんじゃ…?」 と、考える。 しかし…熱烈さを増した毅の口付けに、僅かな理性が消し飛ぶのは、瞬く間で。 ……どちらが先に堕ちたのか、それを問うほどの物好きや野暮はどこにも居るまい。
著者一言;バカップル誕生TT
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