「やだっ、あのTシャツがいい。」 寝起きが悪い拓斗は、朝いつだって機嫌が悪い。 いつも朝飯が気に入らないだの、起こし方が気に食わないだの難癖をつけては健一を困らせる。 「だから、あのTシャツは洗濯中だっていってるじゃないですか!」 「やーだっ!!」 拓斗は癇癪を起こして、健一が用意したシャツを投げつける。 しかし、健一はそれを受けとめ、わざと優しい声を作って宥めるが、拓斗は膨れっ面のまま手足をばたつかせたままだ。 "そろそろ本気で怒らないと遅刻しちゃうな。" 「いい加減、服着て下さい・・・怒りますよ。」 「う゛−。」 拓斗はまるで動物のように威嚇の声をあげている。 健一はため息を一つついて、からかうように拓斗を抱きかかえる。 「そんな裸で、何?襲われたいの?」 「ちげぇよっ!ばーか、ばーか。」 「じゃあっ、さっさと服着なさいっ!!」 「やぁーだぁーっ!!乾かせよぉー。」 「拓斗っ!!」 拓斗のあまりの我侭に、普段は温厚な健一の中で何かがキレる音がする。 健一の平手が頭をぺチンと叩き、先程投げつけられたシャツを頭の上に落とすと、「う゛ー」と唸りながら拓斗がグズグズと涙を流す。 "・・・仕方ないな。" 健一は頭を抱えつつも、まだ乾ききっていないTシャツをアイロンで乾して、未だ機嫌の悪いままの拓斗に投げつけた。 「あ゛りがどぉー。」 やっと機嫌が直った拓斗に抱き付かれ、怒っているはずなのに、健一はつい微笑んでしまう。 "俺って甘いよなー・・・。" と思いつつ、健一は涙と鼻水でグシャグシャになった拓斗の顔を拭いてやる。 こうして今日も健一の過酷な一日が始まった。 Top Index Next |