breaker =調教師= 最終話(1/2)
2005.02.12
都会ではまだ残暑が厳しい季節なのだろうが、山に囲まれたこの土地では夕方には随分と涼しい風が吹く。
まるで時間が止まっているように穏やかに過ぎる毎日は、ほんの少しの退屈を引き換えに光輝の尖った心を丸く溶かした。
残り少なくなった夏を惜しむように歌う虫の声と木々を揺らす風の音を聞いていると、この六年間で起こった出来事が嘘だったかのように感じさせる。
縁側に座ってよく冷えたスイカを一口かじりながら、過ぎた日々の出来事を思い出していた。

ファームから出荷された光輝を最初に手に入れたのは資産家の後継ぎだった。
次世代を担う彼は公に出来ない性癖の為に法外な金額を払って男を囲しかなかった。
その時すでに自分の肉体の価値に気付いていた光輝にとっては、世間知らずな彼を支配するのは容易い事だった。
ファームでは一年の契約期間の中で登録している顧客に調教中の映像を配布し、オークション形式で値段を吊り上げていく。
光輝の身体に夢中になった彼は必要以上の投資を行い、結局僅か二年で光輝を手放す事になる。
その時点でファームを抜けるには充分な金を手に入れていたが、彼等の持つ権力やコネクションに目をつけた光輝は目的を達成するまで商品として生きる事を決意した。


しかし、6年が過ぎた今でも目的は果たされる事が無く、シンの方から姿を現す事も無かったが、今でもあの日の約束を忘れる事は無かった。
現在光輝を囲っているのは八十を過ぎた老人で、かつて経済界に強大な影響力を持っていた中川という男だ。
数年前に引退した中川は田舎に居住を構え、誰にも干渉される事無く美術品と若い男に囲まれてひっそりと暮らしている。
男を抱く精力を無くしていた中川は、線の細い光輝が屈強な男に組み敷かれ悲鳴を上げてよがる姿を眺める事で年老いても衰える事の無い欲望を満たしていった。
対面しただけで相手を威圧する風貌とは裏腹に、その異常な性欲を除けば光輝を実の孫のように可愛がる好々爺でしかない。
中川は何も持たない光輝に絵画や陶芸品などの価値を学ばせ、畑で泥まみれになって野菜を育てる喜びを教えた。
時折、退屈なパーティーに連れ出される事もあったが、この老人との生活はファームの商品とは思えないほどの待遇だった。



「そんなにスイカ食ってたら腹壊すぞ」
見上げると浅黒い肌をした肩幅の広い男が視界を遮って光輝の前に影を落とした。
「なんだカイトか……」
光輝の痴態を見せる為に呼ばれる男達の中でも特に中川に気に入られているカイトは、ここ最近は頻繁に姿を見せるようになっていた。
「関係無いだろ」
どこと無くシンに似た雰囲気を持ったカイトは、明らかに仕事以上の興味を持って光輝に接してくる。
光輝はわざとそっけない態度で皿の上のスイカに手を伸ばしてがぶりと一口頬張った。
「俺は別にお前が漏らしても構わないけどさ、関係無くは無いだろ?」
カイトの露骨な表現に急に食欲が失せて一口かじったスイカを皿に戻した。
「行こう、爺さんが呼んでる」



柔らかいベッドの上で光輝は手首を細い紐で拘束され、余った分で根元をキツク縛しばられた裸体を晒されている。
こうして何年も男に抱かれているが、自分の身体を見られる事には未だに馴れていない。

「今日はどういう趣向なのかな?」
目の前の老人は光輝の裸体を眩しそうに見つめるとゴクリと喉を鳴らした。
「お仕置きですよ、昔の男が忘れられない罰」
心を突き刺すような言葉で頭に血が上り、カイトを思いっきり睨みつけた。
たった一度だけ心が通い合っただけだとしても、光輝にとってシンは過去では無い。
どんな男に抱かれていても、どんなに優しくされても、あの日の約束は今でも光輝を熱くさせる。
「なぁ光輝、ちゃんと爺さんに見せてやれよ」
中川老人の視線に顔を背け、楽しそうに光輝の身体を這うカイトの指の動きに身を任せた。
「くっ……」
繋がった紐に余裕が無い分、手が少しでも動くと繋がっているモノが引っ張られ、カイトの愛撫に反応する度に悲鳴を上げた。


光輝の中に自身を埋めていったカイトは、すぐに吐き出してしまわないように慎重に光輝の中を探っている。
焦らすような腰の動きに耐えきれず、苦しそうに溜息を漏らすと深く突き刺されたそれを締めつけた。
「んんっ……光輝……」
締めつけをさらに楽しむ為に、カイトは透明な液体で濡らした光輝の先端に指を絡めながら激しく腰をぶつけていく。
カイトの熱が徐々に昂ぶっていくのが伝わるが、光輝の中に芽生えた疼きは出口を塞がれてもがく事しか出来ない。

「っ……光輝……悪いな……お先にイカせてもらうわ……」
馴れているとはいえ、光輝の中に入れてしまえばカイトもただの男でしか無く、間もなく訪れる絶頂へ向かって欲望のままに腰を振った。
「っぁ……ふざけんなっ……」

「んっ……んっ……ぁ……」
光輝の言葉を無視して、カイトは小刻みに腰を動かすと小さな声を上げて果ていった。

一度果てた後もカイトのそれは熱を失う事無く、すぐに硬さを取り戻しては光輝の中を掻き回し続けた。
中川がカイトを気に入っているのもこれが理由なのだろう、普通の男では光輝の身体に溺れるだけで満足してしまう。
何度もカイトの熱を受け入れ、果てた後も再びカイトの熱が戻るまでは、出口を失って涎を垂らしたモノを刺激され続け、その苦しさに光輝の意識は徐々に遠のいていく。
「たのむ……出させてくれ……」

「どうだ? 生きてるかどうかも判らない男の事は忘れられそうか?」
苦しそうにもがく光輝の先端に舌を這わせ、カイトは肉体だけでは満たされない欲望を光輝にぶつける。
「ぁぁぁぁっ……」
込み上げる絶頂感を持て余して叫び声を上げと共に涙が零れる。

「光輝が可哀想だ、もう終わらせてあげなさい」

中川の言葉に行為を遮られたカイトは面白く無さそうに舌打ちをすると、光輝を締めつけていた紐をほどき、硬くなったモノを力強く握り締めながら上下に扱いた。
「ぁっ……ぁっ……ぁぁぁ……」
長い時間、全身を駆け巡っていた快感が急激に一箇所に集まりだして身体が震える。
カイトが手の平の力をぐっと入れると微かな痛みを伴って、ずっと溜め込んでいたものが勢い良く噴き出して身体中を白く汚すと光輝はそのまま意識を失った。
「シン……」

意識を失う瞬間、ずっと探し続けていたシンの声が遠くで聞えた気がした。

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