秋桜 2
2004.10.03
初めて楓と身体を重ねたのは中学2年の頃だった。
その頃はお互い同じくらいの身長だったが、どこか少し冷めた所のある楓は、自分や他の同級生よりも大人っぽく見え、大和は胸の中に小さな恋心を抱いていた。
相変わらず二人は抱き合いながら唇を重ねていたが、次第に性に関する知識が増えていくと、大和は自分の気持ちと変わらずに重ねる行為に戸惑いを覚えていた。

母親が死んでから、元々仕事人間だった楓の父親は家に帰らない日が多くなっていった。
大和の母親が作った食事を、楓と二人で食べてそのままと泊まる事が多くなり、自然に月の半分以上は楓と共に生活をしている事に、周りの大人達は何も言わなかった。

あれは夏の暑い日だった。
シャワーを浴びた後も中々汗が引かず、バスタオルを腰に巻いたままの格好で大和が寝転がっていると、大きめのTシャツにトランクス一枚の姿の楓がいつものように唇を重ねて来た。
身体の一部に血液が集まり硬くなっていく。
楓が大和の変化に気付き、硬くなったペニスを軽く握った。
「大和、した事ある? 」
タオル越しにゆっくりと硬くなったペニスを扱かれ、たまらずに楓の手を払いのける。
「……無いよ」
嘘だ。
本当は楓が寝ている横で、楓の寝顔を見ながらあらぬ事を想像し、毎日のように自分の手で慰めていた。
しかし急激に起こる身体の変化に心がついていけず、行為の後は自分が汚れてしまったような気分になり、いつも落ち込んでいた。

「嘘つき」
毎日のようにしていれば楓に気付かれているのも当然だった。
大和は俯いたまま楓の目が見れなくなっていた。
「俺はあるよ、した事……」
驚いて大和が顔を上げると、楓は真っ直ぐに大和の目を見詰めている。
四六時中、大和と過ごす中で、楓は今までそんなそぶりは見せた事が無く、それが余計に大和を追い詰めていた。
視線を落とすと楓のトランクスの前が膨らんでいた。
自分にされたのと同じように楓の硬くなったペニスを軽く握り軽く扱いてみた。
「見せてよ」
楓が腰に巻かれたタオルを外すと、大和も楓のトランクスを脱がせ、お互いの裸を見詰め合う。
大きさはあまり変わらないが、根元が薄い毛に覆われた楓の先端はくっきりと頭が張っていて、皮がめくれていた。
「さわってもいいよ」
ゴクリと喉を鳴らし手を伸ばす、初めて触る他人の物に大和の心臓が痛いくらいに早くなっていく。
楓の手が再び大和のペニスを扱き始めると声が漏れ、すぐにでも出してしまいそうになる。
そのままキスをしながら抱きしめられ、お互いの腰を押し付け合うと、先端が濡れ始め、ペニスが絡みあっている。
「俺、もう出ちゃうかも……」
楓がそう言った途端に大きく身体を震わせ、股間に生温かいものが染み込んだ。
そのまま腰を動かすと、楓がくすぐったそうに声を上げ、大和もすぐに果ててしまった。

「男同士ってどうやるか知ってる? 」
そう言うと大和は先程の精液を後ろに塗って自らをほぐしていくと、上にまたがり、まだ硬さを失っていない楓のペニスを手に取り、腰を沈めていった。
初めて経験するあまりの痛みに、顔を歪めて声を上げるが、楓を喜ばせたい一心で激しく腰を動かした。
楓は数分で大和の中に放出すると、大きく震えて、潤んだ目が赤く溶けそうになっていた。
初めて男を受け入れた大和の中は、楓の放ったものが溢れ、痛みと共に流れ落ちると、今まで感じた事の無い幸福感で満たされていた。

あれから週に2、3回、楓に抱かれるようになり今もその関係は続いている。
しかし、いくら身体を重ねても、大和の心は楓には届いていないような気持ちになる。
この時は、全てを捧げても楓の心を埋められる事が出来さえすれば、他には何もいらないとさえ、大和は思っていた。


「楓の為なら、俺は何でもするよ」
普段口数が少ない大和が真剣な表情で言い切ると、楓は少し困ったように笑い、それ以上の言葉は続かなかった。
楓は年を追う事に、近寄り難い男になっていった。
その綺麗な顔立ちからか、学校でも皆一歩引いて接しているが、楓に想いを寄せる女生徒が多いのも知っている。
同じように大和も女子から告白される事も多々あったが、大和にしてみれば迷惑なだけだった。
中学の時はお互い170cm 位だった身長は、楓はそのまま成長を止め、大和はあれから10cm も大きくなった。
それが大和がモテる原因の一部だと誰かが言っていたが、その言葉は大和を苦しめるだけだった。

楓の事は好きだが、女になりたい訳では無い。
しかし、楓に抱かれるこの身体が楓よりも日々男らしく変化していくのが耐えられなかった。
楓は決して男が好きな訳では無いと思う。
でなければ、大和みたいな男はタイプじゃないのだろうか。
あれだけモテているにも関わらず、女性と付き合った事は無いはずだから後者なのかも知れない。
大和が楓に抱く感情と、楓が接する大和への態度に、大きな溝をいつも感じていた。
彼は大和が愛情を示す度にいつも困ったように笑う。
楓にとって大和の身体は、単に性欲の吐き出すだけの存在なのだろう。

楓がもう一度、あの頃のように笑ってくれるなら、自分は道具として扱われても構わない。
けれど、その時が訪れたら自分が普通でいられる自信はなかった。


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