秋桜 6 2004.11.27 |
放課後、教室の窓から見える校庭は、これから始まる部活の準備をしている生徒で賑わっていた。 白い息を吐き出しながら体を温めている群集の中に大和の姿を見つけて目を細める。 近頃大和は部活の仲間達と過ごす事が多いようだ。 ふざけあって校庭を駆け回る大和の姿に苦い思いが広がる。 これが自分が望んだ結果にもかかわらず。 その光景をぼんやりと見つめていると、急に背中に重みを感じて振り返る。 同級生の井出英二が楓の背中に乗りながら顔を近づける。 「なーに、黄昏てんだよ」 英二は大和と共に小学校の頃からの付き合いである。 中学生になった頃から部活が忙しくなった英二とは、少し距離を置いた付き合いになったが、大和と同様に母親を亡くした楓を何かと気にかけていてくれる。 「別に」 そっけない楓の返事にも笑いながらやり過ごす事が出来る英二は、友人も多く校内でもつねに目立つタイプの男だった。 「相変わらず冷たい奴だな」 「大和と喧嘩でもしたのか? 」 「何で? 」 「いや、最近一緒にいないから……」 彼なりに心配しているのが嬉しかったが、同時に心が少し痛かった。 「ガキじゃあるまいし、そんなにいつも一緒にいる訳じゃないよ」 「何? 楓もついに女が出来たか? 」 「違うけど」 「まあ、いいけどな、何かあったらちゃんと俺か大和に相談しろよ」 適当に相槌を打ってやり過ごすとヒラヒラと手を振って英二を見送った。 大和との別れを決めたあの日、初めて自分が大和へ向ける気持に気付いた。 それを恋だとか愛だとかとすぐに決められる訳では無かったが、今はただ楽しかったはずの大和との想い出さえ心を軋ませた。 あと半分で高校生活も終わる。 大学へ進学したら、家を出てどこか遠くで暮らそうと思っている。 大和のいない、誰も知らない所で。 それまでは胸の中の感傷を引きずりながら……。 なんとなく、家に帰る気もせずに街をぶらついていたら八時を過ぎていた。 腹が減って、近くのハンバーガーショップで簡単な夕食を済ませるが、ひとりで食べる夕食は何の味もしなかった。 いつまでもフラフラとしている訳にもいかず、仕方無しに家に帰るが何もする気になれなかった。 溜息をひとつついて机に向かうが、いくら参考書を読んでも頭が冴えずに同じ所ばかりを繰り返し目が留まる。 そのまま身が入らない受験勉強をしていると、向かいの部屋の明かりが点いて大和の帰宅を事を告げた。 日々募る欲望は、吐き出す事も出来ずに楓の中に渦を巻いている。 楓はベットに寝転がって下着を膝まで下ろすと、ローションを含ませた指で自分のペニスを包むように刺激した。 軽く目を閉じてTシャツを胸までめくると、大和の大きな手を想い出して胸の敏感な部分にも指を滑らせていく。 大和といる時も満足していない時などは、自分でする事もあったが、今ではぎこちない大和の愛撫も懐かしい。 半分開いたままの薄いカーテンが風邪に揺れている。 大和の部屋からは今の楓の乱れた姿が丸見えのはずだ。 「んっ……ぁぁ……大和……」 見られている事を半ば期待しながら、兆発するように熱くなった身体をくねらせて声を漏らす。 大和の中を思い出しながら両手で締め付けるようにペニスを握り、ゆっくりと扱き始めると先端から透明な液体が溢れ出す。 「はっ……ぁっ……」 目の奥に大和の苦しそうな表情が浮かぶ。 大和を抱く時は余裕も無く、自分本意に腰を突き上げるだけの性行為だった。 もしも、もう一度だけ大和を抱く事が出来たら・・・。 包んだ手の中を掻き回すように腰を動かした。 「んんっ……っ……」 快楽に包まれて声を上げる大和の姿を想像し、苦しそうに楓を受け入れる大和を思い出し、絡みつくような視線で楓の乱れた姿を見ている事を期待して声を上げて限界まで腰を動かした。 「んっ……っ………」 共に吐き出した白濁した液が顔まで飛び散り、自己嫌悪と共に自分を汚した。 潤んだ瞳で窓の外を見上げると、明かりが漏れる大和の部屋の窓が微かに揺れた気がした。 Top Index Next |