秋桜 8 2004.03.26 |
足が腫れてから二日程で熱もようやく治まり始めたが、自分の所為で怪我を悪化させてしまったようだと、楓は大和が困惑するくらいに献身的に身の回りの世話をした。 昔から楓は一度決めると何事にも徹底して取り組む。 ベッドの横に布団を敷いて別々に寝る日が続き、大和が誘っても怪我に障るからと言ってキスの一つもせずに眠る。 昼間、楓が学校に行っている間は驚くくらいに退屈で、何もする事が無いから昼間の内に眠って夜は遅くまで受験勉強に励んだ。 もう何ヶ月も授業を上の空で聞いていた大和は、元々成績の良かった楓に比べ随分と差がついてしまっている。 焦る気持はあるのに、いざ机に向かうとどうにも集中力が続かず、その度に楓がシャーペンの後ろで大和を突つく。 「楓はもう志望校とか決まってんの? 」 問題集を予定の半分まで消化した所で、大和は腕を上げて退屈そうに背筋を伸ばした。 「大体は……」 「どこ? 」 集中しているのか楓は顔も上げずに適当に返事をして大和の雑談を聞き流した。 しかし、すっかり勉強に飽きてしまった大和は何とか会話を続けようと、楓の顔を覗きこんで話を続ける。 「いいから集中しろよ」 楓は脱線し続ける大和をチラリと睨んだが、すぐに真剣な表情に戻って問題集に向き直った。 離れている間にぐっと男らしくなった楓の表情や仕草の全てが大和の中をくすぐってしまう。 唇を尖らせて考え込んでいる表情がつい先日、綺麗に整った顔を歪ませて大和を抱いた楓の姿を思い出させる。 「邪魔すんな」 大和は真剣な表情に吸い寄せられて唇を近付けたが、鬱陶しそうに逃げる楓の指に額を弾かれる。 「あー……風呂入りたいなぁ……」 楓に相手にされずに不貞腐れた大和は天井を見上げて一人ぼやいた。 怪我をしている間はなるべく風呂に入らないようにと医者に止められている。 かろうじて頭と顔だけは洗っているが、濡れたタオルで体を拭くだけでは物足りない。 「まだ無理しない方がいいって言われてるんだろ? 止めとけよ」 怪我の具合を心配しているのか、楓は先程までの冷たい反応とは全く逆の優しい声で大和を嗜める。 「体痒いし、何か集中出来ないんだよな」 子供のように怒られて大和はガックリと肩を落とすが、かと言って再び問題集の並んだテーブルに向かう気にもなれず、不貞腐れたままベッドの上に寝転がった。 「また、お前は昔から言訳ばっかして勉強しないんだ」 大和のしつこさに根負けしたのか飽きれたように溜息を漏らすと、楓は「ちょっと待ってろ」と言って腰を上げた。 「ほら、脱げよ拭いてやるから」 湯を張った洗面器を持って戻ってきた楓は浸したタオルを絞りながら顎を上げた。 明るいと恥かしいからと遠慮する大和に、楓は今更なに言ってんだよとトレーナーを脱がせ体を拭き始める。 温かいタオルでゴシゴシと身体を力強く擦られる心地良さに目を閉じて楓の手に身を任せた。 「下も脱げよ」 ざっと上半身を拭き終わりると冷たくなったタオルを再び洗面器に浸す。 今更恥かしがっても仕方ないとズボンのゴムに手をかけて腰を浮かす、動いた拍子に肌がすうっと外気に晒される。 反応している中心を見られないように、前を手で隠しながらズボンを下した。 「ばかだな」 温かく肌を刺激するタオルにペニスを包まれ思わず声を出した。 楓の丁寧な手つきに我慢が出来ず、目を閉じて快楽に浸っているとペニスを包む感触が急に柔らかく絡む刺激に変わった。 薄く目を開くと楓の舌が先端を優しく愛撫している。 口の中に吸い込まれ、舌先で震えるように先端を刺激されると、久しぶりの愛撫に思わず零れそうになって腰を引いた。 「……っ……楓……」 甘えた声で名前を呼ぶと、言葉は無くても大和の身体を知り尽くした楓は唇を重ねて舌を絡ませる。 そのまま楓は大和の敏感な耳や胸の先を舌でくすぐり、濡れたペニスを焦らすように弄んだ。 「痛っ……」 絶頂に耐えながら太腿に力を入れた拍子に足首に負担がかかったようで、思わぬ痛みに声を上げて震える。 これ以上負担がかからないように楓は口を離すと、握り直した手に力を入れて速度を上げながら大和を絶頂に導いた。 「……ぁっ……ぁぁ……っ……」 少しでも長い時間、楓に愛されていたかった大和は痛みと快楽に歯を食い縛るが、抵抗も空しく楓の手の中に溜め込んでいた欲望を吐き出した。 「お前の少し大きくなった? 」 飛び散った精液をティッシュで拭いながら、楓はからかうように大和を見上げる。 「そうかな?」 毎日みている自分の身体の変化には中々気付きづらい。 大和はだいぶ昔に読んだ本にあった「成長とは自分以外の人間によって気付かされる事だ」という言葉を思い出した。 「んー……俺のとそんなに変わらなくなってないか? ……前はもっと小さかっただろ?」 俺より大きくなるなよなと言いながら楓は丸めたティッシュをゴミ箱に投げる。 「何だそれ。元々そんな変わらないだろ」 体格差を考えれば大きさが変わらないのも癪に障るが、確かに以前は楓の方が少しだけ大きかった。 「そんな事ねぇよ」 ムキになって大きさを主張するあたりは、楓も普通の男子高校生と変わらない。 少し前までは男らしくない自分の容姿を気にしていた楓は、その頃から比べて随分と成長しているはずなに相変わらず自分の中の男を強調したがる。 そんなバランスの悪さも大和にとっては魅力的なのだが、いちいち比べられるのは面白く無い。 「じゃあ見せてみろよ」と大和はわざと楓の兆発に乗って目の前に立っている楓のズボンを下した。 久しぶりに見る楓自身をじっくりと見るとやはり大和よりも少し大きい。 「……」 大和が面白く無さそうに硬く上を向いたモノを観察していると、誘っているかのように先端から透明な雫が溢れ出す。 何も言わずに大和の愛撫を待っている楓を見て素直に自分もして欲しいと言えばいいのにと笑った。 先端の濡れた部分を舌先で拭ってから熱くなった楓のモノを頬張る。 包み込むように舌を絡ませ、ゆっくりと唇を上下に動かすと楓は目を閉じて大和の口の中の感触を味わった。 長い時間をかけて大和が中心の熱を育てていくと、焦らすような愛撫に我慢が出来ず楓はゆっくりと腰を押し付け始める。 「……っ……んんっ……」 喉の奥を突かれて咽そうになるのを堪えながら、楓の腰を掴んで舌を絡ませ続ける。 徐々に楓の呼吸が激しくなり、小刻みに腰を動かしたかと思うと苦しそうに唸り限界が近付いて震えるモノを引き抜いた瞬間、大和の顔に楓の吐き出した大量の精液が飛び散った。 「ごめん……間に合わなかった……」 震える楓自身を掴んで最後まで絞り取ると、溜息を一つ吐き出して楓は大和の胸に崩れ落ちた。 「口に出しても良かったのに」 すっかり冷たくなった塗れたタオルで顔を拭いながら、大和は楓の吐き出す欲望を飲み込めなかった事を嘆いた。 「中に出しちゃうと後でキスする時、気持悪いだろ」 いい加減に馴れろよと文句の一つも言ってやりたかったが、大和の言葉は楓の唇によって塞がれて飲み込まれていった。 「一緒の大学行きたいな……」 大和はベッドに腰をかけて後始末をしている楓の腰を抱いて甘える。 今の成績ではとても無理な話だが、希望がゼロと言う訳でも無い。 「勉強もしないクセによく言うよ」 楓は脱ぎ散らかしてズボンに絡まった下着をほどきながら飽きれたように呟いた。 全裸の自分が言うのも何だが下半身だけ裸の姿は、どんなにいい男でも間抜けに見えるが逆にそれも愛とおしいと大和は思う。 「俺さ、家出ようと思ってんだ……」 立ち上がって下着を履きながら楓は何でも無い事かのように、うっかりすると聞き逃してしまうような調子で家を出ていくと言った。 「何で? 楓どこの大学行くつもりだよ? 」 突然の告白に驚いて楓を見上げるが、後を向いてズボンを履いている楓の表情は読み取れない。 やっと二人でいられるようになったのに、どこか遠くに行ってしまうのかと不安になるが、楓から返ってきた返事は大和を益々混乱させる。 楓が進学を決めている大学は電車で一時間程度の距離にある所ばかりだった。 「それだったら別にここからでも通えるじゃん。何で? 俺と居るのが嫌になった? 」 「落着けよ……」 訳が解らずに混乱している大和を落着かせるように抱き締めると、楓は大きく深呼吸をして淡々と語り始める。 「親父、再婚するみたいなんだ」 「ずっと前から知ってたけどさ、あっちにも子供いるみたいだし……先週親父に会って決めてきた、この家に俺達二人が居るより新しい家族と暮らした方がいいもんな……」 落着いた調子でゆっくりと響く声は、却って痛々しさを増すようで大和は胸が締めつけられた。 「俺も楓についてく」 どうして楓ばかりが我慢しなくてはならないのか、どうして大人達は楓を一人置いていこうとするのか。 大和は自分の非力さに歯を食い縛りながら楓をきつく抱き締める。 「……だったらちゃんと勉強しろよ」 呼吸一つ分の時間をおいて楓の手が大和の髪を撫でると張り詰めていた空気がふっと緩んだ。 「わかってるよ」 楓の肩に顔を埋めて出す声は僅かに震え、自分で聞いても泣いているようにも響いていた。 「大丈夫か? バイトもしなきゃ暮らせないぞ? 」 「平気だよ」 「喧嘩してもすぐ実家に帰るくらいなら連れてかないぞ? 」 「しつこいな、大丈夫って言ってるだろ? 絶対ついてくからな、もうガタガタ言うなよ」 楓に何を言われても今更になって大和の意志は変わる筈も無く、これ以上の言葉はいらないと顔を上げて真っ直ぐに楓を見詰める。 大和をからかって子供扱いする楓を力強く抱き締めると、腕の中の楓は苦しそうに小さな声で頷いた。 Top Index Next |