LIFE 5
2004.10.15
=君が好き=

夕食の支度をしながら健一はため息をついた。
拓斗に対する自分の気持ちへの戸惑いと、優しく健一を抱いた拓斗を想い出し、淡い期待を抱くが、同時に不安が胸をかすめる。
身体の関係を持ったのも、キスをしたのも健一からだった。
ゲームに夢中になる拓斗を横目に腕に光るバンクルを見つめ、また一つため息をついた。

"俺、どうしちゃったんだろう……"

あれ以来、平静を装ってはいたが、拓斗が近づくと鼓動が速くなり意識するあまり恥かしくて逃げ出したい気持ちになる。
たまらずに目を逸らすと最近冷たいと言って拓斗は不貞腐れるが、赤くなった顔を見られたくない健一はそのまま顔を背けてしまう。
あの夜、健一からキスをしたにも関わらず、翌日もいつもと全く変わらない拓斗の態度が余計に健一を不安にさせていた。

「けーんいちっ」

ゲームに飽きて腹が減った拓斗に後ろから抱きつかれ、健一の心臓は大きく飛び跳ねる。
「あっ熱っ……」
驚いた拍子に鍋をひっくり返して、熱いシチューが指にかかって、ヒリヒリと痛み出した。
慌てた拓斗が健一の手を掴み、急いで水道の蛇口をひねって水に晒した。
冷たい水に晒しても引かない火傷の痛み以上に、拓斗に掴まれた手首が熱くなり、思わず掴まれた手を振り払う。
動揺から勢いがついてしまい、水滴が二人の顔に飛び散った。

「そんなに避けなくたって、いいじゃないか……」
拒絶にも見える健一の行動に、驚いてそう言った拓斗の声は乾いていた。
拓斗の瞳が微かに揺れている。
気持ちを悟られないように振舞った行動が、逆に拓斗を傷つけていた事に、今更ながら気付いた健一が慌てて口をパクパクさせる。
「ちがっ……」
誤解を解こうと、必死に言葉を探すが喉の奥で止まってしまう。

「俺は健一が好きだよ」

まるで時間が止まっているようだった。
真っ直ぐに健一を見詰めた拓斗の瞳が西日に照らされてキラキラと光っている。
「俺は……、だって先輩が……」
"俺だって先輩が好きだ"
それは確かなはずなのに、気持ちが言葉に追いつかない、健一が煮え切らない態度で言葉を詰まらせると、何も言わずにそのまま拓斗が部屋を出ていった。
パタンと閉まるドアの音で健一の瞳から涙がこぼれた。

゛もう拓斗は帰って来ないかもしれない……゛
こぼれた鍋の中身を片付けながらも、健一の涙は止まらず、息が詰まる程、大声でしゃくり上げた。

涙が止まる頃には、すっかり日が落ちた部屋の中で健一は一人うずくまっていた。
拓斗に自分の気持ちを打ち明けたいが、何を言ったらいいのかも、どんな顔をしたらいいのかさえも判らない。
どれくらいの時間こうしていたのだろう。
いくら考えた所で結論など出る訳も無い。
ただ、このまま拓斗を失ってしまう事は耐えられなかった。
その事に気付いて健一は部屋を飛び出すと、寮の前で入りづらそうにウロウロしている拓斗と目が合った。

健一と目が合うと拓斗は困ったように笑い、ケーキの箱を差し出した。
「悪かったな、あんな事言って……」
「あの……俺……」
「安心しろって、もう、あんな事言わないから。な、これ食って機嫌直してくれよ」
「いや……先輩……俺……」
すっかり諦めているような拓斗の態度に焦りながら健一が大きく息を吸った。
「……お前がどうしも嫌なら、部屋替えてもらうから」
弱り果てる拓斗に、どうしても言葉が出ない健一がブンブンと頭を振って拓斗の言葉を否定する。
「お前だって悪いんだぞ、あんな事するから……俺期待しちゃって……馬鹿だよな」
上手く笑えなくなった拓斗が顔をしかめて視線を落とした。
「違うっ……俺、嬉しかったんだ……」
やっとで吐き出した言葉が、健一の溜まっていた感情を一気に吐き出させた。
「あの……その……俺も……俺も先輩の事が好きだから……。でも、先輩は俺がキスしたて全然普通で、俺はこんなにドキドキして、どうしていいか判らなくて……」
途中息が切れて健一はもう一度深呼吸した、夜の風が健一の熱くなった頬をそっと撫でる。
「俺は拓斗が好きだっ!本当にっ、すっ好きだからっ……」
想いが溢れて止まらず、呼吸がまたおかしくなり、健一はゲホゲホと咳き込む。
「ばか」
頭をポンと叩き、すっかり興奮して呼吸が定まらない健一をなだめるように二人は部屋に帰った。
「ごめんな。」と拓斗が優しく抱き締めると、言いようの無い幸福感に包まれて、ぎゅっと拓斗の後ろに腕を回し、ふわりとした髪に顔を埋めた。
健一はもう死んだっていいとさえ思え、さらに拓斗を抱き締める腕に力を入れた。

「ばか……痛いって」
健一の胸に顔を埋めた拓斗がクスクスと笑いながら抵抗する。
さらに力いっぱい拓斗を抱き締めると健一の太腿にあたる拓斗の中心が硬くなっている。
「せんぱい、勃ってる……」
「お前もだろ……」
拓斗が健一の頭を掴み引き寄せるように唇を近づけ舌を絡ませる。
「先輩からキスしてくれたの初めてだね。俺、不安だったんだ、いつも俺からだったから」
「ごめん」
拓斗が背伸びをすると鼻先が触れ、唇を合わせるだけのキスをする。
「今日は先輩から……んっ、抱いて下さい」
健一が言い終わる前に拓斗は何度も何度もキスを浴びせた。

二人の間にある邪魔な服を焦るように脱がせ合い、そのままベットに潜り込んだ。
身体中に舌を這わせ、全身にキスの雨を降らせると、健一はくすぐったそうに身をよじり甘く声を漏らす。
先端に溢れた雫を舌で舐め取ると、裏筋から袋までをたっぷりと舌で刺激しながら、後ろの扉に辿り着く。
「ぁっ……っ…。」
健一がよがって身体を捻るが、拓斗の舌はさらに奥まで侵入していく。
たまらず、健一が逃げ出すと今度はローションを含ませた指がゆっくりと、健一の中を広げる。
開いた口に硬く震える健一のモノを含ませると、時間をかけて唇で激しく責めたてていく。
「っ……もうっ……」
甘い声で必死に拓斗のモノを掴み、欲しいとねだる。
それに応えるように、拓斗は健一の中に沈み込んだ。
「うぁっ……せんぱいっ……やべぇ……。」
いつもより激しい拓斗の動きに悲鳴を上げ、健一は気を失わないよう歯を食いしばる。
「はっ……ぁっ……んん…っ……。」
健一の中に熱いものが放たれ、拓斗が身体を震わせ動きを止めたが、健一の中はまだ硬い拓斗のモノでいっぱいになっていた。

少しの間を置いて再び拓斗が腰を動かすと、快感の波が徐々に健一を呑み込んでいく。
「ぁっ……せ、先輩、本当に俺の事……すき……? 」
「っ……好きだよ……んっ……木から落ちるくらい……」
"木から……? それって……"

拓斗は健一に出会った瞬間、恋に落ちていた。
吉本と話している新入生が気になって、気付かれないよう木に登って見つめていようとした。
結局、健一に見つかって怒鳴られたが、それくらいで動揺する拓斗ではない。
目が合った瞬間、心の中に嵐がやってきたような気持になった。
思わず目を奪われてしまい、不覚にも木から滑り落ちてしまった。

激しく腰を動かす拓斗から出る熱い汗が健一の身体へ雨のように降り、健一のモノを扱く手がクチュクチュと音を立てる。
押し寄せる快感に気を失いそうになり、自分でも訳のわからない声を上げてしまう。
健一が大きく口を開き体を反らすとビクンと大きく震わせた。
「んっ……だめっ……おれ、もっイクっ……」
顔まで飛ばしながら健一が果てると、拓斗も身体を震わせ倒れ込み、二度目の絶頂を迎えた。
しばらく放心したまま、二人の激しい呼吸の音だけが部屋中に響いていた。

汗まみれの身体で抱き合い、健一が拓斗の胸に顔を埋める。
「先輩、木から落ちるくらい好きって……? 」
「へへっ、一目惚れってやつだな。覚悟しとけよ俺の気持ちは半端じゃねーから」
照れた拓斗がわざとおどけて、健一の頬っぺたを軽くつねった。
「……それになぁ、俺が早いのだって、その……お前の事が好きなあまりに……」
「早漏は元々じゃないですか? 」

「ばかーっ」

拓斗の言葉を遮り健一が冷たく突っ込みを入れると、拓斗がグズグズと布団を被ろうとする。
殻に閉じこもろうとする拓斗を健一が抱きかかえると、拓斗は泣きながらバタバタと手足を動かし抵抗する。
「先輩、暴れないで。」
健一は暴れる拓斗を押さえつけると、拓斗がそうしたように、全身に舌を這わせ、キスの雨を降らした。
「っ……こらっ……」
出したばかりなのに、未だ硬くなっている拓斗のモノを咥えると、ねっとりと舌で弄りながらも、唇を素早く上下に動かす。
「んぁっ……ぁっ……けんっ上手すぎ……」
先端から雫が溢れると、それを丁寧に舌に絡ませ、袋の部分をやわやわと刺激する。
吸いつくように拓斗のモノを扱くと、先端が僅かに震えて膨らんだ。
「はっ……も、イクっ……おいっ、けんっ離せって……」
「あっ……っぁあーっ……」
拓斗が必死に健一の頭を掴み引き離そうとするが、健一はさらに深く拓斗のモノを咥えると、喉の奥に熱い精液が放たれた。
咳き込みそうになるのを堪え、最後まで絞り取ったそれをゴクリと飲み込むと、拓斗が声を震わせ身体をくねらせた。

二人でシャワーを浴びて、汗まみれの身体を健一が洗ってあげるている最中も、先程の健一の発言をまだ根に持っている拓斗が「うーっ。」と唸っている。
「大丈夫、俺は早い先輩が大好きなんだから」
フォローのつもりで健一がそう呟くと、拓斗がまたグズグズと泣き出した。

「ばっ、ばかーっ」

拓斗が泣きながら叫び、ずぶ濡れのまま飛び出すと、一人残された健一の、クスクスと笑う声がバスルームに響いた。


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