LIFE 6
2004.11.11
=師弟愛=

日曜の午後、健一は同級生である樋口達弘と中々進まない課題に頭を悩ませていた。
何事にも動じないおっとりとした性格の樋口は、同じ寮にいる仲間として何かと協力する振りをして、拓斗の世話に明け暮れている健一を面白そうに観察している。
「最近はどうっすか? 」
「どうって何が」
含みある樋口の言い回しには、明らかに拓斗との関係の事を言っている。
「この寮、壁薄いんだよな」
ニヤリと樋口が笑った事で、夜の声が筒抜けなのだろうかと思い、健一はここ数日の拓斗との夜を思い出して身体中が熱くなった。
健一が僅かに頬を染め言い訳探していると、ゲームに飽きた拓斗が健一の背中に乗っかり後ろから手を伸ばして皿に盛ったスナック菓子を摘んむ。
「お前達さっきから何やってんだよ」
「課題ですよ、かだいっ!! 」
「それ先週からやってるヤツだろ?まだ終わんないの?鈍くせぇなー。」

油でベタ付いた手を健一のシャツで拭う拓斗の手を掴み軽く叩いた。
「先輩、爪伸びてる……まだ昼だから今のうちに切っちゃいなよ」
夜に爪を切ると縁起が悪いからと健一が年寄のような迷信を言うと樋口がぷっと吹き出し、拓斗はプウっと膨れた。
「いいじゃーん別にぃ、健一うるさい」
「まぁ、別にいいですけどぉー、先輩女の子みたいで可愛いですね、爪伸ばしちゃってぇー」
「伸ばしてる訳じゃねぇよっ……健一っ爪切りどこだっ!! 」
女の子と言われてプライドが傷ついた拓斗は、まんまと健一に乗せられて爪切りを探している。
「そこの引出しの一番上」
ガサガサと引出しを引っ掻き回す音が、しばらくするとパチンと爪を切る音に変わった。
「おー、さすがだなコバケン、あの拓先輩を操縦できるなんて尊敬しちゃうよ」
楽しそうに樋口が笑うと、健一は「まぁな」と照れるしかなかった。

「けんっ、できた」
爪を切る音が止むと、狭い部屋をバタバタと走り、得意気な顔の拓斗がギザギザに切った爪を見せに来た。
手先は器用なはずなのに、自分の身なりになるとどうしてこうもいい加減なんだろうと思いながら健一が顔をしかめた。
「うわぁ、ギザギザじゃないですか……駄目、もう少しがんばりましょう」
低い採点に不満気な拓斗を膝の上に乗せて丁寧にヤスリを使って爪の形を整えていく。

「そう言えば引越し祝いどうするよ」
まるで猿の親子みたいだと思って吹き出した樋口だが、二人に不思議そううな目を向けられ、慌てて話題の矛先を変えた。
「ああ、横山教授の?来週だっけ? 」
「何?横ジイ引っ越すの? 」
「あれ?拓先輩知らなかったんですか?福岡に住んでる娘さんと一緒に暮らすんだって」
「先輩、さんざん迷惑かけてるんだから何かしたほうがいいですよ」

「引越し……なんで……? 」
「教授も、もう歳だからなぁ……」
「そりゃぁ一人でいるより娘さんと暮らした方が安心だしな。」
「福岡……」
拓斗が思い詰めた顔をすると、その後の会話など聞こえなくなってしまった様に一人考え込んでいた。
それから一週間、拓斗は寮にある作業室に篭ったまま出てこなくなってしまった。
心配した健一が食事を差し入れるが、作業に没頭している拓斗には誰も話しかける事が出来なかった。

引越しの日、とうとう拓斗は姿を見せなかったが、手伝いの為、健一、樋口、吉本の3人が狩り出されていた。
重い荷物をひいひい言いながらトラックに運び、やっとの事で荷物を積み終わると、教授が缶コーヒーを奢ってくれた。
「悪かったな、折角の休みなのに」
「いえいえ、なんの」
丁寧な口調の割りに人使いの荒い教授だ。
三人は息を切らして強がりを言っていたが、身体は悲鳴を上げている。
コキ使われながらも良い運動になったと思えるのは教授の人柄だろう、缶コーヒーを飲みながらそのまま雑談に花を咲かせる。

「おーい」
そろそろ行くかと教授が立ちあがった時、遠くにガラガラと大きな台車を転がしながら走ってくる人影が見える。
「待てよっ!横ジイ・・・俺に黙って引っ越すなんて水臭いじゃねーかっ!! 」
肩で息をしながらやって来た拓斗は、教授を睨みつけると大声で怒鳴り散らした。
「ひぃっ……出たっ悪ガキ……」
日頃、散々被害を受けている教授が拓斗に怯えて健一達3人の後ろに隠れる。
「俺の気持だ、受け取れ」
拓斗が飛び上がって布をめくるとそこには4畳程の大きさの巨大な建築模型があった。

「受け取れって……小林君あの悪ガキはコレをどうしろと……」
その大きさに戸惑った教授が小声で健一に助けを求める。
「いや……あの、新居に飾られてはどうでしょう……」
無茶だと判っていながら相変わらずの予想もつかない拓斗の行動に脱力している健一は、つい心の無いフォローをしてしまう。

「横ジイ……俺、ジジィに教わった事を全部この模型に注ぎ込んだんだっ!! 福岡に行っても元気でなっ……ぅぅっ……」
「悪ガキ……」
拓斗の熱っぽい言葉に押された教授がまじまじと模型を観察し、うーむと唸り目を輝かせた。
「素晴らしいっ……素晴らしい出来じゃないかっ! 私の講師人生の中でこんなに完成度の高い作品を見たのは始めてだ」
「じじぃ……俺、怒られてばっかだったけど……っ……お世話になりましたっ!! 」
涙を流しながら頭を下げる拓斗を抱き締めて教授は「素晴らしい作品だよっ」と声を張り上げ感激の涙を流している。

何だかんだと言いながらも、お互いがその才能を認めて高め合っていく師弟関係にほんの少しの嫉妬すら覚えたが、あまりに純粋な光景につられて健一と樋口も思わず涙ぐんだ。

「あの……感動の瞬間に申し訳無いんだけど、教授が福岡に行く訳じゃ無いんだよな……? 」
ドラマチックな展開に浸っていた健一と樋口を吉本の冷めた一言が現実に引き戻す。
「あっ、そうッスよね……娘さん夫婦がこっちに引っ越して来るから一緒に暮らすんでしたよね……」
「ああ、うっかり感動してしまった……教授が学校辞める訳じゃ無いもんな」
正気に戻った健一と樋口だが、オイオイと泣いて抱き合う師弟に誰もツッコミを入れられずにいた。


結局、拓斗の作った模型は完成度の高さから「師弟愛」と名付けられ、学校の展示室に飾られる事となった。
しかし、事の真実を知った拓斗はすっかり拗ねてしまい、暫く自分の殻に閉じ篭ってしまった。
折角だからと健一は布団を被ってゲームをしている拓斗を引っ張り出すと、誰もいない夜の展示室に忍び込んだ。
ひんやりとした展示室の中で作品を見ていると、拓斗が繋いでいた手をブラブラと揺らした。

「けんいち……俺……ばか? 」

自分の勘違いが許せないのか、拓斗にしては自身の無さそうな小さな声で呟いた。
「そんな事無いよ」
「ぅーっ」
健一が優しく頭を撫でると拓斗はいつものようにグズグズと泣き出す。
「本当だって、拓斗の優しい気持ちがいっぱい詰まってたんだから。教授も喜んでたじゃないか」
「……っけんいち、俺っ……」
涙が止まらない拓斗は健一の胸に顔を埋め、まるで子供のように肩を震わせしゃくり上げた。

「たいへん良く出来ました」
健一は微笑みながら、まだグズグズといじけている拓斗の頬を両手で包んでご褒美のキスをした。
"こんな抜けてる拓斗も結構好きかも・・・"
心の中でそう呟くと力いっぱい拓斗を抱き締めた。


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たまには子供バージョンの拓斗をたっぷり書いてみたいと思いまして、今回はエロ無しです。
書かなきゃ書かないで次回はエロたっぷりでと思ってしまいます。
エロッ子メイツ様は是非ご期待下さいませ。
(↑語呂が悪いですね、すいません・・・。)