LIFE 8
2005.03.05
=嵐(2/2)=

結局、樋口の部屋に押しかけた健一は、翌日になっても拓斗のいる部屋に戻る気分になれず、休日の学校で急ぎでも無い課題を片付けていた。
「あ……けんいち……」
一段落してトイレで用をたしていると、いつから付いて来たのか拓斗が遠慮がちに健一の横に並んだ。
拓斗は縋り付くような目で何かを言いかけるが、健一は文字通りプイっと横を向いて突き放した。

「健一……あのさ……」

「おう、拓斗元気か?」
拓斗が煮え切らない態度でボソボソと話しを始めると、個室の扉が開いて揉め事の発端となった男が姿を現す。

「うっ…また面倒臭せぇヤツが来た……健一、コイツと話するなよ馬鹿が伝染する」

「おいおい、ひでぇ言われようだな…」

拓斗の乱暴な言葉を軽く流し、嵐は冷やかすように用をたしている健一を後ろから覗く。
「健一お前小させぇな。これでちゃんと拓斗の事、満足させてるのか?」
横に並んで用をたしている拓斗と見比べれば、多少は小ぶりではあっても悩むほど小さくは無い。
しかし、他人に見られるのはあまり良い気分では無く、健一は憮然としながら身体を揺すって雫を切ると、ファスナーを上げて大事なものを仕舞った。

「嵐、テメェいい加減にしろよっ」
事態がこれ以上悪化するのを恐れた拓斗は、慌ててファスナーを上げると手も洗わずに嵐に掴みかかった。
よく考えてみれば嵐の言葉は、かつての拓斗は抱かれる事を望んでいたかのようで健一の怒りは徐々に込み上げてくる。

「嘘つき」
手を洗って濡れたままの指を弾いて拓斗に冷たい雫を浴びせた。


「健一……ちょっと待てよコイツの言ってる事なんて信じるなよ」

「だってさ、悔しいじゃんか。俺は今のままでも満足だけどさ……先輩は違うんだろ? 」
どちらが抱くかなんてどうでもいい事だが、自分を知らない拓斗をよりによって昔の男に見せつけられると、感情が押さえられなくなり拓斗を責め立てる。

「何が違うんだよ。先輩、俺には抱かれないくせに、この人には抱かれてたんだろ? いくら好きって言われても信じられないよ……」
気にしていないふりをしても、割りきっているつもりでも、自分の中にある身勝手な感情にその時初めて気が付く。
それはただの嫉妬だった。

「だから違うってっ」

自分にだって過去はある。
それでも自分だけの拓斗でいて欲しいなんて無理な話だ。
頭では理解していても感情が追いつかずに醜態を晒してしまう。

「嵐、お前がいい加減な事言って健一を泣かせたんだからな。いくら冗談でも許さねぇぞ」
嵐の言葉を頑なに否定している拓斗を信じてやりたいが、一度疑ってしまった予感はどうしても悪い方へと向かってしまう。
「別にどっちが上だってどうでもいいじゃん」
二人の緊張感など全く感じずに無責任な事を言う嵐に、拓斗は飛び上がって頭を叩いた。
「そんな問題じゃねぇんだよ馬鹿っ」
興奮が収まらず腕を回して首を締める拓斗を振り払おうとするが、バランスを崩した嵐はさらに締め付けられて咳き込んだ。

「ゴメン悪かった、お前らがあんまり仲良さそうだったから、ちょっとからかってみただけなんだって」
拓斗の激しい攻撃に参ったように、嵐は苦しそうに歪めた顔の前に両手を合わせて頭を下げる。

「俺も拓斗には入れてねぇよ。入れようとした事はあるけど……」
ようやく拓斗が離れてほっとしたのか、嵐は急に饒舌に話しを始める。
「お前、ホント余計な事言うなってっ」
何を慌ているのか、拓斗は言葉を続けようとする嵐に絡み付いて口を塞ごうとするが、嵐は楽しそうに拓斗の腕を振り払った。

「漏らしちゃったんだよコイツ、入れようとしたら」


「へ?」


「わっ、あーっ……言うなよっ、馬鹿……」


「ははっ、拓斗って腹弱いだろ? だから指でさ、こう後ろをグリグリやったらさ、別の意味で刺激されちゃったみたいで……」


「ば、ばかぁーっ」
衝撃の発言に呆然としている健一を見た拓斗は顔を真っ赤にして涙を浮かべる。
嵐の顔面に拳を叩きつけると、拓斗は逃げるようにその場を去っていった。
「痛っ……なんだよアイツ本気で殴りやがって……」
「あの、大丈夫ですか?」
顔面を殴りつけた音に驚いて心配そうに嵐を覗きこむと、彼は痛そうに顔を歪めたままふっと噴き出した。
「あのなぁ……俺の心配するより追いかけてやれよ」
「はあ……」
「心配すんな、お前は愛されてるよ……俺がお前らの事にとやかく言う筋合いも無いけどな」
景気づけに健一の尻を思いっきり叩いてウインクをすると、嵐は「早く行けよ」と促した。
ドラマみたいに臭い台詞や仕草も様になる嵐が少し羨ましく思いながら、嵐に向かって頭を下げてドアへ向う。

「健一、俺も真面目に付き合ってる奴いるから」

呼びとめられて振り向くと、嵐は俯きながらポツリとそう呟いた。
初めて見せる嵐の真剣な表情に、健一は笑顔で頷くときっと一人で泣いているであろう拓斗の元へと走っていった。



部屋に戻ると健一に叱られた時と同じように、拓斗は布団に潜り込んでグズグズと泣いている。
「拓斗……ごめん、ほらもう泣かないで、俺は気にしてないから……」
本来なら、健一こそ拓斗に慰めて欲しい心境だが、この頼りない先輩では無理だろうと諦めた。
第一、拓斗相手にいちいち細かい事に拘っていると、いつまでたっても仲直りが出来そうも無い。
「アイス食いたい……」
布団から顔だけ出して、不貞腐れながら我侭を言うのは照れ隠しなのだろう。

「うん、食っていいから、仲直り……」
涙で濡れた拓斗の頬を包んで唇を重ねる。
柔らかい唇の感触を確かめるように深く舌で探ると、泣いているにも関わらず巧に絡みつく拓斗の舌は健一の欲望を刺激していく。
何日か押さえつけられていた欲望が一気に爆発し、拓斗を肩に担ぐと風呂場へ向かった。
「あー……アイス……」
「アイスは後で」
冷蔵庫の前を通り過ぎた時に、拓斗は足をバタバタさせてねだったが、拓斗がアイスを食べているのを待っている余裕は健一には無い。
勢いに任せて拓斗を洗い乱暴に身体を拭くと、再び拓斗を肩に担いでベッドへ放り投げた。

「今日は俺が先輩を抱くから」

「な、何だよそれ…っ……」
健一は混乱して暴れる拓斗を押さえつけて敏感な耳に舌を這わせる。
「大丈夫。入れたりしなくても抱けるから」
弱い所を攻められた拓斗の力がふっと抜けると、自分の存在を刻み付けるように全身に舌を這わせた。

「拓斗も……」
時間をかけた健一の愛撫に反応して敏感に身体を震わせる拓斗の腕を取り、後ろを使えるようにしてくれと求める。
意図を察した拓斗は健一の後ろを指で触りながら、もう一方の手で枕元に置いてあるローションを探した。

指で後ろを掻き回されながら、唇を割って拓斗の舌が入り二人の舌が絡み合うと、健一の中は拓斗を求めて熱くなっていく。
充分に柔らかくなった所で拓斗の上に跨り、硬くなった中心に手を添えて腰を落とした。
「んっ……」
限界まで張り詰めた拓斗のモノが入口を塞ぐと、多少の痛みを伴って満たされていく快感に健一の先端から透明な液体が溢れた。
少しづつ馴らすように腰を回し、苦しさに溜息を漏らしながら腰の動きに合わせて拓斗の肌に指を滑らす。
硬く尖った健一の先端が拓斗の手によって扱かれる。
くすぐったいような快感に健一の腰は上下に動きを加速させて応える。

「ケン……ごめん。もう出そう……」
激しさに耐えきれず拓斗が苦しそうに声を漏らす。
零れないように下半身に力を入れるが、限界が近付いて足が震えている。
「もう一回できる?」
「ん……」
まだ達していない健一は腰の動きを落として囁くと、拓斗は小さな声で頷いた。
それを合図に健一は限界まで速度を上げて拓斗を絶頂へと導く。
「ぁっ……ごめんっ……ぅっ…ぁ…」
拓斗が突き上げながら大きく震えると、健一の中は熱い液体で満たされていった。

結局、拓斗が解放されて目的のアイスにありつけたのは四回果てた後だった。
拓斗は身体を洗ってサッパリしてから、嬉しそうにお気に入りのアイスキャンディーをかじっている。
「それ食い終わったらもう一回しようね」
拓斗の膝に頭を乗せ、からかうように股間に生えた柔らかい毛に指を絡ませながら健一が呟くと、拓斗は目を剥いて仰け反った。
「お前、何回やれば気が済むんだよ……」

「だって俺は二回しか出してないじゃん」

「うっ……でもな、俺は四回も出したんだぞ。そんな体力ねぇよ……」

「それは先輩が悪いんだろ、すぐ出しちゃうから」
拓斗にしては珍しく弱音を吐いたが、健一は構わずに兆発を続ける。

「このやろ……」

拓斗は氷の菓子を一口かじって健一を押し倒すと、アイスを口に含んだまま健一のモノを咥える。
「ひゃっ……冷てっ……」
ひんやりとした舌と口の中で溶ける氷の感触が未体験の刺激となって健一を襲う。
「ぁっ……食べ物を粗末にするなっ……ぁっ…んっ…」
言葉とは裏腹に素直な反応を見せる身体に、手に持ったアイスを撫でつけていく。
敏感な部分を這う冷たい刺激に我慢出来ず、健一は拓斗の腕を握り締める。
「なんだよ、もう降参か?」
拓斗はニヤリと微笑むとさらにもう一口かじった欠片を吐き出して、健一の後ろに押し込んで指で中を掻き回す。
「ぁっ……がぁぁっ……それ…反則……」
冷たい刺激が全身を駆け巡り、中心に吸いついた唇によって絶頂へと導かれていく。
「……ぁっ……あぁ……」
抵抗出来なくなった健一は、拓斗にただ身を任せて最後の瞬間を迎えた。

「うぇぇっ……まずい……」
健一の吐き出した液体はソーダ味のアイスとは相性が悪かったようで、拓斗は咽ながら口の中のものを吐き出した。
「んっ……ばか、身体中ベタベタになっちゃっただろ……」
何度もシャワーを浴びる煩わしさに文句を言いながら、ティッシュで汚れを拭き取ると出しきっていなかった液体がじわっと零れた。
「健一、お前の所為で無駄になったんだから、風呂から出たらもう一本持って来いよ」
充分に満足させた優越感からか、浴室に向う健一に投げかけた偉そうな口ぶりに、からかうように返事をする。
「そんな食ったら、腹壊して漏らしちゃうぞ」

「う、うるせぇーっ……」
笑いながら浴室へ向かう健一に、弱点を突かれた拓斗は空のティッシュボックスと怒鳴り声を投げつけた。




「あーあ……腹出して……」
身体を洗って戻ってくると、よっぽど疲れていたのか拓斗は大きな口を開けて眠っていた。
「寝顔だけは可愛いんだけどなぁ…」
肌蹴た布団を掛けてやり、気持ちよさそうに眠る拓斗の頬を軽くつねると、健一は手に持ったアイスを一口かじった。
「うまい」
拓斗と抱き合って火照った身体を冷ますように、口の中いっぱいにソーダの味が広がった。

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