Pooh 5 2005.2.26 |
=Pooh 温泉(1/2)= 「おー……絶景だ……何もねぇ」 閑散とした街並みは二月の寒さを一層と厳しく感じさせる。 晃一は冷たく吹く風に身を縮めると、刺激の少ない静まり返った気配に虚しさを込めてそう呟いた。 「ほんと人少ないっすね……」 就職が中々決まらずに落ちこんでいる元を励ます意味で、昭仁は年末に貰ったボーナスの残りと 溜まっていた有給を使って一泊二日の温泉旅行に二人を連れ出した。 平日だからなのか駅前だというのに人通りは少なく、シーズンにも関わらず賑わっていない温泉地。 シャッターが閉じたままの店舗も少なくない。 「お前等さぁ、せっかく連れて来てやったのに第一声がそれかよ。」 昭仁は二人が思わず漏らした一言に脱力しながら、運転に疲れて強張った肩をほぐした。 現地での便利と交通費の節約を考えてレンタカーを借りたのは失敗だったかもしれない。 免許を持っていない二人を乗せ、約三時間の道のりを一人で運転した昭仁は、後部座席で横になって到着までの間ずっと寝ていた晃一を睨みつける。 「あ、でも人が少ない方がゆっくり出来ますよ」 昭仁の不機嫌を察知して元は慌ててフォローするが、それには全く気付かずに晃一は寂れた街並みの景色を楽しんでいた。 旅館に着いてからも茶菓子をバリバリ食っている晃一の横で、元は三人分のお茶を入れてから昭仁の肩をせっせとマッサージしている。 元を励ますつもりで連れて来たのに、なぜか一番気を使っている元が不憫に感じた。 性分なのだろうが、どんな状況でもマイペースに楽しむ晃一を見ていると世の中の不公平さを嘆きたくなった。 「なあ、早く風呂行こうぜ」 そんな昭仁の嘆きに気付く様子も無く、晃一が退屈そうに二人を急かす。 「んー、じゃ行くか」 あまりダラダラしても眠りそうだと云う事で、昭仁が重い腰を上げて浴衣に着替えると三人は大浴場に足を運んだ。 「元、風呂場でチンポ勃てるなよ」 大浴場に向かう途中で昭仁は指先で背中をなぞると、まだ経験が足りない所為で、いつも敏感に反応をしてしまう元をからかった。 「井原さん、風呂場で変な事しないで下さいよっ」 脱衣所で浴衣を脱ぎながら顔を真っ赤にして威嚇する元のケツを叩き、意味ありげな笑みを浮かべると昭仁は豪快に浴衣を脱ぎ捨て風呂場へ向かった。 中は景色の見える大浴場が一面とジャグジー、サウナ、露天風呂といったオーソドックスな構成になっている。 風呂場にも人は少なく殆ど貸切状態だ。 晃一は真っ先に露天風呂に向かい、先客の大学生風の男と楽しそうに話している。 昭仁が大浴場に浸かって景色を眺めていると、まだ警戒しているのか少し距離を置いて元が湯船に浸かっている。 「あ、あの展望台パンフレットに載ってたヤツだろ? 」 元のいる位置からは判り辛い遠くに見える展望台を指さして興味を誘う。 「後で行ってみるか? 」 あくまで優しいお兄さんの表情で語り掛けると、安心したように元は昭仁の側で景色を眺め始めた。 「馬鹿め」 油断して近付いた元の股間を掴んでやわやわと揉んだ。 「うわっ、ズルイっ……」 乳白色の湯の中で暴れる元を抑えつけて触り、硬くなった所で解放してやった。 二人がふざけ合っている間に、他の客はいなくなっていて、ふと露天風呂に目をやると晃一も大学生風の男と一緒に風呂を出る所だった。 こんな所まで来てナンパしている晃一に関心しながら、誰もいなくなった浴場は元を苛めるのに 好都合だと昭仁は心の中で笑う。 身体の一部が変化して浴槽から出れずにいる元を見ていると、ここで抜いてしまいたい気分にさせられるが、後でゆっくり可愛がってやろうと我慢した。 真っ赤な顔でのぼせている元に手招きをする。 「元、ほら誰もいないから今の内に上がろうぜ」 誰もいないと判っていても、公共の場で勃起している姿は情けない。 前をタオルで隠しても突出しているモノを必死に押さえて浴槽を飛び出した。 「なんで井原さんは平気なんすか……」 「俺はそんなんで勃っちゃうほど子供じゃないの。」 誰か来るかもしれないとビビッている元のモノを掴んで引っ張ると、昭仁は犬の散歩みたいだとゲラゲラと笑ってそのまま脱衣所まで連れていく。 元は文句を言いながらも抵抗出来ず、昭仁のオモチャとなって身体を拭かれながら遊ばれた。 「あのさ、晩飯の後であの子と会う約束してるから、お前らどっかで時間潰してくれない? 」 風呂場から出てロビーでのぼせた身体を冷ましていると、晃一が満面の笑みで近付いて昭仁にそっと耳打ちをする。 「はぁ? 何で俺らが出ていくの? 」 「サッカー部の合宿なんだって、大学の。 あっちの部屋じゃヤレないだろ? 」 晃一は当り前のように、やる事を前提として昭仁達の了承も得ないまま部屋に誘ったようだ。 渋る昭仁に晃一は交換条件として元に内緒で大学生のエロ画像を渡す事を持ち出した。 風呂場でチラっと見かけた大学生のガッチリとした筋肉を思い出し、ゴクリと喉を鳴らすと昭仁はあっさり買収されてしまった。 「井原さんは晃一さんが別の人といて怒らないんすか? 」 晃一に部屋を追い出され、元と二人で少し街をふらつこうと思ったが、寂れた温泉地の夜は小さなパブやカラオケスナックくらいしか営業していない。 仕方無く、ガイドブックにあった見晴らしの良い高台まで車を走らせ、サンルーフ越しに見える満点の星を眺めていた。 「何で? 」 確かに中途半端で危うい関係だったが、昭仁は今の生活が気に入っていた。 元の好意は気付いてはいても、答えを出せば今の生活が終わってしまう予感がして今まで誤魔化し続けている。 「だって……晃一さんの事、好きじゃ無いんっすか? 」 晃一とは身体だけの関係と言うには親密過ぎるが、恋愛以外の感情で繋がっている。 たとえ、どちらかに恋人が出来たとしても何年も続いた友人関係はそう簡単には変わらない。 元に対してはどうだろうかと自分に問い掛けながら、真っ直ぐに大きく揺れる瞳を見つめる。 「気になる? 」 結局、答えは出さないまま唇を重ねた。 三人で過ごせるこの瞬間が少しでも長く続くようにと祈りながら……。 Next |