Pooh 6
2005.4.02
=満月の夜に=

週末。
残業の後で同僚達と軽く飲んでから帰ったから家に辿り着いた頃には深夜を廻っていた。
ドアを空けて声をかけたが反応は無く、真っ暗な玄関を通り抜けて寝室を覗くとベッドの上で二人が仲良く並んで熟睡している。

井原家のベッドはセミダブルで三人で寝るにはかなり窮屈だ。
当然、晃一と元のどちらかがベッドの横に敷いた布団で寝る事になる。
別にそれで喧嘩になる事は無いが、二人の中では先に寝る方が布団といった暗黙のルールがあるようだ。
ベッドに寝てると昭仁が手を出してくるから、布団の方がしっかりと眠れるという事らしい。
それを聞いた昭仁は、まるで自分が年中発情してるみたいだと面白く無かったが、心当たりも多少はあって反論は出来なかった。


本来、ベッドは家主である自分の居場所のはずなのに、どういう訳か今夜は居候の二人に占領されている。
これは二人して誘っているのだろうと、昭仁はベッドに腰を掛けて一週間分の欲望を吐き出す相手を交互に指さした。
「どっちからにしようかな……」
最後に指が止まったのは元の方で、当の本人は長い手足を存分に伸ばし腹を出して眠っている。
露わになった肌を指でなぞりながら唇を頬に近付けると、元は眉を寄せて唸りながら腕を振り上げた。
これが昭仁の目の上に直撃して火花が散った。
「この馬鹿っ……」
クラクラする頭を抑えながら元をベッドから蹴り出すと、一瞬目を覚ました元は寝惚けているのか一人でブツブツと文句を垂れながら布団の中に潜り込んでしまった。

「んん……」
ドタバタと騒がしくしていると横で寝ている晃一がうるさそうに寝返りを打つ。
元と違って意外にも晃一の寝相は良く、いつも小さく毛布に包まっては大人しく眠っている。
半開きの唇を指でなぞると、夢でも見ているのか小さな声を漏らして物欲しそうに唇で指を挟む。
あっちが駄目ならこっちという訳では無いが、晃一の漏らした声に触発されて覆っている毛布を半分だけ剥がして手を伸ばした。
パジャマ代わりに履いているジャージを気付かれないように脱がしてみると、洗濯が間に合わなかったのか昭仁が以前買ってやった小さいビキニが下半身を最小限で隠している。
窮屈そうに収まった部分を手の平で包み、柔らかい弾力を楽しんだ。

「んっ……」
指先で先端を擦ると僅かに反応して晃一が眠りの中で甘い声を漏らす。
抑えきれなくなってビキニをずらしながら半分勃ち上がった晃一のモノを咥えた。
口の中で大きくなっていく感触を味わいながら、ツルツルとした尻に手を滑らせる。
反応を探して這わせた指が熱い入口に辿り着く。
一旦愛撫を中断して指先をローションで濡らすと、もう一度晃一自身を咥えながら熱くなった入口に指を埋める。

「……っ……ぁっ……」
ゆっくりと時間をかけて楽しむ為に、口に含んだまま扱かずに舌先を絡ませていた。
時々吸いついて後を掻き回すと、晃一は小さな声で反応している。
その声をもっと聞きたくて先端を集中して刺激すると、咥えていたモノがドクドクと脈を打ち、
口いっぱいに苦い味が広がった。

「晃一、起きてるだろ? 」
口に絡みついた液体をティッシュに吐き出して尻を叩くと、足をモゾモゾと擦り快感の余韻に浸っている晃一の目が開いた。
「ごめん……気持良かったから寝たフリしてた……」
寝起き特有の鼻にかかっただるそうな声で小さく呟く。

「俺も気持良くなりたいんだけど……」
火照った頬に唇を重ねながら後の入口をもう一度指で掻きまわすと、晃一は泣いているような声を
上げて瞳を潤ませた。
いつもなら「デカくて痛い」とか「お前は加減を知らない」などと言って逃げながら、最終的には腰を振って喜ぶクセに今日に限っては何も言わない。
半分寝ているからなのだろうが、とろけるような顔をして昭仁に身を任せている。
それが妙に昭仁の欲情を駆り立てた。

「あ……お前の中…あったかい……」
前戯もそこそこに晃一の中に自身を埋めると、いつもより少し高い熱が昭仁を包んだ。
Tシャツの中を探る手で敏感な部分を刺激すると、晃一の肌は汗をかいて吸いつくように密着する。
後から抱きかかえて晃一の中を突き上げる。
ギシギシと軋むベッドの音が晃一の声を掻き消していく。
「ぁっ……っ……くっ……」
晃一は苦しそうに昭仁の手を握るが、表情とは裏腹に中の熱は上昇して感度を増している。
「んっ……っ……晃一……」
激しくぶつかる音と、晃一の上げる声は徐々に大きく部屋を満たしていく。
昭仁は締めつける入口に耐えきれず、晃一の上に跨ると深い所に届くように限界まで腰を振った。

「……っ…イクッ……んっ……ぁっ…ぁぁぁ……」


「そんなに感じたのか? 」
後始末を終えた昭仁は晃一を抱き締めて唇を重ねた。
晃一はキスも満足に出来ない程ぐったりと横たわり、僅かながら身体を震わせている。
今夜の自分は今まででも最高のセックスをしたんじゃないかと昭仁は鼻を膨らませた。

「ちょ、ちょっと何してるんですかっ」
余韻に浸っていると今になって目を覚ました元が二人の情事の痕を見て昭仁の耳元で怒鳴った。
「お前の事も起こしたんだぞ、馬鹿みたいに寝てるから……残念だったな」
今更仲間外れだと騒いだ所でチャンスを逃したのは元の方だ。





「アンタ病人になんて事すんだよ……」
らしく無い乱暴な口調で昭仁の頭を叩くと、元は二人を引き離して晃一の額に手を乗せる。
「晃一さん熱があるんですよ、だから……」
元の剣幕に呆然としながらも晃一を見ると、確かに苦しそうに唸っている。


元の説明によると、晃一は昼を過ぎから不調を訴えベッドで寝ていたとの事だった。
クスリを飲ませて少し落着いたものの油断は出来ず、昭仁は深夜になっても帰ってこない。
ずっと看病していた元もいい加減眠くなり、自分が寝ている間に帰って来た昭仁が手を出さないように自分もベッドに寝ていたのだと元は言った。

「でも……晃一、感じてたし……」
すっかり自分のセックスで参っていると思っていた昭仁の自信はガラガラと音を立てて崩れ落ちた。
苦しそうに汗をかいている晃一を見て一人興奮していた気まずさでガックリと肩を落とす。

「コイツ俺の口に出したんだぜ、具合悪いなんて普通気付かねぇよ……」

「馬鹿、触れば熱あるの気付くでしょ普通。……あーせっかく熱下がってきたのに……」
それでも往生際悪く言訳をする昭仁の頭をもう一度叩いて元はテキパキと汗をかいた晃一の体を拭いている。
「ありゃ……冷却シートきれちったな……井原さん、買ってきて下さい。俺、晃一さん着替えさせるから……」
たぶん近所のコンビニでは売っていないはずだからと、元は自転車で20分はかかる大型ディスカウントストアの名前を挙げた。

「えっ? 今から……? 」
つい数分前まで激しく腰を動かしていたから体がだるい。一週間働いて仕事の疲れも溜まっている。
思わず漏らした昭仁の本音に元は鋭い視線を投げかけ、「何か文句ある? 」と買ってくる物をリストアップしたメモを渡した。





「ちくしょー……俺も悪いけどさ、見張ってたとか偉そうに言ってるクセに、アイツ全然起きなかった
じゃねぇか……」
家主の尊厳などすっかり忘れられている昭仁は、なんだかんだで元の気迫に押され、誰もいない夜中の道路で一人必死にペダルを漕いでいる。
渡されたリストに、週末の食材やどうでもいい雑貨なども含ませているあたり元も調子がいい。
最近はすっかりと元に操縦されてるなと、一人文句を言いながら信号を待っている間に汗を拭った。
タバコに火を点けると寒さも和らいだ春の風がそっと頬を撫でていく。

「でも、まあ悪くないか……」
昭仁は空に向かって煙を吐き出すと、信号が青に変わるまで夜空に浮かんだ月を眺めていた。



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スイマセン。
前回の後書きで次回も温泉編だと告知しながら別の話しになっちゃいました。
一応季節感(最後だけなんだけど)を出そうと思いまして……。
予定が未定のサイトですが、これに懲りずにまた遊びに来てやって下さい。