Pooh 7 2005.6.18 |
=ハジメとコウイチ= 井原家の居候になってから半年が過ぎた。 これまで何とかやってきたが、失業保険の給付期間はとうに過ぎ、僅かばかりの貯金も底を突き始めている。 就職活動の傍ら日雇いのバイトで生活費は納めているが、正直それだけでは心細い。 居候である以上は寝食に困らないが、このままでは駄目だと焦っていた。 「なあ後輩、お前の実家って自動車修理やってるって言ってたよな?」 募集条件を満たした仕事が見つからずに就職雑誌を片手に唸っている元の背中に晃一が絡みつく。 これまで昭仁が仕事に行っている間でも滅多に二人きりになる事は無かったが、ここ最近の暑さから晃一はパチスロにも行かずに昼間はダラダラと家の中で過ごしている。 「そうっすけど……」 蒸し暑い部屋で密着してくる晃一に顔を顰めながら振り返ると、鼻にかかった甘い声が耳元で響く。 「俺の知り合いでバイク屋やってるヤツがいて、今若いヤツ募集してんだけど、お前どうだ?」 晃一はオーナーが相当な道楽者だから就職には向いて無いかもと笑ったが、元はそのオーナーの名前に聞き覚えがあった。 修理や販売だけで無くカスタムオーダーなども手広くやっていて、専門雑誌でも人気のショップだ。 「紹介って……そこ相当人気あるんじゃないですか?」 詳しくは知らないが、それだけ人気のあるチームに所属するとなると技術面でも経歴でもそれなりの事を要求されるだろう。 「ん? 会社の方針で普通に採用とかの募集ってしてないんだってさ。 未経験でも面談して気にいったヤツとか、他のトコから引っ張ったりしてるらしいよ。 で、そこのオーナーに面白いヤツ見つけてくれって言われてさ……」 高校生になってすぐに中型免許を取って以来、元は朝から晩までバイクに触っていた程のバイク小僧だった。 仲間同士で、いつかは自分達のバイクを作りたいなと語っては、実家の工場を使って設計の真似事をしていた頃もある。 だが就職する頃には、そんな事も忘れて当時流行ったドラマの影響からスーツを着る仕事に憧れて上京した。 「あの、俺やってみたいです……出来るかどうか自信無いっすけど……」 学生時代に想像していた青臭い未来を思い出して胸が騒ぐ。 僅かながら社会に出てから気持だけでは上手くいかないと知ってしまったが、情熱を傾けられない仕事は出来そうに無い。 チャンスがあるならそれに賭けてみたい。そう告げると元の想いとは対照的に晃一は携帯電話のボタンを押して、そばの出前でも頼むかのような軽い口調でしばらく話をしていた。 「月曜から来てくれってさ、一応その場で面談するみたいだけど」 半年間、元が足を棒にして探しても見つからなかった就職先が、晃一が指を僅かに動かしただけで決まってしまった。 信じられない気持と自分に訪れた幸運が消化出来ず、不安を隠しきれずに晃一を見上げる。 「心配すんなよヤバイ仕事じゃ無いから。カワイイ元に変なの紹介したら俺が昭仁に怒られるからな」 それでも簡単に話が進み過ぎて騙されているようだと元が不安がると、少しは信用しろと晃一が頭を撫でる。 日頃は玩具にされて遊ばれていても、こんな言葉を聞くと昭仁にも晃一にも大切にされている事を実感してしまう。 「いや……心配っていうか……俺、頑張ります……」 照れて俯いた元の頭を撫でながら、また丸坊主にすればいいのにと晃一は笑った。 「んじゃ、しようか?」 そう言うと晃一は何の躊躇も無く服を脱ぎ捨てて元に絡みつきながら唇を重ねた。 晃一という男はどこまでが真剣でどこまでが冗談だか解らない。 一見不真面目のようだが、共に生活をしていると稀に几帳面な部分も見せる事がある。 どこまでが本気か解らない言動に戸惑っていると、目の前の男は元の唇に軽く噛みついて笑った。 「んっ……晃一さん……怒られるよ………」 首筋を這う舌をくすぐったそうに避けながら元が身を引くと、面白がった晃一がさらに絡みつく。 「お前の大好きな昭仁にか……? たまには悪い事してみろよ……」 二人っきりの空間で肌を合わせるのは初めて出会った日以来だ。 昭仁の名前で兆発され、元は不貞腐れたように吐き捨てて晃一の唇に吸いつく。 「……そんなんじゃ無いっすよ………」 晃一は例えばすれ違った時に振り返ってしまうような魅力がある男だ。 華奢な割りに筋ばった身体やヘソから下に薄く生えている毛、絡みつく晃一の指先は否応無しに元を刺激して飲み込んでいく。 身体中が熱い。 元は我を忘れたように服を脱ぎ捨てて汗を拭うと、乱れた呼吸を整える間もなく晃一に覆い被さった。 「……っ…………入れていいよ……」 噛みつくような元の拙い愛撫に時々顔を歪ませながら、晃一は熱くなった元の股間にオイルを塗って入口へと誘った。 オイルを含んで絡む指先の刺激を目を閉じて耐えて快感をやり過ごす。 「でも……俺…っ……下手って……んっ………井原さんにも……言われたし……」 先端を弄られて息も絶え絶えに弱音を吐く。 先日、晃一に便乗して昭仁の上に乗った時に下手だと言われて追い払われたのが引っ掛かっている。 「お前は何もわかってないな………」 その言葉の意味さえも分らないまま元は晃一を抱いた。 時々、晃一が苦痛の表情を見せたり、ぎこちない腰の動きで抜けてしまったりしたが、熱い感触に包まれながら元は一時の衝動を吐き出した。 「……んっ……元……何やってんだよ………」 元の欲望を受け止めて放心状態の晃一を元は舌を使って絶頂へと導こうとする。 認めたくなかった。自分が一人で熱くなって果てた事を。 足を広げて煽るように音を立てて中心の咥え込む。 「……っ………元……もういいって……ぁっ……」 身動きが取れない体制から逃げようとする晃一を力で押さえつけて吸いついた。 入口も裏側も晃一が反応をする場所には全て舌を這わせる。 「んっ……出る………」 逃げる事も出来ずに震える晃一は小さな吐息を漏らすと元の中に全てを吐き出した。 口の中に広がった苦い味を飲み干すと、元は力尽きたようにその場に崩れ落ちる。 気が付くと隣で眠っていた晃一の姿は無く、枕元には『今日は帰らない。昭仁にたっぷり遊んでもらえ』と書置きが残されていた。 「……んっ?」 晃一の残したメモに苦笑しながら頭を掻き回すと違和感に気付いて、嫌な予感が身体中に駆け巡った。 慌てて洗面所に向かうと、鏡の中には見事に坊主頭に刈られた自分が居て、おまけに額には『エロ大好き!』と大きく書かれている。 顔を洗うが油性マジックで書かれているようで全く落ちない。 「……なんだよこれっ………」 折角伸び始めた髪もハサミで切っているからガタガタだ。 せめて昭仁が帰ってくる前にと元は手早くバリカンで頭を整えてから、何度も何度も顔を洗った。 やはり晃一が何を考えているか元には解らない。 だが、子供地味た悪戯も、抱いている時に見せた真剣な表情も本物であると信じたい。 恋人でも親友でも無い二人だが、そこにはきっと愛があるんだから……。 元は冷たい水を頭から浴びて洗面所に備えつけてある鏡に「そうだろ?」と問いかける。 そこには苦い顔で落書きを撫でている自分の顔が映っていた。 Top Index Next |