ハチミツ
2004.11.14
放課後、帰宅しようと校舎を出た途端、冷たい風が頬を突き刺し鼻の奥がツンと痛んだ。
やっぱりコートを着てくれば良かったと後悔しながら、純はひとつ溜息をついた。
そうだ、こんな日は早く家に帰ってハチミツをいっぱい入れた温かいミルクティーでも飲もう。
毛布に包まってビデオでも見ながら眠ればいい、そしてあんな事は忘れてしまおう・・・。

男にキスされた事なんて。
それが、学校の中でも評判の不良・・・石田タケルとだなんて。

体育の時間、担当の教師からタケルと二人後片付けを命じられ、悪い評判を聞いていた純は少し緊張しながらも、ハードルを倉庫まで運んでいた。
タケルは純だけで無く、クラスの誰ともあまり話しをしない。
少し悪そうなクラスメイトがタケルを懐柔しようと試みたが、タケルが鋭い目つきでギロリと睨みながら少ない言葉を返すと、ヘラヘラと愛想笑いを浮かべたまま逃げるように立ち去った。

20人相手に喧嘩をしただの、中学校では教師をボコボコに殴って病院送りにしただの、噂だけでも桁外れの悪行ぶりだ。
今の所は毎日学校にも来ているし、授業も真面目に参加しているが、それが周りの恐怖を余計に煽っていた。
まるで嵐の前の静けさのようで。

「いってぇ・・・。」
薄暗い体育倉庫の中でつまづいて転んだ純の前にタケルの大きな手が差し出された。
見上げるとタケルの鋭い眼光が降り注ぎ、そのタケルが手を差し伸べている。
「あっ・・・どうも・・・。」
純の体は恐怖と緊張に震えたが、親切を無視しては何をされるか分からない。
仕方無くその手を借りて起き上がろうとしたが、上手く力が入らずにタケルの胸の中へよろけてしまった。
「わぁっ・・・ごめんっ・・・。」
慌てて純が離れようとしたが、がっしりと肩を掴まれタケルの顔が近づいた。
うわっ・・・殴られる・・・。
そう思って目を硬く閉じた瞬間、フワリと優しい感触が唇に重なった。
「なっ・・・。」
驚いて目を見開くと切なそうに目を閉じたタケルの顔が間近にあった。
「んっ・・・。」
タケルがふっと吐息を漏らし、強引に舌が入り込むと微かに甘い香りが広がる。
舌が絡む度に全身が溶けるように熱く火照った。
唇が離れるとタケルはハッと我に返り、ぼうっとした純を残してそのまま駆け出してしまった。

忘れてしまおう・・・純が頭を振って早足で歩きだすと、校門を出た所で待ち伏せしていたタケルと目が合った。
「ちょっと、いいかな・・・。」
迫力のある三白眼に睨まれては断れる訳も無く、言われるがままタケルの後について行く。
「あの・・・。」
どこまでも無言で歩き続けるタケルに声をかけようとするが、上手く声が出ずに無言の道のりを歩き続ける。
タケルが時々振り返り睨みを利かせると純は黙ったまま、ちゃんと付いて来ている事を必死に表情で訴えた。
散々歩いて行きついた先はどうやらタケルの家のようだった。

部屋に通され絨毯の上に腰を下ろすと、テーブル越しのタケルが物凄い形相で純を睨みつける。
「清田君。」
「は、はいっ。」
誰もいない静かな家にタケルの低い声が響くと、ただ名前を呼ばれただけなのに緊張し、飛びあがるように返事をした。

「今日のアレ、ごめんなさい。」
「は?」
タケルの発した言葉が理解出来ずにポカンと口を開くと、タケルはシュンと俯いた。
「あの、怒ってるよね・・・。」


「あのさ、何であんな事したの?」
「・・・・好きなんだ。」
予想外の出来事が続き、混乱しきった頭を整理しようと純が訊ねるとタケルは消えそうな声で小さく言った。

「はぁ?」

「わぁっ、ごめんなさいっ、怒らないでっ。」
思わず大きな声を出すとタケルは大きな体を震わせ、パニックになったように慌てふためいた。
「ちょ、ちょっと落ちついて。」
「ぼ、僕・・・いや俺、純君の事一年の時から好きで・・・。」
「俺、男だぜ・・・?」
「ごめんなさい・・・嫌だよね・・・。」
「嫌って言うか・・・ビックリして、お前、不良だろ?何で俺なんか好きなんだよ。」
「ちがっ・・・違うよぉ、俺不良じゃない・・・。」
スローモーションのようにタケルの瞳からボロボロと涙が溢れ、しゃくり上げるように泣き出してしまった。
「体デカイし、目つきも悪いから皆に不良とか勝手に言われて・・・でも怖くて言い返せなくて・・・・。」
「なっ、泣くなよ、ちょっと何か飲もう、そんで落ちつこう。」
学校一の不良のはずが、こんなに気が弱い奴だったなんて・・・・。
純はあっけにとられながらも、宥めるようにタケルを促した。

泣きながら部屋を出たタケルが甘い香りと共に部屋へ戻り、差し出されたカップを一口啜りほっとため息をついた。
「甘い。」
「ハチミツ牛乳・・・嫌いだった?」
不良のイメージからかけ離れた可愛らしい飲み物に、こいつ本当は良い奴なんだなと普段のタケルの生活を想像してみる。
「んにゃ、体温まる、で・・・さっきの続きなんだけど・」
「純君はカワイイから他の人みたいに怖く無いし・・・。」
女のコみたいな顔だとよく言われる事を気にしている純が、あからさまに不満を顔に出すとタケルは慌てたように言葉を続ける。 「あっ、それだけじゃなくてっ・・・前に消しゴムくれたよね、あれ嬉しかったんだ。」
高校に入学して間も無い頃、テストの時間に消しゴムを忘れてしまった事に気付いたが、人見知りが激しいタケルは周りにいるクラスメイトにすら怖がって話しかけられずにいた。
その時、隣に座っていた純が自分の消しゴムを半分ちぎってタケルの席に置いてくれた。
あの消しゴムは今でもタケルの宝物になっている。

「そんな事あったかな・・・。」
純にとって何気ない行動だったが、周りに怖がられてずっと友達もいないタケルにとっては涙が出る程嬉しい出来事だったと言われ、自分も周りと同じでタケルを偏見の目で見ていた事を反省する。
告白された事よりも、タケルの本当の姿に触れた事がなんとなく純の気持を嬉しくさせた。

「ふーん、あのさ、アレもう一回してみてよ。」
「いいの?」
すっかりリラックスした純が兆発すると、頬を染めたタケルの顔が近づき唇が重なった。
今度はゆっくりと味わうように唇を合わせると、ハチミツの甘い香りがふわりと口の中に広がり、タケルの舌がゆっくり絡まって溶けていく。

ふと目を開くとタケルの股間の辺りがテントを張ったように膨らんでいる。
唇を合わせたまま純が手を伸ばして先端を握ると、目を閉じたままのタケルが声を上げて身を引いた。
「ぁっ・・・ごめん、俺・・・変なんだ・・・。」
怯えたように股間を手で隠すタケルを抱き締めて純は自分の硬くなった股間を押し付けた。
「俺も変だよ。」

もう一度、唇が重なりそのまま服を脱がせ合う。
裸になった二人はベットに倒れ込みながら肌を合わせた。


「すげっ・・・気持いい・・・。」
上に乗ったタケルの舌が純の身体中を這いながら敏感な部分をくすぐり全身を溶かしていく。
「純君、初めて?」
お前は初めてじゃないのかよと思いながら頷くと、さっきまで泣いていたタケルの顔がふっと緩んだ。
「じゃ、優しくするね。」
全身をくすぐったタケルの舌が、純の敏感な後ろの部分に突き刺さり中に入ってくるとゆっくりと掻き回した。
「んっ・・ぁぁっ・・・。」
込み上げる快感に声を上げて身体を震わせると、すっかりほぐされた中にタケルの指が入り込んでくる。
「ここ嫌かな・・・。」
「ひゃっ・・・ぁっ・・嫌じゃない・・・。」
純が大きく首を振って喘ぐとローションを含ませた指が一本ずつ増えて入口を広げた。


「ぅぁっ・・・・ってぇ・・・。」
大きく膨らんだタケルのモノが入口を塞ぐとピリピリと裂けるような痛みに歯を食いしばった。
「痛い・・・?」
「ぅぁっ・・・止めんなよ・・・。」
驚いて折角途中まで入ったモノを引き抜こうとするタケルの腰を掴んで引き寄せる。
タケルは戸惑いながらもゆっくりと純の奥まで突き上げた。
入口の痛みは徐々に奥にある疼きに掻き消され、純の鼓動はどんどん速く高鳴っていく。
それに合わせるようにタケルの動きも激しくなり、漏れた吐息が切なく響いた。

「やぁっ・・・何か・・・俺・・へんっ・・・ぁぁっ・・・。」
頭の芯を貫くような快感と痛みに先端を濡らしたモノが痛いくらいに張り詰めて、込み上げる衝動に息もつけないくらいに喘いだ。

「だめっ・・・タケルっ・・・イっちゃうっ・・・・。」
今にも吐き出しそうな先端がビクビクと震え、限界を感じて硬く閉じた目の奥にチカチカと光が集まる。
「ぅぁっ・・・・ぁっぁぁっ・・・。」
目の奥の小さな光が集まって爆発すると頭の中が真っ白になり、自分の胸や顔に白濁した熱い液体がかかった。

「純君、俺も・・出ちゃう・・・ご、ごめん・・・ぅっ・・・ぅぅぁっ・・・。」
薄く目を開くと、タケルは眉を寄せて激しく腰を動かすと口を開いて身体を震わせた。
熱い液体が自分の中に注がれるのを感じながら、イク時ってこんな顔するんだなとぼんやりしたままタケルの表情を観察した。

脱ぎ散らかした制服を着て純が帰り支度をしていると、タケルが机の引出しから暖かそうな青いマフラーを取り出した。
「あの、純君・・・これ良かったら貰ってくれるかな・・・。」
行為の時は余裕さえ感じられたタケルだったが、終わってしまえば先程の気の弱い口調に戻っていた。
「どうしたのコレ?」
「純君、いっつも寒そうな格好してるから・・・。」
タケルは純の首にマフラーを巻きつけて「良かった、やっぱり似合う・・・。」と嬉しそうに笑った。
「ありがとう・・・また、遊びに来ていいかな・・・。」
嵐のように過ぎた一日を思い返しながら、目を潤ませて頷くタケルの唇にもう一度キスをした。


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