選択肢 P5



孝平は部屋で茶封筒を開けて、深夜を過ぎるまで仕事のことを考えていた。
部屋の外では日付の変わる少し前から子供たちの声がし始め、順番に風呂に入っているようだった。
「兄貴ぃ〜、シャンプーが切れたっ。」
「兄さん兄さん!サルヂエ始まるわよ!!」
良平や明美の声で、恭平がパタパタと動き回る音が聞こえる。
恭平は手際よく答えて、次から次へと物事をこなしているのだろう。

しばらくすると、三人の弟妹たちが順番に二階へ上がる音がして、リビングは平穏を取り戻す。
孝平は書斎の机の上にある写真立てを見た。
…本当に、最近はお前のことを考えることが多いよ、愛。


恭平の足音が、部屋の前に近付いてきて止まった。
カチャリと音を立てて扉が開かれる。
隙間から、恭平がひょっこりと顔を出した。

「父さん。俺ももう寝るけど。電気消していい?」
「…ああ。」
「じゃあ…おやすみなさい。」

「恭平。」

部屋を去りかけた恭平は、孝平に呼ばれてもう一度だけ顔を覗かせた。
孝平は椅子から立ち上がり、大またで近付いてドアを大きく引いた。
恭平がバランスを崩して中に転がり込んでくる。
「な、なに?」
「明日の予定は?」
「明日は何もないよ。出勤日でもないし…」
「それはよかった。」

孝平は片腕で部屋の扉を閉めた。
壁にあるスイッチを切って、電気を消す。
一瞬で暗くなった部屋の中で、恭平の体を手探りで探した。

伸ばした右手が触れたところは、恭平の左肩。
その身体のラインをなぞるように鎖骨、首、顎…と上げていくと、恭平の息が指に当たった。

「と…」
「久しぶりに、楽しいことをしようか。溜まってきてたりしないかな?」
「そんなこと…っ」
「身体に聞いてみようか…」

孝平は親指で恭平の唇をなぞった。
形を確かめるように、ゆっくりと。

ふ、と軽い息が漏れ、恭平の身体から力が抜けていく。
全ての神経が唇に集中して、胸の鼓動が高まる。
恭平は無意識のうちに呼吸が早まるのを抑えきれずに、目を閉じた。
見えないはずなのに、それに合わせて孝平の指の動きが速まっていく。
暗く静かな部屋の中で、心臓の音が相手にも聞こえてしまうのではないかというくらいの緊張感。

恭平が思わず声を上げそうになった時、湿った暖かいものが唇を掠めた。
「ぁ…っ。」
ピクっと無意識に恭平の指が震えた。
離れたかと思った矢先に、また、触れてくる。
「と、ぅ、さ…ッ」
「恭平、呼吸が速いよ。どうしたのかな。」
「ん、は、…っ。」

わざと焦らすように聞いてくる。
恭平がもどかしさに身を引くと、孝平はそれを追いかけて強引に唇を奪いに出た。
「ん…!」
先程までの優しいキスと打って変わった、激しく求めるような口付け。
乾いていた唇が、瞬く間に濡れていく。
その舌遣いに翻弄されるのは、いつも以上に気持ちがいい。

孝平は何度も角度を変えて唇を合わせ、恭平に抵抗の隙を与えなかった。
両手を掴んで壁に押し付け、わざと音を立てて舌を吸う。
恭平の身体がその熱に反応し始めるのにそう時間はかからない。

合わさった唇の隙間から、どちらとも取れない熱っぽい吐息が漏れる。
「は…っ。」
そろそろ脱力し始めた恭平の腕の拘束を解き、孝平は彼の胸元に手を当てた。
ビクッと一度だけ、恭平の身体が痙攣した。
ゆっくりと探るように揉んで、恭平の感度が上がるのを待つ。
キスで十分に解されていた恭平は、すぐにそちらに意識を集中させる。

「ん、んん…っ。」

恭平は孝平の手の中からイイところをずらそうと胸を捩ったが、その動きすら巧みに利用して孝平の指が攻め立てる。
恭平の身体が歓喜に打ち震えた。

「ぁ…はっ…。」
恭平が唇の開放を求めて首を振ろうとした。
それを逃がさないように顎を手で押さえ、舌で奥の歯列をなぞる。
恭平の開いた唇の隙間から溢れた唾液が頬を伝った。
服の上からとはいえ胸にある敏感な性感帯と、呼吸すら満足にできない状態で恭平の興奮は一気に頂上近くまで上り詰めた。
早くも下半身が、苦しい。

「ん、ん…っ!」

恭平はたまらず腰を捩った。
孝平に擦り寄るように動いたので、孝平にも興奮が伝わる。
孝平は服の中でツンと立っているだろう乳首を、きゅっと押した。

「っ!」

恭平の身体が跳ねる。
下半身の力が抜けて、ズルリ、と壁に背をつけて恭平が倒れこみそうになった。

体の奥から震えが沸き起こる。
自分の身体が自分のものでないように。

さすがの孝平も苦しくなってきたのか、恭平が脱力したのをきっかけに、ふっと唇を離した。
「はっ!はぁ…っ。」
恭平の速い呼吸が室内にこだまする。
孝平は零れた唾液をペロリと舌で舐めとってやり、ふふ、と笑った。
「ベッドへ行こうか、恭平。それともこのままやる…?」

なんて甘美な囁き。


++
++
+表紙+