◇男に襲われた聡平くんを良平くんが助ける、頭を打って聡平記憶喪失…良平くんとのキスで元通り


【雨による記憶の略奪】



「ただいま。」
「おかえり……って、どうした?背中濡れてるよ。」
出迎えた恭平は聡平の背中を見て目を丸くした。
良平は靴を脱ぎ捨てそそくさと居間へ歩いてく。
聡平は困ったように肩をすくめた。恭平にはわけがわからない。
「喧嘩でもしたの?」
一瞬ぎくっと固まった良平だが、すぐに首を振った。
「知らねー、勝手に転んだんだろ。」
良平は聡平の濡れた背中のことだけを答え、居間の中央にあるソファにどかっと腰掛けた。
恭平は違和感を覚える。
「聡…どうしたの。大丈夫か?」
「うん…大丈夫。それより…」
「?」
「俺、大事なことを忘れてしまったみたいなんだ。」
「…思い出せないの?大学に戻ってみたら?」
「いや、そうじゃなくて。」
聡平は困ったように下唇を噛んだ。
「俺たちって、4人兄弟だっけ?」
「…当たり前だろ、明美が生まれてからずっと、俺たちは4人兄弟だよ。」
戸惑うように恭平が頷く。
「そうだよね、うん。」
「…聡平?」
「なんでもないよ。」
聡平は靴を脱いだ。恭平のショックを受ける姿はあまり見たくない。

良平はソファに深く座り、不機嫌そうに天井の隅を見上げていた。
聡平は何も言わずに二階への階段を上り始めた。その背中を見送って、恭平が良平に近付く。不安そうに良平の顔を覗き込んだ。
説明しろ、ということか。

「…忘れたんだって、俺を。」
「聡平が?」
まさか。
冗談だろう。
「信じらんねぇ。さっきだって助けてやったのにさっ。助けた後、頭が痛いって言ってて。あんた誰?と聞いてくるんだよ。」
「俺のことはわかってたみたいだったけど…?」
「兄貴や明美、それから家の場所とかは大丈夫なんだ。というか、俺のことだけスポーンと忘れたみたいだよ。よりによって、双子の俺を忘れてたんじゃ世話ねーや。」

恭平は戸惑った。
「一時的なものだろ…。」
「だといいけど。」
「気にするなよ。俺は覚えてるからな…、良平のこと。」
「…当たり前だろ。忘れたら怒るよ、マジで。」
「え、今怒ってるの?」
「だいぶ。」
きっぱり。

良平は怒りを表に出さずに、腹の中に貯めている時ほど始末が悪い。
何を言っても取り付く島がないことが多いからだ。
怒鳴り、暴れてくれた方がいくらかマシなのであった。

「…聡平を責めたら可哀想だぞ。」
「わかってるよ、んなことは。」
「もう一度、何かショックを与えてみたら、どうだろう?」
「ショック?」
「よくドラマとかであるじゃん、もう一回同じ場面に遭遇したら……」
「やだよ。それをここでやるとしたら、聡平の前で、俺が、兄貴を、ぶん殴ることになるんだぜ。」

……。

恭平の顔から血の気が引いた。
想像して、ほっぺたが痛くなった気がしたので手を添える。

「や…やめとこ。」
「だろ。」

ふっと鼻で笑う良平。
ショックを与える、他の方法を考える。
聡平が記憶を錯乱させる程のうろたえを見せそうなことは……。

「あ。あー。…そうか。」
思いついた。
良平は立ち上がり、何も言わずに階段を駆け上がった。
バン!!と勢いよくドアをあけると、聡平が突っ立っていた。
二つずつあるベッドや机を首を左右に振って見渡して、考え込んでいる様子だ。
「聡平!」
「えっ?」
「これでも俺のこと、思い出せねーか?!」
聡平が振り返った先に、良平が迫ってくる。
同じ顔に迫られるほど、鳥肌の立つことはない、と思った。
「ちょ…っ?」
思わず逃げ腰になった聡平を壁際に押しつけて、良平が上目遣いに何かを言った。
その唇の動きに目を細める。
瞬間的にそこだけに集中したため、他の注意がおろそかになった。
良平はその隙を見計らって聡平に近付き、口付けた。
「んっ?!」
聡平の目の前がスパークする。

あ、ありえねぇ…っ!!

聡平は渾身の力で自分の体に触れているものを押し返し、蹴飛ばした。
あっさり吹っ飛ばされる良平。

「…っにするんだよ!良平!!」

息を切らせて叫ぶ。
倒れこんだ良平は、聡平の本棚に突っ込んで、法律の参考書の中に埋もれてしまった。
「ありえない!何すんだよバカッ!ふざけんのも大概にしろ!!」
いつも通りに戻った聡平は、倒れたまま半分泣きたい気分の良平が逆ギレを起こすまで、延々と文句を言い続けた…。


戻る


***


◇後書き

リクエストありがとうございました。

3つくらいのリクエストのミックスであります。良平くんのお陰でいろいろと災難を被る聡平くんなのでした…笑
双子キスは二回目ですね。ショックという意味では最適な手段の選択なのかもしれません(^^;)

これからもマイペース更新を続けるつもりの管理人ですが、
三年目もゆったりまったりなお付き合いをよろしくお願いします。m(_ _)m


+戻る+