◇ネットリ森坂×恭平


【強迫】 1



あのことがあってから、恭平は携帯電話を換えたしアドレスも隠れるようにしていたのに。
どこからどう手に入れたのか、彼は恭平を追ってきた。

『やあ、久しぶり。』

知らぬ番号からの着信を不思議に思いながら、それでも受話器を上げてしまった。危機感が薄れていたと言われれば、その通りだろうと思う。
彼、森坂悟は息を止めて瞳を見開いた恭平を知ってか知らずか、ひょうきんな声で話しかける。
『この前はどうも。楽しかったですね?』
聞かれても答えられない。
喉が乾いた。
「あ…、」
『おっとまだ切らないで。』
終話ボタンに寄った親指が止まる。
恭平の指は、手首の先から震えていた。手先はとても冷たくなって、少し汗が滲んでいる。
思い出したくない光景が、嫌々に脳裏に展開していく。
『あの時に、実はもう一台、カメラがあって。』
「え…?」
『あまりに良く撮れてるから友人に寄贈しようと思うんだけど、いいかな?』
「な、何の話ですか。」
『想像に任せますけど。』
「……ッ」
『あれ?今何を想像してる?……下のほうが熱くなっちゃってませんか。』
「やめろ!」
あはは、と受話器の向こうで楽しそうに笑う森坂は、本当に悪意がないようだ。世間話をするような軽さで、戸惑う恭平に卑猥な言葉を投げかける。
『その想像でおそらく当たりですよ。貴方のことを友人に話したら、彼はとても興味を持ったようでね。映像があると言ったらぜひ観たいと言って聞かないんですよ。彼に寄贈してもいいですか?……男相手専門のAV男優ですけど。』
「…。ちょ、ちょっと待ってくれませんか。話がよくわからない。寄贈…したらどうなる?」
『どうって。もし彼が恭平くんを観て、画面に向かってイっちゃったとしたらってこと?』
「そんなこと…!」
『あると思いますよ。本当によく撮れてるから。そうしたら、貴方のところにAVビデオへの出演依頼が行くかも。いい話でしょ?儲けられますよ。』
「余計なお世話です!」
恭平は吐き捨てるように言った。森坂がこんなことでこたえないことは承知しているが、言わずにはいられなかった。
「もう、俺には構わないでください!」
『そうはいかない。今のお給料より相当稼げるはずです。それどころじゃない。毎日大勢の前で、何人もの男に犯されることができます。』
「おい…」
『出来は保障しますよ。あ、お父様にも見てもらうといい。』

「やめてくれ!!」

恭平は自分でも驚くくらい大きな声で、初めて強く拒絶を表した。
しかしすぐに、それが罠だったと気付く。
森坂の声が一変して低いものになり、耳を舐めるように囁いた。

『その言葉を待っていましたよ…。この映像、惜しければ私のところにとりに来てください。もちろんタダでとは言いませんけど、ね。』

これは明らかに恐喝だった。

だが恐怖に駆られた恭平は、震える体を一心にに押さえ、玄関から飛び出した。



「よく来てくれましたね。嬉しい。」
森坂の指定したのは彼の自宅だった。
物が少ないせいか、彼が一人しか暮らしていない部屋にしては広いように感じた。

「…撮ったものを返してください。」
「急っかちですねえ。何か飲み物でも?」
「いりません。」

左の壁には本棚があり、右にはベッドがあった。
その上に座った森坂は、初めてあった時と変わらない笑顔で恭平を見ていた。その笑顔がまっすぐに見られないのは、恐怖からだけではない。
「…っ、早く!」
「そう急かないでください。まさかこのままハイこれですって、渡すとお思いですか?」
「お金、ですか…?」
「俺の性格を知ってて言ってます?お金で貴方が変えるならいくらでも出しますよ。そのためにAV男優になればいいのにって提案したくらいだ。恭平くんがなるなら、俺はその相手役を目指します。」

冗談に聞こえない。表情を変えず、さらりと恥ずかしいことを言う目の前の男を恭平は睨んだ。
森坂はヤレヤレと肩をすくめ、恭平に一歩近付く。
にじり寄る森坂から逃げるために、彼と同じ一歩引いた。
すると背中が壁に当たる。
森坂はなおも一歩前へ。息がかかるほど傍に近付いて、恭平の両足の間に自分の左膝をねじ込む。
「や…っやめてください!」
「何を?」
「こんなこと…っ。それより、早く電話で言ってたものを…」
「今ここで、もう一度、貴方が許してくれたら、考えてあげます。」
「えっ?」
「貴方もそれを期待して、のこのここんなところにまでやってきたんですよね…?」
森坂は最後は囁くように言い、恭平の唇に自分のそれを寄せた。
恭平はとっさに首をそらす。
男の唇を頬に感じた。
「やめ…」
男は恭平の顎を取り、嫌がるのを無視して強く口付けた。
怯える恭平の唇はかすかに震えを含んでいる。
舌で優しく導いて、吐息を漏らす彼の中へと侵入する。
「…っ」
恭平は目の前の状況から逃避したい衝動にかられた。目を閉じる。
すると余計に男の舌の巧みさに翻弄されている自分を見た。
一気に血圧が上がる。

それを感じ取ったのか、男の左膝が恭平の股間を押し上げた。
「ぅ…っ」
恭平は自分の持てる渾身の力で男の肩を押し返した。
唇が離れる。

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