▼佐久間恭平くん誕生日企画06
06:杉野
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夜はみんなでケーキを食べた。
明美は自分が焼いたと主張していたが、逐一恭平のアドバイスが飛び交う中やっとの思いで作り上げた一品だった。
ご機嫌の孝平と、特に何も感じていない聡平と、ケーキの出来栄えに感激している明美と、若干疲れ気味の恭平が席についた。
「あれ?良ちゃんは?」
「おかしいな、もうそろそろ帰ってくるはずなんだけど…」
ピンポーン
噂をすれば影、良平のご帰宅だ。
恭平が玄関まで様子を見に行くと、良平が手招きをして呼んでいた。
首を傾げる。
「…何?」
「いいからっ。ちょっと、話があるんだって。」
「誰が?」
「…いいからっ。早く!」
なんだか小声で、急いでいるのか早口である。
恭平はサンダルに足を通して玄関を出た。
そこに立っていたのは……
「じゃーん★誕生日おめでとうございますー!」
大きな花束を持った杉野拓巳だった。
「えっ…ええ?!」
驚いて文字通り口を開けた。
「良平から恭平さんが誕生日だって聞いて。この前良平くんがピーピー泣いて喜んでくれたので、今回も花束にしてみました!」
「ピッ…ピーピーってなんだよ!そんな泣き方してねぇよ!」
「泣いたの?良平が?」
「ええ。泣きました。ピエピエと。」
「わぁー。すごいね。やったね杉野くん。」
「はい♪」
「だから…泣いてねぇぇぇぇぇ!!!!」
『しーっ。』
恭平と杉野が二人で人差し指を立てた。
夜だと言うことを忘れていた。
それに、あまり大きな音をたてて明美が寄って来たりしたら、なおさら面倒くさいことになる。
「では、夜も遅いことですし。」
「そうだね。」
「おう。」
杉野は恭平に花束を手渡した。
両手に抱えて恭平の顔も花に埋もれてしまう。
「あはは。似合う。」
「え?」
「素敵ですよ恭平さん。おめでとうございます。」
杉野はいつでも楽しそうに笑う。
にっこりと笑って、手を振った。
良平がその背を追いかけて、駅まで送ろうか?と言った。
「いいよ。これから家族でホームパーティーでしょ。」
「…じゃ、食ってく?兄貴のケーキ、上手いよ。」
「家族団欒を邪魔するほど調子乗れないよぉ、いくら俺でも。いいから良平は楽しんでおいで。」
「…。」
杉野は良平の頭をポンポンと撫でて、数歩離れて手を振った。
「恭平さーん、また料理、ご馳走してくださいねー!」
恭平は苦笑して手を振り返す。
「はいはい。気をつけて帰ってね!」
「はーい!」
ドアまで良平が追いかけて、手を振っていた。
玄関からドアを開けて、明美が様子を伺いに来た。
「兄さん、まだ?良ちゃん一体何の……って、え?!どうしたの、その花束?!」
「もらった。お祝いに。」
「え?誰に?良ちゃん?」
明美の目の前には良平しかいない。
杉野に手を振って戻ってきた良平は、明美を見るなり面倒臭そうに目を細めた。
「あ?何見てんの?俺様かっこいいってか?」
「は?ばっかじゃないの。」
「ひでぇ。全否定かよ!」
「ねえ、この花束良ちゃんが買ってきたの?」
「んー…うん。まあ、買いに行った…かなあ。」
「何その曖昧な返事。」
「いやあ。」
良平はちらりと恭平のことを見て、へへっと歯を出して笑った。
「さあね!それより俺、ケーキ食いたい!」
「あ、ケーキ!兄さん、早く早くっ!出来立てを食べようよ!」
「そうだね。」
明美と良平に続いて、恭平は玄関をくぐった。
最後にもう一度だけ外を見て、空を見上げる。
満天の星空だった。
杉野くんはこの星空の下、鼻歌でも歌いながら家に帰っていくのだろう。
恭平は玄関に入り鍵をかけ、花束を見つめた。
すると部屋の奥から聡平が、新聞紙を持って現れた。
「おーおー、また大きなものをもらったね。」
「…うん。いい匂い。」
「きれいだね。」
聡平は相槌を打って、玄関に新聞紙を一枚ずつ広げ始めた。
ある程度の広さを引き終わると、両手を出して恭平から花束を受け取った。
それを今並べた新聞紙の上に静かに横たえて置く。
「明美ご自慢のケーキを食べてから、花瓶に飾ろうぜ。」
「ああ。そうだね。」
恭平は今日一日を思い返して、幸せそうに満面の笑みを浮かべた。
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