朝食 P1



恭平の毎日の朝に、起きてからすることは大体決まっている。
まず、大学に毎日遅刻しそうになっている弟の良平を起こす。

「良平、起きろ。遅刻するぞ。」
彼の場合、もう大学生なのだから放っておいても構わないのだが、下手をしたら単位を全部落としかねない。

「んん〜〜。あと少し…」
一度揺すっただけで起きたためしがない。
双子の弟、聡平のほうは、早くも起きて、一階でパンを焼いている匂いがする。
「ほら…良平。また教授に死にそうなほど課題をもらっちゃったらどうするんだ。手伝わないぞ。」
「それ…は、こまる…」
寝言のように言って、布団から顔を出したが、しかしそのまま動かない。
恭平は軽く溜息をついた。

「兄貴ー!ほっときゃいいって良平はさぁ!」
階下で聡平が叫んでいる。
「どーせ起きねぇーよ!チンタラしてるからさぁ!」
「うるせぇ!聡平の野郎!」
良平がボサボサの頭でがばっと起き上がり、布団を跳ね除けて飛び起きた。

「おはよう。」
「おはよう、兄貴。」

恭平は良平がちゃんと目を覚ましたことを確認すると、右足を軽く引きずって階段を下りた。
「あ、そうだ。兄貴、今日俺友達んちに泊まってくるから。夕飯いらね。」
「そうか。わかった。」
振り返らずに手を振って、恭平は一階へ辿り着いた。

「良平の馬鹿、起きた?」
「起きたよ。双子でどうしてこうも違うのかなぁ。」
「俺が全部吸い取った。」
聡平ニヤリともせずに言い放った。
う〜ん、確かにそんな感じのする兄弟だと恭平は思った。

良平と聡平を送り出した後、洗濯をして、お昼前に寝ている父親を起こすのも恭平の仕事だった。
父親のいない時は、良平たちよりも先に高校生の妹の明美を起こさなくてはならないが、今日はいない。どうせ友達か、彼氏の家にでも転がり込んでいるのだろう。

父親よりも恭平の言うことのほうが遙かに聞くことの多い明美だが、父親のいる時に帰宅させるのは、兄弟全員で言っても無理だった。
その代わり、恭平には必ず居場所をメールで知らせてくる。

「父さん。そろそろ竹本さんが来ると思うけど。」
父の寝室に行って声を掛けると、眉間に皺を寄せたまま眠る父の姿があった。

「父さん。」
もう一度声を掛けて布団の上から手をかけると、いきなりその手首を捕まれた。
「い、今何時だ?」
父の孝平が寝ぼけ眼で聞いてくる。
「んと…十時くらいかな。」
「そうか。」
言うと孝平は、掴んでいた恭平の手の甲に唇を押し付けた。
「おはよう、恭平。」
「…おはよう。」
恭平はさして抵抗もせずに微笑んだ。
「良平たちは?」
「もう大学に行ったよ。あと朝ご飯食べてないのは父さ…」

まだ言い終わっていないのに、腕を引き寄せられて、唇を奪われた。
孝平は、朝からスラスラと動く恭平の唇に吸い寄せられるようにキスをしてしまったのだ。
「んは…っ」
短いキスだったが、唾液が糸を引いた。
「…朝ご飯食べて。父さん?」
「お前で十分だ。」
恭平が逃げようとした時はすでに遅く、彼は体ごと引っ張られて柔らかいベッドの上に押し倒された。
「父さん!」
「うるさい…頭に響くよ。」
抗議の声は、あっけなく父の唇に吸われて消えてしまった。

「んん…。あ」
鎖骨の辺りを撫でられて、恭平は甘い鼻声を発した。
一昨日の情事の時に付けたキスマークが、紅く残っていた。

「腰はもう、回復しただろうね?」
孝平が優しく聞いた。片方の手で腰の辺りを厭らしくまさぐりながら。
「や、やめてよ父さん!早く朝食を…」
「わかっている。だから今から食べるつもりなんだ。」
そう言って、下から手を入れて恭平のTシャツを捲り上げた。
紅い乳首が二つ、顔を出した。
「あぁ…っ!や…っめて…」

孝平が、その突起に手を掛けようとしたその時、インターフォンが鳴った。
二回。
その押し方からして、間違いなくいつも迎えに来る孝平の部下、竹本だ。

「ち…」
孝平は舌打ちすると、恭平のTシャツをきちんと直して、ベッドから降りた。
部屋を出て、玄関で対応している声がする。

恭平は、少しばかり熱を持った体をどうにか落ち着かせるためにしばらくベッドの上で呆然と座っていた。
朝からどうしてそんなに欲情できるんだろうか、あの男は。
孝平はそのまま出かけてしまうのだろうと考え、作っておいた弁当を取ってきてあげようと恭平が立ち上がった。
ところが、部屋を出ようとしたところで孝平が戻ってきた。

「あれ?父さん?」
「朝食を食べる時間をくれと言ったら、あと30分後にまた来るそうだ。」
「ふーん…。って…え?!」
恭平は納得する間もなく、再びベッドの上に引き戻された。

「ということで、三十分でいただきますよ、恭平くん」


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