好きな色 P1



その日、恭平は痛めた足を摩りながら縁側で庭を眺めていた。
外は太陽がさんさんと輝いていて、昨日の夜中降り続いていた雨の雫のついた葉が至る所で輝いている。

そんな爽やかな朝なのに、恭平はどこか浮かない顔をしていた。

一晩家を開けて、帰って来た次の日、孝平の車で病院へ行った。
左の足首はただの捻挫で、普通なら全治一週間だそうだ。
ただ、恭平は右足のこともあるので、それより長くかかるでしょうと言われた。
なるべく無理をしないこと。
今は痛み止めを飲んで、部屋を移動する時は病院で借りた松葉杖をつき、誰かいたらついてきてもらっていた。
仕事は、孝平が大目に見てくれて、一週間の休暇をくれた。

孝平は病院の帰りに恭平を自宅に送り届けると、そのまま会社に向かってしまった。
本当に忙しい人だ。

その時だった。
思い出したのだ。
同じ会社にいるOLの中島さん達三人に、孝平の好きな色を聞いてくる約束をしていたのだった。

帰ってきたら聞こうと思っていたら、急遽出張が入ってしまったらしくそれから三日間、帰って来ない。
そのお陰で明美が毎日家に帰ってくるので、恭平には大助かりだったのだが、どうも約束が果たせていないのでヤキモキする。

電話をかけてみようかと思ったが、そんな用事だったら怒られてしまうかも…。
そう思うと、それもできなかった。
…早く帰って来ないかなぁ。

あれこれ考えながら、ぼんやりと庭を眺めているうちに、暖かい日差しと、痛み止めの薬のせいで、恭平はウトウトし始めた。

兄弟は全員学校に行っているから、まだ誰も帰って来ない。
恭平は眠気に任せて目を閉じた。


「…!はっ。」

人の気配を感じて目を開けると、すぐ近くに、父の顔があった。
鼻の先が、触れそうだ。

「…っ?!と、父さん?」
「そのまま寝ててもよかったのに…。」
小さく呟くと、孝平の目線が恭平の唇に移る。
恭平が次の言葉を紡ぐ前に、唇が重なった。

久しぶりの、キス。

恭平は、孝平の勢いに任せるようにして、目を閉じた。
柔らかい、唇。
孝平はその場で恭平のことを押し倒した。
恭平の背が直接、フローリングの床の上に触れた。

恭平は、抵抗しなかった。

「…ん…っふ。」

重ねなおすたびに、恭平の甘い声が漏れる。
孝平は夢中になって、恭平の柔らかい唇を貪った。

息が苦しくなってきたのか、恭平がそろそろ離れようともがいた。
もがく手を両手で押さえて絡め、なお離さないように舌を這わせる。
「ん、…んぅっ…。」

恭平が本当に嫌がるので、孝平は唇を離してやった。
孝平の腕の中で、恭平が肩で荒い呼吸を繰り返した。

「父さん…。いつの間に、帰ってきたの。」
「ついさっきだ。鍵がかかっていたからインターフォンを鳴らさずに鍵を開けた。」
「ああ、どうりで…。」

気付かなかったわけだ。
恭平は、押し倒されたままだったが、今のうちに聞いておこうと思った。

「ねぇ。」
「なんだ。」
「父さんの、好きな色は何色?」

孝平は少し驚いたようだ。しかしすぐに、いつもの表情に戻った。

「どうしてそんなことを聞く?」
「んー。なんとなく…。」
「ふぅん。」

孝平は恭平の上から退くと、着ていた背広を脱いで、ネクタイを外した。
Yシャツの腕を捲って、恭平を持ち上げようとする。

「や、やめてよ父さん!腰がどうにかなったらどうするのさ!」
「ほう。私の心配か。ありがたいな。」

そう言うと、恭平の体を抱えて立ち上がった。

「父さん!」
「ふーむ。確かに、ちょいとキツいな、こりゃ。」

そう言って、大股で歩いて恭平の部屋へ直行する。
鍵を閉めて、恭平をベッドの上に降ろした。

「ふぅ。大きくなったもんだ。」
「い、いつの話…うわっ!」
孝平が、恭平のことを再び押し倒した。今度はベッドの上なので、遠慮なしに乗っかってきた。

孝平が、恭平の顔を両側から包み込むようにした。
う、動けない。

「心配したんだ。本当に。」
「…。ごめん、なさい。」
「もう心配させるようなことはするな。…これ以上はするな。」

孝平は、またも恭平の返事を待たずに唇を塞いだ。
顔を両手で押さえられているから、恭平は抵抗できなかった。
できても、たぶんしなかっただろうけれど。

さっきよりも短いキスの後、孝平が恭平の瞳を見つめた。
母親の、愛に似ている瞳。

「好きな色は、何かって?」
「うん。好きな色。」
「恭平は、何だと思う。」
「…わかんないから聞いてるんじゃないか。」

それはそうだが。
孝平は一瞬考えたが、すぐにニヤリとした。

「当ててご覧。」
言いながら、恭平のシャツのボタンを外していく。

「え…っ。えっと…。青?」
「はずれ。」

孝平は外しかけのボタンをそのままにして、服の中に指を滑り込ませた。
胸にある、小さな突起に触れたとき、恭平が短く息を吸った。

「次は?」
「…赤。」
「んー。はずれ。」
「あ!…っあぁっ!」

はずれたことをキッカケに、その突起を強く揉んだ。
恭平の体に小さな電気が走ったようになり、その様子を孝平は楽しそうに見ている。

久しぶりの刺激。
恭平も、今までにないくらいに、体が熱くなるのがわかった。


++
前++
+表紙+