あるクリスマス P1
クリスマスパーティにご家族でいらっしゃいませんか?
電話が入ったのは12月の初めの土曜日だった。
相手は父の会社の営業部長、峰山義樹の妻で、恭平兄弟とも面識があった。
「へぇ〜。楽しそうだね。俺は構わないよ。」
「明美も!行く行く!」
聡平と明美はすぐに賛成した。夕方からという時間帯が功を奏したらしい。
「ドレス買いに行かなきゃ。兄さん、来週買い物に行こうっ。」
明美は膨らむ期待を隠せないようにはしゃいで、兄の腕を引っ張った。
恭平は苦笑いしつつも頷くしかなかった。
残った良平は、返事を渋った。明美と同じく喜んでついてくると思っていたので予想外だった。
「俺、用事あるから行かねぇ。」
眉根を寄せて、悔しそうに言った。
「…何、その顔。」
「別に。」
唇を尖らせてぶっきらぼうに答える。
「良平…。行きたいんだろ。」
「別に!行きたくねぇし羨ましくもねぇ!」
すると明美が横から口を出した。
「美味しい料理食べられるよ。」
「勝手に食えば!」
「素敵な豪華商品…☆」
「勝手にビンゴってろ!」
「怒らないでよ。」
「怒ってねぇし。」
「怒鳴らないでよ。」
「怒鳴ってねぇ!!」
「怒鳴ってるよ。うるさい。」
聞いていただけだった聡平がすかさずツッコミを入れる。
良平が口を閉じて次の言葉を噛み殺した。
なんとなく恭平と聡平には理由がわかっていたが、それなら彼も連れてくればいいのに、とも言えない。
良平から言い出すのを待つしかないのだ。
恭平は弟の顔を見て、事情を理解した態度を取ることにした。
「それじゃ、相談してこいよ。峰山さんたちも返事を急いでる風ではなかったから。」
「…え?」
きょとんとした表情で明美が交互に兄たちを見た。双子は揃って口を閉ざし、目まで逸らしたので必然的に長兄を見た。
彼はその視線を避けることもなく意味ありげに笑った。
「先約があるんだろ。良平が決めることだから、明美が心配し過ぎることはないよ。」
何か隠されたようで解せない部分もあるが、素直な妹は大人しく頷いた。
恭平は同じ日、叔父の孝介にも電話をかけた。
事前に峰山夫婦に尋ねたところ、人数は多い方がいいと言うので誘ってみようと思った。
孝介夫婦には子供がいない。そのためよく世話をしてもらっているし、二人の気分転換になるだろうと思ったのだ。
恭平自身は叔父のことが苦手ではあるが、そのことは二の次に感じられた。
電話口に出たのはクリーニング店の店番をしていた照子で、要件と少しだけ世間話をして切った。
峰山の誘いはもちろん孝平にも及んでおり、にぎやかで混んでいる場所には行きたがらないインドア派の社長も重い腰を上げた。
「一時間で帰るからな。」
そう言い切る孝平に、峰山は調子よく頷いた。
「うちに泊まってってもいいぞ、うん。そうしよう。」
「…帰ると言ってるんだが。」
「当日決めたらいいんだよ、そんなことは。来ることが重要だ、と思わないか?」
押しが強引である。こいつに営業を任せていていいのだろうか、と一抹の不安。
だが、その日の帰宅後すぐに考え直した。
クリスマスパーティーに自分も出席することを伝えた時の恭平が、とても嬉しそうな顔をしたからだ。
目が合うとはっと気付いて頬を掻いていた。
照れ隠しのつもりだろうか。
孝平は台所へ忍び込み、コンロの前に立つ恭平の腕をそっと止めた。
「夕方の五時には迎えにくるよ。それまでに準備を。」
「…みんなも?」
「当たり前だ。」
恭平の脳裏に良平の顔が浮かんだ。彼が恋人を連れてきたら、定員オーバーで車には一度に乗れない。
そんなことを考えているうちに、腰から体を引き寄せられた。
思考が止まる。
孝平の唇がすぐそこにあった。少しでも動けば触れられるほど、近くに。
「こ…孝介おじさんも?」
「え?」
孝平は驚いて目を見開いた。
我が息子ながら恭平の律儀さに感心し、同時に呆れもする。
孝平は恭平の背中に、服の隙間から手を差し入れた。
恭平が小さく息を吐いて恥ずかしそうに頬を染めた。反射的に遠ざける方向に腕を押す。
「わざわざ知らせてやったのか。」
「ん…うん。今までも…そうしてたし。」
「無理をしなくてもいいのに…。すまないね。」
「そん…。っ、」
恭平が背中を反らせた。
孝平は目の前で晒された細い首筋に、優しく唇を落とした。
「あ……。」
恭平が甘い溜め息をついて喉を鳴らした。
背中に回した手を肩の下当たりまで上げて、脇を回る。
「あ、ゃ……っ。」
恭平の感度が徐々に上がる。
首筋から、柔らかい肌の感触を楽しみながら愛撫していた唇を耳元へ寄せて、孝平は囁いた。
「ありがとう。」
息子が弟へ見せた、わずかな慈悲への礼だった。