あるクリスマス P2



また吸ってる。

良平は玄関に入るなり、鼻孔をくすぐる微かな匂いをキャッチした。
コートや服のところどころに残っている。隠しているつもりでも、しっかりとその存在をアピールしている。

タバコ。

最近、杉野は吸う量が増えている気がする。
大学一年の秋に吸い始め、一時期は一日で数本なくしていた。
初めはなんとも思わなかったが、ついに良平と会ってる時にさえ手を付けるようになった。
それに良平が腹を立てないはずがなく。
匂いが気になるから消えるまで触んな!との指令に従い(怯えていたとも言う)、それから徐々に減らして一転、禁煙家となった。
良平に会えない時、無意識にストレスが溜まる試験期間中など、どこからともなくケースとライターが出現しているようだったが、期間限定だったので気にならなかった。

良平は靴を脱いで部屋に上がり、直進して奥にある窓の鍵を外した。
小さなベランダで座り込んでいた杉野拓巳の背中にスライドした部分が食い込む。
「ぐぅいッ?!」
変な声を上げて杉野が飛んだ。

ぽとりと落ちる、タバコ。

「痛い!」
「あ、いたの。気付かなかった。」
「おーい。よく見ろ。」
杉野は笑って、吸い殻を拾って灰皿に押し付けた。
「寒いねえ。」
白い息は体温からくる自然なものか、それとも煙草の名残なのか。

「吸うなって…言ってんじゃん。」
小声で言って、窓を閉めた。
良平も外へ。杉野の隣に腰掛ける。狭いので、体育座りと呼ばれる格好を取らざるを得なかった。
杉野は慌てて良平の腕を掴んだ。
「寒いだろ。中入ろう。」
良平は首を振った。
腕を伸ばし、野のズボンのポケットからタバコケースを抜き取る。中を覗き込んで一本抜いた。
「ライター。」
「え?」
「ライター貸せよ。」
「…なんで?良平、タバコ嫌いだろ。」
「吸ったことはあるよ。ほら、貸せよ。」
戸惑いつつも、杉野は反対のポケットからライターを取り出した。
火を付けて、良平の前に差し出す。
良平は、一度だけ杉野と目を合わせ、くわえたタバコを近付けた。

伏せた目頭から生えた睫が静かに揺れる。
少し開いた唇がかわいい。

反射的に杉野は火を消した。良平が顔を上げる。

良平の言いたいことを、杉野はわかっていた。
「ごめん。」
謝って、良平の口からタバコを取り上げた。
言いたいことを伝えきっていない良平はなんともいえない複雑な表情。
「ごめんって…何が。」
「良平に吸って欲しくないなぁって、思ってしまった。」
「…。」
「逆に俺を見た良平にそう思わせたのなら、俺が悪い。と、思って。」
「…ふーん…」

良平はまっすぐに杉野を見、口の端だけ笑みを浮かべた。
杉野の心を抉る、小悪魔的な微笑み。
責任とか悩みとか、重いものが全て吹っ飛びそうになる。

「りょ…」
「わかってんじゃん。」
良平は腕を伸ばして杉野の胸倉を掴んだ。引き寄せて、自分も乗り出して、口付けた。
タバコ臭い。
良平は顔をしかめた。

が、反対に杉野は良平の甘い匂いに頭がぼんやりしていた。突然のことに体はフリーズ状態。
柔らかくてぎこちない唇を離すまいと、腕だけが意志を持って動き出した。
良平を頭から引き寄せて、倒れ込む。

抗う良平をしっかりと抱き締めて、貪るように唇を重ねた。
角度を変えて、届かぬ所などないくらいに。
息の続かなくなった良平が、やっとの思いで杉野の口を手で塞いだ。
「ここ、ベランダ…ッ!」
肩で息をしながら顔を真っ赤にして抗議する。
「うん、寒いねえ。」
杉野は笑って良平の指にまでキスを落とした。
「あったかい。良平、ホッカイロみたい。」
ベランダに仰向けに寝転がって、自分の上に馬乗りになっている良平を見上げた。
彼の後ろに見える青空は淡い色をして澄み渡っていた。
「中、入ろうぜ。」
「うん…もうちょっと。」
杉野は良平の手を握りしめて頬に当て、目を閉じた。


空が晴れ渡った昼間だというのに部屋の中にこもり、良平と杉野は互いにキスをして交わった。
最初は挑発するように杉野を煽っていた良平は、時間が経つにつれ余裕が消え失せ、主導権を全て杉野に受け渡す。
細かい息遣いから心の震撼まで、快楽を全身で表現させる。
良平は自分の身体が自分のものではないような感覚に、自然と涙を流した。奥の奥から支配される。
泣いたとしても、最中の杉野は許してくれない。

布団が揺れる。
良平が蹴飛ばした。
翻弄されながら、足や手が宙を掻く。
「………っ!」
杉野の肩の下で息を止めた。自分の中で、雄々しい杉野自身がその存在を誇張している。ソレがイイ場所ばかり突く。
律動が止まらない。
「……ッぁ……ッ」
我慢しきれず弱い声が漏れた。
さらに煽るように杉野の指が脇のあたりを愛撫してくる。
背中がぞくぞくして神経が二分する。
「……ぁッ。……あッ!」
腰の動きに合わせて首を振る。下半身の動きは徐々に早くなっていた。
杉野の顔を探して、すがりついた。
「ぁあ…っ。すぎ、の……ッ!」
右足の裏を持ち上げられた。奥に食い込み、悲鳴を上げる。情けないが、耐えきれない。
良平はこの嬌声が相手を誘惑していることを知らない。
「あっ、ァッ…!痛い…!杉野ぉ!」
「本当に?痛い?」
「……んく……っ!ぁぁあぁッ!!」
思い切りのいい前立腺の刺激。
良平は身体をビクビク痙攣させて、無意識に腰を捩った。
呼吸を荒げ、汗と涙で肌を濡らす。
杉野は良平の首筋をきつく吸い上げた。

「んっ、あっ」
「大好き良平。愛してる。」
「あっ…んっひっ、ぁぁあッ!アッ……」
右へ左へ、かき回すのをやめずに杉野は良平の全身をしつこいくらいに愛撫し続ける。
良平は感度の限界を越え、いくつもの絶頂を迎えた。

一週間に一度きりの逢瀬は熱く激しく過ぎていった。


++
++
+表紙+