双子ですから P8



土曜日の夜七時。

良平たちは大学前駅の改札下の大きな木の下で待ち合わせすることになった。
杉野のバイクに二人乗りして駅に着いた時には、すでに瑞樹たち三人は集まっていた。
早めに着くつもりで出たので、良平が目を丸くして驚いた。

「あっれーぇ?もうそんな時間か?」
「いや、五分前だよ。」
「良平いいなーっ!あたしも先輩の後ろ乗りたいっ!」
「瑞樹がいるじゃん。」
「やってくんないもん。」
トーコがぷぅと頬を膨らませて拗ねた。
そんな彼女を指で差して、祐也が瑞樹を見た。
それに気付いて瑞樹が顔をしかめる。
「女後ろに乗っけてバイクなんか運転できん。」

良平はヘルメットを杉野に渡してバイクから降りた。
代わりに杉野から紙袋を受け取る。

「それなんだ?」
「内緒。瑞樹こそ何を持ってるんだ?」
良平が瑞樹の足下に置いてある紙袋を指す。
「そればっかりは教えらんね〜な。」
「お前もかよ。」
不敵に笑った瑞樹はどこか憎らしい。

「聡平はちゃんと店に入ってっかな?」
「さっき家に電話入れたら、バイト先に行ったって言われたけど。」
「まずはそれを確かめてからだな。」
バイクを駐輪場へ止めに行っていた杉野が歩いて戻ってきた。
吐く息が白い。
良平に近付いて、預けていた紙袋を引き取った。

「さ、行こうか。」


聡平は駅前の飲食店街二階のイタリーというイタリアンレストランで、半年前からアルバイトしていた。
その前は居酒屋だったのだが、早く家に帰るために夜十一時閉店のこの店に変えたのだ。
夕方になって店が混み始めた頃、聡平はレジを打っていた。
「お会計2357円になります。」

一通りの会計を処理して、次の客を案内しようとした時に、その客に話しかけられた。
「あのう…。」
女性三人組だった。
「はい?」
「これ、下にいる人達が渡して欲しいって、言ってました。」
「え?」
下にいる人達…?
三人組のうちの一人が、うさぎのマークのついた封筒を聡平に差し出した。
それを流れのままに受け取る聡平。

「下にいた人って、誰ですか?」
「さあ…」
「でも、なんだか楽しそうな人達だったよね。」
「うん。」
三人は顔を見合わせて笑った。

聡平が首を傾げていると、後ろから店長の声がした。
「佐久間くん!早く、早く!」
「あ、はい。それじゃご案内します。」
聡平はその封筒を慌てて服のポケットにねじ込んだ。

なんだろう。手紙?

その後、聡平は仕事に忙しくてこの封筒のことを忘れてしまっていた。
次に思い出したのは、閉店後。
最後の客からの会計を済ませ、テーブルを一つ一つ拭いて回っている時だった。

「佐久間くん、今日は早めに帰っていいよ。留学の準備とか大変じゃないのか?」
たまたま近くを通り掛かった店長が言う。
「もうほとんど終わってますよ。」
「へぇ。さすがだね。」
店長が行ってしまったので、止まっていた手を再び動かす。
その時、箒で床を掃いていた同じバイトの友人が、思い付いたように言った。
「そういえば佐久間、携帯見つかった?」
「…?」
「さっき探してたじゃん。ロッカー室で。」
「探してないよ。いつ?」
「いいや、探してたじゃん…。時間は…そうだな、七時半とかかな。」

七時半頃…。
聡平はレジの付近で客の出入りを担当していた。
その時に封筒を受け取ったのだ。

はっと気付いて、ポケットを探る。
押し込められた封筒を取り出して、急いで封を切る。
中には手紙が一枚入っていた。

「なんだそれ?」
不思議そうな顔の友人を無視して、聡平は手紙に目を通した。
意味不明な文字列と、狸の絵。

タヌキって……おい。

タ抜き言葉。

「デンワカエシテホシクバカワラマデ」
「は?」
「…単純馬鹿のタヌキが出たみたい。」
聡平は思い切り苦笑して、店長にやっぱり早めに上がりますと言いに行った。

店長に許しをもらって急ぎ足で店の裏から出て、駅まで走る。
“河原”というのはかつて通った高校のある駅から徒歩五分で行ける、いつものあの場所だろう。

自分は仕事中に携帯電話を探した覚えはないので、きっとどこからか良平のやつが忍び込んできたに違いない。
そこをたまたま店員に見られて、咄嗟に聡平のフりをしたのだろう。
そのせいか、店を出る時に確認した鞄の中は軽く荒らされていて、携帯電話がなかった。

この手紙の丸っこい文字はたぶん喜多祐也のもので、うさぎのマーク付きの封筒は牧村都代子。
そしてこのタヌキの案は、わざとわかりやすくくだらなくしてある点から岡田瑞樹に違いない。
何をやってるんだか。

電車が駅に着いて、聡平は駆け足で河原へ行った。
ゆっくり言ってもよかったが、どこか気が逸った。

「おい!良平!!どこだ!」
真っ暗な河原に着いて堤防の上から叫ぶと、目下に広がる河原の真ん中にぽつりと明かりが見えた。
屈んでいた人影が振り向いて立ち上がる。
そのまま返事をしてくれればいいのに、何も言わずに手を振ってくる。


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