監禁 P1
「ただいま。」
杉野は誰もいない部屋に呼びかけて、ふと溜息をついた。
良平が突然連絡を絶って丸一日が経った。
長い、とても長い一日だった。
鳴らない携帯を、勤務中、日に何度も確かめた。
もしかしたらすでにコトは解決して、驚かせようとしているだけなのかもしれない。
杉野はできるだけ急いで帰途についた。
しかし、アパートにつき自分の部屋の窓を見上げても、電気はついていなかった。
もしかしたら中で身を潜めて、何も知らずに入ってくるのを待っているのかもしれない。
急いで階段を登って鍵を開ける。
…しかしアパートの中はシンとしていて、どこにも良平の笑顔は見当たらなかった。
どうしたんだろう…。
郵便受けに入れられた広告を拾い上げ、杉野は靴を脱いだ。
自然と漏れてしまう長い溜息。
別れを告げられたわけでもなかろうに、杉野は非常に落ち込んでいた。
疲れた体をベッドの前にどさっと下ろして、息を吸いながら頭をベッドにもたれた。
天井を見上げ、目を閉じて、また、溜息。
杉野はしばらくじっとしていたが、おもむろに鞄から携帯電話を取り出した。
かけるなと言われたが、このままでは胃に穴が開いてしまいそうだ。
杉野は良平の電話番号のところで通話ボタンを押した。
…ただいま、この電話番号は電波の届かないところにおられるか、電源が切られています…
「はぁ…。」
また溜息をつき、杉野は手をだらりと床に落とした。
昼頃から瑞樹の携帯も留守番電話に繋がるばかりだし、そう何度も良平の自宅へ電話をかけるのも申し訳ない。
杉野は良平の弟、聡平へかけてみようと、もう一度腕を上げた。
その時だ。
ドンドンッ
玄関のドアが叩かれた。
何かの勧誘かな…?インターフォン鳴らせっつーの。
でももしかしたら、…良平かもしれない。
杉野は勢い良く体を起こし、それまでと打って変わって素早い動きで玄関のドアを開け放った。
「良へ…っ」
「わぁ!なんやねん!!」
ドアの目の前に立っていたのは良平でも聡平でもなく、杉野よりも二回りくらい体の小さな男だった。
女かと思うほど童顔のかわいらしい顔をしていて、言葉に訛りが混ざっていた。
「……野田?!」
「よぉ、拓巳。えらい形相で出てくるから、部屋間違うたかと思った。」
野田和彦は小さな顔一面をほころばせて、杉野のことを見上げた。
一瞬頭がパニックになる。
どうして野田が、こんなところに…?大阪にいるんじゃなかったのか。
「何、してんだよお前。」
「いやぁな、今日の昼頃こっちに着いて。泊まるとこないしお前の実家に行ったんや。そしたらオバさんが出て、ココやっちゅうから飛んできてん。」
「はぁ?」
「や、飛んだは嘘やな。観光しながら電車に乗ってきてん。」
「観光?お前…来るなら来ると、早めに連絡を…」
「あれ?同窓会の話知らん?今週の土曜やで。」
「同窓会?」
「そう。ハガキが来とった。お前んとこにも来てるはずや。」
「そうなんだ。いや、見てないや。」
杉野はポリポリと頭を掻いて、もしかしたらさっきの広告の中に紛れているのかもしれないと思った。
「その…拓巳。」
「ん?」
野田が遠慮がちに、中の様子を伺っている。
靴の数を確かめて、それからひょいと杉野を見上げた。
「今日は、その…佐久間くんは、おるんか?」
「いないよ。」
「ほな、今日だけ泊めてくれへんかなぁ?明日は別のとこにするから!」
「…ホテルは。」
「そんな金ないもん。始めっからアテにして来たんや。」
「おまえなぁ〜!」
杉野は困ったように首を傾げて、ふぅ、と短く溜息をついた。
「仕方ねぇな。入れよ。」
「悪いな!サンキュウ!」
野田は少しも悪いと思っていないような無邪気な笑顔を向けて、荷物を持って玄関の中に滑り込んだ。
野田がシャワーを浴びている間に、杉野は広告の中から同窓会の招待状を見つけた。
なるほど、確かに今週の土曜、夕方六時から、と書いてある。
わざわざこれのために上京した野田はご苦労なことである。
しかし明るい性格の野田がやってきてくれたことで、少しは救われた気持ちになれた。
あのままだったら一晩中良平のことが頭から離れず、気持ちは落ち込むところまで落ち込んだであろう。
シャワーから戻った野田は、鼻歌を吹きながら、杉野の横に腰掛けた。
「なんかあったんか。」
「え?」
唐突な質問に、杉野はギクリと野田を見た。
「玄関開けた時からずっと、元気ないで。溜息ばかりついてるとそのうち幸せが逃げてしまう。」
あまりに野田がまっすぐと見つめて言うので、杉野は慌てて目を逸らした。
こいつの勘の鋭さは昔から変わらない。