おめでとう P3
学食で少し早い夕飯をとった良平と杉野は、その後も大学構内をくまなくぐるりと一周しながら散歩を楽しんだ。
杉野のお気に入りは、体育館の裏手にある陸上競技場の、そこに行くまでの並木道だった。桜が五分咲きで、晴れた空に桃色が浮かんでいた。
杉野は無言で足を止め、上を見上げたまましばらくじっと立ちすくんだ。それに付き合って良平も黙ったまま、杉野の視線の先を確かめる。
「綺麗、だな。」
「うん。」
杉野は小さく頷いて、まだ、空を見上げていた。
横に並んだ良平の手を探り、そっと小さく引き寄せる。
杉野の暖かい指が良平に触れた。
「ん、な…」
慌ててキョロキョロと周りを見渡し、誰かが目撃していないか確認する。幸い、人通りは全くなかった。
「桜は好きだ。神秘的。一つ一つの花は小さく儚いのに、一本の木で見るとこんなにも迫力を持ってる。満開になったら、すごいだろうね。」
「うん。ここの通りはお花見する一般人もいっぱい通るよ。」
良平は答えたが、杉野の言いたいことには答えていない気がした。だから探るように杉野の横顔を見つめ続けた。
杉野が振り向いて、笑った。
「俺が良平と出会えたのは桜のお陰なんだと思ってる。一枚の桜の花びらが、俺と良平を結びつけてくれたんだ。」
「はぁ?そうだっけ。」
「そうだよ。」
少し寂しそうな顔をして、杉野は再び桜の木々に目を移した。
…馬鹿。
俺も覚えてるよ。
良平は杉野の横顔にそう答える代わりに、そっと杉野の手を掴んだ。
手の平が当たって、温もりが交わる。良平の手に応えて、杉野が優しく握り返した。大きな手に包まれる感触は心地よい。
良平は遠慮がちに杉野の指の間に自分の指を滑りこませた。ゆっくりと強く、二人の指が絡み合う。
「ねえ、良平。」
「ん?」
「行きたいところがあるんだ。俺、今日は奮発しちゃった。」
「え??」
きょとんとした良平を尻目に、杉野は良平の腕を引っ張って駆け出した。慌ててそれに従って、杉野の後を追う。
繋いだ手は離れなかった。
シャワーの流れる音を耳元に感じる。
お湯の粒が肌の上を跳ね、輪郭を確かめるように輪郭を縁取って流れていく。一回りだけ小さい良平の身体を後ろから抱き締めて、杉野は幸せそうに微笑んだ。
首筋に顔を埋め、白い肌に強く吸い付くと、紅い花が咲いた。
「ん…。」
火照った身体に良平が小さく息を吐く。
良平は杉野の手に自分の手を重ねて、シャワーの湯を前面から受け止めていた。
背後に杉野の熱い息遣いを感じる。
「会いに来てくれてありがとう。」
杉野が耳元で優しく囁いた。恥ずかしい。そう思って顔を背けた瞬間、杉野の腕が動いた。鎖骨を撫でて、湯をすくう。
「…っ」
「愛してるよ。良平。」
「…っはっ…」
馬鹿言うな、と強く否定しようと思ったのも束の間、強く胸の突起を摘まれた。突然の刺激に目の前が錯乱する。
良平が小さく息を止めたのを確認し、杉野の指は人差し指と中指で良平の左胸を楽しそうに弄び始めた。良平の焦りがじんわりと汗になって滲み出たが、それはすぐに流れ続けるシャワーのお湯に洗われてしまった。徐々に呼吸が早くなり、開いた口にお湯が入り込み、溢れて頬を伝う。
「はっ…はっ…」
良平の呼吸音が浴室を支配した。
確実に自分よりも身体についてわかっているだろう杉野はいつものように、良平に反論を許さない程短い時間で絶頂へと導いてくれる。頭が真っ白になって何も考えられなくなる。
良平は混乱する頭を片手で押さえて、杉野の指の動きに従って喘いだ。
全神経が無意識にそこへ集中する。逆らえない。
「あ…っ」
杉野はわざと、少しだけ強く押した。それだけで良平はビクンッと大きく身体を震わせた。もうすぐ、意のままに反応させることができるようになるだろう。
「ふふ…良平。感じてる?かわいいよ。」
「ぁ…う、るせ…っ」
「でもまだ足りないはず。もう少し、我慢して…。」
その通りだよ、こんちくしょう。
良平は涙の浮かんだ瞳を閉じて、杉野の身体に全てを預けた。抱き締められた腰が痛い。弄くられている突起が、更なる快感を求めるかのようにぷっくりと膨らんで杉野の指を受け入れている。
そこから与えられる微電流が全身に流れる度に、良平は短い嬌声を上げた。その熱っぽい喘ぎ声が浴室に反響して自分に返ってくる。まるで自分の声ではないかのように、なんて官能的な鳴き声なのだと思う。
「ぁ、ぁあぁん…!」
ほら。
俺はすごい。自然にこんな声が出るなんて、どうかしてる。
でももっとすごいのは杉野だ。俺にこんな声を出させる術を知っている。
良平は下半身に疼きを覚えた。直接触られてもいないのに。
じわじわと、ゆっくりと、そして突然急速に、何かが良平を支配し始めた。
「は………ぁあ…っ!」
一際大きな声をあげて、良平は仰け反った。
杉野は笑って、突起の刺激をゆっくりと加速させる。
きっと彼は、何もかも、知っているのだ。