おめでとう P5



ウェイターによって通された部屋は、窓際の個室だった。
これならば普通の服を着てテーブルに座っていても周りの人の外観を崩すことはない。杉野はにっこりと笑って良平に着席を促した。

「杉野、お、俺、こういうとこ来たことない。」
「うん。だから?」
「…その…マナーとか、全然…」
「大丈夫だよ、誰も見てないし。俺が教えてあげるし。」
「…。」
「それにこの人、祖父の知り合いだから。」
そう言って杉野はテーブルの脇に静かに立っていたウェイターを紹介した。ウェイターは人当たりのいい笑顔で微笑んで、頭を下げた。
「真壁です。ご遠慮なくなんでもお申し付けください。」
「こっちは佐久間良平くん。俺の大事な後輩だよ。」
杉野に言われて良平も慌てて頭を下げた。
真壁は三十代前半の渋みのある顔をした男だった。良平が好印象を持ったのはその礼儀正しさよりも、砕けた笑顔だった。

ウェイター真壁が一時去った後、杉野は窓の外を見下ろした。
既に日が落ち、広い庭に施されたイルミネーションの明りが部屋の中に差し込んでいる。
良平は杉野の用意した雰囲気そのものに酔いしれそうだった。
やばい、これでは杉野の思う壺……

「いいとこでしょ。」
「ああ、そだな。」
慣れていないのでなんとなく落ち着かない。
良平はきょろきょろと室内を見渡して気をもんだ。
杉野が口を開く。
「今度、俺の実家に来ない?おじいちゃん、良平に会いたがってるんだ。」
「え?なんで?」
「さあ…妙子さんが何かを話したのかもしれない。俺の父親と離婚して、その上彼はもう亡くなったっていうのに、妙子さんとおじいちゃんは今でも仲がいいんだ。どういうわけだか。」
先程から杉野の口から出てくる祖父の話は、父方の方なのだと良平は悟った。確か元・政治家のお金持ちだったはずだ。

「俺も良平のこと紹介したい。」
杉野は真剣な顔をして良平を見た。
淡い光に照らされた杉野の顔は、なんていうか、とても魅力的で、男らしかった。
「おじいちゃん、最近は寝てばっかりらしいんだ。俺には父親がもういないから、せめておじいちゃんには会わせてやりたいんだ。」
「…。」
「だめかな。我侭を言ってるのはわかってるんだけど。」

我侭なんて。
杉野の気持ちは痛いほどわかる。

良平はきゅんと胸がしめつけられる思いがした。
果たして俺でいいんだろうか。…男だし。自慢できる過去も持ち合わせてはいない。

良平の心配を見越したように、杉野が微笑んだ。
まるで何もかも安心させるような、優しい微笑だった。

「良平は良平でいいんだよ。俺はありのままの飾らない良平が好きなんだ。」

甘い台詞に心が溶けるかと思った。
普段なら冗談めかして馬鹿言ってんじゃねぇよと反論するところだが、この場の雰囲気が、上品で滑らかなテーブルクロスが、そうはさせてくれなかった。
不意に涙がこみ上げるような気さえした。
「きいてくれるかな、俺の我侭。」
「杉野…」
「親に紹介したいと思うなんて、最初は俺もどうかしてると思ったんだ。でも、良平ならいいなって。自慢できるなって。思ってる。」
良平は何も言わず首を振った。

やばい、嬉しくて、涙が出そうだ。

何度も良平を褒めちぎってきた杉野だったが、やはり正面から言われると心に響く。口説き方は天下一だと思った。

「良平。」
「うん…」
「愛してる。」
「うん…………」

俺も、と付け足そうと思い、唇を開いた瞬間、
ぽたりと瞳から涙が零れた。

耐え切れなかった。




良平は自分の中に早急に侵入してくる杉野自身を感じて身震いした。
目の前の杉野は腰を推し進めることに夢中になっていて、しばし良平への気配りを忘れていた。その少しだけ荒っぽい動作が余計に良平の感度を上げた。
「ひ、ぅ…、ぁ、あ…っ!」
狭くきつい良平の入口を解すように杉野が行ったり来たりする。痛みに呼吸がうまくできない。もどかしさに良平は杉野の顔を両腕で抱き寄せた。
「あ、ん…!痛い…っ」
「大丈夫…がんばって。良平なら入るよ。」
杉野も若干上ずった息遣いで答え、良平の膝を裏から抱えた。左右に開いた彼の足は更にその中心を広げ、杉野を正面から受け入れる。
「あぁあ…っ!!」
良平が悲痛な叫び声を上げた。
慣らさず入れたため相当痛いらしい。
杉野は一旦腰を止め、上体を起こして壁にかかったシャワーを掴んだ。お湯の勢いを強めて、それを良平にかける。
「はぁ、あ、つっ!」
「熱い?ごめん。」
反対の腕を伸ばして温度を下げて、人肌よりも少し高い温度になるよう調節する。息を荒げた良平が杉野を見上げた。
「小細工はよせよ…。」
良平がぼそりと言った。
「え?」
「余計なことすんな。」
「必要なことだよ。」
杉野は笑ってシャワーの蛇口を二人の結合部へと当てた。良平が顔をしかめる。


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