▼10万hits記念関連企画
└2位:杉×良で「無断外泊」
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緒方誠。
短く切った髪に無精ひげを生やし、両耳に併せて5つもピアスホールを開けている癖に、根はとことん真面目な男。
喉仏の大きく出っ張った太い声が印象的。
そんな男に良平が居酒屋へ誘われたのは8月の終わりだった。
「単位全部取れた?」
「さぁねぇー、どうだろ?徹夜のとか結構あるから微妙かも…」
「良平は結構どころじゃねぇんじゃねぇの。」
「あ、バレた。」
良平は席に着くなり肩にかけていた鞄を隅に追いやり、メニューを開いた。
誠も荷物を置いて良平の向かいの席に座った。
大きな黒いケースの中には彼の自慢のベースギターが入っている。
彼はバンドサークルで知り合った、バンド仲間の一人だった。
「とりあえず、生中2つ。それから枝豆ね。」
練習が終わった後、瑞樹は時間に終われるように慌てて帰っていった。
トーコと何かあったのかもしれないが、瑞樹が何も言ってこないので良平もあえて聞かなかった。
他のバンドメンバーと別れを告げて原付に跨ったところへ、たまたま誠に会ったのだ。
今から飯いかねぇ?
一人暮らしの彼に誘われては断れず、今に至る。
「良平の声って、なんかこう、魅了させるものがあるよね。いい意味で色っぽいっていうか。」
「はあ?馬鹿にしてんのか?」
「褒めてんだよ。」
「ふーん。」
良平は笑って、運ばれてきた枝豆を齧った。
「俺は瑞樹の声の方が好きだな。なんつーか、ハスキーでカッコよくね?」
「そうだね。あいつ、何やっても才能あるよなーっ。」
「そうそう。小生意気だよな。でも誠もイイ声してるよな。俺には出せない音域だもん。」
「俺は良平のバックを飾れてるだけで満足だよ。」
「ばーかっ。褒めすぎ。」
良平と誠は声を上げて笑った。
良平の人懐っこい笑顔が、誠の心を打つ。
音楽や、この前の試験、バイトのことなどを話して3時間。
二人が店を出たのは、あと数本しか電車が残っていないような時間だった。
「ん〜〜…。」
「良平。次の電車に乗らないと、あぶねぇよ。実家だろ?」
「そう…実家。ちょっと飲みすぎた…目の前クラクラする。」
「ったく、あんま強くないなら強くないって、言えよなーっ。知らないからどんどん勧めちゃったじゃないか。」
「うん、ウマかった!誠はお酌の天才だぁー。」
「……酔ってる…。」
くてっと良平が頭を垂れて、誠の肩に寄りかかった。
ドキリと心臓が飛び出そうになって、誠は良平の顔を恐る恐る覗き込んだ。
「…良平…?」
「く〜。」
良平は静かな寝息を立て始めていた。
誠はしばしその寝顔に見とれ、それから小さく溜息をついた。
ゆっくりと、ホームへ電車が近付いてくる。
誠と良平は電車が数人の客を吐き出して新たな客を乗せて発車してしまうまで、ベンチに座ったまま立ち上がらなかった。
++2へ続く
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