▼10万hits記念関連企画
└2位:杉×良で「無断外泊」


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杉野は長い溜息をついた。
スーツのポケットに両手を突っ込んで歩き出す。
昨晩から、良平からの電話やメールが携帯電話にたまっているのは知っていたが、返事をすることができずにいた。
会って話をしてしまうと追い詰められそうで。
そのせいで良平が傷つくようなことをたくさん言ってしまいそうで怖かった。

ポケットから滅多に吸わない煙草を取り出して、箱を手の中でポンっと叩く。
飛び出た一本を抜き取ろうとして、その手をパシッとはたかれた。
「!」
「よぉ。」
煙草が宙を舞って地面へ落ちる。
目の前に良平が立っていた。

「まだ怒ってるのか?」
良平は杉野を見上げて言った。
落ちた煙草を拾い上げ、差し出す。
「俺、煙草は嫌いだ。」
杉野は無言で、渡された煙草を受け取った。
彼はかつて良平も煙草を吸ったことのあることを知らない。
「なんか言えよ。」
拗ねるように口先を尖らせて、良平は杉野のことを見上げた。
「…なんでここに。」
「待ってたんだよっ。お前が返事よこさねぇから、出て来るの待ってた。」
ここは杉野の働く銀行の、職員用出入口から角を一つ曲がったところで、時間は夜の21時だった。

「悪かったと思ってんだよ。何もなかったけどな。何度も言うが何もなかったんだぞっ。」
「…。」
「じ…事後報告だったのも謝るよ。今度からはどこにいるか言ってからにする。…お前が嫌なら野宿する!」
「え゛っ。」
意地で家に帰るとか迎えに来てもらうとか酒をやめるとか、そういう発想にならないのか。
良平は構わずに続けた。
人差し指を杉野に向けて。

「それでも許せないってのなら殴れよ。何も言わないのはだめだ。俺がどうしていいんだかわからないからな!」

これではどちらに非があったのかわからない。
杉野は呆れて、二度目の長い溜め息をついた。
「な、なんだよ?」
「良平ってすげぇや。」
「は?」
「とにかくここから離れよう、目立つから。俺んち来ない。」
杉野の言葉に、良平はどこかほっとしたような表情を浮かべた。

帰り道も杉野の口数は少なかった。
笑った顔の杉野を見慣れているためか、良平はしばし黙った彼の横顔に見とれていた。
こいつの顔って、こんな男っぽい顔だったっけ…
自分に対して怒っている男の横顔に惚れ直すなんて、と良平は自嘲して首を振った。

杉野は部屋の鍵を開け中に入るとすぐに、スーツを脱いでやかんの水を火にかけた。
「コーヒー飲む。」
「…うん。」
「そう。」
杉野はわざと言葉を短めに話してる。
良平はいつもなら遠慮せずにベッドの上に座り込んでテレビをつけるのに、この日は大人しく彼の隣に立っていた。

「座らないの?」
「お前が許してくれるまで座らない。許してくれる?」
「…。」
杉野は半目で良平を見やり、溜息をついて湯気を噴き始めたやかんに視線を戻した。

「良平はさ。俺のこと、好き?」
「え?」
良平がやっとのことで聞き取れるような、そして耳を疑うような震えた声で、杉野は言葉を紡ぎ出した。
その横顔を見つめて、良平は大きく頷いた。
「じゃ、愛してる?」
「うん。」
「言って。」
「え?」
「良平の気持ちを、良平の口から言って。聞きたい。」
「…。」
「聞かないと、信じられそうにない。良平の口から良平の言葉で、直接聞かないと信じられない。」


++6へ続く


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