僕らの30分戦争(延長有り)


 呼ばれて行く俺も俺だが呼ぶ方も大概だ。じゃ、いつもの、って、言うのは結構だけど、隣にいるそいつは誰だ。さっきからチラチラチラチラこちらを窺いなんだかよく分からない曖昧な笑いを口元に浮かべる。誰なんだおまえは。
「えーそんな風に見えないけど」
「いや、マジマジ。こいつマジ上手いからさ」
 って、そういうことなのか。つまり、そういうことなのか。ホモに人権はないとでもいうのか。嬉しいでしょ? ってそんなつもりか。
「順番に、やれってか」
「ううん……順番っていうか……ダメ?」
「いい加減にしろよテメェ……脱げよじゃあ」
「うん、じゃあ」
 知らん男とアホ男は目配せしあってじゃあっていって知らん男からズボンの前を開け始める。お先にどうぞってか。知らねぇよもう。
 名前も知らんでチンコ咥える俺も大概どうなんだ。終わったら呼んでーつって煙草吹かして雑誌読んでるクソ野郎もどうなんだ。膝をついて股座に顔を埋めて頭振って知らない体臭が鼻をつく。舐めて擦って吸って。出すなら出すで気遣いっつうもんがないかね。頭を押さえつけて喉の奥に射精する。ウゼー。なんだこいつ。飲めってか。はじめましてで飲めってか。誰が飲むか。
「あ、終わった?」
 じゃあ、って交代する。すげぇ疲労感。俺ってそこまで蔑ろにされるほど見下されていたんだろうか。知らない男にフェラしてる俺に対してなんにも思わんのな。順番だから替わるのな。悲しくなってきた。ここ何年も、なかなか悲しくはならんのに。
 それでも、どうして。慣れた膝の間に収まりのよさを感じてしまう。ときめいたりしてしまう。重症? 分かってる。ジッパーを下ろすだけで高揚している。起たないチンコが起ちそうな気さえする。
「後ろ使っていいの?」
 終わったんだからしゃしゃり出てくんなよクソが。誰だよおまえ。
「え……どう? ダメ?」
 おまえもおまえで訊いてんじゃねぇよ。常識で考えろよ。おまえだって突っ込んだことねぇじゃねぇか。
「知らねぇよもう、勝手にしろよ」
 で、突っ込むんだ。そうか。なんだこれ。好きな男のチンコ咥えて知らん男に犯される。なんだこれ。コント? コントかも。中こすられて気持ちいいんだもんコントだこれ。冗談じゃねぇよ。
 口の中で育つ育つ、ケツの中で育つ育つ。咥えんの苦しくなるくらい喘いじゃってる俺が一番アホ。俺が今一番頑張んなきゃいけないのはお口。分かってるけど、長らく忘れていたA感覚は久々の刺激に悦んでいる。知らん男も喜んでいる。アナル好きのバイなんだと。知るかよ。意地になって喉の奥に擦り付ける。涙出る。わけ分からん。俺はバカじゃないかしら。0.01ミリ越しに射精が行われる。俺の絶頂はもう少し先だったな。イかなくてよかった。
「そんないいの? バックって」
「アナル知らずに死ぬなんてバカだよおまえ」
「そうなんだ……」
 人の頭の上でバカな会話をする。どうしよう、この場にバカしかいない。知らん男にそそのかされて、アホはアホでじゃあという。「じゃあ」ってなんだよ。「いい?」ってなんだよ。考えたくない。考えられない。あんなに誘って乗ってこなかったくせにこの男に言われたらやんのかよ。冗談だろ。ウソ。本当に。あ……入れるんだあ……。
 あ。
 うん。
 うれしい。
 いや、嬉しくない。いや、嬉しい。分からない。嬉しい。そこから全身へ向けて弱い電気が走ったみたい。ぞくぞくする。声出したくない。我慢する。行き場のない声が身体中駆け回る。思いもしていないのに身体が震える。外側も、中も。それで、喜んでくれるのが嬉しい。これっきりでもいい。頭白くなる。好きって言ってしまった。絶対言わないつもりだったのに。応えはなかった。腰を振るのに夢中になってる。嬉しい。気持ちいい。死ぬ。いや死なない。
 俺のバカさが極北まで極まった。快感でわけ分かんなくなるのなんて初めてだった。0.01ミリが惜しい。全部欲しい。全部欲しいよ。
 あーってなもんで終わらないセックスはないものだ。あーって間に終わってしまう。知らん男は知らんまままたねと言う。もう二度と会うか。アホはアホのくせにゴメンとか言う。思ってもないくせに。
「よかった?」
 訊けば決まり悪そうに頷く。頑なに拒み続けてきた己との相克に苦悩するがいい。アホだからできんだろうけど。
「よかったね」
 なにより俺がね。まったくね。救いがたい。なのに笑っちゃう。とりあえず、今日は俺の勝ち。



(→シシカバブー)
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