〈これまでのおはなし〉
調理師専門学校へ通うごく平凡な学生・広田コウジ19歳は突然現れた謎の宇宙人に菊花を散らされてしまう。そこへ現れたヌベメ星人対策本部作戦総司令官である白鳥十字郎のあまりの素敵さに心を奪われたコウジはその身を白鳥に捧げてもいいと思うのであった……。
「嘘だっ!」
「もちろん嘘だ!」
いや、そうじゃなくてもっと根本的にすべてが間違っていると俺は言いたい。
正義の味方ではないと言い切った男、白鳥はしかし一瞬にして俺の身体にまとわり付いた緑色のゼリーを取り除いてしまった。一瞬、といってもそこに辿りつくまでは紆余曲折あったものの、地球の技術力も捨てたもんじゃないと少なからず関心したものだ。
そして今、車上の人である。白のバンに押し込まれた身体を非常に小さく縮めているのである。これから先の展開がまったく読めないのである。朝起きた時はいつもと変わらぬ平凡な始まりであったはずなのに、一体どういうわけだろう。ゼリーから解放されたものの衣服はゼリーででろでろにされていてとても街頭を歩けるような格好ではなかった。白鳥に渡されたバスローブはとても有難かった。有難かったが、俺の脱いだ服は透明のゴミ袋に突っ込まれてとても可哀相な状態になっている。素肌にバスローブ一枚という格好でこれから何処へ連れて行かれるのかも分からない。
「あの……一体どこへ……」
「それよりも聞きたいことがあるんじゃないか?」
「いやぁ……特に……あ、ヌベメ星人? ってなんなんですか?」
「それは答えられないな!」
「……チッ」
車はぐねぐねとその車体を揺らす。黒い窓から見える景色は色が単色というだけでなく土地勘のない俺にはどこなのかまったく分からない。ネジの一二本ぶっ飛んでそうな男とのまったく噛み合わない会話に苛立ちが募る。
「ところで君は本当に地球人かね?」
「……はぁああ?」
「ヌベメ星人の活動が確認されてからその活動範囲から三メートル四方に地球人の活動を制御する電波を流していたのだが、君は一体どういうことだろう。機械かなにかかかね?」
「んなわけねー……」
し、大体それだったら自分はどうなんだ、と問いたい。というか、そんな有害な電波を勝手に流していいのか? 常識ってなに? 今更俺が常識にこだわってる時点で負けか?
「まあいい。研究所に着いたらゆっくり調べさせてもらおう」
機密保持のため、という訳の分からない理由で車中アイマスクを手渡され、見たら脳を弄るという馬鹿馬鹿しくも妙に恐ろしい脅しのため車が停止し、手を引かれエレベーターに乗せられ室内の椅子に座らされるまでの間視界は暗いままであった。
「それでは、検査を始める」
「ちょっ……検査って……」
視界を遮られたまま脚を開かされベルトのようなもので固定される。待て、俺は今バスローブ一枚の姿でもちろんパンツなんか履いていないのだ。今更こだわるのもおかしいかもしれないが、ノーパン開脚は宇宙人に玩弄されるのと同じかそれ以上に屈辱である。
「暴れないでね」
殊更優しげに、小児科医のような口調でアイマスクを外される。白鳥の手にはなにやら棒状のもの。普通の人間ならば暴れる。俺はとっても普通の人間なので力一杯身体を捩った。下半身固定がゆえ上半身のみ精一杯。しかし残念ながら白鳥の目線は完全に下半身に固定されているのである。
「こらこら、危ないから、ね、動かないで。血が混じるから」
「血っ……て!」
「まだ少し口が開いてるね」
「口……」
完全に尿道の話をしている……っ! そして白鳥の手で完全に固定された。筒が……っ!
「ちょっ、嘘、ウソ、マジで、嫌だ」
「ちょーっと我慢してねー」
「あっ……」
入っていく。棒状のものが。いくらゼリー状のやつに弄られた後とはいえ、こんなに簡単に入るものかな。棒状のものが濡れてるのかな。あっ、あっ、挿すな、抜くな、擦んな、馬鹿野郎、クソ野郎、変態、アホ、いっ……!
「動くなって言ってるだろ」
理不尽。理不尽にもほどがある。肉体の反射運動にすぎないのに。
「……っ、くぅ……っ! あっ、あっ、あぁーっ」
棒状のものが抜かれた瞬間、身体に込めた力も抜けた。精子も出た。涙も出た。ドラマのように、ぽろりと涙が零れ落ちたのである。屈辱からであろう。白鳥といえば、抜いた棒をまじまじと観察した後、なにか計器のようなもので作業を始めている。
「ふむ、どうやらヌベメ星人の細胞はほとんど体内に残留していないようだ。まぁ、あれだけ精子を出したら体外に排出されていても不思議はないが……」
顎に手をあて眉間に皺寄せ、白鳥はなにやら難しいことを考えているかのような顔をして俺が出した精子云々という。そしてその流れのなかではめられる薄手のゴム手袋。ヌベメ星人の細胞? 体内に残留? まさか?
「あー……、こっちには大分残ってるねぇ」
その、まさか。遠慮もなく人のプライベートゾーンをぐりぐり指でなぞる。あのヘンテコ宇宙人のゼリーが残留しているのだろう、抵抗もなく指先が入ってくる。
「ま、待て待て待てぇい!」
「ちょっとうるさいよ!」
「いい加減にしろ!」
「それはコッチのセリフだ!」
あ、指、指ヤバイ。ぬるっとして擦られる。内臓擦られて気持ちいいなんて人体はどうかしてる。あー……目覚めちゃったかもぉ……目覚めて堪るか! 気のせいだ気のせいだ気のせいに決まってるだってこんな気持ちいいなんて世の中ホモしかいなくなる。
「顔、赤い」
「……気のせいじゃないっすかぁ」
「そうかな?」
そう言うや俺の頬に己の頬をぴたっと当ててくる。こいつどんだけコマシてたらこんなことができるんだよ。
「……熱いよ」
「そうですか……」
「じゃ、入れるから」
「はっ……?」
そして取り出されたのは肉棒状の棒。完全に性具。
「い、や、だー」
「頑張れ」
「うるせぇ!」
「終わったら僕のも入れてあげるから」
「い、ら、ねー」
「じゃ、入れるよー」
「いやー!」
で、どうなったかというと、俺は一週間分くらいの精子を出したかな、っていう。俺の内臓はオナホかな、っていう。で? っていうもうどうしようもなさ?
今日は厄日か。厄日ってだけでこんな最悪なもんかしら。
「君は素質があるね」
なんのだよ、なんの。ねーよ。あっても気のせいだよ。
「例の変身スーツも君なら使いこなせるかもしれない……」
変身スーツって。括弧付きで笑ってやろうか。
「さぁ、これを着てヌベメ星人と戦うのだ!」
シャランラと取り出された変身スーツとやら。どうみてもセーラー服です。なるほどね。高性能そうじゃん。戦えそうじゃん。
「誰がやるか!」
「なにを言うか! 君はもうヌベメ星人対策本部作戦実行部隊の一員ではないか!」
「訳の分からないこというな!」
そんなこんなでヌベメ星人対策本部作戦実行部隊になってしまった俺に明日はない。白鳥という稀代の変態に目を付けられたヌベメ星人にも明日はない。頑張れ俺とヌベメ星人! 変態から逃げ切るその日まで!