SAFETY LOVE(青赤編) さて、何といって切り出したものか、とマイクロトフはビクトールとハンフリーと別れたあと考えていた。だいたい、どうしてこんなことになってしまったのか? もちろん人の役に立つことであれば、それがどんな仕事であっても引き受けることに何の不満も不平もない。 しかしである! こんな仕事を頼まれるはめになろうとは誰が思うだろうか?仮にもマチルダでは青騎士団長まで勤めたというのに、何故こんなことを……。 いやいや、仕事に貴賎はない。何であろうと頼りにされたのであれば立派に勤め上げなくてはいけない、とマイクロトフは自らを叱咤激励した。 部屋の前で、大きく深呼吸をしてノックをする。 中から聞こえてきた柔らかな声にほっとして扉を開けた。 「早かったな、マイク。大掃除は無事すんだのかい?」 「……いや、…ああ…まぁ」 いつになく歯切れの悪い返事に、カミューは首を傾げる。 「どうした?何か問題でも?」 「うむ…カミュー、実は頼みがある」 「頼み?めずらしいな、何だいあらたまって」 部屋の中はずいぶんと暖かかった。寒がりなカミューが帰ってくるなり火を入れたのだろう。自慢のラグの上に座り、マイクロトフがまじまじとカミューを見つめる。 なかなか口を開かないマイクロトフをカミューが優しくうながす。 「カミュー、実はホウアン殿に頼まれたのだ」 「うん、だから何を?」 カミューは辛抱強くマイクロトフに尋ねる。 どう見てもマイクロトフは挙動不審で、何かあるに違いないとカミューは思っていた。しかし、ここで問い詰めるようなことをしてはマイクロトフが言い出しにくいだろうと思ってのことである。 がしっと、マイクロトフはカミューの両肩に手を置く。その目は必死である。 「ど、どうしたんだい、マイク……?」 「カミュー、決して俺からしたいと頼んだわけではないのだ。ホウアン殿の…その妙な迫力に負けてしまったのだ。信じてくれカミュー」 「……分かったよ、マイク。早く言ってくれないかい?」 さすがに焦れったくなったカミューが冷たく言い放つ。 「つまり…これ……なのだが……」 目の前に出された小さな袋に、カミューの表情が変わる。 「お、俺だけではないからなっ!ビクトール殿もハンフリー殿も頼まれたのだ。仕方がなかったんだ。つまり、…………試して欲しいと頼まれた……」 「マイク……」 カミューが包みを手にしてひらひらとマイクロトフの目の前で振ってみせる。 「お前、これが何だか分かってるのか?」 「もちろんだ……」 「ふうん……で、これを使ってくれ、とホウアン殿に頼まれたって?何のために?」 「つまり……その……」 「マイク……私というものがありながら、どうしてそういうことを引きうけてくるんだ?」 「え?」 カミューがべしっと包みを床に叩きつける。 「お前はいったい誰とそれを試してみるつもりだったんだ?私以外に誰か相手がいるとはとても思えないから、まさかそこらにいるレディにお願いするつもりだったんじゃないだろうな。お前、そういうことは騎士道精神に反するとは思わなかったのか?」 「ちょ、ちょっと待てカミュー」 マイクロトフが慌ててカミューを遮る。 大きな誤解をされている。 冷ややかな視線を送ってくるカミューに、マイクロトフは早口に弁解を始める。 「カミュー、俺がそんなことをする男だと本当に思っているのか?」 「さぁね、お前が案外とモテることくらい私だって知っているからね」 「ちょっと待て、これを使う相手はお前だ、お前以外に誰に使うというんだっ!!」 「…………え?」 マイクロトフの言葉に、カミューは眉をしかめた。 そして自分が大きな勘違いをしていることにやっと気づいた。 小さな包みの中の避妊具。 その目的からして使う相手が女だと思ったとしても、誰がカミューを責められようか。 しかし真相を知り、カミューはみるみる顔を赤くした。 「まったく、どうしてそう早とちりなんだ…」 呆れたようにマイクロトフが細く溜息をつく。 「どうしてって……そんなもの私相手に使うと思うか?今までだって使ったことなどないではないかっ!」 「そ、それは……そうかもしれないが……」 「だいたいっ!!どうしてお前がそんなことを頼まれるんだ?」 「そ、それは……すまん」 マイクロトフはがっくりと肩を落として、先ほどの医務室でのやりとりをカミューに話した。 「マイク……」 「だから…すまないと言っているだろう…」 「呆れてモノも言えないよ……」 避妊具の改良版の使い心地…いや耐久性を試して欲しいなどと。 だいたい、ホウアンが何故自分たちの夜の生活のことを知っているのだっ。そっちの方が問題だろうが、とカミューは思うのだが、マイクロトフは全く気にしていないようで、するりとカミューへと身を寄せる。 「そういうわけだ。協力してくれるだろう?カミュー…」 カミューの耳元へ唇を寄せるマイクロトフ。 びっくりしてカミューがマイクロトフを押し返す。 「な、何がそういうわけだっ!そんなこと適当に報告しておけばいいだろうっ!」 思わず叫んだカミューにマイクロトフがだめだとすぐさま却下の声を上げる。 「そんないい加減なことはできない。もし失敗作だったらどうする?不幸な子供がこの世に生まれてもいいというのか?」 握りこぶしまでして力説するマイクロトフにカミューは思わず身を引いた。 「だ、誰もそんなことは……」 「ではいいのだなっ!」 そ、そういうわけでも……。 カミューが言うよりも早く、マイクロトフがカミューの身体をベッドの上へと押し倒した。 「ま、待てっ、マイク、そんないきなり!!」 「明日は休みだからな、心配しなくてもいいぞ」 「……信じられない…」 黙々と衣服を剥ぎ取っていくマイクロトフにカミューは諦めの溜息をついた。 いつもの優しい愛撫とは程遠く、性急にマイクロトフはカミューの身体を慣らしていった。 「う……っん…あっ…」 触れ合う肌はしだいに熱を帯び、しっとりと汗ばんでくる。 マイクロトフの唇が触れる場所から、くすぐったいような、耐えがたい疼きが湧き上がってくる。 「カミュー……声を聞かせてくれ」 「ああっ…ば、か……っ…」 唐突に花芯を握りこまれ、カミューは大きく仰け反った。欲情の兆しを見せはじめた花芯の形を確かめるようになぞり始める。ゆっくりと上下に擦り上げられ、先端から蜜が溢れ始めると、マイクロトフは荒々しくカミューの腰を引き寄せた。 「やっ……まだ…っ……」 「大丈夫だ…ちゃんとしてやるから…」 低く囁かれ、カミューはその言葉の意味するところを知り、頬を染めた。広げられた脚の間を滑りこんでくるマイクロトフの指。きつく閉ざされた後口をくすぐるように探り、やがてずるりと中へと浸入を果たした。 「あぁ…っ…んぅ……」 「すごいな……熱くて…吸い付いてくる…」 「ばかっ……そういうことを言う……あっ…!ああっ……」 勢いよく引き抜いては、同じくらいの勢いで突き入れる。何度から繰り返すうちに、次第に柔らかく溶け、マイクロトフを迎え入れる。聞くに堪えないような粘着質な音だけが部屋に響いた。 「んっ…ん…あっ…もぅ…いや…っ…!」 カミューがマイクロトフの胸にしがみつく。マイクロトフに圧し掛かられて、身じろぐことさえ出来ない。腰に当たる昂ぶりは痛いほどで。 「我慢できない……カミュー…いいか…?」 もうどうにでもしてくれ、という半ば自棄気味にカミューはがくがくとうなづいた。 深くカミューに口づけ、マイクロトフが例のものを手にする。袋の破ける音に、カミューはどういうわけか妙に恥ずかしいような不思議な気持ちになった。別に初めてというわけでもないというのに。 疼く身体はマイクロトフを求めている。 繰り返される口づけが物足りなく感じられるほどに、昂ぶっているというのに、マイクロトフはなかなか先へ進もうとはしない。 「…………」 「………??」 「………ちょっと待ってくれ」 「………」 「………」 「マイク……」 カミューは上半身を起こすと、ばさりと髪をかき上げ、じろりとマイクロトフを見つめた。 「ちょっと聞きたいんだが、マイク」 「何だ?」 「お前、レディ相手にもそんなにゆっくりと……その…準備をしてたのか?」 「そうだが?」 「………よく何も言われなかったな」 呆れたようにカミューが溜息をつく。 二人の間で、この手のものを使用するのは初めてだったのだが、まさかマイクロトフがこんなに手際が悪いとは思いもしなかった。何で、あんなもの、さっさとつけることができないんだっ! こんなに間が空いては昂ぶっていた気持ちも身体も醒めてしまうではないかっ!! 「さ、いいぞ、カミュー」 そんなカミューの心の叫びなど聞こえないマイクロトフは再びカミューをベッドへと押し倒す。 「マイク……お前はいいかもしれないが、私は……」 「どうした?まだ足りないか?」 「まだ……というか…何というか……」 ああ、また最初からやり直しか…。 まぁ別に構わないけれど…。 カミューは今にも挑みかかってきそうなマイクロトフを制して、もう一度気持ちも身体も昂ぶらせてもらえるように誘導する、という何とも情けない作業を強いられてしまったのである。 翌日。 自らの最高傑作(←だと思い込んでいる)の成果のほどを早く知りたかったホウアンは、朝っぱらからビクトール、ハンフリー、マイクロトフの三人を呼びつけた。もちろん、相方を連れてくるように、と添えることも忘れたりはしない。 いくらアレが男が使用するものだといっても、使われる立場の意見だってちゃんと取り入れなくては片手落ちというものである。 相手を連れて来いと言われた時、ビクトールもマイクロトフもハンフリーもげんなりとした。 確かにホウアンの言うことはもっともである。 しかし何故こんな簡単なことに気づかなかったのであろうか。 報告するために一緒にホウアンの元へ行かなければいけない、と言った時のフリック、カミュー、シーナの呆れきった顔と罵倒の声に、返す言葉もない3人である。 それでも、さすがに6人同時に話を聞くのは礼儀に反すると思ってか、ホウアンは少しづつ時間をずらして医務室へ来るようにと言ってきた。 ホウアンもその程度の常識は持ち合わせているようである。いや、その程度の常識しか持っていないと言った方が正しいのかもしれない。 三組の中で二番目にホウアンの元へやってきたのはマイクロトフとカミューである。 いつもに増してニコニコと愛想のいいカミューに、さすがのホウアンも一瞬たじろいだ。しかし、これくらいで怖気ずくようなら、最初からこんなことは頼んだりしない。 「おはようございます、マイクロトフさん、カミューさん。昨夜はよい夜を過ごされましたか?」 「ホウアン殿……とりあえず、これをお返ししておきます」 カミューが紙袋に入った例のものを机の上へと置く。 「ちゃんと使っていただけましたか?どうでしたか?」 ホウアンが目を輝かせて身を乗り出す。 フリックと違い、いつも冷静沈着なカミューのことである。最中であっても、ちゃんとモニターとしての役割を果たしてくれたに違いない。 しかし、とホウアンは思う。もしかすると、先ほどのビクトールたちと同じように途中で……などということもあり得るかもしれない。だとすると、正確な実験データは…… 「ホウアン殿」 「はい、何でしょう?」 カミューが一呼吸置いたあと、一気に話し出した。 「いただいたアレですが、正直な意見を言わせていただけるなら、あれはあれで別に失敗作だとは思いません。恐らく立派にその機能を果たすことができると思います。しかし、問題があります。邪魔にならないようにと考えられたのかもしれませんが、包みが小さすぎるせいか、いざという時にすぐに取り出せないのはいかがなものかと。さぁ今から、という時にもたもたされてしまっては、昂ぶっていた気持ちだって萎えるというものです。耐久性を追及するよりも先に、まず簡単に装着できる簡易性を追及すべきなのではないでしょうか。もちろん、耐久性だって大切だとは思います。ああ、ちなみに耐久性の方はちっとも問題はありませんでした。しかし、まずは早くつけることができないと、意味はありません。そうは思われませんか、ホウアン殿!!」 「………カミュー」 自分の隣で一気にまくし立てる恋人に、マイクロトフが細々と溜息をつく。 まさか他人に「つけるのが下手だった!」なんて暴露されることになろうとは思いもしなかった。もっとも、本番の方が下手だと言われなかっただけ、まだましだと思わねばならないのかもしれない。 どちらにしろ恥には違いないが。 カミューの意見を深くうなづきながら聞いていたホウアンは、分かりましたとカミューの手をとる。 「確かに初めて使う人が簡単に使えるというのは理想的ですね。さすがはカミューさん、大変いいご意見をありがとうございました。今度改良版ができた時にも、ぜひ試してくださいね」 「ええ、それはもう、ホウアン殿の頼みとあれば」 にっこりと答えるカミュー。 しかしマイクロトフには分かっていた。 こういう笑顔を見せるカミューが一番恐いということを。 今の言葉を間に受けて、今度ホウアンの依頼を引き受けてきたら、その時こそただではすまないであろう。もう二度とホウアンの側には近づくまい、とマイクロトフは心に誓った。 最後のつぶやきへ…… |