SAFETY LOVE(ビクフリ編)


 さぁて、何といって切り出したものかなぁ、とビクトールはハンフリーとマイクロトフと別れたあと考えた。別に避妊具を使うこと自体は何の問題もないであろう。むしろ、後始末が楽になるので、喜ぶんじゃないかとも思う。
 ただ、ホウアンにこんなことを頼まれ承諾してきたと知れば、絶対に怒るに決まってる。
 フリックはそういうところは妙に潔癖なのだ。
「ま、怒った顔がまたたまんねぇんだがなぁ」
 などと馬鹿なことを思いながら、当たって砕けろの気持ちでビクトールはたどり着いた部屋の扉を開けた。
「何だ…ずいぶん早いじゃないか」
 すっかり着替えをすませたフリックが戻ってきたビクトールを見て胡散臭そうな視線を投げかける。
「お前、ちゃんと手伝ってきたんだろうな?」
「あ〜それが、別に掃除じゃなかったんだ」
「ふうん、じゃ何だったんだ?」
「………」
「何だよ?」
「いや、実はよ、ちょっくらお前にも手伝ってもらわねぇといけないんだ」
 フリックがさらに胡散臭そうにビクトールを見る。
 ビクトールの態度はどこかおかしい。
 長年の付き合いからフリックは敏感にそれを感じ取っていた。
 何だか嫌な予感がする。
 こういうことはさっさと済ませてしまうに限る。
「何だよ、言えよ」
「手伝ってくれるか?」
「コトと次第によるな」
「お前が手伝ってくれねぇとホウアンに怒られるだろうなぁ。だいたい俺一人じゃ絶対にできねぇことだしよ、お前以外の誰かに手伝ってもらうわけにもいかねぇしなぁ、困ったなぁ。どうしたもんかなぁ」
 しらじらしく溜息なんぞついてみせるビクトールにフリックが怒鳴る。
「ああ、もううるさいなっ!分かった分かった、手伝ってやるから、さっさと言えっ!」
 フリックの台詞に、ビクトールの目が光る。
「ほんとだな?」
「くどいな、手伝うって言ってるだろ」
「んじゃ先に飯食おうぜ、ああ、風呂入ってからの方がいいな、何しろ長丁場になりそうだしよ」
 何しろ、10回分はあるからな。
 ビクトールは胸の中でつぶやくと、思わず笑みを浮かべた。
「………」
 フリックは何だか寒気がしたような気がして、眉をしかめた。
 早まったかもしれない……。
 そう思ったが、しかしもう遅かった。


 夕食もすませ、風呂もすませた深夜である。
 ベッドの上に座り、ビクトールが「コトと次第」をフリックに話してみせた。
「……………………」
「まぁそういうことだ」
 しれっと言うと、ビクトールがホウアンから貰ってきた避妊具をばらばらとベッドの上にばらまいた。
「……………」
 無言でじっとそれを凝視するフリック。
 ビクトールはその一つを手にして眺める。
「それにしても、ホウアンがこんなものまで作っていたとはなぁ、お前知ってたか?」
「…………」
「何でも飽きないようにって、袋にその日の占いとか書いてるらしいぜ。まったく何考えてんだかな」
「…………ビクトール」
「まぁ、よくよく考えると、確かに必要なもんだしな。あ、占いのことじゃねぇぞ」
「ビクトールっ!!!!!」
 フリックががしっとビクトールの胸元を掴んだ。
「お前はっ!!!お前は、いったい何を考えてるんだっ!!………あ、呆れて…ものも言えない……」
 フリックが両手をシーツの上につき、がっくりと肩を落とす。
 はいはい、と脱力したフリックの背中をぽんぽんとビクトールが叩く。
「馬鹿だ馬鹿だと思っていたが、ここまで馬鹿だとは知らなかった……。引き受けるか?普通、そんな馬鹿げた頼みを引き受けるかっ!!」
 涙目で訴えるフリックにビクトールは苦笑する。
「だけどよ、ハンフリーもマイクロトフも引き受けてたぜ」
 というか、引きうけさせられた、というのが正しいがな、とビクトールが苦笑する。
 そんなビクトールを、フリックがどんと突き飛ばした。
「……俺はごめんだからな。そんなことに付き合うほど暇じゃない!」
「お前、さっき手伝うって言っただろうが」
「ふざけんなっ!!絶対に嫌だっ!!!」
 顔を真っ赤にしてフリックが叫ぶ。
 はぁはぁと肩で息をするフリックにビクトールがすっと目を細めた。
「んじゃあよ、他の誰かと試すしかねぇな」
「何だと?」
「だって仕方ねぇだろ。お前は手伝ってくれねぇって言うし、ホウアンとは約束しちまってるし。なら、お前以外の誰かと試してみるしかねぇだろうがよ。そうだなぁ、レオナあたりにでも言ってみるか、案外と快く承諾してくれるかもしれねぇな」
「………」
 黙りこむフリック。
 この男の、こういうところが嫌いなんだ、とフリックは思う。
 平気でそういうことを口にしては、ニヤけた顔で反応を見ている。
 でも一番嫌なのは、絶対にそんなことするわけないと分かっているのに黙り込んでしまう自分だと、フリックは唇を噛む。
 ビクトールはそんなフリックに低く笑うと、その身体を引き寄せて耳元で囁いた。
「何でそんなに嫌がるんだよ。別に変なおもちゃじゃあるまいし、恐いことなんて何もねぇだろ?」
 フリックを後ろ抱きにし身体の前で腕を交差させ、ビクトールがそのうなじにちゅっと音を立ててキスをした。
「………」
「な、フリック」
「俺以外の……誰と試すって?」
「ばか……俺がお前以外の誰かとなんてするわけねぇだろ……んな泣きそうな顔すんなって」
「誰がっ!!」
「お前だろ?」
 ビクトールがごそごそとフリックのシャツをズボンから引っ張り出し、素肌に指を這わせた。さらに右手だけで器用にベルトを引きぬくと下衣をくつろげる。
「ばかっ、やめろ!!」
「じっとしてな、いいコだ……」
「ん……っ!」
 忍び込んできた右手が下着の上からゆっくりとフリックのものを揉みしだいた。焦れったいような触れ方にフリックが息を飲んだ。後ろから羽交い絞めにされていてどんなに身を捩っても逃げようがない。そのうちにシャツの裾から忍び込んできたビクトールの左手が胸の尖りをいじり始めた。
「やめ…っ…んっ……」
「ほら、もう勃ってきてるだろ?」
 つんと堅くなった乳首を弾いて、ビクトールが喉の奥で笑う。
 フリックの弱いところなんてとっくの昔に知り尽くしているビクトールは、しつこくそこばかりを攻めたてる。指の腹でこねるようにして何度か擦り、指先で摘み上げるとフリックは切ない声を上げた。
「あっ……うぅ…」
 耳たぶを舌で舐め回して、ビクトールの右手がゆっくりとフリックのものを握りこむ。思わず脚を閉じようとしたフリックの肩先をビクトールがきゅっと噛んだ。ひくっと喉を仰け反らせ、フリックがビクトールの腕を掴んだ。
「やめろ…っ」
「ん〜?直に触って欲しいか?」
 布越しのもどかしい愛撫は耐えがたかったが、フリックはふるっと首を横に振る。素直じゃねぇな、とビクトールは笑い、再びうなじから首元へと舌を這わせた。ゆっくりとフリックの肌を味わう。
 がさりと耳の穴に舌を差し込まれ、フリックは思わず声を上げた。
「あぁ……っ…んぅ…」
「フリック……」
 甘い囁きにフリックは身を震わせた。
 ビクトールに名前を呼ばれると、時々信じられないくらいに胸が締め付けられる。フリックは震える指で、身体に回されたビクトールの太い腕をぎゅっと掴んだ。
 下着をかいくぐったビクトールの右手がフリックの花芯に触れる。すでに熱く勃ち上がりかけたそれは触れられたとたん、とろりと蜜を零した。
「何だ…感じてんじゃねぇか……」
「うるさ…ぃ……ひぁ…っ!」
 ぎゅっと握りこまれて、ゆるゆると上下に扱かれる。左手で胸の尖りを、右手で花芯を嬲られ、フリックは必死でビクトールの腕を押さえ込んだ。
「やっ…あっ…アァ…っ」
「とりあえず一回イっとくか?先は長いぜ?」
「………っ!!」
 きつく擦り上げられた瞬間、生暖かい蜜がビクトールの手を濡らした。


「フリック…目ェ開けろ……」
 囁かれ、フリックはのろのろと重い瞼を開いた。
 ベッドに深く沈みこみ、大きく両足を開かされた無様な格好で、フリックはビクトールの愛撫を受けていた。首筋を熱い舌が這い回る感触に、フリックは低く唸った。
「重たい……」
「色気のねぇ言い方すんなって。……痛いか?」
「………いや……んっ…」
 ずるっと狭い蕾を行き来する二本の指。もう嫌というくらいに慣れ親しんだその異物感に、フリックは大きく息を吐いた。拒もうとしても、蕩けたそこはまるで喜んでいるかのように奥深くまでビクトールの指を飲み込んでいく。
「んぁ……あっ……」
「なぁ……そろそろいいか?」
 挿れてもいいか、とフリックの耳朶を舐め回しながら、ビクトールが聞いてくる。
 どうせ嫌だと言ってもこの男のことだ、無理矢理にでもやるのだろう。フリックはのろのろとうなづいた。うなづくより他にどうしようもないではないか。もっとも、すっかりその気になっているのはビクトールだけではない。痛いほどに張り詰めた前方に触れて欲しくて、フリックは無意識のうちに腰を揺らした。
「息つめんなよ……」
「ふ…ぅ……うっ……」
 ぐいっと脚を抱えなおされ、ひたりと熱く屹立したモノを押し当てられる。今に突き入れられそうな気がして慌ててフリックがビクトールの肩口をつかむ。
「ま、待てっ…っ」
「ん〜?」
「お前……何のために……」
「あ、ああ、そうだったな」
 そんなこと忘れんなっ!とフリックが赤い顔をして文句を言う。そんなフリックに笑いながら小さく口づけ、ビクトールは枕もとに置いてあった袋を手にした。
 頭上でぴりっと袋が破られる音が聞こえると、フリックは何とも言えない気分で溜息をついた。
 正直なところ、こういうことは勢いで行き着くとこまで行ってしまった方が、何も考えなくてすむのでありがたいのだ。この妙な間があると、これからヤるんだなぁ、などという馬鹿げたことが脳裏をかすめ、本当にいたたまれなくなる。
 おまけに、ちゃんとつけてんだろうな、などと、それこそ馬鹿なことを考えてしまい、つい覗き見てしまったのだ。
 そして見なければ良かった、と後悔した。
 何だかいつもよりもでかい気がする……。
「フリック……」
 耳元を囁きがかすめたと思った瞬間、濡れた先端がフリックの中へと浸入してくる。
「んっ……ば、かっ…いきなり……ああっ…!!」
「へへ、何か興奮するな……」
「何言ってん……っ…あ、うっ……」
 ひくっとフリックの喉元が反り返る。いつもよりも大きいと思ったのは見間違いでも何でもなく、押し開かされ、ゆっくりと根元まで含まされると、そのあまりの圧迫感にもう声もでない。無意識のうちに逃げようとするフリックの肩を両手で押さえ込み、ビクトールが律動を始める。
「はっ……あぅ…いやっ……」
「くそっ…何かいつもより滑りが悪ぃな……もっと濡らせばよかったか?」
「ふざけん…なっ……あっ…ああ…んぅ……っ!」
 抜き差しされるたびに、内壁が引きつるようにして擦られる。
 きつく腰を突き入れられた次の瞬間、ビクトールがぴたりとその動きを止めた。フリックが涙で潤む目でビクトールにすがりつく。
「なっ……ん…」
「やべぇ……」
「?」
「破けた……ような気がする…」
「…………何だとっ!!!」
 あまりのことにフリックは呆然とビクトールの顔を見る。ビクトールはフリックの膝を左右に広げると腰を引き、ずるりと中のものを引き出した。
「んぅ……っ!」
「ああ…やっぱりなぁ……」
 失敗作か?とぶつぶつつぶやきながら、ビクトールは手を伸ばして新しい避妊具の袋を破る。
 破れたって???
 フリックは信じられない思いで二つ目を装着する男を眺める。
 そんな簡単に破れていいものなのか?あれは??
 何だかとても嫌な予感がする……。
 得てして不幸体質の男の予感は当たるものである。



 翌日。
 自らの最高傑作(←だと思い込んでいる)の成果のほどを早く知りたかったホウアンは、朝っぱらからビクトール、ハンフリー、マイクロトフの三人を呼びつけた。もちろん、相方を連れてくるように、と添えることも忘れたりはしない。
 いくらアレが男が使用するものだといっても、使われる立場の意見だってちゃんと取り入れなくては片手落ちというものである。
 相手を連れて来いと言われた時、ビクトールもマイクロトフもハンフリーもげんなりとした。
 確かにホウアンの言うことはもっともである。
 しかし何故こんな簡単なことに気づかなかったのであろうか。
 報告するために一緒にホウアンの元へ行かなければいけない、と言った時のフリック、カミュー、シーナの呆れきった顔と罵倒の声に、返す言葉もない3人である。
 それでも、さすがに6人同時に話を聞くのは礼儀に反すると思ってか、ホウアンは少しづつ時間をずらして医務室へ来るようにと言ってきた。
 ホウアンもその程度の常識は持ち合わせているようである。いや、その程度の常識しか持っていないと言った方が正しいのかもしれない。


 三組の中で一番最初にやってきたのはビクトールとフリックである。
 二人とも相当に眠いらしく、フリックにいたっては見るも哀れなほどに憔悴しきっている。
 これはやったな、とホウアンは内心笑みを洩らした。
「おはようございます、ビクトールさん、フリックさん。昨夜はよい夜を過ごされましたか?」
「……お前、そういうことを笑顔で聞けるってのはすごいよな、尊敬するぜ」
 ビクトールが感心して大きな欠伸をする。
「で、いかがでしたか?試していただけましたか?」
 目を輝かせつつ、手にはメモを持ち、身を乗り出してホウアンが尋ねる。
「んあ〜??そりゃまぁ試したことは試したがよ……」
「そうですかっ、で、いかがでしたか?」
 ビクトールが答えようとするよりも早く、フリックがゆらりと音もなく立ち上がった。
 その顔は見ようによっては微笑んでいるようにも見える。しかし、ビクトールにはそれが、実は怒り心頭で笑うしかないからだと分かっていた。分かっていたので、特に口出しはしなかった。
「ホウアン……」
「はい?」
 フリックがポケットの中から、余った避妊具を取り出してばんっと机の上へと叩きつける。
「これは失敗作だな?失敗作なんだろう??失敗作だと言えっ!!!こんなもの配ったら、城中子供だらけになるぞっ!何だってあんなに簡単に破れたりするんだっ!!」
「は?」
 すでに正常な理性など残っていないフリックは、普段なら絶対に口にしないであろう言葉を大声で叫ぶ。
「つけ方がまずかったなんで言わせねぇからなっ!あんな、ちょっと動かしたくらいですぐに破れるような粗悪品!あれのおかげで何回やり直しをさせられたと思ってんだっ!!だいたい使う人間のサイズのことをちっとも考えてねぇだろっ!!全部統一して同じサイズだなんてあまりにも考えがなさすぎるっ。使い心地なんか考える以前にまずサイズを考えろっ!!」
 はぁはぁとフリックが肩で息をする。
 見かねたビクトールがやれやれというように、フリックの手をひきイスに座らせる。
「まぁ、そういうこった。役に立てなくて悪かったなぁ。今度ちゃんとサイズに合うヤツができた時にはまた実験台になってやっからよ」
 にんまりと笑うビクトールにフリックが容赦なく一発を見舞う。
「俺はヤキモチなんて絶対に妬かないからな、俺以外の誰かと試せっ!!」
「何だと!!お前以外の誰に何回もその気になるっていうんだっ!!」
「うるさいっ!!!」
 目の前で始まった痴話喧嘩などものともせず、ホウアンはふむふむとメモをとっていた。
 サイズのことまで考えていなかったのは確かに自分のミスだった、と深く反省をしたのである。


       最後のつぶやきへ……

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