SOMEDAY 


 ぱしゃっと両手で湯面を叩いた。
 ぴりっと肌に痛いくらいの温度のお湯が心地良い。
 熱いお風呂が好きで、さっきテツに頼んで温度を上げてもらったのだ。
 ただ今、夜中の3時である。
 さすがにこの時間に風呂に入ろうなどと思う物好きは他にはいないらしく、湯船に浸かっているのはディラン一人である。広い浴場を一人占めできるのは何とも言えずに贅沢な気分になれる。
 ディランは大きく手足を伸ばして、湯気で煙る大浴場の中を眺めた。
 城が大きくなるにつれ、この大浴場もだんだんと大きさを増してきた。テツの趣味で、風呂の種類はほぼ日替わりで入れ替わる。いろんな風呂が楽しめるので、城中でかなりの人気だった。
 ディランもその例に漏れず、この大浴場はお気に入りなのだ。顎まで湯の中に沈みこみ、その贅沢を味わっていると、ガラリと扉を開けて誰かが中に入ってきた。
「おおっ、何だ、ディラン、こんな時間に」
 うるさいくらいの大声の持ち主はビクトールだった。
 こんな時間に…ていうのはこっちの台詞だよ、とディランは思った。
 せっかく一人で広いお風呂を満喫していたというのに、邪魔されようとは思いもしなかった。ディランは浴槽の淵に顎を乗せて、筋肉質な裸体を惜しげもなく曝しているビクトールを見上げた。
「ビクトールさんこそ、ずいぶん遅いじゃないですか」
「あ〜さっきまで飲んでたからなぁ」
 それでご機嫌なわけか、とディランは納得した。
 ざばざばと湯をかけ、ビクトールは盛大に水飛沫をあげてディランの隣へと入ってきた。
「んも〜、お湯がかかっちゃっただろ〜」
「ははっ、悪い悪い」
 ちっとも悪いとは思っていない口調で、ビクトールはばしゃばしゃと顔を洗う。
「ずいぶん飲んでたんだね、何だか、身体からアルコールの匂いがするんですけど?」
「ん?そうかぁ?ま、ここでそれを洗い流していくさ。でないと、フリックが嫌がってベッドに入れてくれねぇからな」
「お熱いことで」
 嫌味なんだよ、とディランは溜息をつく。
 ビクトールとフリックがらぶらぶなことを知らない人間などこの城にはいない。
 風来坊のビクトールと青雷のフリック。
 いったい過去にどんなことがあって恋人同士になったのか、なかなか興味を引かれる二人である。ちょっと知りたいと思うものの、フリックに聞いたところで、まともに答えてはくれないだろうし、ビクトールはちゃかしてしまうのがオチだろう。
「ディラン」
「何?」
「背中流してくれ」
「え?何で俺がっ!」
 ビクトールは笑いながら大きな手でがしがしとディランの頭を掴むと、派手に揺すった。
「たまにはいいだろうが。男同士、裸の付き合いってのも大事なんだぜ」
 ざばっと湯船を出て、ビクトールが早く来いと手招きする。仕方ないなぁとディランも諦めて湯船を出た。ビクトールの背後に座り、タオルと石鹸を手にする。
「ちゃんと力入れろよ」
「はいはい」
 広い背中。昔の負ったのであろう太刀傷に混じって、いくつかの引っかき傷が残っているのに気がついた。ディランは最初、それが何なのか分からずじっと見つめていたが、やがて思いついた答えに大げさに溜息をついてみせた。
「どうした?」
「………これ、フリックさんにやられたんでしょ?」
「何が?」
 泡立てたタオルでビクトールの背中を流し始める。
「ビクトールさんしつこそうだからなぁ、フリックさんも可愛そうに」
「ああ?何わけの分からんことを…」
 ビクトールはぶつぶつ言いながら自分も手足を洗う。
 父親というには若すぎるが、ディランにとってビクトールは何の気構えもなく話せることのできる数少ない人間の一人だった。どうしてなのかは分からない。ただビクトールのそばは居心地がいい。
 ディランにしてみれば、こんな風に誰かの背中を流すなんて経験はあまりないので、妙にくすぐったいような気になっていた。
 ひと通り洗い終えるとビクトールはくるりとディランの方へと向き直った。
「ほら、洗ってやるからあっち向け」
「え、俺はいいよ」
「遠慮すんなって、ほらよ」
 強引にディランの背中を流すビクトール。ごしごしと力任せに擦られて、ディランは思わず振り返る。
「痛いってばっ!ビクトールさん、ちょっとは加減してよ」
「ははは、お前相変わらず細っこいな、ちゃんと飯食ってるか?」
「だから、ビクトールさんと比べないで欲しいんだけど!それに、俺はまだこれから成長するからいいんだよ。そのうち、ビクトールさんだって追い抜いてみせるもんね」
「そりゃ楽しみだ」
 ビクトールは笑いながら、ディランのすんなりした首筋を洗った。ふと、伸ばされたディランの長い足に目が止まった。そしてそこに視線が釘づけになる。それに気づいたディランが振り返った。
「なに?」
「え?お前、それどうしたんだ?」
 左足の太腿のあたりから膝にかけて、ざっくりと1本の傷があった。
 ずいぶん昔の傷のようにも見える。戦闘にも出ていないであろう過去につけた傷にしては大きすぎる。ディランはああ、と肩をすくめた。
「ちょっとね、くだらないことでやっちゃったんだよ」
「喧嘩か?」
「まぁ似たようなもんかな。あえて言うなら愛の証て感じ?」
「何だ、そりゃ」
 ビクトールが不気味そうに眉をひそめる。
 くすっと笑って、ディランは昔の傷に触れた。触れたとたん、それまで忘れていた過去の出来事が甦った。





 キャロは昔から金持ちの避暑地として有名な街だった。
 気候がよく住みやすいということもあって、そのまま移住する人も多く、戦乱の世の中、裕福な家庭が多いのが特徴的だった。
 そんな中、ディランたちはある意味異端児だった。
 ゲンカクの過去についてはディランもナナミも何も知らなかったが、それでも街の人間たちのよそよそしい態度には幼いながらにも傷ついたものだった。
 もっとも、ディランもナナミもそんなことくらいでいじけてしまうような性格ではなく、むしろ不当な扱いに対しては、いつも毅然とした態度で立ち向かっていた。
 それが余計に子供たちの目には生意気に映り、堂堂巡りのつまらない諍いはあとを絶たなかった。
 特にディランは、孤児でありながらその優秀な成績で特待生として学校へ通い、常に成績がトップだったことも災いした。カリスマ的にディランのことを慕う者と、意味なく嫌う者との両極端に分かれてしまっていたのだ。
 けれど、ディランにとっては、そんなことは別にどうでもいいことだった。
 たとえ周り中がディランのことを快く思わなくても、優しく強いゲンカクと、いつも明るいナナミと、そして心を許せる友がいたから。
 ちょっとしたきっかけで仲良くなったジョウイ。
 ディランにとってのただ一人の幼馴染。
 そして大切な親友。
 切ないほどの恋心は、もうその時には芽生えていたのだろうか?
 何もなければ、もしかしたら一生気づかなかったのかもしれない。

 それは温暖なキャロの街が一年で一番寒くなる時期のことだった。
 のんびりと歩く学校の帰り道。いつものように二人で他愛のない話に花を咲かせていた。
「ジョウイ、今日家に寄ってく?」
「う〜ん、どうしようかな」
 ジョウイの手をとって、ディランがその顔を覗き込む。
「いいだろ。一緒に課題やっちゃおうぜ。そしたら週末、遊びにいけるだろ?ナナミがどうしてもピクニックに行きたいってうるさいからさ、一緒に行こう」
 昔からディランはジョウイに何かをねだる時は、こうして手を取って顔を覗き込む。無邪気なディランの言葉にジョウイは仕方ないなぁと微笑んだ。
 ほとんど毎日一緒にいるのに、どうしてこう飽きないのか。おっとりとしたジョウイの性格と、どこか無鉄砲なところのあるディランの性格が上手くあったのか。
 とにかく二人でいると楽しくて仕方がなかった。ちょっとしたことでも、笑いあえる。些細な喧嘩でさえも楽しいような、そんな感じ。
 週末のピクニックの計画を二人であれこれと話しながら歩いていると、ちょうどたむろしていた同じ学校の生徒たちとかち合った。
 ディランとジョウイの姿を見ると、ニヤニヤと笑いながら近づいてきた。
「よぉ、ディラン、これからお勉強か?」
 グループの中でのリーダー格であるアダムがディランへと声をかけた。
 ジョウイの実家であるアトレイド家と並んで、キャロの街で1,2を争う有力者を親に持つアダムは、ディランのことを目の敵にしていた。つまらないことでいつもいちゃもんをつけてきては、ディランに突っかかる。そして、ディランが全く相手にしないことがさらにアダムを怒らせていた。
 嫌な連中に捕まったな、とディランは内心溜息をついた。
 街中で喧嘩なんてしたくはない。ましてや、そばにジョウイがいるというのに。ディランはどうやってこの場を立ち去ろうかと、考えていた。
 アダムは無言でいるディランに舌打ちすると、ディランが手にしてた本を軽く叩いた。それはハイランドの歴史書だった。見るからに高価なその書物は、ディランには不似合いだとアダムは笑った。
「さっすが、学年トップは違うな」
「………」
「金がなくても頭さえ良ければ学校へも行けるしなぁ。おまけにジョウイを味方につければ、いろんなものも施してもらえるしな」
「何を言って…っ!」
 思わず叫んだジョウイをディランが制する。
 ディランが手にしている歴史書は確かにジョウイの持ち物だった。義父によってジョウイに与えられたそれは、ジョウイがディランに貸したもので、決して施されたわけではないのだ。
 それくらいのこと、分からないアダムではない。
 分かっているのに、わざと怒らせようとして言っているのだ。
 貧乏人には貧乏人の暮らしがあると。
 身分の違いを弁えろと。
「おい、何とか言ったらどうだよ?言い返せないってことは、あながち間違ってないってことか?」
 アダムが笑う。
 ディランはそんなアダムにニヤっと笑った。
「アダム」
「何だよ」
「こんなつまらないことしてるくらいなら、さっさと家に帰ってお勉強でもしたらどうだい?万年学年2位の座が居心地いいっていうんなら別だけど?」
「何だとっ!!」
 アダムはかっと頬を紅潮させた。
 常に学年トップであり続けたアダムの地位は、ディランが入学したことであっさりと奪われた。どんなに頑張ってもディランには勝てない。生まれつき裕福な家庭で育ってきたアダムにとっては、貧乏人が同じように席を並べているだけでも許せないことなのに、そのディランにはどうしても勝てない。それがアダムのプライドをいたく傷つけていた。
「いい気になるなよっ!お前なんか……」
「よせよっ!!」
 ディランに掴みかかったアダムをジョウイが引きとめる。
 その手を取って、ディランが輪を抜けて歩き出す。
「覚えてろよ、いつか絶対に後悔させてやるからなっ」
 搾り出すような声で吐き捨てたアダムに、ディランは少し視線を投げかけ、そしてすぐに無視した。
 くだらない。
 自分に降りかかるくだらない声。気に食わないなら放っておけばいい。ただそれだけのことが、どうしてできないのだろう?
 誰も自分のことなんて構わないでくれればいいのに。
 誰のことも欲しくない。
 誰からも欲しいと思われたくない。
 誰にも縛られたくないだけなのに……。
「ディラン……」
 ジョウイの声に、ディランは我に戻った。
 心配そうに自分を見つめるその瞳に、すっと怒りが引いた。
 ああ、ここに例外がいた、とディランが微笑む。
「あ〜、ごめんごめん。嫌な思いさせちゃったな」
「嫌な思いをしたのは僕じゃなくてディランの方だろ?……平気?」
「あんなのいつものことじゃないか。別に気にもしてないけど?」
 強気なディランの言葉にジョウイは小さく溜息をついた。
 その様子にディランは、ジョウイとアダムが小さい頃はずいぶん仲が良かったのだということを思い出した。たまたま親同士が親しかったせいもあって、お互いの家へ遊びにいったりもしていたらしい。
 友達の少なかったジョウイにとって、アダムは唯一と呼んでもいいくらいの仲のいい友達だったのだ。やがてアダムには大勢の取り巻きができ、ジョウイはディランと親しくするようになった。
 それから、二人の間には目に見えない溝ができている。
 ジョウイは、自分とアダムとの今の関係をどう思っているのだろうか?
「ディラン…アダムと喧嘩するなよ。あいつも…ほんとは悪いヤツじゃないし……」
「…………」
「な?」
「………しないよ。きみがそう言うならね。それに、俺がその気になったら、アダムなんて簡単にのしちゃうぜ」
「そうだろうなぁ……あいつ力なさそうだし」
 ジョウイが苦笑する。
「簡単に勝てるって分かってるヤツを相手に喧嘩なんかしないよ」
「そうだけど……ディラン、アダムの挑発には乗ってるからさ。いつもなら、あんな嫌味、完全に無視するくせに、どうしてアダムにはあんな挑戦的な言い方するのかなぁ」
「……何か気に入らないんだよな」
 こういうのを生理的に気に食わないっていうのだろうか?ジョウイの言う通り、いつもなら、ああいう連中の嫌味に言い返すことなんてしないのに。
 どうしてだろう?ディランは首を傾げる。
 考え始めたが、それも面倒だった。
「あー、もうあんな連中のことは忘れよう!で、楽しいことだけ考えよう」
 ディランが明るくそう言い、隣にいるジョウイの腕に自分の腕をからめ、顔を覗き込んだ。
「ジョウイ、俺のこと好き?」
「え??何だよ、突然」
 呆れたようなジョウイの表情。ぱちぱちと瞬きする仕草が可愛くて、ディランは思わずジョウイをぎゅっと引き寄せた。ジョウイが片手でディランを引き剥がそうとする。
「苦しいってば、も〜!!ディランて時々すっごく子供みたいだよな〜」
「子供だよ。ね、俺のこと好き?」
「はいはい、好きだよ。それ、いったい何回聞けば気がすむのかなぁ」
 やれやれ、というようにジョウイが苦笑して、ぺチンとディランのおでこを叩いた。
 幼い頃から繰り返される問いかけと、その返事。ずっと変わることのない他愛無い言葉のやり取り。何かを確認するかのように、ディランは度々ジョウイに聞く。
 俺のこと好き?と。
 返される答えに安心する。
 本当は「アダムよりも好き?」と聞きたいような気もした。
 すごくバカな質問だと思うけれど、ジョウイにとって、自分が一番だと言って欲しかった。
 どうしてだろう。
 それは……知ってはいけないことのような気がした。知ってしまえば、二度と引き戻せなくなるような、そんな気がして、何かがいけないことだとディランを引きとめる。
 思考はいつもそこでストップする。
 それは知ってはいけないことだ。
 答えを出してはいけないことだ。
 おそらく……それは何もかもを壊してしまうほど狂気を孕んだもので、きっと今の自分では手に負えないもので。だけど……。
 いつか、それがやってくることもどこかで分かっているような気もする。
 そこでディランは考えることをやめた。
 とたんに笑顔を浮かべて、ジョウイの手を引く。
「さ、帰ろう。昨日ナナミがプリン作ったんだ。食べるだろ?」
「それって食べられるプリンだよね?」
「うん、お腹を壊さない程度には」
 二人でくすくすと笑いながら帰路を急ぐ。
 気持ちのいい午後。
 柔らかく頬を撫でる風にディランは目を細めた。視線の先にジョウイがいる。
 それがとても幸せだった。



 夜が更けた頃、ディランは窓の外に人影を見つけて立ち上がった。
「ディラン?」
 机をはさんで向かい側で課題をしていたジョウイが顔を上げ、怪訝な表情を見せた。
 ゲンカクやナナミと一緒に夕食を食べ、他愛ない話で笑いあい、やっと本来の目的だった課題をやってる時のことだった。
 ディランはジョウイの問いかけには答えず、素早く窓を開けると、またすぐに閉めた。
「どうかした?」
「うん、ちょっと待ってて」
 部屋を出ていくディランを見送ったあと、ジョウイは窓辺に立ち外を覗いた。庭先に誰かがいた。それが誰なのかを確かめる前に、表に出たディランが姿を見せた。
 ああ、同じクラスの……
 ジョウイの脳裏にふいに昼間の出来事が甦った。アダムがディランに突っかかってきた時に、一緒にいたヤツだった。あまり話をしたことはないけれど、アダムの取り巻きの一人といったところだろうか?
 二人が何を話しているかは聞こえない。
 ディランの迷惑そうな顔。軽く肩をすくめて戻ろうとするのを、引きとめられる。表情は変わっていないけれど、内心かなりむっとしていることは、長い付き合いのジョウイには良くわかった。
 やがて、話が終わったのか、ディランが部屋に戻ってきた。
「ただいま」
「……どうしたの?」
「ん〜??ちょっとね。ごめん、ジョウイ。俺、ちょっと出てくるから」
「どこ行くんだよ」
 上着を着て、ディランが小さく笑う。
「すぐ戻るよ」
「待てよ、僕も一緒に行くから」
「俺一人で平気だよ」
「喧嘩だろ。アダムに呼び出されたのか?」
 やれやれとディランは困ったように笑う。
「ジョウイっていつも鈍いくせに、こういう時は妙に敏いよなぁ」
「笑い事じゃないだろ!あいつら、絶対一人じゃないぞ」
「だろうな。でも、ま、何とかなるよ。そろそろきっちりカタつけないとなぁとは思ってたから、ちょうどいい機会だよ。ケリつけてくる」
 ディランがあっさりと言うと、ジョウイが一瞬泣きそうな表情を見せた。そしてきっぱりと、
「やっぱり一緒に行くよ。何もしない、見てるだけだから。それならいいだろ?」
 と言うと、ディランの返事を待たずに、ジョウイは出かける用意を始めた。
 そんなに心配しなくてもいいのに、と思ったが、ジョウイも案外頑固なので、一度言い出すときかないだろう。ディランはやれやれと溜息をついた。
「まぁ、いいけどさ……物好きだなぁ」
 外冷えてるから、上着着た方がいいよ。
 まるで散歩にでも行くかのようなディランの台詞に、ジョウイは固い表情でうなづいた。


 
 こんな風に呼びだされることはめずらしいことじゃない。と待ち合わせ場所への道すがら、ディランは白状した。
 呼び出された本人よりも思いつめた顔をしているジョウイの気持ちを少しでも和らげるつもりで言ったのだが、それは余計にジョウイを怒らせた。
「どうして今まで何も言わなかったんだよっ」
「どうしてって……ちょっとした喧嘩だよ。たいしたことじゃないし…」
「ディラン!」
「だってジョウイのこと巻き込みたくなかったしさ」
 それでなくても、自分と親しくしているせいで、何かと風当たりがきついというのに。ジョウイは何も言わないけれど、きっと家でもいろいろと言われているに違いないのだ。
 ディランにしてみれば、これ以上ジョウイに余計な迷惑はかけたくなかっただけなのだ。けれど、ジョウイはそんなディランにきっぱりと言った。
「ディラン……そうやって何でも一人で抱え込むのはやめてくれ。親友だろ?何でも話してくれてるって、ずっとそう思ってたのに、きみはそうじゃなかったのかい?きみのことを、とても大切に思っているのは僕の方だけ?」
「……ジョウイ?」
「きみが思っているよりも、僕はずっと強いから。だから、隠し事なんてしないでくれ。お願いだから……そうやって何でも一人で片付けないでくれ…。僕を、一人だけ何も知らないところへ置かないでくれ」
 ジョウイの言葉に、ディランははっとした。
 その時初めて自分の勝手な思い込みでしてきたことが、ジョウイを傷つけていたのだと知った。
 ジョウイを傷つけるつもりなんてこれっぽちもなかったのだ。
 ただ、ジョウイに心配はさせたくなかった。それだけだったのだ。
 ジョウイが弱いだなんて思っていない。
 だけど、忘れていた。
 家族から十分な愛情を受けているとは言えないジョウイが、人から拒絶されることでどんなに傷ついているか。口では決してそんなことは言わないけれど、ジョウイがどんなに誰かの手を求めているか、知っているつもりだったのに。
 誰が知らなくても、自分だけは分かっているつもりだったのに。
 自分だけは絶対にジョウイを傷つけないと決めていたのに。
「ごめん………」
 思わず、ディランの口から零れた言葉。
 その言葉に、俯いていたジョウイが顔を上げた。
「ごめん、ジョウイ………ごめん…」
 呆然とつぶやくディランに、ジョウイは笑って手を伸ばした。
 ふわりと頬に触れた指の温かさにほっとした。その指がきゅっとディランの頬をつねる。
「いてっ」
「反省したならよろしい。今度僕に隠し事したら、許さないからな」
「了解です……」
 ディランの殊勝な返事に、満足したようにジョウイが微笑んだ。


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