STYLE このお話は「Shall we dance?」の続編です。まだの方はそちらからどうぞ♪ リトの村からの依頼を受け、収穫祭のダンスパーティにフリック、カミュー、マイクロトフの3人をダンス要員として女の子たちに貸し出す予定だったのに、カミューのおかしな策略(?)のため大幅に予定が狂ってしまい、ディランはかなりご機嫌斜めだった。 だいたい村の女の子たちが好き勝手に決めた人気投票の結果を真に受けて、カミューがあんなことをやらかすなんて思いもしなかったのだ。 あんなこと、とは、ダンスが踊れないということを理由に貸し出されることを拒否しようとしたフリックに、カミューがダンスを教えるなどと言いながら、実際には女の子のステップを教えて、収穫祭に出られなくしてしまったことだ。 その理由というのが「フリックの人気がマイクロトフよりも上だったから」なんて、ばかばかしいにもほどがある。これにはさすがのディランも呆れて何も言えなかったのだ。 「でもさ、フリックさんてやっぱり人気あるんだねぇ」 先日の投票結果の書かれた紙を手にしてナナミがうなづく。 「かっこいいもんねぇ。でもフリックさんて、けっこう不器用だし子供っぽいところもあるのに、リトの村の女の子たちって外見しか見てないから分からないのね、きっと。何しろ青雷だもんね、うんうん、確かに聞こえはいいよね」 「…ったく、いい迷惑なんだよな。何で俺が…」 ディランはうんざりしたように頬杖をついたままため息をつく。 収穫祭のダンスにフリックが参加しないと分かったとたん、村の女の子たちからは一斉に大きなブーイングが起こったのだ。 それはそうだろう。 何しろ一番人気のフリックが来ないなんて、思いもしなかったことなのだから。 そして収穫祭2日目、村の女の子代表だという3人が、あろうことかディランの元へ直談判に来たのだ。 曰く、 「フリックさんを参加させないなんて、あんまりですっ!!」 「そうです、そんなイヂワルしないでもいいじゃないですか」 「あたしたち、フリックさんとダンスができるのを楽しみにしていたのに」 3人が執務室のイスに座るディランに、女の子が詰め寄る。同じ部屋にいるシュウは助け舟を出すつもりはないらしく、笑いを堪えた顔でその様子を見ているだけだ。 「ディランさんっ!!聞いてるんですかっ!!」 「聞いてます」 そりゃ参加させることは簡単だけど、どっちにしても一緒には踊れないんだけどなぁ、と言いそうになったディランだが、フリックの名誉のために黙っていることにしたのだ。 何とか女の子たちを宥めて村へと返したものの、理不尽な怒りをぶつけられて、どうにも納得がいかないディランである。このまま黙ってフリックを見逃すなんて主義に反する。 「ねぇナナミ、ちょっとお願いがあるんだけど」 「なぁに?」 ひそひそとナナミにお願いごとをするディランの顔は実に楽しそうだった。 収穫祭はかなり盛況だった。 村の広場の中央には大きく火が焚かれ、その周りでは村人たちがダンスを楽しむ。 この日ばかりは日ごろお洒落もせずに働いている娘たちも綺麗に着飾り、お目当ての男性からのダンスの申し込みを心待ちにするのだ。 同盟軍からの派遣ダンサーであるカミューとマイクロトフは実に見事にその任務を果たしていた。 マチルダでは一番と言われたダンスの名手であるカミューのステップはそれそれは優雅で、娘たちは先を争ってパートナーになりたがった。 「いいねぇ、なかなか楽しそうだ」 広場を取り囲む木々の隙間からその様子を見ていたディランが微笑む。 「マイクロトフさんもああ見えてダンス上手いんだ。あれ、あそこにいるのシーナだ。お祭り好きだからなぁ」 「ディラン」 「あ、アイリさんたちもいる。何だ、けっこう城からもみんな遊びに来てるんだなぁ」 「ディランっ!!」 小声で怒鳴るフリックにディランは五月蝿そうに振り返る。 「頼む、許してくれ。こんな格好、あいつに見られたら…」 フリックは本当に困ったような表情でディランに訴える。 「あいつってビクトールさん?いいじゃない、見られたって減るものじゃなし。返って喜ぶんじゃないの?たまには雰囲気変わって燃えるかもよ?」 「お前〜〜〜っ!!」 しゃあしゃあと言ってのけるディランにフリックはがっくりと肩を落とした。 絶対に、絶対に、絶対に見られたくなんてない。 こんな…姿見られるくらいなら…死んだ方がましだ…。 「でもよく似合ってるよ、フリックさん」 「言うなっ!!!」 真っ赤になって叫ぶフリックに、ディランはくすくすと笑った。 『じゃあ女装でもしてもらおうかな」』 カミューからの報告を受けたディランが発した言葉である。 その時は本当に冗談のつもりだったのだ。 けれど、村の女の子から理不尽な怒りをぶつけられて、ディランの堪忍袋の緒が切れた。 だいたい責められるべきはカミューであって、自分ではないはずなのだ。 それなのに、同盟軍のリーダーだというだけで、すべての責任があるように言われてはたまったものではない。それに、いくらダンスをしたことがないといっても、女側のステップを教えられていたことに気づかないフリックもフリックだ。 こうなったら、きっちりカタをつけてもらわなければ気がすまない。 そこで、冗談のつもりだったことを実行することにしたのだ。 「フリックさんにドレスを?」 綺麗に着飾って、収穫祭に出てもらう。そして、1週間必死で覚えたダンスの腕前を披露してもらおう、というのがディランの考えである。 ナナミはその提案にすぐに乗ってきた。 そして協力者として仲良しのニナを誘ったのだ。 フリックフリークのニナがこんな楽しい話を逃すはずがなく、二人はディランが期待した以上に素早く行動を起こしてくれた。 どこかから調達してきたドレスはそれはそれは見事なもので、レオナから借りてきたという化粧道具一式と共に、準備は万端となった。 あとはフリックを着飾るだけである。 大至急、重要な任務があるから、とのディランの言葉を信用してフリックが執務室にやってきた。そして、入ったとたん、背後でガチャリと鍵をかけられたことに気づき、顔色を変えた。 「いったいどういうつもりだっ!」 中にいる面子を見れば、はめられたということは一目瞭然である。 だいたい、ナナミとニナだなんて不吉極まりない二人組みだ。 フリックは目の前のディランを睨む。ディランはやれやれというように肩をすくめた。 「フリックさんて、ほんと人を疑うってことを知らないんだなぁ。そんなことじゃ、いつか身を滅ぼすよ」 「うるさいっ、ガキが大人をからかうなっ」 「はいはい。じゃあ、着替えてくれる?」 何が、「じゃあ」なんだ? フリックはニナが手にしている服を見て思わず後ずさった。 「お、おい…まさか」 「察しがいいですね。嫌だとは言わせませんよ。フリックさんのおかげで、俺は村の女の子たちから嫌というほど責められたんですからね。だいたい女のステップを教えられているのに気づかないなんて、意図的に企んだとしか思えませんね。ま、青雷のフリックともあろう人が、そんな世間知らずだということは黙っておいてあげますから、ぐだぐだ言わずにこれを着てください。そして収穫祭で練習の成果を思う存分発揮してください」 ディランがぱちんと指を鳴らすと、待ってましたとばかりにナナミとニナがフリックに飛びつく。 「よ、よせっ!!ふざけんなっ、ディラン、うわっ、どこ触ってんだっ、ニナっ!!」 女の子二人にしっかりと押さえつけられ、フリックは慌てふためく。 「フリックさん、絶対綺麗になるからっ、私たちの腕を信じてちょうだい」 「お化粧もね、レオナさんに教えてもらったから」 「フリックさん元がいいから、大丈夫よ」 「な、何が大丈夫なんだっ!!」 必死に身を守ろうとするフリックにディランが無情にもいい放つ。 「うるさいですよ、さっさとしないとダンスパーティ始まっちゃうでしょ」 ディランが悠々とソファに座って、次々と衣服を剥ぎ取られていくフリックを眺める。 ああ、そうだ、カツラがいるなぁとディランは思い、あとのことはナナミとニナに任せて、カツラを調達するために道具屋へと出かけることにした。 しばらくしてから部屋に戻ってきたディランが目にしたものは、それはそれは美しく変身したフリックの姿だった。なるほど、元がいいだけあって、化粧をしたその顔はなかなかの美人である。ブルーのドレスもよく似合っている。ディランが出来上がったその姿を見て、満足そうにうなづいた。 「とても綺麗ですよ、フリックさん」 「……お前、死にたいのか?」 ふるふると震えながらフリックが低い声でつぶやく。そんなフリックにはお構いなしで、ニナとナナミが自分たちの作品にうっとりと見惚れる。 「綺麗よぉフリックさん。こんなに綺麗だなんてちょっと口惜しいくらいだわ」 「ほんと、ほんと。ああ、これでまたフリックさんのファンが増えるのねぇ」 「だめよ、フリックさん、そんなに足を広げて座らないでっ」 「さてと、仕上げをしますか」 ディランが手にしたカツラを手にフリックに近づく。 「お、おい、まさか」 フリックが頬を引きつらせる。 「高かったんだよ、このカツラ。まったく余計な出費がかさんじゃったよ」 なら、そんなもの嬉しそうな顔して買ってくるなっとフリックが怒鳴る。 綺麗なブロンドのそのカツラをつけられてしまったフリックは、ちょっと見ただけではフリックと分からないくらいの美女に変身してしまった。 「ま、こんなもんでしょ。ちょっとは感謝してほしいよ。カツラのおかげで、誰もフリックさんだとは気づかないだろうからさ。ほんと、俺って情け深いよなぁ。じゃ行きますか、収穫祭」 情け深いだと?フリックは自分の耳を疑った。ディランは嬉々として出かける準備を始める。 「い、嫌だ。もう気がすんだだろ。俺をこんな格好にしただけじゃだめなのかっ!!」 「うん。これくらいで許してもらおうなんて甘いよ」 最悪だ。 女装ならカミューをさせればいいではないか。どうして、ある意味被害者ともいえる自分がこんな目に合わなければいけないのだろうか? フリックは自分の運の悪さをこれほど呪ったことはなかった。 嫌がるフリックを引きずるようにしてリトの村へと連れてきたディランは、広場がよく見える林の中でその足を止めたのだ。 「さて、と。じゃフリックさん。そろそろ覚悟を決めて、ダンスの輪の中に入ってもらいましょうか」 「い、嫌だ」 ぶんぶんと首を振るフリックをディランが冷たく見やる。 「何を今さら。まったく往生際が悪い人ですね」 「頼む、ディラン、何でもするから許してくれ」 「嫌です。ま、そうはいっても普段お世話になってるフリックさんですから、10人の男の人と踊ったら、それで許してあげますよ」 ニンマリとディランが笑う。 フリックは大きくため息をついた。 どうやらもう絶対に許してもらえそうにはない。ディランは一度言い出したらきかないヤツだし、もうすでに女装をさせられ、ここまで来てしまっているのだ。どれだけ懇願したところで、ムダであろう。 「行ってくる」 もう自棄である。こうなったらさっさと10人踊って踊って踊りくまってやる。 すくっと立ち上がったフリックにディランが声をかける。 「フリックさん、そんな大股で歩いちゃすぐバレちゃいますよ。せいぜい女らしくして、青雷のフリックだとバレないようにした方がいいですよ」 「……覚えてろよ、ディラン」 「はいはい。こんな楽しいこと、そうそう忘れたりはしませんよ。いってらっしゃい」 ひらひらと手を振るディランを背に、フリックは足元にからまるドレスをうっとおしそうに払いのけながら、楽しそうな歓声で盛り上がる広場へと歩き出した。 突如として現われた美女にダンスの輪に入っていた男性群は色めきたった。 美しいブロンドの髪に目の覚めるようなブルーのドレス。どこか恥ずかしそうにうつむいている仕草も何とも儚げで、思わず抱きしめたいと思いたくなる。 うっとりと美女をを眺める男性群、その様子にどこか不満げな女性群。 男連中は我先に一曲踊ろうとその美女…フリックにダンスを申し込んだ。 断りたくても声を出せば自分が男だと分かってしまうため、フリックはうつむいたまま、首を横に振るばかりである。男相手にダンスを踊るなんて気持ち悪くてできそうにない。しかし、10人と踊ればこの悪夢からも解放されるのである。しばらくダンスの輪の外で躊躇っていたフリックだが、とうとう意を決してダンスの輪の中に入った。 音楽に合わせて次々とパートナーが変わっていく種類のダンスだったため、思いのほか早く10人と踊れそうである。しかし、一人と踊る時間が異様に長い音楽なのだ。いったい、どれだけステップを踏めば終わるのだ、とフリックはニヤニヤと二やける男に手を取られながら心の中で毒づいた。 何しろ、何とか美女フリックとお近づきになりたいと目論んでる男性連中なので、いろいろと話しかけようとするし、隙あらば腰を引き寄せようとしたりするのだ。 少々背が高かろうが、肩幅があろうが、手がでかかろうが、腰が太かろうが、そんなことは関係ないらしい。単に死にたくなるほどの恥ずかしさのためにうつむいているフリックを、楚々とした可愛い女性だ、と勘違いした馬鹿者どもが何とかモノにしようとアタックしてくるのだ。 しかし、フリックから漂う「誰も俺に近寄るな!!」という不気味なオーラによって、誰も強引なことはできずにいた。 やっと一人目が終わったと思い、次のパートナーの手を取った時、相手が思わずその手を引いたことに気づいた。フリックは顔を見られないようにうつむいたまま、視線だけを上げてみる。 そこにいたのはマイクロトフであった。 思わず顔が引きつる。 「フ、フリック…殿?」 さすがに仲間を見間違うようなマイクロトフではないらしい。完璧な女装をしたフリックを見て、呆然としている。そりゃそうであろう。まさかダンスの輪の中にフリックがいるなんて思わない 「いったい…どうされたのですか?」 何とも軽やかにフリックをリードしながら、マイクロトフが小声で尋ねてくる。 「……どうもこうも…もとはと言えば、お前の恋人のせいだぞ」 「カミューが?」 「ああ、カミューのせいで、俺はこんな情けない格好をさせられてるんだからなっ!」 絶対にただではおかない。 フリックは心でそう誓った。 「フリック…殿…あの申し訳ない。カミューも悪気があったわけでは…」 マイクロトフが本当に気の毒そうにフリックに謝る。 「え、いや、別にお前が謝ることじゃ…」 しかし恋人の悪さは自分の監督不行き届きだと言わんばかりに、マイクロトフは恐縮している。 「と、とにかく、頼むから周りの連中に俺がこんな格好してるってことは黙っててくれよ。特に…」 ビクトールに、と言いかけた時にパートナーがチェンジされてしまった。 それにしても、フリックが絶対に会いたくないと思っているビクトールは収穫祭に来ているのだろうか?そろそろと周りを見てみると城の連中がけっこういるのだ。 何としてもビクトールにだけは見つかりたくない。 フリックは祈るような気持ちだった。 周りからの熱い視線を見ないよう、感じないように歯を食いしばってダンスを続けるフリックの手を、誰かが強く引いたのは、あと3人で10人達成という時だった。 強引にフリックの身体を引き寄せ、強くその手を握られぎょっとする。 嫌な予感がして顔を上げることができない。 「なかなかいい格好だな」 「……っ!」 聞きなれた声にフリックが凍りつく。 おそるおそる視線を上げると、そこには今日、一番会いたくなかった男がいた。 にやにやと嫌な笑いをその顔に浮かべたビクトールが、いた。 「フリックよ、お前にそういう趣味があるとは知らなかったぜ」 「だっ誰がだっ!!!ふざけんなっ!」 あくまで小声でフリックが怒鳴る。 最悪だ。最悪だ。最悪だっ〜〜〜!!!! フリックは目の前が真っ暗になるような気がしていた。こんな死にたいほどに恥ずかしい姿をビクトールに見られてしまうなんて、今すぐ舌を噛んでしまおうかと思うくらいだ。 そんなフリックに気づいているのかいないのか、ビクトールはフリックの腰を強く引き寄せたまま、その耳元で囁く。 「なぁ、助けてやろうか?」 「え?」 フリックが聞きかえすよりも早く、ビクトールがフリックの手を引きダンスの輪から走り出した。 「ちょっ…ビクトール!!??」 「ああああ〜脱走だ〜〜〜!!!」 いつの間に広場に来ていたのか。すぐそばの観客の群れの中にいたディランが叫ぶ。 注目の的だった美女をさらって逃げるビクトールに、周りの男連中からも雄叫びが上がる。タックルをして留めようとする者を投げ倒すようにかいくぐり、ビクトールがフリックを連れて村の中央からの脱出を図る。 「待って…ビクトール…」 長いドレスの裾が足元にからまり思うように走れないフリックが思わず叫ぶ。 足を止めれば追いかけてくる連中に捕まってしまう。 ビクトールは舌打ちするとふわりとフリックを担ぎ上げた。軽々と…というその仕草にフリックはまたもやパニックになる。 「お、おいっ!!何しやがるっ!下ろせよっ!!」 「まともに走れねぇくせに、文句言うな」 まるで大きな荷物を担ぐかのように、肩の上に抱えられ、それでもビクトールはいつものように走り出した。追ってくる村の男たちを振り切り、用意してあった馬にフリックを乗せると、自分も素早く飛び乗る。 「お姫さま奪還だな」 馬を走らせながらビクトールが喉の奥で笑う。 二人を追っていた連中も、さすがに馬で逃げられてはどうすることもできず諦めたようだった。 「ああ…あとが恐いな…」 フリックはがっくりと頭をたれた。 きっとディランは鬼のように怒っていることだろう。 城に帰ってからのことを思うと何とも気がめいってしまう。 「まぁ何とかなるだろうさ、あいつもそこまで執念深くはねぇよ」 他人事だと思いやがって…とフリックは舌打ちする。 しばらく馬を走らせていたビクトールは湖の近くでその足を緩めた。 「さぁてと、一休みすっか」 ひらりと馬を下りて、ビクトールがフリックへと腕を差し出す。まるでどこかの淑女にするようなその仕草にフリックが真っ赤になる。 「お前…俺を女扱いするなっ!」 「ふぅん、ま、いいけどよ、こけるなよ」 長いドレスの裾を引き上げ、フリックが何とか馬から下りる。思いの他長いドレスは足元を危うくする。着地する瞬間にバランスを崩して倒れそうになったフリックを、ビクトールが抱きとめる。 「だから言っただろ?」 「う……おい、手を離せよっ」 「まったく、憎まれ口ばかり叩きやがって、助けてやったんだ、ちったぁ感謝してくれてもいいんじゃねぇか?」 「………お前にだけは見られたくなかったのに…」 フリックはぼそりとつぶやくとビクトールの腕を払って、湖の方へと歩き出した。やれやれと肩をすくめ、ビクトールは馬を手近な樹の幹につなぎとめた。 ぱしゃぱしゃと水音が聞こえる。 フリックは顔中に塗りたくられた化粧を落として、カツラを脱ぎ取った。やっと、ひと心地ついてビクトールの元へと戻ってくる。 「ああ、ひどい目に合ったぜ」 「飲むか?」 ビクトールが手にした酒瓶をフリックへと掲げる。 受け取ったフリックが美味そうに飲み干す様をビクトールはじっと見ていた。嫌な視線に気づいたのか、フリックが少し身を引きながらビクトールを見る。 「な、何だよ…」 「いや、そういう格好してても、やっぱお前なんだなと思ってよ」 「あ、当たり前だろっ、くそっ、お前どうして俺の服を持ってこなかったんだっ、酒よりもそっちの方が必要だってことくらい分からなかったのか?」 「そういう格好してるお前とやるってのも楽しいかと思ってよ」 「え?」 フリックが聞きかえすよりも早く、ビクトールがその場にフリックを押し倒す。慌てたフリックがビクトールの胸に腕を張る。 「ば、馬鹿ヤローっ、何、盛ってんだよっ!!退けよっ、この熊っ!!」 「レディがそういう口をきくんじゃねぇって、せっかくの別嬪が台無しだぜ」 「誰がレディだっ!!!や…めろ…っ」 ビクトールの手がドレスの裾から忍び込んでくる。 「う…やめろっ…て…」 ごそごそとドレスの下のレースのペチコートをかいくぐり、ビクトールの大きな手のひらが、フリックの脚の間を彷徨う。 「な、いいだろ?助けてやってお礼だ」 「だ、誰も頼んでないっ!!」 「じゃ仕方ねぇな、無理矢理奪うことにすっか」 だったら「いいか」なんて聞くなっ!!!フリックは降ってきたビクトールのキスを受け止めながら、心の中で怒鳴った。 熱い舌先がゆったりと口腔を舐めていく。 首の後ろを太い腕でしっかりと抱えられて、ほんの少しも顔を動かすことができない。 何度か溢れる唾液を夢中で飲み込んだが、含み切れなかったものは、やがて薄く開いた唇の端から顎へと流れた。フリックがぐったりと身体の力を抜くと、やっとビクトールは唇を離した。 「………な、いいだろ?」 この期に及んでまだ聞くか? フリックが目元を赤くしたまま拳で力なくビクトールの胸元をたたいた。 それが合図。 「んっ……」 ビクトールが下着の上からフリックの花芯に触れた。その形を確かめるように、何度か指先で上下させる。もどかしいようなその触れ方に、フリックはきつくビクトールの腕を掴んだ。 「なん…っん…」 「ん〜?足りねぇよな、こんなんじゃ」 「人を…淫乱みたいに言うなっ」 毒づいたフリックに低く笑って、ビクトールがどさりと本格的にフリックの上にのしかかった。 片手でドレスを捲り上げてフリックの脚を開かせるとその間に身体を割り込ませる。しっかりと固定して、動かせなくしてから、悠々とフリックの顔を覗き込む。 薄闇の中、フリックが目を伏せた。 胸元のリボンを外して、ブラウスを開くと、見慣れた白い肌が現れる。いつもと違う、ごちゃごちゃと飾りのついた服を脱がせることが妙に楽しかったりする。ビクトールはフリックの首筋を舌で何度か舐めたあと、噛み付くように白い肌に歯を当て、きつく吸い上げた。 「あっ…」 思わず仰け反ったフリックの背に腕を差しこみ、身体を密着させると、耳の後ろから鎖骨の辺りをしつこいくらいに味わった。唇が触れた場所にはすべて赤い印が残される。それは自分のものだ、という印。 何度かそんなことを繰り返しているうちに、ビクトールの手の中で、フリックの花芯が形を変えた。 「んっ…ああ…」 「待てって、ちゃんと触ってやるから」 ビクトールが舌なめずりせんばかりに耳元で囁いて、フリックのものを直にその手で包んだ。 その瞬間、フリックはびくっと全身を強張らせた。 ゆっくりと上下するビクトールの指に、溢れ出した蜜がからみつく。徐々に早くなっていく指の動きに、フリックが熱い息を洩らした。 「ふっ…ぅん…んっ、ん…」 くちゅ…っと濡れた音が聞こえた。 フリックは堪らずビクトールの首筋にその顔を埋めた。 「何だよ…恥ずかしいってか?」 「うるさい…あっ…ああ…!」 すっかり勃ち上がったフリックの先端からはとろりと透明な液が流れ、ビクトールの手を濡らしていた。擦れば止めどなく溢れてくる。素直な反応にビクトールは笑みを浮かべた。 「フリック…口でやってやろうか?」 「いらな…っ…んぅ…ん」 可愛くねぇな、とビクトールが笑い、さらに指の動きを速めた。押し殺したフリックの熱い吐息ががビクトールの首筋にかかる。フリックの花芯がビクビクと震え始めた頃、ビクトールはきゅっと根元を締め付け、放出を止めた。 「なっ…」 痛みにフリックが思わずビクトールを見上げる。 「出したいだろ?んじゃ、そう口にしてみな」 自分からおねだりの言葉を言ってみな。意地の悪いビクトールの言葉にフリックは唇を噛む。さんざん高められたそこはじんじんと脈打っていて、今にも弾けそうな気がするのに、きつく根元を抑えられ、そのくせ中途半端に先端を刺激されては我慢のしようがない。 期待に満ちたビクトールの表情が憎たらしい。フリックはくそっと吐き捨て、ぐいと腰をすり寄せるとビクトールの耳元で囁いた。 「……イかせて」と。 ふわりとドレスの裾がフリックの顔を掠めた。 目を開けると、ビクトールの身体と自分の脚。 脚?とフリックはぼやけた意識の端で考える。それはビクトールの肩に抱えあげられた自分の脚だ。どうりで股関節が痛いはずだ。 「フリック…挿れるから…力抜け」 どこか欲情したような男の声。 下肢はもう力が抜けたように感覚がない。さっきからさんざん嬲られ、もう二度も自分ばかりがイかされた。フリックとしてはもうどうにでもしろ、という感じなのだが、ビクトールはこれから本番なわけで… 「んっ…いたい…」 「ああ?まだ挿れてないのに、何が痛いんだ?」 びっくりしたようにビクトールがフリックの顔を覗き込む。 ぬるりとしたビクトールの先端がひくつくフリックの蕾の周りを撫でる。少し力を込めれば吸い込まれるほどにそこは柔らかく解けていた。もっと泣かせてみたい気もしたが、どうせならフリックの中に収まってから泣かせてみようと、ビクトールはゆっくりと腰をすすめる。 「ひっ…あっ…脚……」 脚が痛い、と言うフリックにビクトールは低く笑う。 「ああ…ちょっとくらいは我慢しな」 そのうち痛いのなんて感じなくなる。 フリックの腰を掴み、ビクトールがぐいと自身を突き入れた。 「あっ…ああっ!んっ…」 「くっ…ばか…力抜けっ…」 太い先端を容赦なく締め付けられ、ビクトールは思わず腰を引く。瞬間、力を抜いたフリックの肩を押さえこむようにして、今度はほぼ一息で全長を収めきってしまう。 「ひ…ああ…ンっ…う…」 身の内で脈打つモノを感じて、フリックは大きく胸を喘がせた。 ビクトールの手のひらがフリックの髪を撫でた。痛みを忘れさせるかのように何度も。 片手でフリックの花芯を握り、あやすように先端をいじる。 「ああっ――」 フリックが小さく悲鳴を上げた。 「も…いいから…さっさとやれっ…」 でなければ、自分から動いてしまいそうな気がして。 突き入れられたまま動かないビクトールに業を煮やして、つい口走ってしまったフリックに、ビクトールは答える代わりに緩く腰を回した。 「ふ…んっ…あ…あぁ…」 「フリック…」 どこか上ずったビクトールの声。 噛み付くように唇を合わせ、フリックの身体の奥を突き上げる。 「ひ…ぁ…ああぁ…」 耐えられないというように口元を塞ぐフリックの指先に、ビクトールが舌を這わせる。 そして、視線を合わせてうっそりと微笑む。 甘い痺れが全身を駆け巡った。 「とりあえず、女装してダンスもしてもらったから、いいんですけどね」 ディランが不満いっぱいという表情で目の前のビクトールとフリックを睨む。 収穫祭の次の日、朝のレストランの隅で小さくなって食事をしていたフリックを目ざとく見つけたディランは、ここぞとばかりに詰め寄ったのだ。 「どうしてドレスを返してもらえないんですかっ。あれ、借り物なんですよ」 「だ、だから…それは…」 フリックが言葉に詰まる。 ドレスは結局ドロドロになってしまったのだ。二人分の汗と精液で。そんなもの、いくら洗ったからといって返せるわけがない。 「まさか、気に入ったとか言うんじゃないでしょうね〜」 ディランが不気味そうにフリックを見る。 「ば、馬鹿なことを言うなっ!!」 「まぁまぁディラン、お前もそろそろ大人なんだしよ、その辺の事情は察してくれや」 ビクトールがニヤニヤとディランを見上げる。 しばらく考えていたディランは、ふぅんというようにうなづいた。そして、ビクトールにニヤリと笑った。 「女装させないと、その気にならないなんて、歳を取った証拠なんじゃないの、ビクトールさん」 「なっ!!!何だと、こらっ!!」 ![]() 「はいはい。お二人の、いやビクトールさんのこれからの夜の生活のために、ドレスは進呈しますよ」 大きな誤解である。 しかし真実を告げられるよりは、ビクトールに妙な性癖があると思われていた方がまだましだ、とフリックは思った。いや、しかし、自分がそれに毎晩つき合わされていると思われる方が問題か?? どちらにしても大差ない…と、大きくイスに沈み込み溜息をつくフリックであった。 |
樹林さんからイラストをいただきましたよ(樹林さんの「KIRIN ONLY」はこちらから) |