「お兄ちゃん! 大変、大変だよ〜!」 オレの妹、瀬ヶ崎ともみ(せがさきともみ)が 血相を変えてオレの部屋に入ってきた。 「ん? どうした? そんなにあわてて…」 オレは自室のベッドに横たわりながら、 のんびり漫画雑誌を読んでいた。 「あのね…。驚かないで聞いてね」 「ああ、解ったから早く言え」 どうせたいしたことない戯言を 延々と聞かされるのだろうなぁと、察したオレは、 漫画雑誌を読みながら、ぶっきらぼうに答えた。 「お兄ちゃん! これから私がとんでもないビックニュースを 披露しようとしているのに、その態度はないでしょう!?」 「解った、解った。聞いてやるから早く言ってみろ」 オレは仕方なく漫画雑誌を閉じて、 わざとらしくともみの顔を直視してやった。 「そ、そんなに見つめられると恥ずかしいよぉ…」 ともみは恥ずかしそうに「ポッ」っと頬を赤らめた。 「うるさい! 早く言え! オレはお前のベタな反応に付き合っていられるほど、 暇じゃないんだよ! オレのスケジュールは秒間刻みなんだよ! 解ったか!? じゃあな! マイシスター!」 オレはそう怒鳴りながら相撲のツッパリで、 ともみを部屋の外に追い出してやった。 「あぅ…、酷いよぉ…」 「バカを言え、被害者はオレだ。お前の所為でオレは2分も時間を浪費したんだぞ。 2分も! つまり2分も寿命を縮めた訳だ。返せ! オレの青春を返せ!」 「そ、そんなの屁理屈だよぉ!」 「うるさい! とにかくお前が悪いんだ! 今日の悪役はお前なんだよ! うわあああああああん!(棒読み)」 「泣きたいのは私の方だよぉ…」 オレは時々、こうやって妹と遊んでやっている。 (「からかっている」の方が正確かな?) 何故ならば、ともみにはオレ以外に家族がいないからだ。 もちろんオレもともみ以外に家族がいないわけだが、 ともみの場合、生まれたばかりで両親と死別した。 親戚の人の話によると交通事故だったらしい。 だからともみは両親と一緒に過ごした記憶がない。 それでオレらは母方の伯父の家に引き取られた。 伯父の夫婦には子供がいなかったので、 本当の家族のように接してもらった。 今思えば、不幸中の幸いだったと思う。 そのおかげで、今までオレら兄妹は、 何不自由なく生活できたわけだ。 伯父の夫婦には本当に感謝している。 いくら感謝してもしたりないぐらいだ。 でも、本当の両親ではない。 どんなに上手く『家族』を装っても、 どうしても微妙な違和感が生じてしまう。 ともみもその違和感を感じているみたいだ。 その所為なのか、ともみはオレによく懐いてくれる。 ともみが小学校に上がる頃までは、 ウザいぐらいオレにベッタリだった。 毎日、何時いかなる時でも、オレの後についてきていた。 オレが学校から帰ってきたら、待ってましたと言わんばかりに、 「遊んで! 遊んで!」と「遊んでコール」の毎日だった。 流石にトイレまで一緒に入ってきた時は驚いたが、 そんなともみの気持ちは解らなくもなかった。 オレ自身も『本当の家族』を求めていたからだ。 しかし、オレとともみは兄妹だ。 兄妹には兄妹の『距離』がある。 お互いに近過ぎてもいけないし、遠過ぎてもいけない。 この『距離』は本当に微妙だと思う。 だからオレは、ともみがオレを求めて近過ぎる距離になった時は、 出来るだけ突き放すようにしている。 そうすることでオレらの距離は保たれるのだ。 ともみが淋しくならない距離で、 オレがともみに特別な感情を抱かない距離。 その距離をコントロールすることが、 兄の義務なんだと、オレは思っている。 「で?」 「え? なぁに、お兄ちゃん?」 「だから、オレにとんでもないビックニュースを聞かせに来たんだろ?」 「あ! そうだよ! 大変なんだよお兄ちゃん!」 「いや、だからなんなんだよ、その大変なことって」 「あのね、私ね、あと3ヶ月の命なんだって!」 ・ ・ ・ つづく ---- あとがき --------------------------------------------- はい、今日はいつものネガティブ日記とは打って変わって、 兄妹愛のラブコメですが何か?(笑) なんか、微妙なところで終わっちゃってますが、 これから不定期で連載しますので、短い間ですがお付き合いください。 |
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文章:ATF (2002年3月4日) |