兄妹の距離

第ニ話


正直、ドキッとした。
それもそうだろう。
いきなり自分の妹の命が、あと3ヶ月だなんて聞かされて、
驚かない兄はいない。
しかし、何かおかしい。
何か違和感がある。
そうだ、何故このバカは、あと3ヶ月の命だっていうのに、
のほほんとしていやがるのかだ。
しかもこのバカ、「どうだ、驚いたか!」と言わんばかりに誇らしげだ。
普通、あと3ヶ月の命と知ったら、失意のどん底だろ?
必死に延命する為に緊急入院だろ?
だのになんだコイツの余裕っぷりは?
そこでオレは、一つの仮説を導き出した。
それは、ともみがオレに「虚偽の報告」をしたという可能性だ。
平たく言うとウソをついたということである。
ともみの分際でオレ様にウソをつくとはけしからん。
よし、ここは一つ、この悪たれを懲らしめねばならんな。

「ふーん」

オレは思いっきり興味なさそうに、この話題をスルーしてやった。
ヘタに驚いたりしたら相手の思うツボだ。

「えっ! あれ!?」

「ん? どうしたともみ?」

オレはワザとらしく聞いてやる。

どうして驚かないの? 普通、驚くでしょ?

「驚くか驚かないかはオレが決めることだ。
つまりお前のネタはその程度だと言うことだね。
もっと精進したまえよ? ともみくん。カッカッカッカッカッ!」

どっかの古風な社長風に笑った。
もちろん皮肉の意味をこめてだ。

「うぅーっ! ネタじゃないもん! ホントだもん!」

ともみは顔を真っ赤にして反論した。
このへんで非を認めればいいのに…。
よし、ならば徹底的に質問攻めしてやる。


「ほう、ネタじゃないとするとお前の死因はなんだ?」

「し、しいん…? 試飲?」

「違う! テイスティングしてどうすんだよ! お前が死ぬ原因のことだ!」

「そ、それは…」

「んー? どうした? 言えないのか?
こっちはお前に聞きたいことが山ほどあるんですがねぇ。
はい、落ち着いて言い訳考えてね」

「うぅーっ!! お兄ちゃん、いじわるだよーっ!」

「いじわるなもんか! 死因もわからないのに3ヶ月後に死ぬなんて聞かされて、
納得するヤツはいるわけないだろう!?」

「うぅ…。だって、そこまで教えてくれなかったんだもん…」

「教えてくれなかったって、誰から聞いたんだ?」

「占い師のおじさん…」

「はぁ? 占い師!?」

「うん、今日、学校の帰り道で声をかけられて…」

「で、貴方は3ヶ月後に死にますよって言われたのか?」

「うん、あのね、そのおじさんスゴイんだよ!
初対面なのに私の名前を知ってたの!
年齢も学校の名前も全部知ってたんだよ! スゴイよね〜」

「んで? そいつ、今どこにいるんだ?」

「え? なんで? 駅の方に歩いていったから、たぶん駅かなぁ…」

「ん? ちょっとそいつをな、ぶん殴ってきてやるんだ!」

「えっ! ケンカはダメだよっ!」

オレはダッシュで駅まで行こうとしたのだが、
ともみのヤツが慌てて引き止めやがった。

「バカ! そいつは変質者だ! なんで3ヶ月後に死ぬなんて言ったのかは解らんが、
いや、解りたくもねぇが、絶対にお前の身辺調査をしているぞ、そいつは!
ひょっとしたらストーカーかもしれん! オレが警察に突き出してやる!」

「でも、でもっ! ケンカはダメだよぉ!」

ともみはオレの腕にしがみついて、強引にオレの動きを封じる。
服の上からだが、ともみの体温を感じた。
ついでに胸の膨らみも。
む!? こいつ、前より少し大きくなったんじゃないか?
うむ、この状況は悪くない。
もうしばらく、こうしていようかな?
いやいや、そういうわけにはいかん!
このバカをなんとかせねば。

「あのなぁ、お前は他人の心配するより、自分の心配をしろ!
お前、そいつにつきまとわれてるんだぞ! 怖くはないのか!?」

「うぅ…、ちょっと怖いかも…」

「つきまとわれて、自分の家まで来ちゃうんだぞ、そいつが!
そんで、お風呂とか覗かれちゃうんだ! んで、
『えへへ、ともみちゃんのおっぱい、また大きくなったね。ハァハァ…』
とか言われちゃうんだぞ!」

「うぅーっ! 怖いよー、お兄ちゃんがっ!」

「バカ! オレじゃないだろ、怖いのは!
怖いのはそのストーカーの方だ!」

「う〜、だってホントに恐かったんだもん。迫真の演技っていうカンジで。
お兄ちゃんが本物のストーカーさんになっちゃったのかと思って、
ちょっと心配しちゃったよぉ…」

「お前に心配されたくねぇよ! バカ!」

ポカッ!と、ともみの頭を殴ってやる。

「いったぁい!」

「教育的指導だ…。オレも辛いんだよ…」

「そんなのキベンだよぉ…」

「まぁ、今日はお前のタンコブに免じて許してやるが、
またそいつがお前の前に現れたら、速攻でオレに言えよ。
いいな? 解ったな!?」

「うん、わかった!」

ともみはニコッと微笑んで答えた。
いつもこう、素直だったらいいんだけどな…。

「あのね、お兄ちゃん…」

ともみがあらたまって、何か言おうとモジモジしている。
なんだろう? まだ他に何か問題があるのだろうか?

「ん? なんだ?」

オレがそう、やさしく発言を促してやると…。

「んっとね、いつも守ってくれて、ありがとう…」

そう言って頬をほんのりピンク色に染めたともみは、
走ってオレの部屋を出て、階下へと降りていった。

なんつーか、あの表情って…。

いや、オレらは兄妹だ。
そんなハズはない。
と、信じたい…。



つづく


---- あとがき ---------------------------------------------

どもども、ATFです。今回も読んでくれてありがとうございます。
第一話の文章量が少なかったので、2話目を早めにアップしました。(当社比)
まぁ、一話分の文章量はそれほど多くないので、短いスパンで書いていきたいな、
と思っているのですが、その意気込みがいつまで続くことやら…。(汗)
鋭意努力いたします。
文章:ATF

(2002年3月8日)

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