兄妹の距離

第六話


「ねぇ…、見て…、お兄ちゃん…」

ともみ

「な…、なにやってんだよ…ともみ!」

オレはビックリして、つい声を荒げてしまった。
そりゃ、ビックリもするだろう。
学校から帰宅し、自室に戻ってきてみたら、
オレのベッドの上で、実の妹がスカートをたくし上げていたのだから。

「は、はやく、前を隠せバカ!」

オレは目のやり場に困って、あわてて後ろを向いた。

「ダ、ダメだよお兄ちゃん! わたしのココ、ちゃんと見て…」

「バ、バカっ! 今日のお前、ちょっとおかしいぞっ!」

「わたしはおかしくないもんっ! おかしいのはお兄ちゃんの方だよっ!」

「はぁ? オレのどこがおかしいって言うんだよ!?」

ともみがおかしなことを言うので、つい振り返って見てしまったら、
ともみのスカートの中の「白い逆三角形」がオレの目に飛び込み、
オレはドギマギしながら再び後ろを向く。

「だって…、その…男の人って…こういうのを見るのが好きなんでしょ?
お兄ちゃんのベッドの下にあった本に、こういうことをしている
女の子がいっぱいいたもん!」

このバカ。
どうやらオレ様秘蔵のエロ本を読んでしまったみたいだ。
やっぱり「ベッドの下」はみつかりやすいのか?
「ベッドの下」なんかに隠すんじゃなかった!

「バカっ! だからってお前がそれを真似する必要はないだろう!?
これ以上オレを困らせないでくれよ、ともみ…」

「でも…、今日はお兄ちゃんにとって、特別な日だから…」

「ん? 今日ってなんの日だっけ?」

「えっ、今日がなんの日か忘れちゃったの? お兄ちゃん…」

「スマン…。教えてくれ、ともみ」

「あのね、今日はお兄ちゃんの誕生日だよ…」

「あっ! あぁ〜、そういえばそうだ。今日はオレの誕生日だ」

「おめでとう、お兄ちゃん」

「ありがとう、ともみ…って違うだろ! どうしてオレの誕生日に
お前がスカートをたくし上げる必要があるんだよ!?」

「えっ? えっと…、だから、あのね…。最初はね、お兄ちゃんが好きな物を
作ろうと思ったんだけど、お兄ちゃんが好きな物ってなにかな? と思って、
お兄ちゃんに好きな物を聞きたかったんだけど、お兄ちゃんがいなかったから、
お兄ちゃんの部屋に行けばなにかみつかるかな? と思って、
お兄ちゃんには悪いかな? と思ったんだけど、お兄ちゃんの部屋へ行って
ベッドの下を調べてみたら、ちょっと…その…えっちな本が出てきて…、
その…お兄ちゃんって、こういう娘が好きなのかな? と思って…」

ともみは顔を真っ赤にして、ドキドキしながら、たどたどしく説明した。
ちょっと解り難い説明だが、ともみが一生懸命説明していたので、
なんとなく言いたいことは理解できた。(理解してやった)
つまり、オレの好きなモノ(好きな事)っていうのは
「えっちなコト」だと思ったんだろうな、ともみは。

「だからって、そんな…」

「わっ、わたしじゃダメかな…?」

「えっ?」

「やっぱり、わたしなんかじゃ…ダメだよね…?
わたしなんかじゃ、お兄ちゃん、萌えないよね?」

「バカ、そういうコトじゃなくって…」

「じゃあ、お兄ちゃん! わたしのこと…わたしのこと、抱いてくれる?」

「お前、今なにを言ってるのか、わかってるのか?」

「も、もちろん、わかってるよ…」

「今、声が1オクターブぐらい上がった気がするぞ?
ホントは解ってないんじゃないのか?」

「うぅ〜、わかってるもん! わたし、お兄ちゃんの本を読んで勉強したもん!
わたしにだって出来るもん! お兄ちゃんを喜ばすこと出来るもん!」

「ともみ…」

「わたし、バカだから…、こんなことでしか、
お兄ちゃんを喜ばすこと出来ないんだよ…。
でも、でもね、お兄ちゃん! わたしは本当にお兄ちゃんを喜ばせたいんだよ…。
いつも、いつも、お兄ちゃんに守ってもらっているから…。
少しでもお兄ちゃんにお返ししたいんだよ…」

「ともみ、気持ちは嬉しいんだが…、その、そこまでしてもらわなくっても…」

「ううん! ダメだよ! そこまでしなきゃわたしの感謝の気持ちは伝わらないんだよ!」

「いや、しかしだなぁ…オレ達は兄妹だし…」

「そんなの関係ないよぉ!」

「あぁ、そうだ! そういうことは好きな人とするべきだから…」

「わたし、お兄ちゃんのこと…好きだよ…? 大好きだよ?」

「いや、それはたぶん違う「好き」だと思うぞ?」

「そんなことないもん! わたし、お兄ちゃん以外に好きな人なんていないもん!
お兄ちゃん以外に、好きになる人なんて、一生現れないもん!」

「ともみ…」

「わたしの「はじめて」、お兄ちゃんにあげたいな…」

オレは一瞬、思考が停止した。
というよりも理性がマヒして、
ものすごくモラルを逸脱した、いけない妄想をしていた。

「近親相姦」

不毛な妄想である。
そんなことが許されるハズがない。
伯父さんに伯母さんはもちろん、てっちんに高橋先生に
山本くんに遠藤さんに矢島さんだって許してくれないだろう。
ようするに「世間を敵にまわす」ような行為なのだ。

しかし、
今、手をのばせば…。

ちょっと手をのばして、オレの胸に抱き寄せれば…。

ともみ…。

オレもお前のこと…。

「お兄ちゃん…」

「ともみ…」

オレ、世界中の人間を敵にまわしても…。
お前のこと…。

「お兄ちゃん…、お兄ちゃん!」

「ともみ…」

「お兄ちゃん! お兄ちゃん! 早く起きてよ!」

「えっ!? どうした? ともみ?」

「早く起きないと遅刻するよっ!」

ともみの声と、ゆさゆさと揺り起こされているのが、
おぼろげに認知できた。
そしてそれと同時に少しづつ覚醒してゆく。
これはつまり、さっきのは全部夢っていうこと!?
あっ、そっか!
昨日は教室で寝たから、あまり疲れがとれなくて、
余計疲れて帰ってきたから、いつもより早く寝たんだっけ。
しかし最近、オレって寝てばかりいるような…。

「あっ、やっと起きた! おはよう、お兄ちゃん!」

覚醒一番にともみの笑顔を見た。
なんか…、いつもよりかわいく見えるような…。

「……。お、おはよう…」

オレは何故かテレくさくて、ともみの顔を直視できなかった。

「あれ? お兄ちゃん! 顔が赤いよ? お熱でもあるの?」

そう言ってともみはオレの額に自分の額をあてて、オレの体温を計った。
突然、オレの目の前にともみの顔が現れる。
ちょっとドキドキして、体温が1、2度上がったかもしれない。
正直この「ともみ体温計」の計測結果ほどアテにならないものはない。
そしてオレの額にもともみの体温を感じた。
とても心地良く、いつまでもこうしていたい時間。
しかし、その時間は30秒ももたなかった。

「んーと、ちょっと…あるかな? 熱…。今日は絶対安静だよ? お兄ちゃん!」

「バーカ、あるワケないだろ熱なんて。早く学校へ行くぞ」

「お前の所為でドキドキしたから体温が1、2度上がりました」とは
口が裂けても言えるワケがなく、少しぶっきらぼうに返答してベッドからおりた。

「う、うん…」

ちょっと困った顔をして頷くともみ。
親切心で言ったことなのに、冷たくあしらわれたら、
そんな気持ちにもなるだろう。

「ま、まぁ、その…、ありがとうな、毎日起こしてくれて…」

「う、うん!」

にぱっと笑顔になるともみ。
やっぱりともみは笑顔になったほうが可愛い。
でも、その笑顔を見るとオレの心はチクチクと痛む。
何故ならば、あんな夢を見てしまったからだ。
自己嫌悪。

「あっ、あとハイッ! お兄ちゃん!」

オレが自室から出て階下へ降りようとしていた時、
後ろからともみの声がして、綺麗にラッピングされた包みをオレに手渡した。

「なんだよ…コレ?」

「お誕生日プレゼントだよ! お誕生日おめでとう、お兄ちゃん!」

またオレの胸はチクリと痛む。

「きょ、今日だったっけか?」

「うん、そうだよ! わたしね、昨日お兄ちゃんが寝ちゃった後、
伯母さんと一緒にクッキーを焼いたんだよ!」

「へぇ…、中身はクッキーかぁ。ありがとな、ともみ」

「えへへ…、はじめてだったから、あんまり美味しくないかもしれないけど…」

「は、はじめてね…。ははは…」

またまたオレの胸はチクリチクリと痛んだ…。
はぁ…。自己嫌悪…。



つづく

---- あとがき ---------------------------------------------

ぽこへっずの弐紫さん、本当に多謝です! 貴方の絵のおかげでこの第六話が完成したようなものです。あと読者の皆様、4日も更新サボってゴメンなさい…。別に職場バレしたワケではありません。(笑)さて、本格的に(;´Д`)ハァハァ小説になってきた『兄妹の距離』ですが、はたして読んでる人はいるのでしょうか?(汗)正直言っていつもの日記についてのメールはいただくのですが、この『兄妹の距離』についてはサッパリなんです。(笑)駄文でゴメンなさい。空気を吸っててゴメンなさい…。さぁて、明日も仕事だ!(鬱だ氏のう…)
イラスト:弐肆
文章:ATF

(2002年7月7日)

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