「んむ〜〜〜」
 頭がガンガン痛い。もう少し眠っていたい気もするが、今までの習慣か、体は起きろ起きろと2度寝を許してはくれそうにない。
「んあ……」
 寝ぼけ眼を擦りながら、天井を見つめる。別段変わったことはない、いつもと同じ天井。もっともこの艦の中にいれば、乗組員に与えられる部屋など同じ天井を持つものばかりだが。
「昨日、そんなに飲んだっけな……」
 昨夜のことを思い出そうとするが、頭痛がそれを阻み頭が働かない。考えるのも億劫になり、無理にでももう一眠りしようかと寝返りを打つ。と。
「………………のわあああぁぁぁーーー!!」
 ドガンッ!
「ゲフゥッ!」
 寝起きの自分の横にあるはずのない、良く見知った顔がアップで現れて、カチーナの体は意識より早く反応していた。蹴り飛ばされてベッドの下まで転がり落ちた男は、頭を振りながら顔を上げた。
「イツツ……あれ、カチーナ中尉?なんで俺の部屋に……」
「なっ、それはアタシのセリフだろがっ!テメエこそなんでアタシの部屋に入り込んでんだっ!」
 カッとなったカチーナはベッドの下のラッセルに飛び掛り、馬乗りになると胸倉を掴んで顔を引き寄せた。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。ここはたしかに自分の部屋ですよ」
「テメェ、まだ言い訳する気かっ。良く見てみろ、ここはアタシの……あ、あれ?」
 ふと視線に入る部屋の内装に、我が目を疑う。あるはずのものがなく、ないはずのものがある。ということは、ここは……。
「オマエの、部屋か?」
「だからそう言ってるじゃないですか。とりあえず、どいてもらってもいいですか?」
「ん、ああ、わりぃ」
 気が動転しながらも、とりあえずラッセルの体から離れ、しばしぼーっと考える。
(アタシ、なんでラッセルの部屋で寝てんだよ。昨日の晩、何があったんだ?)
 いくら考えても答えが出ず、頭痛もあって考えること自体がイヤになる。ぼーっと部屋中に視線をさまよわせていると、ふと、真っ赤な派手なボディコンを着た女性の姿が目に入った。
「げっ!」
 それは、大きな姿身に映る自分自身の姿だった。  思わず、こぼれかけていた胸元を両手で覆う。
(な、なんでアタシこんなカッコしてんだよ)
「中尉……そのカッコ……ああっ!」
 急に背後で大声を出され、カチーナはビクリと肩をすくませる。
「な、なんだオマエ、驚かすなっ」
「中尉……昨日のこと、覚えてないんですか?」
「昨日って、なんのことだよ。じ、ジロジロみるなっ」
 真っ赤な顔をして、体を小さく丸め、ラッセルの視界に入る面積を少しでも減らそうとする。そんなカチーナを見て、ラッセルは立ち上がり、笑顔を浮かべながら近寄っていく。
「な、何だよ……」
 怪訝な顔で見つめるカチーナ。
「……カチーナ」
「お、おま、呼び捨てって、ふぐっ」
 急に名前で呼ばれ戸惑っている隙に、ラッセルの顔があっという間に目の前に近づき、唇を塞がれた。
「うぐーーーっ、んーーー……ん〜〜……」
 最初は抗おうとしたものの、唇をふさがれ進入してきた舌に口内を舐め回されると、どこか落ち着く感じを覚え体に力が入らなくなってしまう。カチーナが完全におとなしくなったのを確認してから、ラッセルはゆっくりと唇を離した。
「……思い出しました?」
「あ……ん……っ!!」
 心地よいくちづけの後味に酔っていたカチーナは、ラッセルの言葉に、昨夜の秘め事が一気に脳裏を駆け巡った。
「う……ううう〜〜……」
 どんな顔をしていいのかわからず、顔中をゆでだこのように真っ赤に染めながら、カチーナは思わず唸る。
「お、オマエッ、勘違いするなよっ!昨日のは、あの、その、何でもねぇんだからなっ!」
「はい」
「うーーーっ」
 バツが悪いのか睨みながらうなり続けるカチーナに苦笑しながら、ラッセルは風呂を沸かす為に洗面所へ向かった。すでに絶頂に翻弄されて意識を混濁させていたカチーナを、欲望に任せて何度も突き上げ、精を放った。激しい性交を何度も繰り返し、やがて体力も尽きた二人は、そのままベッドの上に倒れこみ泥のように眠ったのだった。
 風呂にも入らずに眠りについたため、二人の体は様々な粘液にまみれたまま。乾いた精液が白くこびりついたりしている。自分はまだしも、カチーナをこの格好のまま部屋に戻すわけにもいかず、とりあえず風呂を沸かすことにしたのだった。
「とりあえず、風呂入れますから、入っていってくださいね」
「……うーーーっ」
 いまだ唸っているカチーナに、ラッセルは思わず笑みがこぼれた。その時。
「敵襲、敵襲。総員、第一種戦闘配置。繰り返す。……」
 館内に、けたたましい警報とともに、敵襲を知らせる館内放送が響きわたった。
「な、こ、こんな時にっ!」
 思わず慌てるラッセルを尻目に、背後の人影がすばやく動く。
「ラッセル、タオル一枚借りるぞっ!」
 クローゼットから大きめのタオルを引っ張り出し、そのままドアの前へ直行するカチーナ。
「ちゅ、中尉っ?まさか、その格好のまま」
「敵襲だってんだろっ、のんびりしてる余裕はねぇんだよっ!いくぞっ!」
 言って、慌しくドアの外へ飛び出していく。一瞬あっけにとられたが、ラッセルはすぐにその背中を追ってドアの外へ飛び出した。
「あの人の背中は、俺が守らなくちゃなっ!」

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