「今日はちょっと、趣向を変えようかと思うんだ」

 不穏な笑顔と共に告げられた言葉の意味を、正しく受け取る事ができなかった。


 後に、おれは理解出来なかったことを後悔する事となる。





Forbidden play











 このところ、ポップはダイに構ってやる事が出来なかった。
 別にパプニカの王宮に仕えているわけでもなく、この国を治める女王レオナの客人として迎えられている為、客人らしく椅子にでも座って踏ん反り返っていればよかったのだが……なんとなく居心地が悪い。
 そんなわけで、いかにも困った風情で執務室の椅子に腰をかけ、思考の海に浸っていたレオナについ、手を差し伸べてしまったのだが。その時は自分の助言によって事態が好転し、レオナからは感謝の言葉を頂戴して、喉の痞えが多少なりとも解消された―-―まではよかった。その日を境に、何故かポップの扱いが微妙に変化する。
 レオナを通して、国がらみの問題が舞い込むようになった。首を傾げつつ、尋ねられた事柄に答え、浮かんだ疑問点を指摘したりしていたら、今度は三賢者、家臣まで現れ始める。
 いよいよ不審に思い、レオナに事の次第を確かめたところ、返ってきた返事は見事にシンプルなものであった。

「あら、慈善事業でしょ?」

 客人から一気に居候認定されてしまったようである。
 働かざるもの食うべからず……一国を統べる女王の目がそう物語っていた。そんな女王に逆らえるはずなど、ない。
 初めは嫌々ながら仕方なく手伝っていたポップではあったが、次第に人の為に働くという事の楽しさを覚え始めていった。元来の好奇心旺盛な部分が刺激され、その事が上手く作用したからと言えよう。
 国の復興活動を通じて色々な人々と出会い、ふれあう事によって、ポップは得られる物の大きさを肌で実感していった。
 目の前に投げ出された事柄に没頭し、いつの間にか夢中になってしまった自分の姿を、ため息と共に見つめている者の存在など、ポップは知る由もない。

 それから数日して、ポップの部屋にダイが尋ねてきた。








 ダイが部屋を訪ねてきたちょうどその時、ポップは机の上に領土図を広げ、睨めっこの真っ最中であった。

「ポップ、今いい?」
「んあ? う〜ん……」

 尋ねられ、ダイの顔と地図の上とに視線を彷徨わせ、ポップは唸る。数秒後、持っていたペンを机に放り出し、ダイの方へと身体ごと向けた。

「よし、根詰めすぎてもあれだしな。休憩しますか」

 適当に座れよ、とダイに告げておいて、自分はお茶の用意をするためにその場を離れる。けれども、その行動はダイの声によって阻まれた。

「ポップ、お茶は後でいいから、こっちに来てよ」
「え?」

 ベッドの縁に腰を下ろしたダイに手招きされ、ポップは困惑した表情のまま、言われた通り傍へと歩み寄る。そのポップの右手を、自然な動作で掬い上げた相手は、視線を合せるようにこちらを見上げてきた。その口元に、僅かな笑みを滲ませて。

「このごろつれないね、ポップは。おれの事忘れてないよね?」

 柔らかな口調で尋ねられ、ポップは思わず息を呑んだ。その言葉からポップを責めるものは全く感じられず。けれども見上げてくる相手の表情は微かな切なさを伴っていて、その心情を何よりも雄弁に語っていた。ポップの胸を、罪悪感と言う名の炎がちりちりと焦がす。

「あ……わりぃ」

 ポップの口からするりと、謝罪の言葉が零れる。それを聞いたダイは、にっこりと笑って、ポップの指に唇で軽く触れた。

「ポップが構ってくれなかったから、寂しかったよ」
「……ダイ――」

 ダイの腕がポップの細腰に回される。引き寄せられ、ポップはバランスを崩した身体を支えようと、咄嗟に相手の肩に両手を置いた。
 ダイの掌が明確な意思を持って、ポップの服の上を辿る。驚いたポップは、思わず身を硬くした。

「今日くらいは、おれにつきあってよ」

 強張りを解すかのように、ダイの指がポップのわき腹を擽る。ポップは小さく声を漏らした。
 ここ最近、ダイとまともな会話を交わしていなかった事を、ポップは思い出していた。それどころか姿すら見かけなかった日の事が多い。ダイがわざわざ気を利かせてくれたのか、自分の方に時間的余裕がなかったのか……今となっては、考えても仕方のないことだけれど、ダイの事を疎かにしていたのは事実であった。
 ポップはそっと、包み込みように、ダイの頭を両腕で抱え込む。それを合意と受け取った相手の指が、ポップの履いているズボンにかかった。

「今日……だけな、取合えず」
「取合えず、ね」

 了解、と呟いたダイの声音に、先ほどと打って変わった楽しげな様子が滲む。自分はそんなに可笑しな事を言っただろうか……と疑問に思いつつも、ポップはその身を、相手に委ねることにした。








 肌触りのよいベッドにポップの身を横たえたダイは、慣れた手つきで着衣を乱れさせてゆく。
 上着だけ除いた全ての衣服を剥ぎ取られたポップは、恥ずかしさを少しでも解消すべく、はだけられた前を両手でかき合わせた。
 時刻は、正午を僅かに過ぎたばかり。部屋に差し込む日の光を目にして、自分は選択を早まったかと、今更ながらに後悔する。けれども、ダイの腕に抱かれ、お日様のような匂いを感じた瞬間、何故だか無性に懐かしさを覚えた。
 心を決め、まず初めに部屋の扉、窓の戸締りを相手に言いつける。ついでにカーテンも閉めさせた。
 この昼日中に絶対おかしいと思われるかもしれないが、少しでも部屋を暗くしておきたかったポップは、後のことよりも今の事の方が重要問題だったので、この際目を瞑る事にする。それに、押さえきれない自分の、あられもない声が、外へ漏れ聞こえないようにする為でもあった。
 支持された事を、一言の文句を言わずに根気よく終えたダイが、ポップの意思を確認する事なく、覆いかぶさってくる。別に抵抗する理由もないので、相手の自由にさせる事にした。
 首筋にかさついたダイの唇が、柔らかく押し付けられる。知らず喉が鳴った。そのまま、ゆっくりと下へ滑り降り、鎖骨の辺りに生温かな感触を覚えた時、ポップの口から小さな声が僅かに漏れる。

「ふ……」

 鎖骨に沿って丹念に舐めあげられ、ポップは漏れそうになる声を押さえようと、口元に手を当てる。もう一方の手は、抱きかかえるように、ダイの頭部に回した。
 ダイは、鎖骨に軽く歯をたて甘噛みし、ポップの肌に吸い付くと、赤い刻印をその身に刻んでゆく。その度に、ポップの肌は粟立ち、意思とは無関係に身体がびくついた。
 その身体を逃がさぬよう押さえつけ、ダイは同じように胸元へ幾つもの所有印を残していった。そして、触れられる事を期待しているかのように震えている赤い実を舌で絡めとる。

「う……っく………」

 指の隙間を縫って、僅かな声が漏れる。口内に含まれ、舌で転がすように刺激を加えられた突起は、やがてぷつり、と立ちあがった。
 もう一方の突起にはダイの指が直に掛かる。指で挟むように弄られ、親指の腹で押しつぶすように捏ね回され、執拗な愛撫を受けたそこは、口に含まれたものと同じ道を辿ることとなった。

「ポップ……声、出さないの?」

 胸元を弄っていたダイが身を起こし、目線を合せてくる。
 息があがり、問いかけに答えられず、口元を押えたままポップは首を振った。その様子に、ダイが微苦笑を浮かべる。

「声出した方が、楽じゃない?」

 楽しそうに言うと、口元を塞ぐ手を取り去り、ポップの頭上に縫いとめた。羞恥に頬を染めたポップが、ダイに対しての非難を口にする前に、唇を攫われる。ダイの舌が口腔の侵略を開始した。
 文句を封じられ、吐息ごと抵抗する意思さえも奪われてゆく。逃れようと首を振れば、追うようにして口付けを施された。舌を絡め取られ、深く貪られる。

「ふぅ……んんっ!」

 ダイの指が素肌を滑り、下半身へと伸びてゆく。指の先で擽るように身体のラインを辿られ、ポップは身を震わせた。
 そろそろと下ってゆく相手の指が、下肢の淡い茂みをかき分けて、その先にある性器へとたどり着く。
 この先の行為を想像して、思わず身を硬くしてしまったポップに気付いているのか、いないのか……ダイは爪の先を、陰茎に這わせた。

「んっ! ……ゃ、っあ!!」

 耐え切れず、逃げようと顔をもぎ離したポップの唇から、声が上がる。角度と硬度を変えつつあるポップのものを手に、ダイが微笑んだ。

「気持ちいいんだね、ポップ。少し濡れてるよ?」
「やっ……! い、う……な、よぉ」

 事実、ポップの男根は濡れていた。今も鈴口から、新たな蜜を滲ませている。ダイのキスと乳首への愛撫だけで、感じていた証拠であった。
 図星をさされたポップは、いつの間にか自由になった腕で顔を覆って、途切れ途切れに訴える。けれども、相手から伝わってくるのは、笑う気配。ポップは悔しさに唇を噛み締めた。
 そうこうしているうちに、ダイの指がポップの身体から、さらなる快楽を引きずり出すべく、淫靡に動き始める。
 手を絡めて上下に擦り上げ、鈴口を指の腹で捏ねるように弄り、時折軽く爪を引っ掛けた。凄まじい快楽がポップの身を襲う。眦から涙が溢れては毀れていった。
 ダイの舌が近づき、目元を優しく拭われる。不意にポップの耳元を、温かな息が掠めた。

「感じるのはいいけど、声出してもいいの?」

 はっと気づいた時には、もう遅かった。静かな声でそう告げたダイは、耳の穴に舌を差し込み、脳を犯すようにねっとりと舐めあげる。
 陰茎を扱く手は、だんだんと速度を上げていった。鈴口から溢れるものが陰茎を伝って、ポップの股や陰嚢、ダイの手を汚してゆく。射精を促すかのような動きに、ポップは声を殺すどころか、抵抗することすらままならない。

「ひゃ……あ、っあ、やっ……ンぁ」

 自分のものとは思えないくらいの甘い声。その声に驚いたポップは、無意識に唇を噛み締める。瞬間、鋭い痛みが走った。
 痛みがポップの理性とプライドを僅かに回復させる。ほんの小さな傷だけれども、ポップはその痛みに、縋るよりほかなかった。

「血がでてる……駄目だよ、噛んじゃ。ほら、口開けて……」

 ポップは素直に噛み締めていた唇を開いた。ダイの声音が思いのほか優しかったからだ。
 宥めるように柔らかく触れてくる舌に、傷口が熱を帯びて疼く。やがて痛みは遠のき、キスを求められる。おかげで上げた声が周囲に漏れ聞こえる心配はなくなったが、ポップの身体は限界に近かった。

「ふ、ン……んんっ!」

 上手く息が出来ない苦しさに、ポップがダイの肩を押し返すと、相手はようやく唇を解放した。
 ポップは、口を大きく開いて空気を取り込む。口角から毀れた唾液は、ダイが宥めるかのように、舌を這わせて拭ってくれた。

「っ……はぁ、はぁ……」
「と、こっちも弄ってあげないと、可哀相だよね」

 思い出したかのようにそう呟き、身を起こしたダイが、シーツの上へ投げ出されたポップの手に、自分の手を重ねて指を絡ませる。
 その手を緩く握り返し、激しく脈打つものを落ち着かせようと、ポップは一旦瞳を閉じた。暫くして、自身に絡み付いていたダイの手が消失し、不安を覚えたポップは閉じていた目を開ける。同時に、陰嚢の間を伝って、濡れた感触が後方へと忍び寄る気配に、ポップは息を呑んだ。

「いっぱい涎でてるし、大丈夫だと思うけど。痛かったら言ってね」

 言葉の直後、秘部に痛みが走る。ダイの指が侵入したのだ。肉壁が全力で異物を排除しようと、相手の指をきつく締め上げる。
 ダイが楽しそうに、声低く笑った。

「凄い締め付け。あんなに犯してあげてるのに、まるで処女みたいだ」

 下半身を襲う痛みに耐えるため、空いた手でシーツを握り締めて気を紛らわせようとしていたポップは、ダイの言葉を耳にして顔を赤く染めた。否定の意味を込めて、足をばたつかせる。

「ほらほら、暴れないの。慣れるまでやめないよ?」

 無理矢理奥へと指を進めるような真似はせずに、ダイは浅いところで抜き差しを繰り返す。根気よく続けながら、襞をかき分け奥へとゆっくり進んでいった。

「はうっ……く、っあ」

 不快感と苦しさに苛まれるものの、痛みがマシになってゆく。強張った体がほぐれかけたその時、痛みと共に異物感が増した。

「っ! い、いて……ぇ」

 締め付け感が増し、僅かに顔を顰めたダイが、ポップの胸元へと顔を寄せた。両手が塞がっていたので、唯一自由になる舌で、胸の突起を柔らかく愛撫する。苦痛を露にするポップを、宥めるように――

「ひ……だ、ダイぃ」

 自分が縋れるものは、今この世にただ一つ。シーツを手放したポップが、懸命に腕を伸ばせば、縋れるべき存在であるダイが、優しい笑みを浮かべながら応えるように頭を寄せてきた。
 絡ませていた指が離れ、代わりに身体へと回される。ポップは両腕で、ダイを抱きしめた。

「口、開けて……」

 静かに促され、素直に唇を開くと、ダイが舌を滑り込ませてきた。互いを軽く戯れさせ、深く口付けを交わす。下肢の指が三本に増えていた。
 先ほどまで頑なであった蕾は、散々探り嬲られ、ダイのものを受け入れる準備が出来つつあった。

「そろそろ……かな」

 頃合、と見て取ったダイが指を抜く。ポップは軽く呻いただけで、その衝動に耐えた。
 軽い衣擦れの音。片足を抱え上げられ、次にくる衝撃に耐えるべく、出来るかぎり身体から力を抜こうと、ポップは深呼吸を繰り返した。蕾に熱いものが触れる。
 不意に湧き起こった恐怖に煽られた体が、ひくんと震えた。ダイの唇が頬に柔らかく落とされる。

「爪たてていいから、おれをしっかり抱きしめて」

 言って、身を進めた。

「あっ……! く、うっ……は、ぁ!!」

 灼熱の塊が、ポップの身の内を焼きながら奥を目指す。指とは比べ物にならない大きなものが、熱と不快感を伴ってポップを苛んだ。けれども、ダイによって慣らされたそこは、裂けることなく相手をゆっくりと収めてゆく。
 何度抱かれても、この瞬間だけはどうしても慣れる事が出来ない。ポップは目の前の身体にしがみ付き、その背に容赦なく爪をたてた。だが、ダイはその痛みに顔を顰めることなく、ポップの目尻に浮かんだ涙を唇で啜る。

「ふ、ぅ……っく、あああっ!」

 ダイが進みを止めた。どうやら自身の全てを埋め込んだらしい。ポップは小さく呻いて、両腕をシーツへと落とす。
 肩で荒い呼吸を繰り返し、早鐘を打つ鼓動を落ち着かせた。すると、今度は自分の身に起こっている事が、文字通り身体を通じて伝わってくる。
 埋め込まれた事で生じる圧迫感。大きく拡げられた蕾。繋がった箇所から、なんとも言い知れない感覚が湧き上がり、ポップの理性を揺さぶった。

「ぁ、ン……」

 思わず毀れた吐息に、艶が混じる。瞬間、恥ずかしさを覚えたポップは、両手でシーツを握り締め、相手を直視出来ず視線を逸らせた。
 その一連の動作が、ダイを煽る。ポップの足を握る手が、僅かに力を増した。
 そのまま了承を得ることなく、ダイは身体を動かし始める。

「っ……う、あっ!」

 性急な行為はポップに負担を与える。容赦なく突き上げられ、ポップは悲鳴を上げた。

「いっ、ア! だ、い……っと、ゆっく……ッ」

 身体を揺さぶられ、痛みと苦しさで上手く言葉にならない。ダイの動きは緩むどころか激しさを増してゆくばかりであった。相手の指がポップの陰茎にかかる。

「や、あ……っく! うぁ……」

 蜜を滲ませる先端部分を親指で弄られ、ポップの身体が跳ねる。突然ダイの動きが変わった。
 それまでただ、闇雲に突き上げるだけであったものが、何かを探るように蠢き始める。
 激しさが薄れ、緩やかになり、ダイのものが肉壁を擦りあげながら、じわじわと自分を追い立ててゆく。
 過敏になった身体が顕著な反応を露にした。内部が次第に変化し始め、ダイのものを自ら求め、奥へと誘う。突如、ポップの身体を何かが駆け巡った。

「ひ、あっ! や……っ、そこ……だ、アァッ!」

 探り当てたポップの弱い部分を、ダイは幾度となく責める。
 ポップの陰茎は、今にも爆発しそうなくらい質量を増して硬くそそり立っていた。先走りの蜜が肌を伝い、汗と共に流れて落ち、白いシーツに幾つもの染みを作ってゆく。
 ダイの動きが再び激しさを取り戻した。敏感な箇所を重点的に嬲られ、ついに限界を迎えたポップは、自身を解放した。






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