注意事項:いじめ(尿かけ・暴力)/強制フェラ
気がつけば僕は格好のターゲットだった。
ひ弱。チビ。軟弱。根暗。陰湿。オタク。母子家庭。
自分でも思う。こんな僕は、確かにいじめの対象になるには格好のターゲットだ。
それでも、まだ、中学までの僕はただの空気扱いなだけで、それなりに友達だっていたし、いわゆる『肉体的ないじめ』と言うものとは無縁だった。
それなのに。
高校に上がり、あいつらと同じクラスになったのが運のつきだった。
あいつらは所謂、ヤンキーとか不良とか言うカテゴリーに属する奴等で。
本来なら僕とは住む世界の違う、接点さえもない筈の相手だった。
きっかけなんてなんだったかさえも思い出せないくらい、些細な事だったのだと思う。だって僕には本当に彼らにいじめられる理由なんてこれっぽちも見当たらなかったから。
彼らのいじめは最初こそからかい混じりのモノだった。
背が低いことを弄られる。
いつも本を読んで居る事を弄られる。
読んでいた本を取り上げられ、仲間内でそれを回し、僕が取り返そうと躍起になる姿を嘲笑う。
そんな小さないじめから始まり、月日が経つほど僕へのいじめは苛烈さを増していった。
授業が始まるのにトイレに閉じ込められる。
汚い水をぶっかけられる。
トイレ掃除と称して、その便器を舐めるように強要される。
女の子達の前で性器を見せる事を強要される。
従わなきゃマットを捲かれその上からバットなどで殴られる。
直接鼻血が出るまで殴られる。
蹴られる。
プロレスごっこだと言って、力技をかけられる。
怪我をしたのも一度や二度じゃない。
だけど、僕をいじめるその相手は僕がどう足掻いても太刀打ちできる相手じゃなかった。
主犯格であるそいつの家は県議員だかのおエライさんで、学校の先生も、校長も、なにより他の生徒達も触らぬ神になんとやらで、そいつの横暴ぶりには見て見ぬ振り。
だから僕がどれだけ先生に訴えても、先生は知らぬ存ぜぬ。
挙句の果てには、お前がおどおどしてるのがいけない。自分で何とかしろ。そんな事を言って、先生まで僕をいじめ始めた。
気がつけば、この学校にはもう僕の居場所なんてどこにもなかった。
廊下を歩けば、他の生徒達にも遠巻きにされる。
先生も僕には関わらない。
母にこの窮状を打ち明けようにも、会社社長である母はいつも帰りが遅いし、帰ってこない日だってしょっちゅうだ。
たまに帰ってきても、親子の会話なんてほとんど出来ない。
母は快活な人で、いつも忙しなく動いている。
だから僕が学校の事を話そうとしてもすぐに会社関係の電話がかかってきたり、後で聞くわ、で済まされてしまう。
だから僕にはこの事を相談できる人が身近に全く居なかった。
どうしてそんな行き場のないこの地獄に、何故僕が貶められなければいけないんだろう。
そしてそんな地獄に落とされなきゃいけないほど、僕の何が一体相手の気に障ったのだろう。
ひょっとしたら、僕の全てが気に障るのかもしれない。
背が低いこと。痩せて居る事。あいつらよりも成績が良い事。エトセトラ。エトセトラ。
だけど、それでも、僕には何故そんな理由でこんな目に遭わないといけないのか、どうしても解らない。
背が低いのは僕自身の努力でどうなるものでもないし、痩せている事はそんなに滑稽な事ではない筈だ。
そして僕の成績が気に入らなければ、自分達も頑張ればいいだけの話だ。
何故あいつらの成績が悪いからと言って、努力している僕が努力していないあいつらにあんな風に蔑まれなければならない。
あいつは僕を虐めるとき、酷く楽しそうだ。
嫌な笑みでその唇を歪め、ケラケラと笑い、僕をサンドバックにし、僕を仲間達に売り渡す……。
あの顔を見ていると、ただ単に誰でも良くて、たまたま目に付いた僕をその持て余す暴力への欲求不満を解消する為に利用しているんじゃないか、とも思う。
実際暴力に飢えているような、そんな凶悪な雰囲気があいつにはある。
血に飢えた野獣のようなその目も、小動物を狩る為に鍛え上げたかのようなその体も、あいつの存在全てが暴力的だ。
暴力をふるうために生まれてきた。
理由もなく暴力を奮える、そんな人間。
だけど。
だったら尚更。
なんで『僕』なんだろう。
『僕』でなくてはならないんだろう。
僕の中でその疑問は日に日に大きく膨らみ、そして、それは僕の中にもう一つの暗い感情をも生み出していった。
ザバァア……ッ!
また頭から汚水をかけられる。
僕の制服はあっという間に、白から薄茶色の汚い色へと変わり、トイレの中の匂いと相まって酷く胸糞の悪い匂いをあたりに撒き散らす。
トイレの汚いタイルの上に、僕は四つん這いの状態で這い蹲り今日もまたこんな理由のないいじめを受ける。
もう僕の瞳からは涙の一粒も流れては来なかった。
ただただ、灰色の汚れの溜まった汚いタイルを見つめ、唇を噛み締め、ひたすらに胸の中で怨嗟を呟く。
ゲラゲラゲラ……。
嫌な笑い声が辺りに満ち、続いて、幸田クセーックセーッ、汚ねぇ、と一斉にそいつらは囃し立てた。
だけど僕はもう顔を挙げない。
挙げてあいつらを睨んだからって何も解決しないから。
ただ黙ってあいつらが満足するまで罵声を受ければ、それで今日一日は終わる。
だから、僕は反抗はしない。
だけど。
「……なぁ〜んか、最近こいつ無抵抗で面白くねぇよなぁ。」
ゲラゲラと笑う後ろから、野太い声がそんな事を言い出した。
いじめっこグループの頭であるそいつは、僕の傍に来ると突然僕の腹に向けてその足を蹴り上げる。
「……ッ、ゲァッ!!」
そいつの足蹴りは見事に僕の鳩尾にはまり、僕はさっき食べたお昼ご飯のパンと牛乳が一気に胃から逆流してくるのを感じる。そして、それを押さえる事も出来ずに、僕は思いっきり半ば消化したそのパンをトイレのタイルの上にぶちまけてしまう。
途端に周りから、キタネー! だとか、クセーッ! だとかの罵倒が飛ぶ。
だけど僕はそんな言葉よりも、お腹に感じる痛みに自分が吐き出したモノの上をゴロゴロとのた打ち回ることしか出来なくて、堪えようと思っても堪えきれない涙が瞳から溢れて零れてしまった。
「おぉ、泣いた、泣いた。」
くつくつと嫌な笑い声を捲き散らかしながら、首謀者であるそいつは僕の顔を覗き込んでそんな事を言う。
悔しさが心の中を満たす。
「ほら、もっと泣けよ。喚けよ。昔みたいに許しを乞えよ。そしたら許してやってもい〜ぜぇ?」
大ッ嫌いな奴の顔が僕の視界一杯に広がった後、汚水と吐しゃ物に塗れた僕の髪をそいつはその手が汚れるのも構わずまるで引きちぎる様に鷲掴みにした。そして、そのまま僕の耳に唇を近づけると、そんな言葉を僕に囁く。
だけど、そんな言葉。
僕は絶対に吐かない。
こいつに許しなんて乞わない。
許しを乞うたとしても、だって、こいつは絶対に僕を許しはしないのだから。
それどころか更に僕を酷くなじり、虐めてくる。
こいつを悦ばせる事なんて、絶対にしたくなかった。
だから僕は唇をきゅっと噛み締めると、思わずそいつを睨みつける。
するとそいつの瞳が楽しそうに細められた。
「はぁ〜ん、なんだよ、その目。まだ反抗する気力残ってたって訳か? 無抵抗なフリしてたって訳か? だったらその気力も根元から折ってやるよ、チビ。」
ニィッとそいつの唇がいやらしい形に歪む。
僕はしまったって思ったけど、もう遅い。
そいつは掴んでいる僕の髪を乱暴に離すと、後ろに控えている手下達に、おい、と声をかけ傍に近寄ってきた一人に何事かを吹き込んだ。
すると、その手下は最初は少し驚いたような、嫌そうな顔をしたももの、それでもボスの言葉には絶対服従なのかすぐに視線を僕に向けなおすと、サディスティックな笑みを唇に浮かべる。
そしてボスとの話がまとまったのか、そいつがゆらりと立ち上がると僕の胸倉を掴んで僕の顔を自分へと引き寄せた。
にきび面の汚い不細工な顔が僕の視界の全てを占領する。
「……チッ、おめぇが余計な反抗するからよぉ、俺が嫌な役しなきゃなんなくなっただろーが。屑が。死ねよ。」
そして心底嫌そうな声で僕の耳にそんな呪詛を囁いた後、僕の体をトイレの床へ突き飛ばすと、その手下はいきなり自分のベルトを外しジッパーを降ろし、そのまま僕の目の前にそのズボンの中身を晒す。
一体何の事なのか、何をするつもりなのか解らず僕は目の前に居る手下の性器を呆然と見ていた。
すると、突然その性器から生暖かいモノが飛び出し、僕は頭からソレを浴びせられる。
ジャバジャバとそいつの、ソレ、小便を被りながら僕はもはやどうしていいかも解らず、反応する事も出来ず、その勢いが衰え、止まるまでその場で固まっていた。
どの位の時間が経過したのだろうか。
数秒のような気もしたし、物凄く長い時間そいつのその臭い小便を被っていたような気もする。
だけど漸くそいつは小便をし終えると、ふぅ、と少しばかり満足そうな溜息を漏らして、この辱めがなんとか一応の終わりを迎えた事に僕は内心ホッとする。
しかし、そのままそいつが性器をズボンの中に納めるものだとばっかり思っていたら、何を思ったのか呆然としている僕の目の前にその性器を持ってきた。
「……?」
何の事か解らず視線を動かし手下の男を見ると、そいつはどこか嫌そうに、だけど醜く歪んだ喜悦の笑みを唇に貼り付けて、僕を見下ろしていた。
その笑みが意味する所を考えようとしたけど、それを考える前に、そいつは僕の口にその汚らしい性器を押し付けてきて、驚く僕の頭を押さえつけると無理矢理僕の口の中へそれを押し込んでくる。
「っ……ん、むぐ……っ、――ッんんッ!!」
「噛むなよ。噛んだら殺すからな。」
口に入り込んできた汚い異物に僕はじたばたと暴れるが、手下のドスの聞いた低い声と頭を押さえつける手、そして、いつの間に取り出したのか、そいつの手に握られていたナイフが首筋にそっと押し当てられ動きそのものを封じられてしまう。そのせいで僕は口の中にあるそいつの最大の弱点に何も出来なくなった。
「……っ。」
「綺麗にしろっつってんだよ。」
首筋に押し当てられるナイフの感触に僕が怯え、視線を上へと向けると手下の歪んだ笑顔が見えた。
しかもそいつはその笑顔のまま、僕の口の中に性器を擦りつけ、そんな命令を下す。
流石にこんな事は嫌で。
だけど今のこの状況では逃げる事も叶わなくて。
僕は仕方なく口の中で縮こまっていた舌を恐る恐る伸ばして、口の中にあるそいつの性器を舐める。
チリッとした刺激と、塩気が舌先に感じられ、しかも今しがたかけられた小便のアンモニアの匂いと同じ匂いと味に吐き気を覚えた。
それでも僕は吐き気のせいでえづきながらも、ちょっとずつそいつの性器に舌を這わせその先端に溜まっていた小便を舐めとる。
口の中にアンモニアの匂いと味が広がり、物凄く気持ちが悪い。
流石にその舐め取った小便が混ざった唾液を飲み込むことは出来なくて、僕の口の中にはどんどんと唾液が溜まっていく。
吐き気と口の中に溜まる唾液を飲み込めない苦しさと、鼻から呼吸をする度に感じるアンモニアや吐しゃ物の匂いにやり切れない怒りを感じる。
どうして僕がこんな目に……。
今まで何度も何度も思った事を、また思う。
だけどここでコレに歯を立てたりして反抗をしても、きっと、その途端、首筋にあるナイフでどこかしらを切られるだろう。
命を奪われる事はないかもしれないが、でも、怪我は免れない。
気がつけば、屈辱と羞恥心と怒りと怯えで僕の瞳からはとめどなく涙が零れ、頬を伝って流れ落ちていた。
しかも口の中にある、手下のソレはどうした訳か少しずつ硬さと大きさを増していっているようで。
それがまたなんとも言えない恐怖心を煽る。
だけど舌の動きを止める訳にもいかず、僕はそいつが、いや、首謀者の男が「止め」を言い出すまでひたすらにこれを続けるしかなかった。
「ん……っ、く……ふ、んん……っ。」
「……ふ……っ。」
口の端からぼたぼたと口の中に溜まった唾液を零しながら、僕はいつ終わるか解らないこの『掃除』を続けていく。
ずっと男の性器を咥えているせいか、口の中は痺れ、息は上がり、顎は痛くなっている。
だけど男の味にもアンモニアの味にも慣れてくると、僕は今まで恐る恐る這わせていた舌の動きを無意識に大きく動かすようになっていた。
どうしてそんな事をしたのか、自分でもよく解らない。
でも口の中でどんどんと容量と硬さを増す手下のその性器に、僕は早く終わらせてしまいたくて、必死になって舌を這わせる。
気がつくと僕の首筋に当てられていたナイフは外れ、その代わりにそいつの両手が僕の頭を押さえつけていた。
そのまま、ぐっと、喉の奥にまでそいつの性器が押し込まれる。息苦しさに僕は首を振るけど、そいつは許してくれなくて、更に強く僕の口の中に突き立てられた。
「ぅ……ぶ……っ、んっぐ……っ、う……!」
傍若無人にそいつの性器が口の中を行き来し、先端が喉の奥を突き、僕は吐き気と息苦しさに呻き声を漏らす。
頭の中は真っ白で、もう自分が何をされているのか、どんな状況なのかも解らなくなり、そいつがやけに興奮して腰を振りたくって居るのがなんだか妙に可笑しかった。
一体こいつは何をしてるんだろう。
僕の口になんでこんなに汚い性器を押し付けてくるんだろう。
こんなに膨らませて、あぁ、なんだか先端からねばねばしたしょっぱいものまで出して。
そのしょっぱいものはなんだか良く解らなかったけど、なんとなく僕は変な優越感を感じる。
男の固くなった性器に舌を這わせると、そいつの腰がビクリと揺れる。
喉の奥を突くその先端を吸ってやると、そいつは小さく呻いた。
それが妙に僕の優越感をくすぐり、気がつけば僕は自分からそいつの腰に手を回し、自分から顔を前後に動かしてそいつの性器に刺激を与えていた。
周りの男達の目も、下卑た囃し声もこの時の僕には聞こえてなくて。とにかく早くこの仕打ちを終わらせたくて、男の性器に舌を這わせ、溢れ出る唾液も拭わずに寧ろそれを擦り付けるようにする。
「っ、う……ぐ。」
男が小さく呻く。
途端に僕の口の中でそいつの性器がむくっと大きくなった気がした。
そして、そいつは僕の口の中からそれを引き出したかと思うと、僕の目の前で自分の性器を握って扱いた。
ビュッ。
目の前にあったそいつの性器の先端にある割れ目から、凄い勢いで白いナニかが飛び出してきて、僕の顔にソレをぶちまける。
小便よりもべとべととした生臭くて熱いソレに顔を汚され、僕は呆然と目の前にある男の性器を見つめ続けた。
顔に張り付いたその白いモノは、すぐにドロリと垂れ下がり、ツンッとした青臭さを僕の顔に振りまく。
一体ナニをかけられたのか。
一体ナニで汚されたのか。
僕の思考はなかなかその答えに追いつかず、ただ、痺れた唇と、舌と、顎が痛いな、なんて思っていた。
だけど、そんな僕の耳に突然いじめの首謀者の笑い声が届き、僕ははっとする。
首謀者は、ゲラゲラと大声で笑いながら、なんだか僕の事を変態だとかホモだとかなんだとかそんな事を喚いていた。
ゆっくりと顔ごと視線を首謀者へと向ける。
すると酷く嫌な顔でそいつは笑ってて、僕はなんだか凄く凄く腹が立ってきた。
「――っ、あ、あのさ……っ!」
勇気を出して、文句を言おうと言葉を搾り出す。
だけど僕の言葉は、トイレのドアを開けるバンッと言う音に掻き消されてしまった。
「お前達何をしてるんだ……っ!!」
しかもそんな怒鳴り声も聞こえてくる。
その声は僕にとってはとても馴染みのある声で。
またか、なんて思ってしまう。
何故助けにくるのならば、もっと早く来ないんだろう。
何故、いっつもこんなタイミングで来るんだろう。
いつもいつもいつも来るのが遅いんだよ……っ!! バカヤロウ……ッ!!
そんな苛立ちとも憎しみともつかない感情を、その馴染みの声に感じてしまう。
「またお前らか……! なんでこんな事をするんだ!! 一臣?! 一臣っ、大丈夫か?!」
そう僕の周りを囲んでいる男達を掻き分けながら、そしてそいつらに怒りながら声の主は僕に近づいてくる。
僕の周りに居る男達は、その男の出現に口々に小さな声で悪態を吐いていたが、特にそいつ自身に突っかかって行く事はなく、道を開けるようにそいつを僕の前まで通した。
そして僕の真ん前までそいつが来る。
だけど僕の惨状を見て、そいつは流石に息を飲んだ。
「…………一臣っ。」
きっと僕になんて声をかけて良いか解らないのだろう。なんとも言えないような顔をして、そいつは僕を見下ろしていた。
そいつ、僕の幼馴染でもあるクラス委員長の彼は、暫くそうして僕を見下ろしていたが、程なくして僕から視線を逸らす。そして、今度は男達の後ろに控えている主犯格の男を探すように視線を彷徨わせた。
「野々村ぁああっ!!!」
男達の後ろに控えているそいつを見つけると、そいつの苗字を叫ぶ。
そしてまた男達を掻き分けて主犯格、野々村の元へと行こうとした。だが、今度はその取り巻き連中がその進行を邪魔をして、僕の前から委員長がその先へ進むことは出来ない。
「野々村ぁあ……っ!」
「……あ〜あ、また煩い奴に見つかっちまったなぁ。折角の遊びがこれじゃ興醒めだぜ。じゃあなぁ、チビ。また遊ぼうぜぇ〜。今度は俺のチンポも舐めさせてやるよ。あはははは……っ!」
取り巻きに阻まれ主犯格に手を伸ばす事しか出来ない委員長に対してそいつは小さく舌打ちをした後、にやにやと嫌な笑いを残してひらひらと手を振りながらトイレから去っていった。
その後を取り巻きの男達も従うように着いて行きながら、それぞれ委員長に悪態を吐いてトイレから出て行く。
そいつらの後姿を見送り、僕はこれで漸く今日は終わったのだと実感した。
ぺたりと小便と吐しゃ物と汚水が飛び散り、水溜りを作っているその中へと腰を降ろし僕は一つ溜息を吐く。
すると、そんな僕の傍に委員長がやってきた。
「……一臣……。」
僕に声をかける彼の声にはなんとも言えない感情が篭っているみたいだった。
その感情は僕には怒りなのか、悲しみなのかまったく解らなかったけど、それでも委員長が何かしら僕のこの現状に対して憂いを持っているのだけは解る。
だからって、何だって言うんだろう。
委員長はだからって僕に何をしてくれる訳でもない。
確かにこうして助けに来てくれる事もあるけど、いつもいつも、それは奴らのいじめが終わりに近づいてきた頃にしか来ない。
しかも普段は他の生徒達と同じように僕を遠ざけている。
いや、遠ざけているのは彼の意思じゃないかもしれない。
委員長が僕に近づこうとするとそれを察したかのように周りの生徒達や先生が邪魔をしにくるのだから。
だけどそれらを振り切ってまで、彼は僕には近づかない。
だから、つまり、そういう事だ。
子供の頃からの知り合いで、階は違うけど同じマンションに住む。
たったそれだけの繋がりがあるから、委員長は僕を放っておけないだけだ。
そして委員長を務めるくらいのつまならい正義感から。
彼の正義感なんて、自分自身を満足させる為のものでしかないのに。
僕の本当の力になってやろうなんて思ってもいないくせに。
「……一臣、大丈夫か?」
それでもこうして僕の傍に来て、そんな風に心配そうな顔で僕の顔を覗き込む。
大丈夫か、だって? はっ!
この状態を見て、この僕の顔を見て、大丈夫、なんて聞けるその神経が解らない。
大丈夫な訳ないじゃないか。
メラッと僕の中に委員長に対する苛立ちと怒りが燃え始める。
僕は委員長の言葉に返事も返さず、ただ無言で立ち上がると、トイレの掃除道具入れを開けその中からホースを取り出した。
そのまま委員長の言葉も存在も無視して、水道の蛇口にホースを差し込むとからんを回し水を出す。
ホースの先端から水が出始めたのを確認すると、僕はタイルの上にある汚物を流し始めた。
「一臣、僕も手伝うよ。」
委員長は僕が床を掃除し始めた事に慌てたように掃除道具入れの中からモップを取り出して、僕が流した水をごしごしと擦って、汚物の掃除を手伝い始める。
その委員長の手伝いを僕は特には止めやしなかった。
委員長がそれでそのちっぽけな正義感を満たす事が出来るなら、それでいいさ。
そう思いながら、僕は僕のちっぽけなプライドにしがみつく。
暫くそうして床の上を掃除して、床の上に広がっていた吐しゃ物や汚水などがなくなると、僕は水を止めた。
トイレの中に篭っていた悪臭はまさに水で流されたように綺麗になくなり、後は自分から立ち上る悪臭だけをどうにかすればいい。
そう思うと、僕は手に持っていたホースを見て、もう一度からんを回して水を出す。
そのまま僕は自分の頭からホースから溢れる水を被った。
「一臣?!」
委員長の驚いたような声が聞こえる。
だけど僕はそんな事よりも自分の顔や体についたあいつのアンモニアの匂いと、精液の匂いを消したくて、ざばざばと水を浴び続けた。
まだ暑さの残る季節だったお陰でこの水浴びはかえって心地よく、僕はうっとりと水を浴び、制服の上からごしごしと自分の体を擦る。そうすれば、あいつがつけた匂いが落ちるとでも言うように。
相変わらず委員長は馬鹿の一つ覚えみたいに僕の名前を連呼している。
あぁ、もう煩いな。早くどっかにいけばいいのに。
そう思っていると、突然ホースを握っている手を掴まれた。
「もう止めろ。風邪引くぞ。」
少し怒ったような顔で委員長は僕にそう言い、僕の手からホースを奪い取った。
そして水を止めると、蛇口からホース自体も外しそのままくるくると巻いて掃除道具入れの中に収める。
「……一臣、ここでこのままちょっと待ってろ。すぐ戻ってくるから。」
掃除道具入れをバタンと乱暴に閉めると、委員長は僕にそう言い残し、バタバタとトイレを後にした。
一人トイレの中に取り残され、僕は、なんだか急にどっと疲れが出てくる。
それと共にずぶ濡れになっている自分の体が酷く気持ち悪く感じた。
びしょびしょになったシャツの裾を絞り、タイルの上に水を零す。ぽたぽたと髪の毛からもひっきりなしに水は零れ、タイルの上にまた新たな水溜りを作り出していた。
「一臣っ。」
程なくして出て行った時と同様にバタバタと委員長が帰ってくる。
そして僕がその声に振り返る間もなく、僕は頭からタオルを被せられ、そのまま委員長にごしごしと頭を拭かれる。
「一臣、ごめんな。」
僕の頭を昔していたみたいにごしごしと拭きながら、不意に委員長が僕に謝ってきた。
一体何がごめんなんだか。
そう思い、視線を上げると委員長はどこか辛そうな顔をして僕を見ていた。
「ごめんな、一臣。」
もう一度僕に対してそう委員長は謝る。
だけど僕はその言葉に対して、彼に言葉を返すことはなかった。
ただプイッと視線を逸らすと、僕の頭を拭く委員長の手からタオルを奪い取り、そのまま踵を返してトイレから出て行く。
委員長は途中までは僕の名を呼びながら僕を追いかけてきていたが、その途中で先生に捕まり、結局僕がずぶ濡れのまま家に帰り着くまで、彼の姿を見る事はなかった。