注意事項:特になし
あの日、僕に性器の掃除を命じた男は笹川と言った。
そいつは何故かあの日から主犯格の野々村の目を盗んで、僕の帰り道を待ち伏せするようになった。
笹川の目的は只一つ。
僕を公園のトイレに連れ込んで、性器の『掃除』をさせる。
こいつが何故こんな事を野々村の目を盗んでまで、僕にさせるのかは良く解らない。
いや、ひょっとしたらこれさえも野々村の命令なのかもしれない。目を盗んでいるのだとばっかり思っていたけど、実の所、野々村の姿が見えないからそう思ってただけで、実際は違うのかもしれない。
だけどそんな事はどうでも良かった。
問題は、こいつが、笹川が笹川本人が僕の口に味をしめている事だ。
「ん……っ、ふ……ちゅ……っ、んむ。」
「……いいぜ……、もっと舌使えよ。」
公園のトイレの個室の中で、僕は強要された『掃除』をしながら上目使いに笹川の反応を見る。
笹川はだらしのない顔で僕を見下ろしながら、馬鹿みたいに興奮しているみたいだった。
こんなモノの何が気持ちイイのか僕には解らない。
だが、こうして僕が大人しく従ってこいつの汚い性器を『掃除』するだけで、こいつがこんなだらしない顔になって荒く息を吐く姿はなかなかに滑稽だった。
何度かこうしてこいつの性器を口にした事で、どこをどうすればこいつがますますだらしない顔になって、とっととあの白い液をこの先端から噴き出すのか段々と解って来た事も、僕の心に余裕を与えた。
チロチロと先端を舐め、その割れ目に舌先を緩く押し込むと笹川は間抜けな呻き声を挙げる。
「いいぜ……、いいぜ……、ぅ……、飲めよ、飲み終わるまでが、『掃除』だからな……っ。」
笹川の節くれだっている性器の裏側を舐め上げると、笹川が感極まった声を出した。
そして僕の口の中に無理矢理大きく膨れ上がっている性器を強く擦りつけ、僕の頭を上から強く押さえつける。
笹川のその態度に僕は内心せせら笑いながら、それでも、抵抗する素振りも馬鹿にしている素振りも見せずにあの苦くて不味い白い液がその先端から噴き出すのを今か今かと待ち侘びた。
何度か笹川の硬い性器が僕の口から出し入れされ、それを追うように僕の舌がカリの部分や先端の部分を舐め上げると、笹川の腰が小さく震える。
来るぞ、来るぞ……。
そう思っていると、喉の奥に笹川の粘ついた熱いモノが吐き出され、その勢いに少し咽た。
それでも笹川の精液を黙って口の中に溜める。
やたらと長いその射精に僕はうんざりしながら、勢いが衰えた頃にゆっくりと口の中から笹川の性器を引き出した。
「口開けろ。」
笹川の命令に僕は顎を上に向けると、口の中に溜まった笹川の精液を口を開けて見せてやる。
そして、それを笹川が見ている前で、ゆっくりと嚥下してやった。
ゴクン。
僕の喉が動き、ねばねばした笹川の精液が僕の胃へと落ちていく。その感触を心底気持ち悪い、と思いながらも、僕は何度か喉を動かして笹川の精液を飲み干した。
口の中が生臭くて気持ち悪い。喉がイガイガする。早くうがいしたい。吐き出したい。
だけど、それを口にすれば、もしくは、飲み込んだ精液を吐き出してしまえば笹川にボコボコにされるのは、二度目の『掃除』の時に解ったので、僕はただ黙って唾液が薄くついている唇を腕で拭う。
目の前では性欲を発散させ、満足したらしい笹川がすでにふにゃふにゃになった性器をその下着とズボンの中に納めている所だった。
「……じゃあな。また頼むぜ。」
そしてそう言い残し、トイレのドアを開けて去ろうとする。
それを思わず僕は追いすがって留めた。
「ま、待ってよ……、笹川くん……っ!」
「んだよ。ウゼーんだよっ!」
笹川の腰に縋り付いた僕を笹川は物凄くウザそうに見下ろす。
だが、不思議な事にいつもはすぐに飛んでくる拳は飛んでこない。その事に、少しだけホッとすると僕は、笹川を上目使いに見る。
「あ、あの……、その、良かったら、今度僕の家に来ない……?」
「はぁ?!」
精一杯の勇気を振り絞ってそう笹川に伝えると、笹川は余程意外だったのか声を裏返させた。
まさか僕が家へ誘うだなんて思いもしなかったのだろう。
何せ笹川は僕をいじめる側の人間で、僕はいじめられる側の人間だ。
彼らが僕の家に勝手に押しかけて来るという事はありえても、僕から彼らを、彼を自身のテリトリーへ招き入れる事など考えられる筈もなかった。
そもそもそんな立場にあるからこそ、今まで笹川は僕の家ではなく、こんな公園のトイレで『掃除』を命じていた訳だ。
そんな僕が自分の家に招待する。その言葉の裏にどんな意味が込められているのか、馬鹿なこいつにも少しは解ったかもしれない。
だけど、だからこそ、僕は細心の注意を払いながら次の言葉を笹川に囁く。
「……あ、新しいゲームが手に入ったんだ……。だから、その、良かったら笹川くんと一緒に遊びたいな、と思って……。こ、これなんだけど……。」
嘘くさくならないように、僕はそう言いながら自分の鞄を手探りで引き寄せるとその中からゲームのパッケージを取り出した。
そして、笹川にそれを見せ付ける。
「おい、それって……。」
「うん。神獣クエストの最新作だよ。……4人同時プレイも出来るから、だから……、その笹川くんと……。」
笹川の目の色が変わったのが解った。
今僕が手にしているゲームのパッケージは、とても有名なRPGの最新作だ。
ついこの前、野々村や笹川達がこのゲームが手に入らないとボヤいてるのを僕はこっそり聞いていた。
だから、僕は母に無理を言ってなんとかこうしてゲームを手にいれたのだ。
――餌にする為に。
「……それに、その……、ぼ、僕の部屋で笹川くんのをもっと丁寧に……、そ、『掃除』したい、なぁ……とか……。」
上手く頬を赤らめる事が出来ただろうか。
それだけが心配で僕はドキドキする胸を押さえながら、ゲームのパッケージも胸に抱える。
すると笹川の雰囲気が少しだけ変化した。
上手く説明できないが、戸惑ったような雰囲気が伝わってくる。
「……ダメ、かな。」
チラリと上目使いに笹川を見ると、あの馬鹿、間抜けな面をもっと間抜けにして僕を見下ろしていた。
鼻の下が伸びる、っていうのはこういうのを言うんだな、と変な関心をしながら、僕はトドメとばかりにそっと笹川に体を摺り寄せる。
「変態だって蔑んでいいよ。……僕、笹川くんのを『掃除』してたら、凄く変な気持ちになるんだ……。僕の口で笹川くんが気持ち良くなってくれるのが嬉しいっていうか……。今度はいつ『掃除』が出来るんだろうか、あの白いの飲めるんだろうかって……毎日、毎日、期待しちゃうんだ……。それに、野々村くん達に虐められてる時も、笹川くんの事が気になって、見られてるって思ったら、僕……、変な気持ちになっちゃって……ドキドキするんだ……。」
「幸……田……。」
笹川の喉がゴクリと唾を飲み込む音を発する。
僕みたいな男でも、キモメンが相手でも性欲が発散できればこいつはそれでいいらしい。
まぁ、人の事は言えないが笹川も正直女からは敬遠されるタイプの男だ。にきび面が酷いし、目は狐みたいに細くて、いやらしい。
恐らく確実にこいつは童貞だ。断言してやる。
だからきっとあの日、僕の口で感じた快感が忘れられないのだろう。
忘れられないから、野々村の命令か、こいつ本人の意思かはわからないけど、こうして僕を待ち伏せしてこんな場所で『掃除』させるんだろうから。
その単純さが可笑しくて、でも少しだけ羨ましくて僕は笹川の胸板にもたれかかったままこっそりと笑った。
「だから、良かったら……今度、僕の家に遊びに来てよ……。基本、ウチ、母さん居ないから、ゆっくりできるし、ね? 野々村くんにも内緒にして、さ。」
母さんも居ない、その部分を特に強調して僕は笹川に誘いの言葉を囁き続ける。
僕のそんな言葉に笹川はそれでもまだ迷っているみたいだった。
特に、野々村の名前が出た瞬間にその迷いは大きくなったらしい。
僕の体を押しのける事はしなかったが、それでも確かに笹川は動揺して僕の肩にその震える手を置いた。
やっぱり金魚の糞は、金魚の糞だな。
大将には逆らえない。
内緒には出来ない、か。
笹川の動揺に僕はそう結論付けると、小さく溜息を吐く。そして、自分から体を笹川から離す。
「……ごめん。やっぱり嫌だし、気持ち悪いよね……。今の忘れて! なんか僕、勘違いしてたみたいだ……。馬鹿みたい……。」
そう自分からこの話を断ち切り、手に持っているゲームのパッケージを鞄の中に急いで仕舞う。
そして、笹川の背中の向こうにあるトイレのノブを回して僕はドアを開けた。
「……また、処理したくなったら言って。僕、いつでも大丈夫だから……。じゃあ……。」
「……っ、おい、幸田っ!」
背中越しに笹川にそう言い残し、僕はわざとらしく走り出す。
すると意外や意外。笹川の馬鹿は慌てて僕の後ろを追いかけてきた。
運動オンチな僕は当然走るのも遅い。
そして笹川は運動神経だけは良かった。
だからか、なんなく僕は笹川に追いつかれ、夕日に染まっている公園のど真ん中で僕はその腕に捕まえられる。
手首をしっかりと握り締められ、僕は、驚いたように後ろを振り返った。……勿論、演技だけど。
すると、僕の手首を掴みながら笹川はなんともいえない複雑な表情をその汚い顔に浮かべて、僕を見下ろしている。
そしてたっぷりと視線を泳がせた後、笹川は意を決したように口を開いた。
「――お、お前がそこまで言うんなら、い、行ってやってもいいぜ……。お前ん家。」
ぶっきら棒に、どこか明後日の方向を見つめながら笹川は僕にそう言う。
そして少し間を開けて、体を屈めると笹川は僕の耳に囁いた。
「野々村にも、内緒にしといてやるよ。あいつにバレたらそのゲーム取り上げられるしな。」
「?!」
まさかそこまで僕の目論見通りに笹川が動くとは思わず、僕は本当に驚いてしまいまじまじと笹川の顔を見返す。
笹川の顔は夕日の色に染まり、赤くなっていた。
「……本当に? 本当に、内緒にして来てくれるの……?」
「あ、あぁ……。」
「嬉しい……! ありがとう……!!」
期待か興奮かに顔を紅潮させ、僕の言葉に頷く笹川に僕はわざと大げさに喜び、その腰に抱きつく。
だけど内心、男同士で馬鹿みてぇ、気持ちわりぃ、なんて思いながらも、僕に抱きつかれて満更でもなさそうににやついている笹川を上目使いに見て、心底、バーーーーカと思い心の中で舌を出す。
それでも僕はその蔑みをおくびにも出さず、嬉しそうに笑うと、笹川と指きりげんまんなんて糞馬鹿らしい約束の仕方をして、笹川とこの日は別れた。
一つの餌にもう一つの餌が食いついた事に、酷く満足しながら。