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NOVEL

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エピソード2 01

注意事項:特になし

 ピンポーン。
 玄関の呼び鈴が鳴る。
 僕は掃除の手を止めると、インターフォンの所へと急いで駆けつけ、そこに映っている玄関前の映像を見て少しばかり眉を潜めた。
 何故か玄関の前には、委員長。
 そしてその後ろには笹川が立っていて。
 しかも委員長は怒ってるような、ムッとした顔でインターフォンのカメラに向かっている。
 その顔を見てなんで委員長が笹川と一緒に居るんだ。と、そう思う。
 今日は笹川が僕の家に遊びに来る、そう約束した日だ。
 それなのに何故、笹川一人ではなく、委員長が連れ添っているんだろう。
 幾ら笹川が馬鹿だからって言ったって、委員長をこの場に誘うなんて考えられない。
 これは無視したほうがいいかな。そんな風にさえ思ってしまう。
 それでももう一度ピンポーンと呼び鈴を鳴らされれば出ない訳にはいかなくて、僕は渋々通話ボタンを押した。

「……はい。」
「あ、一臣? 僕だけど……あのさ。」
「……何か用?」

 出来る限り素っ気無く応える。
 インターフォンの向こうで委員長が少し気まずそうに沈黙をした後、また口を開いた。

「あのさ、……笹川とマンションの下で会ったんだけど……。なぁ、一臣、笹川と遊ぶ約束なんて本当にしてる?……違うよな?」
「違わないよ、僕が誘ったんだ。だから委員長には関係ないから、帰ってよ。」

 言い辛そうに言った言葉に僕は強くそう言い返し、通話ボタンを切る。
 そして、そのまま玄関へと向かって歩いていった。
 玄関ドアの前に立つと、その向こうで委員長がインターフォンに向かってまだ何か話をしている声が聞こえる。
 それを鼻先で笑った後、僕はドアのチェーンを外し、鍵も解除すると、ドアを開けた。

「ぅわっ。」

 ドアの真ん前に居たらしい委員長が驚いたような声を挙げる。
 だけどそれは無視して、僕はその後ろに困ったような顔で立っている笹川を見て微笑んでやった。

「いらっしゃい、笹川くん。さぁ、入って。入って。」
「お、おぅ……。」

 委員長の存在なんて見えないとでも言うように僕は振る舞い、満面の笑みを笹川に向けると、笹川に手を伸ばしてその手を掴むと部屋へ招き入れるように引っ張る。
 だけど笹川は委員長の存在に戸惑っているようで、部屋に入るべきかどうか悩んでいるみたいだった。
 ここまで来て僕の計画をこんな奴に邪魔されるとは思いもしなかった。
 だから僕はドアの反対側で、やたら僕の名前を呼んでいるそいつをドアから顔を出して睨んでやる。

「委員長。邪魔だから帰ってよ。」
「一臣……?! だ、だけど……、そいつ……。」

 委員長が何を言いたいのか嫌って程わかる。
 そいつはお前をいじめてる奴らの一員だぞ、そんな風に思って居る事がはっきりとその顔に書かれていて、僕は委員長の迂闊さと馬鹿さに内心毒づいた。
 だけどここで僕の本性が笹川にバレるのは困る。
 だから僕は、一つ小さく溜息を吐くと、笹川の手首を離し、委員長に向き合う。

「言いたい事は解るよ。でも、笹川くんと野々村くんは別人だから、そんな事どーでもいいんだよ、僕にとっては。 ……それに、僕は、笹川くんの事……、す、好きだから……。」

 我ながら見事な演技だと思う。
 最初はきっぱりと言い切り、そして後半はもじもじと照れたように頬を染めながら、僕はチラリと笹川の顔を見る。
 僕の言葉に笹川は少し驚いたような顔をしていて、そして、委員長もまた酷く驚いたような顔をして僕を見ていた。
 そんな二人に内心舌を出しながら、僕はマンションの通路へと出ると笹川の手を握る。

「僕が笹川くんと個人的に仲良くしたい、って思うのはいけない事……? 笹川くんの事を友達以上に思う事は、そんなに変な事……?」
「一臣っ?!」
「……っ!」

 キュッと笹川の手を握り、頬を染めたまま笹川の瞳を見つめ返す。
 僕の言葉と行動に委員長は声を裏返させて、僕の名を叫んだ。そして笹川は、ゴクリと喉を鳴らして僕の瞳をいやらしい目で見つめ返す。
 その笹川の舐め回すようないやらしい目に僕は内心反吐が出そうだった。
 だけど、そんな表情は出しちゃいけない。
 そのまま僕は顔を隠すように笹川の胸に自分の顔を近づけると、委員長に見せ付けるように抱きついてやる。
 これで僕の事を見限ればいい。
 気持ち悪いホモだって思って、余計な手出しをしてこなくなりゃいい。
 そう思いながら僕は笹川の大して厚くもない胸板に額を擦り付けた。

「一臣……。」

 酷く落胆したようなショックを受けたような委員長の声が聞こえる。
 その声にチラリと委員長の方を見たけど、委員長はその端正な顔を青ざめさせ歪めて僕を見つめていた。
 委員長の顔にざまーみろ、と思う。
 僕を本当に救う気なんてないくせに、下らない正義感なんか振りかざして、自分の心を満足させる道具として僕を扱っているからこんな目に遭うんだ。
 そう思いながら、委員長に最後の一言を言おうと口を開きかけた。
 だが僕が言葉を口にする前に笹川の馬鹿が委員長に向けて初めて口を開く。

「よーよー、田中ぁ。そー言う訳だからよ、いい加減帰ってくんね? これから俺達はぁ個人的に『仲良く』するんだからよ。お前が出る幕じゃねーんだよ、へへへ……。」

 馬鹿はやっぱりしゃべる内容まで低俗で、馬鹿だ。
 だけどその下卑な言い方と笑い方に、委員長は更にショックを受けたようだった。
 よろり、とわざとらしいくらい壁に向けてよろけ、顔を真っ青にして瞳を彷徨わせ、あらぬ方向を見ている。口はわなわなと震え、小さく何かを呟き続けていた。
 なんでそんなにショックを受けるんだろうか。
 まぁ、赤ちゃんの頃から知ってた幼馴染が、男とねんごろになろうってのはショックかもしれない。
 しかもその相手が、自分をいじめているグループの中の一人なら尚更か。

「……そんな訳だから、じゃあ。……笹川くん、入って。今日はお母さん帰ってこないんだって。」

 青い顔を呆然とさせたまま壁にもたれかかっている委員長に、それでも少しばかり良心が痛みながらも僕はそう別れの挨拶をして、代わりに笹川の手を引っ張って部屋に招き入れる。
 すると笹川は解り易い位相好を崩し、デレデレと鼻の下を伸ばしながら僕の家の玄関へと足を踏み入れた。
 そして僕は笹川の背中を押して、靴を脱がして部屋に上がらせると、それでももう一度だけドアを開けて外を見る。
 委員長はもたれている壁からその体を起こしている所だった。
 危うく瞳が合いそうになり、慌てて視線を逸らすと、僕は委員長に向けて、もう僕に構わなくていいから、それだけを言い残してドアを乱暴に閉めた。そのままチェーンと鍵をかけると、笹川の待つリビングへと急ぐ。

「ごめんね。先にゲームしてていいよ。僕、お茶の用意するか……っ?!」
「幸田っ。」

 そわそわと落ち着きなく部屋中を見渡している笹川にそう声をかけ、僕はリビングからは対面になっているキッチンへと入ろうとする。
 だけど、その僕の背中からなんと笹川が抱きついてきて僕は驚く。
 笹川はハァハァと荒い息を吐き、興奮しているのが一目瞭然だった。
 しかも僕の尻にジーンズ越しにゴリゴリとした硬い塊を押し付けてくる。

「笹川、くん……?」

 こいつが何を求めて、何をしたがっているのか解っている上で、僕はわざととぼけた。きょとんとした顔で僕より背の高い笹川の顔を見返し、どうしたの、とわざとらしく聞く。
 すると笹川は荒い息を吐いたまま、僕の手を取ると、その手を股間へと持って行った。

「……ぁ……、やだ、笹川くん……。」
「幸田、シようぜ。早く、ほら。」

 手のひらに当たる笹川の汚らしい性器の感触に、だけど僕は今更ながらに恥じらいの表情を作って、驚いたように手を引っ込めようとする。
 だけど笹川は僕の手は離さず、臭い息をハァハァと吐きながら僕のその手のひらに股間をごしごしと擦りつけて来た。
 手のひらに感じる笹川の股間の感触は今までにないくらい、硬くて、ジーンズの向こうでもはっきりと解る位大きくなっている。
 やたらに興奮している笹川に対して、僕は馬鹿みたいに冷静になる。
 一体こいつが何に対してこんなに興奮しているかがまず解らない。
 少し冷静になれば、お前が発情している相手は男で、キモい顔をしたオタクだってのが解るだろうに。
 そうは思いながらも僕は、笹川には照れた顔を見せ続けながら、笹川を焦らしていた。

「……で、でもぉ……、こんないきなり……、ねぇ、それより、ゲーム……しないの……?」
「後、後でいいじゃねぇか。……それとも、ここまで来て嫌だとか抜かしやがるんじゃねーだろうなぁ?」
「ち、違うよ……っ! そ、そりゃ、僕だって、シたいけど……、でも、そのぉ……っ。」
「あぁ?! なんだよっ! 何、今更勿体ぶってやがるんだよっ!!」

 もじもじと焦らしていると、笹川が切れ始めた。
 性欲ってのはここまで人を短気に変えるものか……。いや、笹川は元から短気だから、関係ないか……。
 そんな事を思いながら、僕はチラリと笹川の顔を見る。
 笹川は性欲に寄る興奮で汚い顔が更に汚らわしい顔になっていて、正直、直視できない。
 あぁ、心底、気持ち悪い。
 だが、ここでこれ以上焦らしても仕方がない。
 僕は意を決すると、笹川に向けて背伸びをしてそのだらしのない唇に自分から唇を押し当てた。

「……あの、その……。さ、笹川くんは、僕と、どこまでシたい……? フェラだけで、……いい?  きょ、今日は、母さん、帰ってこないし、その、笹川くんがシたいなら、僕、最後までシても……。」

 ぐにゅっと唇に感じた笹川の唇の感触に内心オエッってなりながら、僕は笹川の首に手を回し、恥じらいを表に出して笹川の覚悟の程を確認してみる。
 すると笹川の顔がきょとんとしたものに変わった。
 まさかこいつ最後までってのは想定してなかったのだろうか。
 ただ口でする事だけを考えてここまで興奮してたんだろうか。
 それなら本当に単純で、アホだ。
 だけど、少しの間の後、笹川は突然その鼻から大量の息を吐き出した。
 それが鼻息だと気がつく前に、僕の体は足から浮かび、笹川の腕に抱き上げられていた。

「ぅわぁああ……っ?!!? や、ちょ……っ、さ、さ川……っ!?」

 自分の体が軽々と持ち上げられた事にまず驚き、更に笹川が顔がやたらに近くにあってその表情に二度驚く。
 笹川の顔は酷く興奮しきっていて、細い目は血走っているし、鼻からはお前馬かよ?! って言いたくなる位鼻息を荒く出しているし、唇は捲れ上がって歯をむき出している。
 流石にこれはマズッたかと思い、僕は不安定な体勢のまま笹川に待ったをかけた。
 だが笹川に僕の声はもう届いていないらしく、きょろきょろと部屋を見渡した後、リビングの隅に置いてあるソファにその視線が止まった。
 あ、ヤバイ、と思ったのと笹川がドスドスと歩いていき、僕の体をそのソファの上に投げ出したのは同時だった。

「ぅあ……っ?!」

 ふわりと浮いた自分の体に情けない声が出る。
 だが、すぐに僕の背中はソファのクッションの上に沈み、ホッとした。のもつかの間。僕の上に笹川が相も変わらず興奮した血走った目をぎらぎらと向けたまま、圧し掛かってくる。

「っ……、や、笹川……っ! 顔、怖い、怖いって……っ!!」
「幸田……っ、幸田……っ!!」

 ハァハァと荒い息を吐きながら笹川は僕の服を剥ぎにかかっていた。
 そんな笹川の余裕のない顔に僕は今までにない恐怖を味わいながら、必死になって抵抗をする。
 自分から誘った癖に自分でもなんだが、笹川の顔が本っ当に怖かった。不細工な男に迫られる恐怖というか、男に迫られる恐怖と言うか……。
 今までは口でスるだけで自分の身の危険と言うのは、暴力以外ではそれ程感じた事はなかった。
 だけど、今は、間違いなく貞操に危機、だ。
 命の危険よりも、何故だか更に恐ろしいものに思え、僕の顔から血の気が引く。
 その上、フーッフーッと、ハァハァよりも深い吐息と鼻息に更に笹川の本気を垣間見てしまう。
 しかも僕のシャツは破けそうなくらい無茶苦茶に引っ張られながらボタンを外され、露になった肌に笹川の息が間近で吹き付けられる。
 それだけで僕の体には鳥肌が立ち、まだ自分自身を守ろうと思う気持ちが残っているのだと僕はその時になって初めて気がついた。
 だけど、もうここまで来て、や〜めた! はきっと通じない。
 仕方なく僕は覚悟を決めると、必死になって僕のシャツを剥ぎ取ろうとしている笹川の手をやんわりと握って止める。

「……そんなに乱暴にしたらシャツ、破けちゃう……。自分で脱ぐから……。」
「あぁ?! ……そういって逃げるんじゃねぇだろうなぁ?」

 笹川の疑り深さに内心苦笑しながら、僕は、笹川の首に手を巻きつけるとその唇に自分から唇を重ねた。
 そして、少しの間ねっとりと唇を合わせると、離す。

「……逃げないよ。だから、ちょっと落ち着いて。……僕、他人と、男の人とこんな事するの、初めてだから、怖いんだよ……?」
「幸田……。」

 笹川に甘えるような声を出して、そして、少し声を震わせて自分の不安も伝える。
 するとこの馬鹿にもそれなりに言葉が通じたらしい。
 笹川はゴクリと生唾を飲み込むと、僕の上からゆっくりと退けてくれた。
 やれやれ、自由になった、そう思いながら僕はソファの上に体を起こすと、笹川がじっと見つめている中、ゆっくりとシャツのボタンを一番上から外していく。
 焦らすように殊更ゆっくりと、だけど、笹川から見て恥ずかしがっているように見えるように、僕は顔を少し俯き加減にしてボタンを外すことに集中した。
 男だから当然だけど、シャツの下には何もつけてない。
 笹川の視線がその僕の素肌に注がれる事が、やけに気持ち悪くて、思わず少し隠し気味にシャツを腕から抜く。そして、そのままソファの下にシャツを落とし、次はジーンズに手をかける。
 この場合、全部脱いだ方がいいのだろうか、と少し迷いながら、僕はジーンズのボタンを外し、ジッパーに手をかけて、ゆっくりとそれを下へと下ろす。
 ジ、ジジジッ……、とジッパーが下りる微かな音が妙に気恥ずかしい。
 男相手に恥ずかしがっても仕方ないが、これから先に待ち受けているのは、男同士でも、ヤる事は男女のソレだ。
 一応、笹川をこの家に招くことを計画した時に、男同士のヤり方と言うものも十分にネットを見て研究した。
 後ろの穴を使うことを知ってショックだったのも、今ではいい思い出だ。
 その調べた事を、今から僕はこの男相手に実践する。
 それを思うと気分は重い。
 それはやっぱり大っ嫌いな男相手に、男女でする性の営みって奴をやらなければいけないからだろうか。
 だけど、これを通過しておかないと僕の計画は全て台無しだ。
 口でスるだけじゃいずれ限界を迎える。
 笹川に僕の口を飽きられでもしたらお仕舞いだ。
 その為にもここは一発、自分の体を犠牲にしてこいつを自分へ取り込んでおかないといけない。
 だから僕は一度大きく息を吸い込み、気持ちを奮い立たせるとジーンズも足から引き抜いた。
 パンツ一丁になった僕をどんな目で笹川が見ているのかは、解らない。だって怖くて笹川の方を向けないから。
 だけど、痛いくらいに笹川の視線が僕の体のあちこちに突き刺さるのを感じ、いっそこのまま興奮が覚めて正気に戻ればいいのに、なんてふっと思ってしまう。自分が欲情している相手が、男だってことに気がついてくれればいいのに、なんて。全てを捨てた僕が今更思う事じゃないのかもしれないけど。でも、ホモでもない僕が男に抱かれるっていうのは、やっぱりどこか抵抗があって、心のどこかでそれを期待してしまう自分が居る。
 しかし僕の手が戸惑い気味に下着にかかった時、いきなり笹川に体を押され、ソファの上にまた押し倒された。

「……んっ、んむっ……ん、んーーっ?!」

 しかも唇まで奪われる。
 一体僕の体の何にこいつは興奮しているんだろう。
 それとも、男が相手であってもセックスが出来るという事実一点のみに、興奮して性別なんてどうでもいいんだろうか。
 そんな事をやけに冷めた頭で思いながら、それでも笹川のやけにねちっこいキスを甘んじて受ける。
 口の中をやたらに舐め回され、気持ち悪い。
 笹川の唾液が無理矢理流し込まれ、咽そうになる。
 そうしながら、笹川の下半身からカチャカチャとベルトを外す騒がしい音が聞こえてきた。
 どうやらベルトを外そうとしているらしいけど、焦っているのか上手く外れないみたいだ。
 あまりに何度も何度もカチャカチャと煩く金属音を鳴らしているので、仕方なく僕は手を伸ばして、笹川の手の上からベルトを弄り、それを外す手伝いをする。
 バックルに引っかかっている金具を外し、しゅるしゅると皮で出来ているベルトをバックルから引き抜く。そうしながら、僕はいつもの癖でそのまま笹川のジーンズのボタンを外し、ジッパーも外した。
 我ながらこの手の動作が板に着いてしまったのが悲しい。
 だけど、余りに何度も何度もあんな風に笹川に『掃除』を求められれば、自然と覚えてしまう。

「っはっ、……幸田……っ。」
「ん……、ささ、がわ、く……っ。」

 僕の指が下着越しに笹川のブツに触れると、笹川は漸く僕の唇を離した。
 そしてますます血走った目で僕の顔を見下ろす。余裕のなくなっているその顔は酷く不細工で、気持ち悪かった。
 だけどその顔に気をとられている場合でもない。
 笹川は僕の腰を持つと、下着に手をかけ一気に僕の足から下着を引き抜いた。そのあまりに鮮やかな早業に、僕は一瞬自分の身に一体何が起きたのか解らない。
 え、と思った時にはもうすでに僕の両足からパンツは引き抜かれてて、笹川は自分のジーンズとパンツも脱ぎ散らかした後だった。

「え? ……え……?」

 下半身に感じるなんともいえない熱気に、僕は笹川の顔と、下半身を何度も何度も見比べる。
 だけど何度見比べても、目の前の光景は変わらなくて。
 笹川はギラギラした余裕のない瞳で僕を睨むように見つめ、笹川の下半身はその性器をフル勃起させて僕の股間に押し当てていた。
 その光景に僕は、なんというか、いよいよなんだ、と妙に冷めた頭で冷静に覚悟を決める。
 ネットで見た限りでは、男同士の行為というのは結構気持ち良さそうなものだった。
 そりゃネット上の偏った知識しか得てないし、快感をすでに得られる人達の体験談だったりしか見てないから、初めての僕が確実に快感が得られる訳じゃないってのは解ってる。
 だけど上手くすれば、初体験でもそこそこは気持ち良い、らしい。
 だがその反面、それは十分な事前準備とリラックスが必要だとあって、今の僕にはそのどちらも当て嵌まっていない事に気がつく。
 せいぜい事前準備としてしていた事は、笹川が訪れる前に風呂で体を丁寧に洗った事だけ。
 後ろの拡張だとか慣らしだとかは、すっかり僕の念頭から消失していた。
 だってまさか笹川が前技もなにもなしに即効行為に及ぼうとするなんて、思いもしなかったから。いや、そりゃ僕だって笹川が僕に対してネットで見たような丁寧な前技だとかをするなんてのは思いもしなかったけど、幾らなんでも、ローションもオイルもなしに来るとは思わなかったんだ。
 笹川の視線は完全に僕の下半身に向いていて、それ以外の所には興味はなさそうだ。
 しかも明らかに僕の足をその肩に抱えようとしている。
 こんな状態で、笹川のアレを尻に突っ込まれでもしたら、一体どうなるのか。
 ちょっと考えただけでも簡単に想像がついて恐怖心が湧き上がる。
 だけどそんな僕の事なんてお構いなしに、笹川は僕の足をその肩に担いだ。
 そしていよいよ笹川のモノが僕の尻の穴に押し当てられ、僕は思わず笹川の肩を強く押した。

「まっ、待って……っ、笹川くん……っ!」
「んだよ……。」

 頭上から笹川の酷く不満そうな声が降ってくる。
 その声に内心毒づきながら、僕は恥ずかしそうに瞳を伏せながら、口を開く。

「あ、あの……そのままだと、痛い、と思う……。僕もだけど、笹川くんも……。」
「あん? なんでだよ?」

 馬鹿はやっぱり馬鹿で。
 すぐさま挿入できないことに不満を持った口調で僕に笹川は詰め寄る。
 そんな笹川に僕は困った顔を向け、ちょっと待っててよ、と声をかけると笹川の腕の中から抜け出た。
 それにまた笹川が不満の声を漏らしたが、僕はそれには構わずキッチンに向かうとそこにあったオリーブオイルを手にして笹川の元へ戻る。

「……本当は、ちゃんとしたローションとかの方がいいんだと思うけど、ないから……コレ。」
「? それ、どうするんだ?」

 本当に笹川は無知なのか、僕の手にしたオリーブオイルが一体何の役目を担うのか解っていないようだった。
 それに心の中で舌打ちをしながら、僕は恥ずかしがるフリをしながら笹川にそれが必要な理由を簡潔に、だけど、笹川にも解るように説明する。
 すると最初は不満げな顔で僕の話を聞いていた笹川だったが、それがあると互いに気持ちよくなれる、と言った僕の言葉に瞳を輝かせた。
 なんてわかり易い、単純な奴。
 心の中でそうほくそ笑み、僕はオリーブオイルを手に垂らすと、笹川の股間でそそり立っている笹川自身にそのオイルをたっぷりとなすりつける。
 僕のその手とオリーブオイルのぬるぬる感に笹川は喉の奥で気持ち良さそうな呻き声を上げた。
 笹川が僕の言葉と行動で面白いように僕を受け入れている事に、僕は酷く心地良い思いをしながらオリーブオイルを潤滑油代わりに笹川の性器に刺激を与える。
 くちゅくちゅと音を立てながら扱くと、笹川のモノは更に僕の手の中で大きくなり、今すぐにでも爆発して僕の手の中にあの白い液を噴射しそうだった。
 もういっそこのまま手の中に発射してくれればシなくてよくなるかも、とも思いながら僕はじっと笹川の性器を見つめながら、強く優しくそれを扱き続ける。
 すると程なくして、笹川は喉の奥で、うっ、と低く呻くと突然僕の顔を笹川の勃起している性器へと押し当てた。それは、咥えろ、と言う合図だと思い、僕は笹川の性器を口にする。
 口の中にオリーブオイルの味が広がり、その油のぬるつき感に気分が悪くなる。
 だが、幸いにもそれ程長い間、オリーブオイルの味を味わうことはなかった。
 僕の口が笹川の性器を包み込んだ瞬間、笹川は我慢が出来ずに僕の口の中にあのねばねばを発射する。喉の奥にその熱い粘液が当たり、何度出されてもこの感覚には慣れなくて、少しだけ咽た。
 だけどいつもするように、最初だけゴクリと飲み込むと、その後の精液は全部口の中に溜める。
 そうしながら笹川の射精が終わるのをじっとして待つ。
 いつも以上に長く感じられるその射精に、しかもいい加減口の中から溢れ出しそうな精液の量に、僕は上目使いに笹川を見る。
 すると笹川は何を思ったのか、僕の口からまだ射精が終わっていない性器を引き抜いた。
 僕の口からボタボタと笹川の精液が零れ、更に笹川の性器の先端からも精液が零れ、床の上に小さな水溜りを作る。
 あ〜あ、と思っていると、笹川は僕の顎に手をかけ、僕の顔を上向かせた。

「……飲めよ。」

 そしていつものように僕にそう命令を下す。
 その言葉に、はいはい、と思いながら僕はまだ口の中に残っている精液を口を開けて笹川に見せ付けた後、ゴクリ、と喉を鳴らしてその精液を飲み干した。
 喉を通り抜けるその精液のねばねばした感触と、いがいがした感覚に僕は少しだけ顔を顰める。
 だけど、僕が精液を飲み込んだことに笹川は満足したのか、僕の表情に珍しく憤ったりしなかった。

「美味いか? 幸田。」

 しかし突然そんな事を聞かれて、思わず演技も出来ず目を見開いてしまう。
 マズッたと思ったが、笹川はこれにも特に声を荒げることもなかった。
 その事に少し拍子抜けしながらも、僕は改めて恥ずかしそうな表情を作ると、小さくコクンと頷く。ここは言葉で言うよりも、恥じらいの動作で応えた方が笹川が満足すると思ったのだ。
 そして僕のその予想は見事に当たっていた。
 笹川はご満悦と言った表情でにたにたと笑うと、突然僕の体を反転させてソファの上へと押し倒してくる。
 そのまま床の上に置いていたオリーブオイルの瓶を手を伸ばして取ると、笹川はそれを手のひらに取った。
 一体何をするつもりだ、と思い、その行動を見守っていると、笹川はニタリと僕にいやらしい笑みを向けてくる。
 それがまた鳥肌が立つ位気持ちの悪い笑みで、僕は思わず直視できなくて目を逸らしてしまった。
 それがいけなかった。
 ぬるり、と足と足の間に何かが擦り付けられる。
 それがオリーブオイルだと理解した瞬間、笹川の指が僕の尻の穴になんの予備動作もなく突っ込まれた。

「……っつつ……っ?!!!??」

 声にならない悲鳴が僕の喉から漏れる。
 想像以上に後ろの穴を抉じ開けられる痛みは激しくて、僕は目を見開いてガクガクと体が痛みで揺れるのを止めることが出来なかった。
 だが、僕のそんな様子なんてお構いなしに笹川の馬鹿は僕の尻穴に、その指を無理矢理ねじ込んでいく。

「や……っ、痛いっ痛いいたいっっっ!!!」
「うるせぇなぁ! お前がこーしたら気持ち良い、って言ったんだろうがっ!」

 余りの痛みに僕が叫びまくると、笹川は舌打ちをしながらそう苛立った声で言ってきた。
 それに僕は痛みで潤んだ瞳を笹川に向け、僕は手を伸ばして笹川の首に腕を絡める。
 そしてその耳に僕は痛みで掠れた声で囁いた。

「お、お願い……っ、もっと優しくしてよ……。僕、笹川くんと一緒に気持ち良くなりたいんだよぉ。このままじゃ痛いだけで、二度と笹川くんとエッチしたくなくなっちゃう……。」

 自分でもなんて甘ったるい声だと思う。
 そしてなんて気持ち悪い事を言ってるんだ、とも。
 だが、このままだとマジに笹川とは二度とゴメンだと思いかねない。それじゃ、ダメなんだ。一回だけの関係じゃ、僕の計画は破綻してしまう。
 だから必死になって甘い声で笹川を諌め、誘導する。

「無理矢理、指、挿れるんじゃなくて、もっとお尻の穴、指先で優しく触って? オイル塗りこめるみたいな感じで……。……っ、あ、ん……そ、そう……、笹川くん……っ、それ、気持ちイイよぉ……っ。」

 気持ち良い訳あるか。馬鹿。
 だけど、笹川をその気にさせないといけないし、気持ち良くなる云々の前にただただ痛いだけっていうのは勘弁願いたい。
 折角初体験をするなら(相手がこんな奴であっても)、嫌な思い出にはしたくないし。
 そう思いながら僕は必死になってネットで拾った知識を小出しにして、笹川の手を導く。
 笹川は僕の言葉にやけに素直に従い、さっきまでの乱暴さは成りを潜め、やたらに優しくその部分を触り始めた。
 そのせいか、それともたっぷりと注がれたオリーブオイルのせいか、段々と笹川の指が時間をかけて捏ね繰り回している尻穴からなんとも言えない感覚が背筋を伝ってくる。
 むずむずするような、気持ち良いような、変な感じ。

「ん……っ、なんかぁ、変な感じ……っ、ん、ふぁ……っ。」

 思わずその感覚をそのまま笹川に伝える。
 だけど、その声が自分とは思えないくらい、妙に変な声で、自分でも慌ててしまう。
 なんだ今の声。
 さっきまでの演技でやっていた声とは違う、妙に甘くて蕩けたような声。
 まさか僕が笹川の指に感じてる?
 そうは思っても、改めて意識し始めると笹川が触れている箇所はやけに熱くて、じんじんとした痺れにも似たような感覚がそこから広がっていって、可笑しな気分になる。
 するとそんな僕の声に、笹川は顔を挙げると僕の顔を見下ろしてニヤリといやらしく笑った。

「ケツ穴気持ち良いみたいだな。幸田ぁ、お前のチンポ勃起し始めてんぞ?」

 ニヤニヤと下卑た笑いを浮かべながら、笹川はまるで主導権を握ったかのように勝ち誇った顔で僕にそんな事を言う。
 その言葉にカチンッとは来たけど、今は我慢。
 笹川の品のない言葉に、僕は恥ずかしそうに瞳を伏せ、顔を隠す為に笹川の首に回している手に力を込めて笹川の顔を自分へと引き寄せた。そして、そのままその肩口に顔を埋める。

「……っ、だ、だって、笹川くんに……や、優しく、ソコ、触られてるんだもん……っ。どうしても、気持ちよくなっちゃうよぉ……っ。」

 恥ずかしがりながらも、でも、あくまでも笹川に抱かれる事が嬉しいんだ、ってニュアンスを込めて僕は笹川の耳にそんな言葉を囁く。
 案の定、笹川は僕のその嘘っぱちな言葉に酷くそのちっぽけな優越感を満たしたらしかった。
 笹川はグヘヘ……と馬鹿みたいな笑いを漏らすと、僕の顔を無理矢理笹川の方へと向けさせる。そしてそのまま僕の唇にその口を重ねてくる。
 ニチャッとした気持ちの悪い感触が唇に広がり、うへぇ、と思う。
 だけどここで拒否する訳にもいかず、僕は笹川のさせたいように好きに唇を貪らせた。
 笹川はヤニ臭いその舌で僕の口の中をこれでもか、と弄り、クチャクチャと音を立てて唾液を攪拌する。
 それらの全てが気持ち悪くて僕は、ぎゅっと目を閉じて必死になって我慢する。
 しかも笹川は僕の股間にそのまた勃起した性器をいやらしく押し付け来て、性器と性器を擦り合わせるように腰を振っていた。
 流石にダイレクトに笹川のモノが僕の性器に当たると、なんとも言えない感覚がそこから湧き上がる。
 確かに笹川とこうしてキスをして肌を重ねる事自体には嫌悪感と吐き気を催すが、その部分から湧き上がるオスとしての条件反射と言うか、本能と言うか、それには逆らえない。
 キスしてこうして肌を合わせている相手が笹川だと思いさえしなければ、それは、酷く甘美な快感だった。

「っは……ん、ぁ……あ……っ、ふぁ……っ。」
「……幸田。そろそろ、なぁ、いいだろ?」

 オリーブオイル塗れになっている笹川の性器の感触が妙な快感を与え、僕は笹川の唇から逃げるように唇を離すと、小さく喘いだ。
 それが引き金になったのかどうか。
 笹川は、また最初みたいにハァハァと獣じみた荒い息遣いと鼻息を零しながら、僕にそう迫ってきた。
 その言葉に僕は一瞬考える。
 一応、さっき笹川に丁寧にあの部分はほぐして貰った。
 自分でははっきりとは解らないけど、最初に比べたら少しは筋肉もほぐれて柔らかくなってるかもしれない。
 少なくとも無理矢理指を突っ込まれた時のような酷い痛みは感じないかもしれない。
 そう思い、僕はチラリと笹川を見ると、血走った目で僕を見下ろしていた。
 その醜悪な顔に一瞬、嫌気がさしたが、それでも、僕はそっと控えめに頷いてみる。勿論、アナルセックスなんて初めてだから怖いよ、なんてもったいぶって笹川の首にしがみつくのも忘れずに。

「ま、任せろ! 俺様がサイコーに気持ちよくさせてやるからよーっ!」

 ……馬鹿じゃね、こいつ。マジで。
 笹川が僕の言葉に興奮からどもりながらも、そんな大見得を切って僕に言うのをそんな風に冷静に酷評しながらも、僕はしおらしく笹川の耳に、うん、期待してる、なんて大嘘な甘言を囁いてやる。
 さぁ、感じさせて見せてよ。
 大見得切ったんだから、痛くしたら許さないからな。
 そんな事を思いながら僕は、笹川に身を委ねる。
 すると笹川は何を思ったのか、突然僕の足を大きく開いた。

「わぁ……っ?! や、ちょ、何……っ、やだ……っ、恥ずかしいって……っ!」
「いいから任せろって。俺だってお前、経験はそれなにりにあんだからよ。お前が男だからあんま考えてなかったけど、ようはあれだろ、女とスル時みたいにスりゃいーんだろう?」
「……え?」

 ぐっと足を曲げられ股間を笹川の顔の前に曝け出され、僕は焦る。
 だってこんなの聞いてないよ……!
 だけど笹川は何故か物凄く自信たっぷりに僕の顔を見返した後、僕の戸惑いなんて無視して突然その口を尻の割れ目へと勢い良く突っ込んだ。

「ひぁ……っ、や、やめ……っ、ふぁ……っ、ひ……んんんっ!?」

 オリーブオイルとは違うぬるりとした感触が尻穴に押し当てられ、その感触に僕は素っ頓狂な声を挙げる。
 だけど僕の制止なんて聞かずに、笹川の馬鹿は、ジュルルルル……ッ、なんて音を立てて僕のソコを吸い上げ、舐め回した。
 汚いとか、気持ち悪いとか、色々な感情が湧き上がっては尻穴から上がってくる感触と快感に消されてしまう。
 ピチャピチャとまるで犬か猫がミルクを舐め取って飲むように、笹川は僕のソコを舐め、ジュルルッと吸い上げる。しかも時折穴の中にその舌先を強引に捩じ込んできた。
 その度に僕の腰は与えられる快感に跳ね上がり、気がつけば僕の口からはだらしのない喘ぎ声とも、息遣いともつかない声が漏れてて。酷くプライドを傷つけられる。
 だけどそんな事よりも、初めて感じるこの押し寄せるような快感に僕は流され始めていた。

「っあ、あ、あぁ……っ、ひ……っ、ふあぁ……っ!」
「……ちゅっ、ん……、そろそろ、いいよな?」
「ふぁ……ん? ん、うん……ぅん……っ。」

 たっぷりと尻穴を舐められ、その舌先で穴までほぐされてしまってはもう僕には笹川を拒む力も思考もなかった。
 ただ言われた事にコクコク頷いて、もうどうにでもしろ、と言った気持ちで自分から笹川の体に手を伸ばしてその体に抱きつく。
 すると、笹川は下品な笑い声を低く漏らしながら、僕の足を肩に担いだ。
 いよいよか……。アナルでもロストバージンって言うんだろうか。
 そう思うとなんとも言えない気持ちになる。
 キスもエッチも全部始めての相手が男で、しかもこんな大っ嫌いな男だなんて大概僕も救えない。
 だけど、これから先もずっとあいつらに馬鹿にされて、いじめられて、サンドバックにされて、委員長に憐れまれるなんて方が僕には耐えられない。
 そんな生活をこれからもずっと過ごすくらいなら、男に抱かれる事なんて大した事じゃない。
 そう自分に言い聞かせながら、僕は笹川のモノが僕の尻に宛がわれているその気持ちの悪い感触にギュッと目を瞑って我慢する。

「……挿れるぞ。」

 笹川がまるで刑を執行する執行人みたいにそう僕に最終通告を行なうと、尻の窪みに押し当てたソレをぐっとその狭い場所に挿入させようと力を込めた。当然、元々そんなモノを挿れるように出来てないソコはなかなか笹川の性器を受け入れない。そのせいか、それとも笹川が慣れていないせいか笹川は、くそ、とか、んっ、とか呟きながら挿入するのに苦労しているようだった。
 なかなか入ってこないソレに内心少しだけホッとしながらも、このままだと笹川の機嫌が悪くなってしまうんじゃないかと思うと、僕としても気が気ではない。
 だからなるべく体の力を抜いて、その部分にも余分な力が入らないように気をつける。
 その甲斐があってか、漸く笹川の性器の先端が僕の尻穴を押し広げるようにしてゆっくりと入ってきた。
 びりびりするような痛みがその部分から湧き上がり、僕は息を飲み、体にどうしても緊張が走ってしまう。すると、折角笹川のモノが入りかけていたのに力が入ったせいか、僕の肛門から押し出されてしまった。
 しまった、と思う。
 だけど笹川は特に僕に文句を言うでもなく、もう一度僕の肛門に性器の先端を押し当てると、今度はさっきよりも力を込めて挿入させてきた。
 ぐぐぐぐ……、と尻穴が押し広げられる感覚と、その皮膚が引き攣れて裂けそうになるビキビキした痛みに僕は顔を歪める。
 すると途中まで挿入させた笹川の動きが止まった。
 どうしたんだろう、と思いながら薄目を開けて頭上にある笹川を見る。

「……いてぇーか? キツいんなら止めるか?」

 僕が薄っすらと目を開けたのに気がついたのか、笹川は僕の顔を見下ろしながら意外な言葉を口にした。まさか笹川にこんな風に労りの言葉をかけられるとは思わず、その余りに想定外な言葉に僕が返事に窮していると、笹川はその顔を歪めて笑う。

「っても、もう止められねーけどよぉ。」

 自嘲の混じったその言い方と笑みに、僕はますます笹川に対してなんとも言えない複雑な思いを抱いてしまう。
 きっと笹川は、僕が自分を利用してあいつらに復讐をしてやろうとは思ってもいないだろう。馬鹿だから。
 でも、だからこそ、こいつが何を思って僕とこうして肌を重ねるのか、その意味が少し知りたくなった。……多分、性欲の為だとは思うけど、でも、もしその他の理由があったら……?

「……笹川、くん……。」

 痛みに掠れた声で、笹川の名を呼ぶ。
 すると笹川は、ん?、と妙に優しい声で僕の呼びかけに返事をしてくれた。
 その声にむず痒いような変な感じを覚えながら、僕は笹川の首に回した腕に力を込めて、また笹川に抱きつく。

「どーしたぁ? やっぱ嫌んなったか?」
「……違うよ……。嫌じゃないよ……。」

 だけど笹川のやたらに優しい声に僕はセックスの理由を聞くのがなんだか怖くなり、かわりに笹川の言葉を否定して、そっと耳に囁く。
 大丈夫だから、最後までしよう。
 その言葉は勿論本心なんかじゃない。
 でも、ここで笹川のこの変な優しさに甘えて、セックスを中断してしまうのだけは避けたかった。
 だから僕は笹川にそう囁いて、笹川のやる気を煽り、自分でも痛かったけど腰を少し持ち上げて押し付けるようにする。
 すると笹川はゴクリと生唾を飲み込んで、僕の体を強く抱きしめ返してきた。

「なるべく痛くねぇよう頑張るけどよー、無理そうなら言えよ?」
「う、うん……。」

 笹川の豹変振りに違和感を覚えながらも、僕は笹川の言葉にコクンと頷く。
 その僕に笹川はにきび面をさっきとは違った笑みで歪めながら、また僕にキスをしてきた。
 相変わらず笹川とするキスは気持ちが悪い。
 ねちょねちょとしつこいくらいに舌を絡めてくるし、やたらに唾液を注ぎ込まれる。
 だけど笹川とのキスに集中すると不思議なくらい体から力が抜けた。
 ずずっ……、擬音にしたらそんな感じで笹川の硬く節くれだった性器が僕の尻の中へ入ってくる。
 だけど不思議な事にさっきまで感じていた引き攣るような、引き裂かれるような痛みは何故か余り感じなかった。一番太い所がすでに入っていたからだろうか? あまり痛みを感じなかった事を不思議に思いながら、笹川の唾液で口元をベタベタにしながらも笹川の求めるままに舌を奴に与える。
 唇でねちょねちょとしつこいキスを繰り返していると、笹川の腰はどんどん僕の体へ近づいてきていた。
 そして。

「……ふはっ、おいすっげぇなぁ、全部お前のケツに入ったぜぇ?」
「ん、……ホント、凄い……、なんか、信じられない……。今、僕達、繋がってるんだ……。」

 笹川は僕の唇を解放すると、そう物凄く満足そうな、自慢そうな顔でそう僕に全部入った事を伝える。言われなくても尻肉に笹川の腰骨が当たり、笹川のモノが全部入った事が僕にも解った。
 だけど僕は笹川を馬鹿にするような言葉は一切口にせず、多分こう言えば男は喜ぶんじゃないか、って言葉を選んでのぼせたような口調でそれを口にする。
 その選択肢は間違ってないことがすぐに解った。
 笹川は僕の言葉に、また嬉しそうに狐みたいな瞳を更に細くして笑い、また僕に激しくキスをしてきたから。
 もう、なんだってこいつはこんなにしつこいキスばかりしてくるんだろう。
 正直嬉しくない。ウザい。
 だが、それを伝える訳にもいかず、僕は結局、気持ち悪い、と思いながらも笹川のキスを受け入れるしかなかった。
 しかも笹川は僕の口をその汚い、ヤニ臭い口で塞いでねちょねちょと舌を絡めながら、ゆっくりと腰を動かし始める。
 オリーブオイルと、その前に笹川が舐めてたお陰か、笹川のモノは思ったよりもスムーズの僕の尻の中を動いた。
 だけど、やっぱり入り口は笹川が腰を引く度にピリピリとした痛みが走る。しかも、物凄い異物感が腰から下に感じ、正直気持ち良さとは全く無縁なこの行為に僕は笹川のキス同様、生理的な嫌悪感を感じていた。
 それでもその感情は無理矢理押し込め、笹川が腸を突き上げる度に感じる吐き気と異物感から意識を逸らそうと、笹川とのキスに集中する。
 笹川のキスは相変わらずねっとりとしつこい。
 長い舌で僕の口の中を掻き回し、丁寧に歯茎や歯の一本一本にまで舌を這わす。そして、僕の舌を吸い込みその口の中でくちゃくちゃに舐め回された。
 そんな気持ちの悪いキスだけど、不思議とそれに集中していれば下半身に感じる嫌悪感も異物感も紛らわす事が出来た。

「……っ、ん、はぁ……っ、ちゅ、……む、んっ……くちゅ。」
「は、幸田……っ、こう、だ……っ。んー、むぅ。」

 時折唇が外れると、笹川はまるで熱に浮かされているように僕の名を呼ぶ。
 それが妙にくすぐったくて僕はまた自分から笹川の唇に自分の唇を押し当てた。
 互いの顔を左右に振り、唇を合わせ、舌を突き出して絡める。笹川の口から零れた唾液は僕の口の中に落ち、僕の唾液と混ざり合って僕の唇の端からたらたらと零れていった。

「あ……っ、あ……っ、はぁ……っ、ん、んむぅ……っはぁ……っ。」

 なんだろう、頭が段々ボーッとしてくる。
 相変わらず笹川は僕の唇を貪り、ゆっくり、ゆっくり腰を動かし、尻からその性器をゆっくりと出し入れさせていた。
 そのせいか、最初に感じていたピリピリした引き攣れるような痛みは気がつけばなくなっていて、変わりになんとも言えないジンジンとした熱のような、痺れのような感覚が笹川が出し入れしている部分から背筋を伝って頭へと上がってくる。
 笹川のモノが僕の腸をゆっくりと突き上げると、僕の口から、あっ、あっ、と変な声が漏れた。
 それはきっと条件反射みたいなもので。突き上げられるその振動で、勝手に喉が搾り出している声なんだろう。
 だけど、なんでだろうか。
 自分でも良く解らないけど、笹川にじっくりと、ゆっくりと尻の穴をその性器でほじくられていると妙な熱がその部分から全身へと広がってくる。
 むず痒いような、もどかしいような、なんとも言えない、熱。
 その熱に僕の頭は乗っ取られつつあって、笹川のキスにさえもそれは酷く煽られる。
 だけどある瞬間に、笹川の唇が僕を解放した。

「こうだ……っ、こうだ……っ、あぁ、すげぇ、イイ……っ、こうだぁ……っ。イイぜぇ……、気持ちイイ……っ、こうだぁ……っ。」

 自由になった笹川の口から発せられる声は、まるで呪文のように僕の名前を連呼していた。
 しかもその合間には、僕のアソコの具合を挟んで馬鹿の一つ覚えのように、いい、いい、なんて呟いている。
 そうか、僕の尻穴は気持ち良いんだ……。
 なんだか冷静にそう思い、そしてなんだか妙に笹川の言葉が嬉しかった。
 それがどうしたというんだろう。
 本来こいつが気持ち良かろうが、痛がろうが、そんな事は僕には関係ない筈。
 だけど、笹川が僕の名前を連呼しながら、気持ち良い、気持ち良い、と言っているのを聞いていると僕までなんだか気持ちが良いような気がしてくるから不思議だ。

「あっ、あぁ……っ、ささ、川、く……っ、あっ、あ……っ。」

 突き上げられる度に変な声が僕の口から漏れる。
 なんなんだ、この声は。
 AV女優みたいな、鼻にかかった甘い声。
 僕の声じゃないみたいだ。
 それでも確かにこの声は僕の声だった。

「こうだぁ……、お前は? お前はどうだ?」

 笹川がなんだか酷く切羽詰った声でそう聞いてくる。
 それに僕はなんと答えたらいいんだろう。
 だけど僕が悩んでいる間に、勝手に僕の口がその笹川の言葉に答えていた。

「ん、ん……っ、い、いぃよぉ……っ、なんか、わけ、わからなくなっちゃぅ……っ。」

 何言ってんだ、馬鹿っ! 何、変な声だしてんだ、馬鹿っ!!
 自分で自分を叱責する。
 だけど、僕の無意識はもう僕の声なんて聞こえてないみたいだった。

「あ、あぁ……っ、や、笹、がわく……ん、ぼく、ぼくぅ……っ、初めてなのに……ぃ、やぁ……っ。」
「っ……、幸田……っ、はぁ、はぁっ……、こうか? ここ、どうだ?」

 笹川も笹川で、僕の変な喘ぎ声に感極まったような声で不細工な顔を更に不細工に歪めながら、いつの間にか激しくその腰を振りたくっていた。
 しかも微妙に位置を変えたりしているらしい。
 肩に抱えている僕の足の位置を変えたり、腰の位置を変えたりして、僕の腸壁のいろんな場所をその性器の先端で突いていた。
 一体こいつは何をしたいんだろう? と思う。
 だけどどうやら笹川自身何か目的があるらしく、あちこち深く浅く性器を挿入したり突き上げたりしながら僕の反応をギラギラした目で見つめていた。
 そして。

「ひぁ……っああぁあ……っ、やぁ……っ、あ、あんんんっ……ん!!」

 笹川のモノが僕の腸壁のある一点を突いた瞬間、僕の口からありえない音量の喘ぎ声が漏れた。
 自分で自分が出した声の大きさにびっくりする。
 だけど笹川は酷く満足した顔でニヤリと笑うと、今まであちこちを突いていたのをやめて、その部分を重点的に性器の先端で突き始めだした。
 ぐいぐいとその部分を性器の先端で押され、どうにもならない快感がそこから僕の下半身へ広がる。
 なんなんだ、これは?!
 なんなんだよ、これっ!?
 心の中で僕は叫ぶ。
 訳が解らない。
 まるで笹川の性器が腸壁を通り抜けて、僕自身の性器へと直接快感を与えているような、そんな不可思議な、でも激しい龍が体の中でのた打ち回っているような、そんな自分ではどうにも出来ないような気持ち良さが体中に拡散し、僕の心をめちゃくちゃに引っ掻き回す。
 叫び声のような、自分とは思えない喘ぎ声を僕は漏らしながら、めちゃくちゃに笹川に抱きつく。
 笹川の体温とその体の質感を感じていないと、僕が僕ではなくなってしまうような、そんな恐怖が、快感が僕を貫いていた。

「あっあぁああ……っ、はぁ、あ、やぁ……っ! さっ、がわ、く……っ、ささがわ……っ、やぁああああ……っ!! だめっ、だめぇえぇええ……っ!!」

 めちゃくちゃに髪を振り乱し、僕は嫌々をするように頭を左右に振る。
 その度に笹川の骨ばった肩に鼻先をぶつけてしまうけど、そんな事には構ってられなかった。ぎゅうぎゅうと笹川の細い体を両腕で締め付け、その背中にシャツ越しに爪を立てる。
 そんな僕に笹川は、フーッフーッと興奮した鼻息を噴きかけながら、その額には汗を大量にかいて更に僕を追い詰めるかのように、ゴツゴツと僕の穴の中にあるその快感の中心を硬い性器の先端で擦り上げた。
 もう、ダメだ。ダメだ、ダメだ、ダメだっ。
 このままじゃ僕は、笹川に殺される……!
 怖い、怖い、こわい、コワイ……っ!
 やだやだやだ……!!
 そんな不安と恐怖に苛まれながらも、だけど、僕は笹川を突き放すことも、その腕から逃げる事も出来なかった。
 相変わらず僕の腕は笹川に縋り付くようにその背中に回され、シャツ越しに爪をキツク立てている。
 そして。
 狂ったような嬌声を上げる僕の唇はいつしか笹川の唇に塞がれていた。

「んっ、んふぅ……っ、んんん……っ、む、ひゃう……っ、ちゅ、くちゅ……っんんっ、は、ふひゃ……っ。」

 笹川の唇に塞がれ、その口の中へ僕は快感の喘ぎ声を吐き出すと、そのまま笹川の口の中でくぐもった音になり、最終的に笹川に飲み込まれた。
 そうしながらも笹川は僕の腰に強く自分の腰を打ちつけながら、やたらと興奮した鼻息を僕の顔に吹きつけ続ける。
 顔にかかる笹川の生暖かい鼻息は、普段の僕だったならただただ気持ちが悪いだけだったかもしれない。
 だけどこの時は、変な話だけど、それさえも妙に嬉しくて僕は自分から笹川の唇に自分の唇を押し当て、笹川が吐いた鼻息を吸い込んでいた。

「……はっ、く……っ、こう、だ……っ、幸田、幸田、幸田幸田こうだぁああっ!!」
「あ、あぁ……っんん、ささ、川く……っ、ふぁ……っ、笹、がわ、く……っ! はぁ、ああ、ぁああんんんんっ!!」

 突然べろべろと絡ませあっていた舌を笹川は無理矢理外すと、僕の名前を何度も何度もそれは妙な熱っぽさを込めて叫ぶ。それに応えるように僕も、笹川の名を口にしていると、笹川が物凄い勢いで僕の尻穴を抜き差しし始めた。
 全てが抜ける直前まで引き抜き、そして、思いっきり根元まで深く突き入れる。
 その痛みとも快感ともつかない、強い感覚に僕の喉が仰け反った。
 そして、その途端笹川が一際大きく僕の名を叫ぶと、僕の尻の一番奥まで突きいれた格好で動きを止めた。その瞬間、僕のお腹の中に異変が起こる。じわり、と何かが僕の腸壁に当たり、そして熱いそれが腸内に広がっていくような、変な感覚を覚えた。
 それは、少しの便意と、そして、妙な安堵を僕にもたらす。
 だけどその感覚はすぐには終わらなかった。
 いつも笹川が僕の口に射精をする時と同じように、じわり、じわり、といつまでもその熱い感覚がお腹の中に溜まっていく。
 そこで初めて気がついた。
 笹川が僕の尻の中で射精した事に。
 あぁ、中出しされるってこんな感じなんだ……。
 そんな事をぼんやりと思っていると、笹川が僕の体をぎゅっと抱きしめてきた。
 なんなんだろう。これは。

「……ふー……っ、幸田ぁ……、ははは、俺、お前ん中に思いっきし出しちまったぁ。」

 そして酷く満足そうに、そんな事を笹川は僕を抱きしめながら呟いた。
 いや、呟いた、と言うよりは僕に言い聞かせたかったのかもしれない。
 種付けしたぞ、って。
 中出ししたんだぞ、って。
 そんな事で僕が何を思うって思ってるんだろう、こいつは。
 だけどきっとここは僕が喜ぶって反応を期待してるような気がしたので、僕も笹川の背中に手を改めて回して抱きしめ返す。

「……うん、出たの、わかったよ……。なんか、嬉しい……。僕のお尻の中に出してくれて……ありがとう。」

 恥じらいを絡めた声で僕は、それでも嬉しそうにそう笹川に囁く。
 僕のその言葉に笹川はやっぱり喜んだみたいだった。
 ふへへ、だか、ふひひ、だか解らないけどそんないやらしい笑い声を漏らすと、笹川はもっと強く僕の体を抱きしめてくる。
 もう、何だって言うんだろう。
 あぁ、早く上から退いてくれないかな。
 アナルセックスが思った以上に気持ち良いって言うのは解ったけど、こいつといつまでもこんな訳の解らない抱擁をしているつもりはない。
 そうは思っても、やっぱりダイレクトに退いてくれ、とも言えない。
 どうしよう、と思っていると、その気配を察してくれたのか笹川が顔を挙げて少し体を離してくれた。

「……幸田ぁ。」

 だけど奴は妙に真剣な顔で僕を見ながら、僕の名前を呼ぶ。
 その似つかわしくない真剣な顔に思わず噴出しそうになったが、すんでの所で僕は我慢して、何? って聞き返した。
 すると笹川は少し逡巡するかのようにその瞳を細い目の中でくるくると回す。
 馬鹿が何を真剣に考えているのかは知らないが、その逡巡はいやに長かった。
 いい加減待つのに飽きた頃、笹川は漸く視線を僕に戻した。

「……お前さぁ、マジでいいの?」
「……え……?」

 あれだけ長い間考え込んで、この質問。
 大体主語がない。主語が。
 そんなんで相手に意味を伝えようだなんて、甚だ可笑しい。
 せめて何に対して、いい、のかをはっきり言ってくれ。でないと、セックスの事なのか、それともそれ以外の事なのか、笹川が僕に聞きたい事の裏が読めない。
 お陰で間の抜けた声で聞き返してしまったじゃないか。
 僕が聞き返したことで、笹川は少し罰が悪そうな顔になったが、すぐに表情を引き締め直すと僕をじっと見た。

「だからさぁ、お前、俺でいい訳?」
「……。」

 俺でいい訳? 何が?
 やっぱり意味が解らない。
 大体、いいも何も。もうセックスはしてしまったし、こいつが僕の誘いに乗った時から僕の計画は始まっている。
 笹川がいいとか悪いとかではなく、笹川だから、この計画が僕の中で現実味を帯びただけだ。
 僕が答えに困って無言でいるのを笹川はどう思ったのだろうか。
 少し焦ったような顔つきになると、早口で何かを捲くし立て始めた。

「いやっ、だってよぉ、俺は野々村の、ほら、なんつーの、マブダチじゃん? だからさぁ、あいつは裏切れねーしっ、でも、お前とセックスしちまったし? 今更っつったら今更だけどよぉ、俺とセックスしたからって、あいつの、野々村のターゲットからはお前外すとか俺には出来ねぇし? 俺も良く知んねーけどさ、野々村って、お前にやけに執着してるからさぁ。あいつのいじめから助けるとか、俺はちょ無理だしよー。」

 べらべらべら。
 よくもまぁ、これだけ内容のない、しかも情けない言葉を喋れるものだ。
 笹川のどうしようもない人間性が垣間見える、その話しぶりに僕は内心苦笑を通り越して呆れてしまう。
 別に僕は笹川に庇って貰う為にこいつと関係を持った訳じゃない。
 こいつを足がかりにしたかっただけだ。
 だからこいつが別に僕に対してなんて思うおうとそんな事はどうでも良かったし、そんな下らない言い訳とかもどうでも良い。
 やっぱり馬鹿は、馬鹿だから馬鹿なんだな。
 そんな事を思いながら、笹川が喋り終わるのを苦行を受けている面持ちでじっと待つ。

「……だからよぉ、お前さぁ、それでも俺がいい訳? 俺と仲良くしてぇとか言ってたけどよぉ。俺はお前を助けられないんだぜぇ? まぁ、そりゃお前がいいんなら俺はいいんだけどよぉ……。」

 ……結局、それが言いたかった事の全てなんだろう。
 俺はお前を助けれない。
 だけど、お前がそれでもいいって言うなら俺はお前と仲良くしてやってもいいぜ。
 そんなたった二行で終わるような言葉をあんだけ回りくどく、くどくどと言う必要があったのか。
 それでも漸く真の意味でこの馬鹿が何が言いたいのかを察して、僕は薄く笑う。
 僕の笑みにこいつがなんて思おうがそんなのはもうどうでもいい。
 薄い笑みを顔に貼り付けたまま僕は、笹川の首に腕を絡めた。
 そして口を開く。

「……大丈夫だよ。助けて欲しい訳じゃないから、気にしないでよ。僕は、時々、こうして笹川くんと二人っきりで、その、エッチしたり、ゲームできればそれで良いんだ……。そりゃ、いじめられるのは怖いし、嫌だけど、でも……、笹川くんが、時折こうして抱いてくれれば、我慢出来るから……。……それに卒業まで後一年とちょっとだから、そしたら、あいつらとも別れられるし……。」
「幸田……。」

 健気さを演じて少し声を震わせながら笹川に抱きついて、そう僕は本心ではない言葉を吐く。
 そんな僕に笹川は相変わらずコロッと騙されたみたいだ。
 妙に感極まったような声で僕の名前を呟いた後、笹川は何を思ったのかまた僕にキスをしてきた。
 あぁ、もう、本当に鬱陶しい。
 なんなんだよ、こいつ。
 チュバチュバと音を立てて唇を吸われ、うんざりとしながらも笹川のそのキスを受け入れる。
 すると、挿入されたままだった笹川のモノがまたゆっくりと僕の中を擦り始めた。
 それに驚き、無理矢理笹川の口を離す。

「……っ?! や、……っ、笹川くん……、何っ……?! やだぁ……!」
「幸田ぁ……っ、こうだ……ぁ、そんなに俺と居てぇんなら、居る時はいっくらでも抱いてやるよ。……だから、な? なっ?」

 なにが、な?、なっ?、だ。
 僕の言葉にまた欲情しただけじゃないか。
 お陰でこいつには性欲しかないと言う事が良く解った。
 だったら尚更御し易い。
 痛みをもうすでに感じなくなっている尻を僕は自分から振り、ひっそりと笑みを浮かべた顔で、やだ、恥ずかしいよ、なぁんてわざとらしい言葉を口にしつつ、僕はもう一ラウンドするつもりでいる笹川を焚き付けてやる。
 すると笹川はまた馬みたいな鼻息を吐いて、僕の腰を掴むとさっきとは違って最初から激しくガンガンと動かし始めた。
 あぁ、もう、面倒くさい。
 そう思いつつ、僕は義理で喘ぎ声を挙げて、笹川に抱きついてやった。