注意事項:いじめ描写/暴力
一ヶ月が過ぎた。
季節はもうすっかり冬になっていた。
学校の制服もブレザーの上にコートを羽織る季節。
教室のエアコンも暖房に切り替えられ、授業のある教室の中だけは温かい。
そんな季節。
だけど後少しで冬休み、と言った寒さが際立つこの時期にも、あいつらはムダに元気だ。
今日も今日とてあいつらは僕をこの寒い中体育用具室に呼び出して、ボール遊び。
僕はブレザーを剥ぎ取られ、シャツも脱がされた状態で用具室の真ん中に居た。
寒さに震える僕に、あいつらはゲラゲラと笑いながら手に手にバレーボールやバスケットボールを持ち、僕に向けて勢い良く投げつける。
結構本気の勢いで投げつけられるソレは、この寒い時期僕の肌が赤くなるほどの衝撃と痛みを与えた。その痛みでまっすぐに立ってはいられないくらいで。あっちこっちから投げつけられるボールの衝撃に、僕の貧弱な体は右に左に翻弄されてしまう。
ただ、笹川が投げるボールだけはそれ程強く僕の体には当たらなくて、そこだけが妙な感じだった。
もっと本気で投げろよ。そう心の中で笹川に叱咤する。
だけどやっぱり笹川が投げるボールはやる気なんてなくて。これじゃぁ、すぐに野々村や他の奴らに目を着けられてしまう。
そんな事を思っていると、案の定、野々村の低い声が狭い用具室の中に響いた。
「あ゛〜〜、さぁさぁがわぁ〜? あ〜ん、てめぇ、やる気あんのかぁ〜?」
流石に笹川が手を抜いてボールを投げている事に野々村には目ざとく気がついたらしく、ドスの利いた低い声で笹川の名を呼ぶ。
その声に笹川は少しだけビクリと肩を揺らして、後ろで踏ん反り返っている野々村を振り向いた。
「おめぇさぁ、最近やぁけにチビに優しくねぇかぁ? サンドバックにする時もわざと手ぇ抜いて、殴るフリしてっだろ?」
「……いや、別にそんな事は……。」
「んじゃぁ、今ここでチビ殴れよ。……そうだなぁ、鼻血か、それとも、チビが泣いて喚いて許してくださ〜いって言うまで殴れ。」
笹川が野々村の命令に息を飲み顔色を変えたのが僕にも解った。
あーもーっ、馬鹿。
なんでこいつは演技の一つも出来やしないんだろう。
あれだけ会う度に僕が野々村達の前に居る時は昔みたいにしろ、って言ってるってのにっ!
笹川の間抜けっぷりに僕はいらいらする。
だけどここでそのイライラをぶちまける訳にはいかなくて、ぐっと言葉を飲み込む。
ただ心の中では呪文のように笹川に向けて、頷け、頷け、了解しろ、と念じていた。
「……リョーカイっす。」
僕の呪文が利いたのか、笹川は乗り気ではないような口ぶりだったがそう野々村の言葉に頷くと、手に持っていたボールを適当にその辺りに放り投げ、僕へとゆっくりと近づいてくる。
よし、いいぞ。
そのまま僕を殴れ。思いっきり。
そしたら僕はすぐに泣いてみせるから。ごめんなさい、って謝りながら泣くから。
ほら、早くしなよ。
そう思いながら僕は今か今かと笹川が殴りかかってくるのを待つ。
目の前に笹川が来ると、覚悟を決めたようにぎゅっと目を瞑る。そして奥歯を噛み締め、これから訪れるであろう衝撃に備えた。
だが、笹川はなかなか僕に向けてその拳を打ち出しては来ない。
早くしろ、早く……っ!
心の中でそう笹川を炊き付ける。
だけどやっぱりなかなか笹川は僕を殴ろうとはしなかった。
「……さぁさぁがぁわぁ〜〜?」
と、そこに野々村の野太い声が笹川の名を呼んだ。
低い、低い、地を這うような低音の、機嫌の悪いその声に思わず僕は目を開ける。
すると僕の目の前に立つ笹川の隣に野々村が立ち、その巨体を笹川に持たれかけるように肩を抱いていた。
しかも野々村の瞳は明らかに新しいターゲットを見つけた、とでも言うように嫌な光りを放っていて。にやにやと口元を笑みの形に歪めているのが、また、野々村の凶悪な雰囲気を強めていた。
「俺さぁ、ちょ〜と、面白い話を小耳に挟んだんだけどさ。」
「……なんっすか……?」
ぴたぴたと笹川のにきび面をその分厚い手のひらで撫でるように叩きながら野々村の耳に口を寄せるような形で言った言葉に、笹川は本人なりに努めて平静を装うとしている風に野々村の言葉を聞き返す。
その笹川の言葉に、野々村は太い眉毛をひょいっと持ち上げると、解んねぇのか? とでも言うように笹川の顔をまじまじと見た。
笹川は間近で野々村に、いや、野々村のあの鋭い眼光に晒されて心なしか顔が青ざめている。
「おぉ、コータぁ? 折角だしこいつらにお前が見た事話してやれよ。」
「……っ。」
野々村の言葉に僕は何をこいつらが『見た』のかがおぼろげだが察しがついた。
だけど、笹川の方は今ひとつピンッと来ていないみたいで、野々村の眼光には怯えていたがその瞳には訝しげな光りが浮かんでいる。
笹川の察しの悪さは今に始まった事じゃない。
だけどこの流れでこの話の先が解らないのは致命的だ。
僕がそう思っていると僕の後ろに居たコータが、突然僕の背中をどんっと強く押した。突然のその衝撃に僕はバランスを崩して、冷たい木の床へと倒れこむ。
「ぅ……っ。」
肘を強かに床に打ちつけたことに小さく呻くと、うずくまっている僕の隣にコータがしゃがみこみ、僕の髪をむんずと掴んで顔を無理矢理持ち上げさせた。
「幸田ぁ、お前さぁ、笹川とナニ企んでるワケ?」
軽薄そうな顔ににやにやと嫌な笑みを浮かべて、コータは僕にそう聞いてくる。
野々村と違い声に重さのないこいつの言葉に、だけど、僕は自分の立てた計画を見透かされたような気がして内心ドキリと心臓が高鳴った。
だが少々脅されたからって、そんな事ぐらいじゃ僕はもう心が折れるほど弱くはない。
だからコータの言葉に、僕は首をゆっくりと左右に振った。
「……別に何も企んでないよ。」
「ジョーダンッ、じゃあさぁ、なーんで、お前達最近仲良くツルんでるワケ? 俺さ、見ちゃったんだよね。」
「……。」
僕の空々しい言葉にコータはぷっと吹き出した後、更に僕の顔を髪を掴んで持ち上げると、鼻が触れるくらいその顔を近づけてくる。そして、嫌な言い回しで僕に、笹川との事を聞いてきた。
さて、どう誤魔化そうか。
そう思い僕は一旦口をつぐむ。
そして目の前にあるコータの顔を冷ややかな目で見つめながら、コータが次の言葉を口にするのを待った。
「お前の家にさぁ、笹川が入ってくとこをさ。しかも一度や二度じゃねぇ。この一ヶ月ずっとお前ん家見張ってたんだけどさ、二日にいっぺんは笹川、お前ん家行ってねぇか? なぁ、いい加減正直になれよ? お前ら二人でツルんでナニしよーってんだ? 今なら野々村もきっと怒んねーと思うぜ? だから、さ。お前達二人で企んでる事をさ、この際俺達に話しちまいなよ。楽になるぜぇ?」
「……。」
あぁ、やっぱり。
コータの言葉に僕は、笹川の行動が野々村に筒抜けだったことを改めて納得する。
ただそれは想定の範囲内だったし、特に驚きはしなかったけど。
だって笹川は間抜けだし、馬鹿だから、今の笹川の僕への態度からいずれこいつらには笹川が僕に対して今までとは違う感情を抱いているってのはバレるとは思っていた。
寧ろ、こんな時期までそれをこいつらが追及してこなかったのが不思議なくらいだ。
笹川は僕と体の関係を持った後、如実に僕に対するいじめの手が鈍っている。
さっき野々村が口にしたように笹川は、最近はあからさまに僕を殴る時も力を抜いているし、僕に対する態度が柔和なものになってる。
その事もあって笹川が僕に、僕達の関係を野々村にバラそうと提案した時から、僕達の関係が野々村にバレるのはずっと覚悟していた。それにあの時、腹立ち紛れに委員長にも僕達の関係を見せ付けたりもしたから、少ない可能性ではあるが委員長の口からそれがこいつらに回っていても可笑しくない。
それでも僕達の関係について今までこいつらが言及しなかったのには、きっと何か訳がある。
ただ単に笹川が僕の部屋に通っている確固たる証拠を固めたかったのか、それとも、もっと他の思惑があるのか……。
だけど目の前でにやにやと軽薄な笑いを浮かべているコータの瞳には、特に興味以外の感情は浮かんでいないように見えた。
チラリと視線を野々村に向けると、奴は笹川の肩に手を置いたままもう片方の手で煙草を燻らせながら、僕を嫌な眼で見下ろしている。
コータの存在自体も、コータの追求自体もそんなに問題じゃない。
だけど、野々村が何を考えて、何を思っているのかは僕にも良く解らない。それが解らないから、少しだけ怖かった。
「っおらっ、無視かよっ! チビの癖にっ!!」
「っ……ぐ、ぅ……っ!」
僕が黙ったままだったのがコータの癪に障ったらしい。
コータは掴んだ僕の髪から手を離すと、そのまま僕の頬に向けて一発拳を打ち込んできた。
不安定な体勢から繰り出されたパンチだったから酷く痛くはなかったけど、それでも衝撃は凄くて。僕の体は殴られた勢いでまた床の上に転がった。
だけどそのままコータは僕の体を転がしたままにはしてくれなかった。
また僕の髪を掴んで顔を無理矢理引き起こすと、今度は髪を掴んだまま、逆側の手で頬を思いっきり張り飛ばされる。
ブチブチッと髪の毛がコータの手の中で切れる音と、痛みと衝撃が僕の顔から体全体に駆け抜けた。
口の中が血の嫌な味が溢れ、それはあっという間に僕の唇の端から一筋の線となって零れていく。
「ぅ……く……っ、う……っ。」
痛みに顔を歪めながらも、それでも僕は考える。
今この場を切り抜ける最善の方法を。一応こうなった時の為に僕は常日頃から散々色々なパターンでシュミレーションはしてきていた。
その中のどれか一つを使って、切り抜ける。
だけど、僕がその答えを見つける前に、またもう一発、今度は鳩尾に向かってコータの膝が入った。
「う……っ、げぇええ……っ!!」
鋭い痛みと共に胃が競りあがり、僕は胃液を用具室の床にぶちまける。
それをコータは器用に避け、蹲った僕の背中にその足を何度も何度も打ち落とした。
上半身裸の状態でダイレクトにコータの蹴りを背中や横腹に受け、僕はその痛みにのた打ち回る。
何せ冷たい空気のせいで肌は敏感になっているのに、そこに向けて上履きの裏のぎざぎざが僕の肌に強く食い込むんだ。それは痛いってもんじゃなかった。
どがっ、ばきっ、と僕を蹴る鈍い音が体育用具室の中に満ち、それと共にコータの軽薄そうな笑い声も響き渡っている。
そんな僕達を野々村は楽しそうに、そしてその腕の中で笹川はまるで自分が蹴られてるような、悲痛な顔をして僕を見つめていた。
しかも笹川は今にも僕を助け出しそうにその体を乗り出している。
だけど野々村の手に止められているのか、悔しそうにその唇を歪めていた。
「っ……痛いっ、痛いいたいいたいたいっ……っ、やだっ……、もう、止めてやめてやめて……ぇっ!! ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……っ!! 話すからっ、話すからぁ……っ!!」
笹川のそんな様子を見て、僕は体を丸めて頭を庇いながらぽろぽろと涙を零してコータに哀願する。
だってこうでもしないと笹川が馬鹿な行動を起こしかねない。
今ここでこいつに下手な事をしゃべられたら、僕の計画はダメになる。その為には、涙を流してコータに許しを乞うのも大した手間ではなかった。
手を伸ばし、僕の背中を蹴り続けているコータの足首を掴む。
そしてそのままコータの足に腕を絡め、しがみつきながら僕は顔をぐちゃぐちゃにして泣き落としにかかった。
ここを切り抜ける為の、一つの芝居をする為に。
「ごめんなさい……っ、ごめんなさい……っ、僕、僕……っ、笹川くんに神クエの最新作持ってるのバレて……、それで、笹川くんに、それ……っ、最初は取り上げられたんだけど、でも僕が泣きながら取り返そうとしたら、じゃあ僕の家でやろうって……っ、みんなにバレたらハードごと取り上げられちゃうからって……だから……っ。別に何か企んでる訳じゃなくて……っ! ごめんなさい……っ、ごめんなさい……っ! ゲーム貸して、一緒にしてただけなんです……っ!」
「……はぁあ?!」
ぐずぐずと鼻を鳴らしながら即興ででたらめのでっち上げをコータと周りの奴にそれっぽく伝える。
その僕の言葉を聞いて、コータは勿論の事、野々村も他の奴らもざわめきたった。
彼らの中で僕のこの言葉はきっと想定外のものだったのだろう。
ざわざわとそれぞれの顔を見合わせ、僕と笹川をそれぞれがそれぞれの思いを込めて見つめる。
だけど笹川の馬鹿まで、僕の言葉に驚いたような声を小さく漏らしやがった事で、彼らの瞳は疑り深い色を湛えて僕に集中した。
チッ、馬鹿が。少しは空気読めよ。
……まぁ、でも事前の説明も、相談もなしに突然笹川を悪者にしたんだから、笹川からしてみれば余りの事に驚いても仕方ないかもしれない。
だけど、笹川を悪者にする意外、僕達の本当の関係を隠すことは出来ない。いつかはバレるとしても、今はまだ、僕達の関係が完全にこいつらにバレるのは不味い。
だからここは少しだけ可哀想だが、笹川には野々村達の鉄拳制裁を受けてもらおう。
まぁ、実を言えばセックスしてる関係ってのがバレていたとしても本当は構わないっちゃ構わないんだが、もしその事実をこいつらが知らないなら、もう少しだけこいつらには秘密にしておきたい。
今回のこの笹川の件を呼び水にして、もう一段階、復讐への足がかりに出来るから。
それにこいつらが僕達の関係をどの程度まで邪推しているのかが、これで解る。それが解れば、これからこいつらへの対処の仕方も自ずと何パターンかに決まってくるし。
「……おい、笹川、それマジか……?」
「……あ、え……、っ、その……それは……。」
僕の言葉に野々村は笹川の胸倉を掴むとその真意を正している。だが、笹川も突然の事でどう答えていいものか迷っているんだろう。僕の方をちらちらと見ながら歯切れの悪い受け答えをする。
あぁ、まったく察しが悪い奴はこれだから。
そう思い僕は笹川に助け舟を出してやる。
「ほ、……本当だよ! 疑うなら僕ん家来てくれてもいいよっ! 笹川くんがやったデータ残ってるから……っ!」
「うるせぇ! チビ!! 今お前にゃ聞いてねぇんだよっ! ……で、笹川、テメー一人で神クエ独り占めするつもりだったんかよ? え? 俺様になんの断りもなく? あぁ……? しかも、俺等に見つかったらハードごと盗られる……? 良くそんな事が言えたなぁ……? さぁさぁがぁわぁ〜?」
流石に下っ端に自分を無視され勝手に盗人扱いされて野々村は腹が立ったのか、酷く凶悪な目で笹川を睨みつけながら低いドスの利いた声で笹川に詰め寄っていた。
野々村が神クエに物凄くハマっているのは、笹川だって良く知っている。それなのに、最新作は売り切れ続出で未だに野々村の手には渡っていない。……尤も野々村の手に入る、と言うのは、野々村自身が買うという訳ではなくて、誰かから奪うっていうのが正しいのだけど。
それが解っているにも関わらず下っ端の笹川が僕と言う玩具の持ち物の中にそのゲームを持っている事を知っていながら自分に報告もせず、あまつさえ、自分には内緒でゲームをしていた、という事実が野々村を激昂させているようだった。
その野々村の激昂ぶりが嫌ってほど解るのか笹川は顔を真っ青にしたまま、いや、とか、それは……、とか必死になって言い訳をしようと言葉を濁していた。
「だ、だから、ち、違うんだよ……っ! ただ、その……っ、ゲ、ゲーム! こ、こいつ、神クエ以外のゲームもこいつ、大量に持ってて……っ、それで、その……っ。神クエあるの確認して、他にも野々村が欲しそうなゲーム見つけたら、後でちゃんとお前に伝えるつもりだったんだよっ! マジだって……っ!! 信じてくれよ……っ!! ハード云々は言葉のあやで、お前が盗るとか、んなの言ってねーからっ!!」
だけど流石にこの土壇場になって笹川は漸く僕の思惑通りに動いてくれる。
僕をちらちらと見ながら、必死になって笹川なりにない頭を働かせて言い訳を取り繕っていた。
あまりにも子供だましな言い訳だったが、笹川の必死さが加味されて少しは真実っぽく野々村の耳には届いたのだろうか。
疑り深い瞳で笹川を見つめ、そして野々村は視線を僕へと移した。
野々村の目は酷く疑心暗鬼に満ちている。
だけど、僕がぽろぽろ涙を零しながら、ごめんなさい、ごめんなさい、神クエなら渡すから、もう蹴らないで、殴らないで、と哀れな声で哀願していると、ふいにプイッと野々村は僕から視線を逸らせた。そして、舌打ちをする。
「チッ! くだらねぇっ。おい、笹川ぁ、お前が俺をないがしろにした事は、後でじっくり話して聞かせてやるよ。」
僕から視線を外した野々村は笹川の顔に一瞥をくれ、その胸倉を突き放すようにして離すとドスを利かせた声で今回の事に釘を刺す。
野々村の言葉に笹川が、顔を青ざめながらもコクリと頷いたのを見ると、野々村はまた視線を僕へと向けなおした。
そしてドスドスと足音を響かせながら、僕へ近づいてくる。
「……なぁ、チビ。お前ん家ってそーいやぁ、結構な金持ちだったよなぁ? お袋さん、どっかの会社経営してるんだっけかぁ……?」
「……か、金持ちかどうかは、解らないけど……、か、母さんは、その通りだよ……。女の子向けのファッション系のショップとか経営してるけど……。それが……どうしたの?」
僕の前に野々村はしゃがみこむと、ぐずぐずと泣いている僕の顔を覗き込みながらいやらしい笑みをその唇に貼り付け、僕の母や家の経済状況に関心を寄せた質問をしてきた。
今まで野々村が僕の家庭環境の事で興味を示したのなんて、せいぜい母子家庭って所だけだったのに、今更何を聞いているんだろう。
そう一瞬思ったが、すぐにその理由が解る。
今まで金銭面でのたかりはそれ程なかったけど、きっとこれからはそちら方面でも僕から搾り取るつもりなんだろう。
笹川がさっき言った言葉。
『神クエ以外にも大量のゲームがあって』
その言葉が野々村の中にある、暴力以外の欲求に火を点けたのだと思う。
そして僕のその予想は見事に当たった。
「ふ〜ん……、じゃあよぉ、今からお前ん家行って、ゲームさせろよな。お前ん所のお袋さん、あんま家にも帰って来てねぇらしいじゃねぇか。だったら俺達が押しかけたって構わねぇよな? 笹川もしょっちゅう深夜近くまでお前ん家に居るくらいだしよぉ。」
くつくつと喉を低く震わせて僕の裸の肩に手をかけると、馴れ馴れしく顔を近づけてそんな事を野々村は言ってきた。
その言葉の裏には、今日からお前の家は俺達の無料ゲーセン、遊び場、たまり場にするっていう意味が込められていて。
野々村の卑しさに僕は内心、苦笑と共に改めて野々村を蔑む。
だってそうだろ?
弱いものにしか威張れない。
親の権力を嵩に来て、威張る。
自分の力でなにもなさずに人から搾取することばっかりを考えてる。
これを蔑まないで何を蔑むっていうのさ。
そう思いながらも、僕は怯えたフリをして野々村の言葉に小さく頷いた。