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NOVEL

罪 悪 感  〜第一話〜

注意) 【現在】幼なじみ×主人公 無理矢理 愛のないH 玩具



俺は何をしてるんだろう……?

俺は何故ここにいるんだろう……?

そして、今のこの状況は……?

 足首までスーツのスラックスと下着をずり下ろされ、丸出しになっている下半身を今、俺は嬲られていた。
 ここはとある結婚式場の男性トイレの個室の中。
 俺をタイル張りの壁に押し付けている男は、無遠慮に俺の股間を弄る。

「んっ……ぁっ……っ!」

 必死に声を抑え、与えられる刺激を我慢する。
 しかし起立したモノを背後から回って来た手に柔らかく掴まれ、緩くソレを上下されるだけで言い難い快感が背中を走る。
 その直接的な快感に思わず声を上げそうになり、慌てて目の前にある自分の左手の甲に噛み付いた。きつく小指側の部分を噛むと歯が肉にめり込んでいき、その痛みに眉根を寄せる。だが、零れそうになる声を抑える為には痛みになんか構ってられなかった。必死になって手の甲に噛み、痕を肉に残す。
 その時、俺を壁に押し付けているアイツの手が、俺自身を緩くしごいているのとは逆の手が、すぅっと伸びてきて俺が噛み付いている腕を口元から無理矢理に引き剥がした。

「何してんだよ、お前。 んなとこ噛んだら人に見られるだろうが。 噛むんならせめて服で隠れる所、噛めよ。」

 背後から俺を押さえつけている男が、軽い口調で耳元に囁く。その声に、いや、アイツの口から漏れた生暖かい息に、火照っている耳が刺激され、体が震えた。
 アイツはその些細な俺の反応に目ざとく気が付いたらしく、薄く笑う気配が俺の背後に漂う。

「なんだよ……、声とかでも感じんのか? お前、マジ変態だよな。」

 笑いの気配は嘲りになり、俺の中に少しだけ残っていた自尊心を傷つける。
 だがこの状況下でそれを否定する事は、今の俺には出来ない。
 これからアイツが挙式を挙げる結婚式場の狭いトイレの個室の中で、幼馴染でそして義弟でもあった男に、こんな風に良い様に弄ばれ、抵抗さえ出来ずに快楽に身を任せてるようなクズには、否定も反論も出来なかった。
 それでも未だ人並みに自尊心を持ってしまっている俺は、屈辱に体が熱くなる。

「まぁ、仕方ねぇよなぁ。 お前、ボスにしっかり仕込まれちまったもんな。 此処にこんなモン入れられたら感情とは関係なく悦ぶように、な。」

 ヴゥーーーーッン

 アイツが便座の蓋の上に置いてあったモノを手にし、スイッチをいれた途端、その物体は低い電動音を響かせ始める。
 その音に俺は体を硬くした。
 これから行われる行為が容易に想像が付き、自分の意思とは関係なしにゾクリとしたモノが下半身に広がっていくのが解かった。
 そして音を発する物体は俺の想像と違わず、後ろの入り口に触れる。耳元にはアイツの言葉と、嘲りを含んだ気配。

 何故?
 どうして?
 こんな事に?

 そんな今更な疑問が俺の頭に浮ぶ。
 だが、そんな疑問も、自分の体の欲求の前では意味のない事だった。気が付けば俺は無意識の内に腰を揺すり、入り口をソレに擦りつける様な動きを始めていた。

「へぇ、女みたいな欲しがり方、すんだな。」
「……っ!? うる、さッ……んっぅ…!」

 アイツの言葉に俺は思わず声を上げた。激しい羞恥と嫌悪が体を燃え上がらせる。
 その羞恥に俺は顔を捻じ曲げ、今の自分が出来る精一杯の反抗――アイツを睨みつける――をしようと試みた。
 だが、俺がアイツを睨みつけるより早く、俺自身を握っていたアイツの手が動き、亀頭の部分を強く握りこんだ。
 その微かな痛みとそれ以上の強い快感に、ガクガクと腰が揺れる。
 喉からは高く細い空気の抜ける音。
 強い刺激に思わず体を支えている足の力まで抜けそうになった、その瞬間。アイツの俺自身を握りこんでいた手が俺を解放すると、腕が俺の腰を抱きとめ、また俺の上半身を壁に強く押し当てられる。
 そして、今度はしっかりと緩く振動を繰り返すオモチャを蕾に押し当てた。

「まぁまぁ、そう怒るなよ。 ……コレ、欲しいんだろ? 今挿入()れてやるからさ、機嫌直せって。」

 くすくすと楽しそうな笑い声を漏らしながらアイツは、俺に押し当てているオモチャをソコに擦り付けるように動かした。

 ちゅくっ……。

 そんな微かな音が擦り付けられる度にソコから生じると共に、振動が起こす快感に俺は思わず吐息を漏らす。

「ぅぁ……ふっ……んっ。」
「へっ、やっぱりお前変態だよな。 あ〜、やだやだ。 ケツにバイブ突っ込まれてよがる幼馴染なんてよ〜。」

 声に明らかな侮蔑を滲ませながらも、アイツは俺の秘所に押し当てたオモチャの動きを止める事はしなかった。寧ろ先程よりも強く刺激を与えるように、ぐりぐりと入り口にオモチャの先を捻じ込むような動きに変わる。
 始めは微かな抵抗を示したが、それでも先端が入り込み始めるとじわじわとオモチャは俺の体内に埋め込まれていく。

 じゅぷ…、ぐぷっ……。

 オモチャが体内に埋め込まれていく度に振動音がどんどん体内に共鳴し、それと共に粘着質な音が個室内に響いた。

「ひぅ……んっんんっ……ふっ。」
「へぇっ、ローションなしでも入るモンなんだなぁ。 コレ、結構デカイのに。 ……なぁ? コレ、イイ? ケツって気持ちイイ?」
「んっん……はっぁっ……っ……っ、んっ……ィ、イっ。」

 ぐりぐりと内壁を押し広げられる感覚と、オモチャの起こす振動によって酷く嫌悪を催すほどの快感が俺を侵食していく。
 意識は快感に飲み込まれ、耳元で囁かれる好奇心を多く含んだアイツの言葉に、俺は無意識に何度も何度も顎を引いて頷いていた。

「……マジかよ……。 お前、女より性質悪ぃな……。」

 俺の答えに、アイツは呆れたような声を漏らした。
 だがすぐに気を取り直したように強く秘所に突き刺したオモチャを揺さぶり、内壁に更に刺激を与える。

 ずりゅっ……ぐちゅっ……。

 オモチャと内壁の粘膜が擦れ合い、いやらしい音を個室内に響かせた。
 内臓をえぐられる感覚。
 酷く硬く、でこぼこしたモノが出入りする。
 生身の人間には有り得ない動きをする、ソレ。
 温かみも、愛情もまったく感じられない無機質なオモチャ。
 そのオモチャの振動が内壁を通じ、脳髄までもグラグラと激しく揺する。

「あっ……はっ…っ、くぅっ……っぁ…っ。」

 それでもまだどこか冷静な部分が、あられもない声を漏らす事を押し留めていた。
 唇を噛み、声を殺し、瞳を瞑る。
 目を閉じると眦から一筋の涙が零れ落ちた。
 それは悔しさからか、それとも快感からなのか。

「ふぅん……女みたいな欲しがり方する割には、女みたいには鳴かないんだな。」

 ふいにアイツが耳元で妙に感心したような声で、囁やいた。
 その声に微かな欲情が含まれているように感じ、俺は思わず目を開けアイツを振り返る。
 しかし俺の目の前にあるアイツの顔は、いつものように人を小馬鹿にしたような表情を浮かべて俺を見下ろしていて。その瞳には蔑みさえ浮んでいるようだった。

「あ? どうした?」
「……っ、な、でもな……っんっ……っ。」

 そうだ。
 コイツが男に欲情なんてする筈がない。
 アイツの冷め切った瞳を見て、今一度俺は自分に言い聞かせる。
 コイツはいつも人を馬鹿にしていて。裏切って。貶めて。
 そして何より、ゲイを毛嫌いしてたのだから……。
 だから、俺は――。
 そこまで思い、俺は思考を遮断する。
 これ以上はもう今の俺にもコイツにも関係のないことだ。
 俺は顔を元に戻し、味気ないトイレの壁に頭を押し付ける。
 そして下半身から湧き上がる快感に声を上げそうになるのを必死に押さえ、この地獄が早く終わる事を願う。
 そして。

「……こ…ぅやっ……っ。」

 口の中で今はもう呼ぶ事のなくなったアイツの名前を、小さく、小さく、呟いた。

◇◆◇◆◇

 渡良瀬 航矢(わたらせ・こうや)

 仁科 渉(にしな・わたる)


 それがアイツと俺の名前だ。
 年齢は同じ。ただ、俺の方は早生まれの為、学年では俺が一年先輩になる。
 そして、アイツと俺はいわゆる幼馴染って奴で。
 家が隣同士だった事も有り、本当に小さい頃から一緒で、まるで兄弟のように育った。
 俺も航矢も一人っ子だったから、尚更アイツ――航矢を本当に弟みたいに思っていた。
 ……現在は兎も角、子供の頃は、本当に俺達は仲が良かった。
 何せほぼ生まれた時から一緒にいるようなもんだ。だから相手がどんな人間であっても、疑問を持つ事無く、自分にとって合う合わないを考える事もなく、ただそこに居るだけで仲良くできる。
 だが、時間が経つと共に、広がる世界と共に人間は自分に合った人間と付き合うようになっていく。
 そうなった時、俺と航矢との関係は変わって行った。
 航矢は子供の頃からガキ大将気質の活発な男で、俺は頭の出来は良いが大人しく、どちらかと言えば根暗だと評される男だった。
 そして人見知りの激しかった俺は学年が上がっても、なかなか仲の良い“友人”を作る事が出来ずどんどんと自分の中に閉じこもっていってしまった。
 逆に航矢の方は、元々他人に対しても遠慮をする事がない人間で、いつしか素行の悪い人間達のリーダー格に納まっていた。
 その頃には俺達は、完全に住む世界が違い始めていた。
 それでも義務教育中はまだ、“幼馴染”としての付き合いもあったし、航矢も特に俺に対して極端に態度を変える事はなかった。
 確かに昔ほどお互いの家への行き来は減ったし、航矢と俺の世界の違いにすれ違いが多くなってはいたが、それでもそれなりの関係は続いていた。 


 お互いの親が離婚するまでは。


 離婚自体は今の時代ではそう珍しくない事で、それ自体は俺達もそんなにショックは覚えなかった。
 離婚が決まった当時は、俺も航矢も「隣同士が同時期に離婚って、面白い話だよな。」とか笑い合ってた位だし。
 だが、俺の母親と航矢の父親が再婚するとなると話は別だった。
 俺の親権は母が持ち、そして航矢は父親が持っていた。と、なると今まで“幼馴染”だった俺達は、なんの予備知識もなく予感もなく、突然“兄弟”になってしまった。
 その事実を親達に告白され、そして同じ家で暮らし始めると、航矢は今までとは比べ物にならない位荒れ始めた。その原因は俺の母親と航矢の父親が再婚をした事か、それとも俺が航矢の兄になった為かは俺には解からなかったけど。
 そして航矢が荒れるに従い、俺もまた折角受かって入学した高校にも滅多に行かなくなり、部屋に引きこもりがちになっていった。
 再婚した相手がまったく知らない男なら、ここまで俺も航矢もおかしくなる事はなかったと思う。
 それが子供の頃から良く知っていて、優しくもして貰ったし沢山可愛がって貰ってはいたが、“航矢のお父さん”としか認識していない相手が突然の再婚によって自分の義父となった。
 それはまだまだ大人になりきれて居ない俺には、ショック以外の何物でもなくて……。
 そもそも、いつの間に母はそんな関係を航矢の父親と築いていたのか。
 俺達に隠れて、俺も俺の父をも裏切って隣の父親と愛を育んでいた事に俺は酷く裏切られた気分を味わった。
 そして多分、航矢も同じ気持ちだったのだろう。
 結果、俺はますます外に向けて自分を出す事が出来なくなり、挙句部屋に引きこもり、そして俺とは逆に憤りを外に向けた航矢は家を飛び出した。
 更に俺はこの事がきっかけで女に対して、嫌悪感を覚えるようになってしまった。
 母への嫌悪感は母だけに留まらず、結果この世界に住む全ての女に向かってしまったのだろう。
 女は汚く、男を簡単に裏切る。
 思春期の俺に、その感情が消せない位深く刻まれたのは当然ともいえる。
 俺は母に嫌悪感を隠す事もなく、ことあるごとに彼女を蔑み子供ながらの残酷さでもって傷つけた。
 お陰で家庭内はボロボロ。
 結局、航矢が家を飛び出している間に、俺の母と航矢の父親は離婚した。
 離婚に伴い愚かな母は、俺を“生んだ”と言う責任感からか、はたまた義務感からか、彼女を馬鹿にして軽んじているこの俺と暮らす事を希望したのだ。だが、それを俺は“母の愛”等と賞賛する事もなく、当然のように拒絶し、これからの人生をたった一人で生きていく道を選んだ。
 当然、母からの仕送りも拒否し、そして、まだ奇跡的に籍の残っていた高校も退学を申し出て、俺は安アパートを借り(借りる時の連帯保証は実の父に頼んだ)、そして余り人との関わりを必要としない場所でバイトを掛け持ちで始めた。
 勿論、バイトだけでは生活は苦しかったが、それでも生きていくだけなら問題はない。
 それに元々人付き合いが希薄なタイプだから、他人に付き合って遊びに行くということもなく、更に女に対して興味を抱かない俺に恋人と呼べる人間も出来る筈などなかったので、バイトで稼ぐ金だけで充分生活をする事が出来た。
 一日の大半をバイトに費やし、そして、アパートには食事と風呂と寝る為だけに帰る。
 そんな日常を1年ほど繰り返した。
 ――今思えば、この時期が一番自由で、そして充実していたような気がする。
 特になんの楽しみもなかったが、それでも“自分の力で生きている”、その感覚を実感出来て、それだけで満足していた時期でもあった。
 でもそんな平坦で平和な日常も、ある人の出現で崩れ去っていった。


 ある人――航矢の父によって。




to be continued――…