NOVEL

罪 悪 感  〜第二話〜

注意) 【現在】幼馴染×主人公 無理矢理 侮蔑 罵倒  【過去】義父×主人公

俺は逆らえない……?

 俺は従うしかない……?

 俺は、何処……?

 俺はトイレの床に膝まづき、アイツの股間に顔を埋めていた。 起立し天を向いているモノに丹念に舌を這わせ、先端を頬張る。頬をすぼめて強く吸い、舌を動かして鈴口から滲み出し始めている先走りを味わう。
 微かな塩味と苦味が、舌の上に広がり、消えていった。
 俺の下半身からは微かな電動音。
 バイブは俺のナカに埋め込まれたまま、振動を快感に変え続けていた。
 力を緩めると抜けそうになるソレを、腹に力を込め入り口の部分でその場所に留める。
 それはアイツの命令だった。
 そして、今俺が膝まづいてアイツの肉棒に奉仕をしているのも。
 『清掃中』の札のせいで誰も訪れる事のないトイレの中で、俺は未だアイツに屈辱的な仕打ちをされていた。

「んっ……ちゅっ…ぁむ……っ。」
「へぇ……巧いモンだ。 あれか? 男だけに男のイイ所が解かるってか?」

 アイツがからかいを含んだ口調で、尋ねてくる。
 俺はその言葉にチラリと上目にアイツを見たが、答えることはせずただアイツの怒張に舌と唇で丹念に愛撫を続けた。
 舌先に広がる苦味は徐々に濃さを増していた。

「まぁ、もっともボスにも仕込まれてるんだから、巧くて当たり前だよな。」

 五月蝿い……、そう心の内で呟く。
 そして、女とスル時もこんなにもコイツは饒舌なのだろうか?とつまらない事を考えてしまう。
 脳裏に今日、コイツが結婚する女の顔が浮んだ。
 一般的には美人と評される女で、資産家の娘。
 だか、その見た目の美しさとは裏腹に、その性格の勝気さと性悪さが高飛車で冷たい印象を見る者に与える。
 そんな女でも、コイツにはベタ惚れで、家柄の合わないコイツとの結婚話を強引にここまで推し進めた。
 その一途さと執念には、正直頭が下がる思いだ。
 ――まぁ、もっともコイツの方にあの女に対する愛情なんてものがあるかどうかは、甚だ疑問だが。
 コイツが家を飛び出し、再会するまでの5年間、コイツが何処で何をしていたのかなんて、俺は知らない。
 だけど、久々に再会した時コイツはもう、立派にチンピラで。見た目こそそこら辺のチンピラとは違ってまともでは有ったが、何処かの組の構成員をしてるとか、そんな話をしていた。
 それが今日からは、資産家の入り婿。女の父親の運営する会社の跡取り。
 人生どんな風に転がるか解からない。
 ……それは、俺もだが。
 アイツの匂いをこれ以上ないくらい間近で感じながら、俺はつらつらとそんな事を考える。
 欲に溺れそうになる自分を、少しでも冷静に戻そうとそうやって足掻いていた。
 下半身からは人工的なうねりで快感が否応なく迫ってくる。そして、アイツ自身を口に含んで“男”を嗅いでいると、俺の意思とは関係無しにどうしようもない熱さが体の芯を溶かしだしていた。
 それを必死に昔の事を回顧したり、コイツの女の事を考える事で落ち着かせようとしていた。
 しかし。

「お前、“男”がそんなに好きなのかよ?」

 唐突に降って来たアイツの言葉に、心臓が跳ね上がる。
 違う、そう叫びたくなった。だけど今のこの状況でそれは余りにも説得力がなく、結局俺は黙って奉仕を続けた。

「なぁ、お前、いつから“男”が好きなんだ? 親が再婚した頃からか? それとも……。」

 俺の沈黙をどう取ったのか、アイツは質問を変えてきた。
 それも俺は無視し、口に含んでいたアイツを開放すると、今度は竿に舌を絡めて行く。竿に添えていた手は下に滑らし、掌で竿の下にある袋を柔らかく包み込むように握ると、ゆっくりと揉みしだいた。袋の中でコリコリした固まりが、掌の動きに合わせてこすれあう。
 その愛撫には弱かったのかアイツの口から、微かな呻き声が漏れた。

「……っ、お、いっ、質問に、答えろよっ!」
「痛っ……!」

 突然乱暴に髪を掴まれると、引っ張られ無理矢理顔を上に向かされる。
 頭上には怒りか羞恥かは解からないが、上気して紅く染まった顔のアイツが居た。

「“男”がいつから好きなのかって聞いてんだよ!」

 ボンヤリとアイツの顔を見詰める俺にもう一度、アイツは苛立った口調で聞いてきた。
 執拗に繰り返し聞いてくる質問に、俺は眉根を寄せる。
 そんな事を聞いて、どうしようって言うんだか……。
 そうは思ったが、俺は自分の唾液とアイツの先走りで汚れた口元を掌で拭うと口を開いた。

「……親が離婚して、一人暮らし始めてからだよ。 この性癖に気が付いたのはな。 それよりも前は、そもそも恋愛感情とか肉欲とか感じた事、なかったから。」

 努めて平静を装い、答える。
 ――嘘は吐いてない。
 俺が男と関係を持つようになったのは、一人暮らしを始めてからだから。……ただ、それは俺の意思とは関係なく、だけど。
 でも、それはコイツが聞きたい事じゃないだろうし、言う必要もない事だから、言わない。
 コイツがこんな事を聞くのは、俺を蔑む為。
 その為にこうやって俺に質問を浴びせ、そのネタを増やしてるんだろう。
 だが、俺の答えに対してアイツの示した反応は想像していたものとは違った。
 アイツは俺の答えを聞き、俺から視線を外したのだ。
 視線を外す直前、その瞳にあった高圧的な色が消え、戸惑いが浮んだのを俺は見逃さなかった。
 その反応に、俺は違和感を覚える。

「――なぁ、お前さ、あのアパートで誰かと同棲してたよな?」
「!?」

 しかし俺が違和感の正体を掴む前に、アイツは口を開いた。
 何故、それを……?
 コイツと再会した頃にはもう、独りに戻っていた。住んでいた部屋だって、俺だけの物しかなかった。
 一緒に暮らしていた奴の荷物は、別れた後、全部捨てたから。
 なのに、何故コイツが知ってる……?

「……相手、男だったんだろ?」

 俺の答えを待たず、また質問を重ねる。
 いや、質問と言うより、詰問。
 アイツの声は硬く、鋭かった。
 俺はひっそりと溜息を吐いた。
 コイツは何処まで知っているんだろう?
 だけどその疑問は口にはせず、胸の奥に取り残す。

「だったら、どうだって言うんだ? あの頃は俺が自分の力でアパートを借りて、自分の意思で生きてたんだ。 親の干渉もなかったんだから、別に同棲とかしてても可笑しくないだろ? ……相手が男だろうと、女だろうと。」

 俺は喋りながら、目の前にある未だ起立したままのアイツ自身を掴み、緩くしごく。
 掌の中に感じる熱さと硬さに、瞳を細め、ソレにそっと唇を寄せた。

「なんにしろ、もう随分と昔の事だ。 それにお前にも関係のないことだし。  もう、どうだっていいだろ? それよりも……続き、するぞ?」

 アイツの答えを待たずに俺は寄せた唇を怒張に押し当てる。
 鼻先にアイツの肉が迫り、濃厚な“男”の匂いが鼻腔を満たす。それを肺一杯に吸い込み、いらやしい形のモノに舌を這わした。
 舌先に感じる“肉”の感触。そして、青い匂い。
 陶然となる。
 殊更アイツに見せ付けるように、舌を動かし、音を立てて吸う。
 頭上でアイツが何か呟いたような気がした。そして軽い舌打ちの音。
 途端、強く頭を押さえつけられ、喉の奥までアイツが突き刺さる。突然の刺激に俺は嘔吐感を催したが、それを我慢しアイツ自身に舌を絡めて強く吸った。
 口の中でアイツ自身が、ピクリと反応を返してくる。そして、先端に滲んでいた先走りの粘りが強くなった。
 その粘りを喉の奥で味わい、舌を更に竿に絡めて行く。
 精一杯口を開き、口全体で彼を包み込む。
 アイツにぐいぐいと頭を押さえられ、その度に先端は喉の奥を突付き、酷い嘔吐感を催す。
 だがこれくらいの嘔吐感なら我慢も出来るし、寧ろ快感さえ感じてしまう。

「んっ、んむぅっ……っ、ぅ……んぐっ…んぁ…っ。」

 アイツに辱めを受けている意識を思考の外に追いやり、俺は自ら進んでアイツにむしゃぶりつく。
 何度か頭を前後させると口角に唾液が溜まってきた。そしてそこに留まり切れなかった唾液が俺の顎から喉を汚していく。

「……けっ、嬉しそうにしゃぶりやがって…っ! 変態がっ!!」

 頭上からアイツの罵声が降って来た。
 それと同時に俺の髪を掴んでいるアイツの手に力が加わる。

「そんなにしゃぶりたいなら、手伝ってやるよ。」

 嘲りを含んだ言葉と共に、アイツは激しくピストン運動を始めた。
 口の中をアイツが傍若無人に暴れ周り、強く喉の奥を先端が擦る。そして、アイツが出入りをする度に、口角に溜まっていた唾液が白く泡立つ。
 俺は目を閉じ、その暴挙を受け止める。なるべく歯がアイツに当たらないよう口を大きく開け、激しく出入りを繰り返す肉棒に舌を絡め、喉の奥をすぼめてアイツに刺激を与えようと努力した。
 口からは卑猥な水音が零れ、俺の耳を打った。

 ぐぷっ……っぷ……じゅっ……ちゅ…

 音が口から漏れる度、涎がだらだらと零れ、顎から喉、そして胸板まで濡らす。

「もっと、喉開けろ。 先が入らねぇじゃねぇか!!」
「んっぐっ……っ、ん、あぁっ……っっ。」

 アイツの声に薄っすらと瞳を開け、体を少し沈めると顎を仰け反らした。
 顎から喉の線が直線に近くなり、今までよりも喉の奥にアイツを飲み込みやすくなる。
 そして、アイツの腰に腕を回して腰の動きを無理矢理止めるとゆっくりとアイツを深く飲み込み始める。
 アイツの熱さが上蓋を擦り、広げた喉に入り込んでくる。
 ディープスロート。
 この体勢だと流石に難しいが、それでも出来るだけ奥まで入るよう喉を開く。
 息苦しさと吐き気を我慢してアイツを根元まで咥え込み終わると、頭上から、アイツのくぐもった呻き声が聞えてきた。

「……っ、凄ぇな、お、前っ、こんなんまでボスに仕込まれてんのかよ……っ。」

 快楽と感嘆の含まれた声でそう言うと、アイツはゆっくりと腰をグラインドさせ喉の奥と口内を掻き混ぜ始めた。
 アイツにそうされる事で、口全体が性感帯となって脳髄を溶かす。苦しさも吐き気も全てが快感に直結し、俺の下半身で放置されたままになっているモノから精液の混ざった液が零れ落ち、太股を濡らした。
  不意に頭を押さえてる片方の手の感覚がなくなった。と、俺のナカに埋め込まれたままで、そろそろ馴れ始めていたオモチャの振動が、突然強くなる。
 ゆるゆると振動を与えていたモノが急激な変貌を遂げ、凶悪なまでに強い感覚を内臓に強いる。

 ぶ…ぶぶっ……ぶぅ…んっ……

 鈍い振動音が体中を駆け回り、脳髄を焼けつくした。
 口をアイツ自身で塞がれているため、上げそうになった悲鳴はくぐもった呻き声にしかならなかった。
 そんな俺にアイツは容赦なく腰を動かし、喉を突いた。その感覚と下半身から来る刺激にぎゅうっと喉の奥が閉まり、そして、瞼の裏に白い稲妻が閃いた。

◇◆◇◆◇

 そう、あの日。
 突然。
 本当に何の前触れもなく、航矢の父親が俺を尋ねてきた。


 母と離婚してからはまったく連絡もなかった相手だっただけに俺は一瞬面食らい、ドアを開けたままの姿で固まってしまった。それでも目の前で困ったように笑うこの人の事は、実母ほど毛嫌いしていなかったので、すんなり何の疑いもなく笑顔で部屋に迎えた。
 それが間違いだったのだろう。
 1年ぶりに見た航矢の父は、見違えるほど人相が変わっていた。
 面長で優しげな風貌だった彼は見る影もなく痩せ、そして、濁った瞳をしていた。
 口を開くと、強い煙草と酒の匂い。
 いつも清潔感のあった服装も今や、煙草のやにと皮脂で黄ばんだシャツに、皴がつきよれよれになったスラックス。履き潰してしまっている革靴。その服装と表情などで、航矢の父の現在の状況は一目瞭然だった。
 そこまで航矢の父を追い詰めたのは、きっと俺の母との離婚だろう。
 そして、俺と航矢の子供特有の我が儘。
 それが解かっているだけに、俺は航矢の父に、一度は自分の義父になった男を無下に追い返す事も出来なかった。
 だから快く部屋に上げ、湯を沸かしお茶を出すと、航矢の父は現在の身の上をとつとつと語り出した。
 俺の母との離婚後、長年努めていた職場をリストラされた事。
 新しく求めた職は、思った以上に過酷だった事。
 そのストレスから酒と煙草を覚えた事。
 そして、社長の不正が発覚し数ヶ月前に倒産して、今また無職になってしまった事。
 現在職探しの最中だが、年齢的に希望に合う仕事が見つからない事。
 お陰で最近は半ば職探しを諦め、パチンコや競馬などのギャンブルで日々を過ごしている事。
 などなど。
 聞いているだけで身につまされるような現状を、航矢の父は感情のない声で、時折寂しげな笑いを滲ませ語った。
 俺はその話を聞きながら、表現しようない痛みを感じていた。
 航矢の父が此処まで落ちぶれてしまったのは、俺の責任でもあったから。俺がこの人を快く、とまでは行かなくても、母との再婚を認め、義父として慕えば今のこの現状は免れたかもしれない。
 そして航矢が、家を飛び出さなければ……。
 今頃まだあの家で、家族4人それなりに仲良く過ごしていたのかも。
 だけど、今更後悔しても遅い。
 俺も航矢も母と義父との結婚を認めず、引き篭もったり、家出をしたりして彼等を困らせ、そして現在(いま)があるのだから。
 だから俺は元義父の話が終るまで、冷め切ったお茶を新しいお茶に換えたり、用を足す以外はただずっと黙って聞いていた。
 それが良かったのか、悪かったのか。


 その日から、航矢の父――渡良瀬一也は、俺のアパートに居ついてしまった。



 俺も俺で、酷い目に遭っている元義父を追い出す事も出来ず、彼が俺の部屋に住む事を黙認してしまった。
 彼、一也さんに対する負い目があったから。
 だけど、あの時ドアを開けなければ、そして、彼を部屋に招き入れなければ、いや、せめて彼があんな事を俺にした時に勇気をもって追い出せば良かったのだ。
 変な同情や、負い目なんか感じずに。
 それ以上に俺は、酷い事をされたのだから。
 でも、それでも俺は彼を追い出せなかった。
 どうして?と、問われても俺自身にも解からない。
 ただ、毎夜訪れる恐怖も、彼の腕の中で朝を迎えれば薄れていた。
 そして、いつしか恐怖でしかなかったその行為にも馴れ、彼が朝な夕な俺に紡ぐ言葉を信じ始めていた。
 それがどんなに浅はかだったとしても。
 一也さんは俺が彼に応える様になってから、また前のように柔らかな優しい微笑みを湛えるようになった。
 俺を見る目に、慈しみが溢れていた。
 それだけで、俺には充分で。
 そして、仕事も始め、ギャンブルも辞め、深酒をする事もなくなった。
 俺と居る事で、一也さんが一也さんで居られるのなら、それもいいか。
 いつしか俺はそう思うようになっていた。




 でもある日。
 唐突に。
 突然に。
 その、蜜月は終ってしまう。 




 始まった時と、同じに――。 



to be continued――…