改めて見上げると、恋次ときっちり目が合う。
いつになく不安そうな目。
恋次がこんなツラするなんて、な。

「一護・・・?」
「んだよ」
「なんだ、起きてたのか」
「起きてちゃ悪りぃかよ」

言い返すと恋次の視線が少しだけ柔らかくなった。
だがそれも一瞬、眉間の皺が深くなる。

「何だ? 何でじっとしてる?」

んだよ。
じっとしてちゃ悪りぃかよ。

「・・・なあ。いつもみたいに突っかかって来いよ」

あれ?
恋次、なんか困ってねえか?

「ああクソ! つか何か調子狂うんだよ。テメエがそんな大人しいと・・・」

なんだその勝手な理屈。
テメエが最初、訳分かんなかったんじゃねえか。
つか置いてきぼり食ったガキのような声、出すんじゃねえよ。
迎えにいってやりたくなるじゃねえか。
ったく。
ガキはどっちだよ。
仕方ねえなあ。

眠いんだよと一言だけ返すと、あからさまにほっとした声で恋次は、
「もう朝が近い。やっぱ少しでいいから寝とけ」
と言った。
「うん。寝る」
と答えるとやっぱり恋次は、
「珍しく素直で気持ち悪りィ」
と憎まれ口を叩いて返す。
そのくせ、よしよしと背中を撫で出した恋次の手は、酷くゴツゴツしてるくせに優しい。
でもぎゅうぎゅう遠慮なしに抱き締めてくるから息が苦しい。

薄く眼を開けると、恋次の肩越し、開けっ放しの窓の外にぽっかりと真っ黒の夜空が見える。
いつの間にか、あの月は姿を消している。
恋次は、現世は朝が来るのが早すぎると不満そうに呟く。
なわけねえだろ。
尸魂界も現世も変わりゃしねえだろ。
でも、真夜中には真夜中の時間の流れ方があることをもう俺は知っている。
夜闇が時間に沿って色を変えるように、時間も闇の深さで流れの速さを変える。
少し前まで、夜は朝に目覚めるまでの時間の塊だったけど、二人で居ることを覚えてしまった今は、夜が夜として息衝いている。
だから、朝の始まりが近いせいで闇が深い今は、時間が駆け去ってしまうんだ。
付いていけずに置いてきぼりを喰らう俺たちは朝日が差し込む頃、いつも夜の跡地に、二人分の影と共にぽつんと残されている。
それが寂しくないといったら嘘だけど。



「・・・もう寝たのか?」
「いや、起きてる」
「そうか」

一瞬だけ背を撫でる手を止めて訊いてきた恋次に、コイツ、肝心なところで不器用だよなあと思う。
何か一言でいい。
口にしてくれればちゃんと伝わるのにな。
まあでもお互い様か。
それにこの腕の中は、気持いい。
暖かいし、揺り篭のように揺れている。
ずいぶんと埃っぽいけどいつもの恋次の匂いだってしてる。

ゆっくりと撫で下ろす掌を背に感じながら、きっとこれが恋次の精一杯なんだろうなと思う。
ってことは俺のほうが頑張んなきゃなんねえのかなあ。
なんか理不尽な気がしないでもねえ。
何で俺が、自称オトナの面倒見なきゃなんねえんだろ。

小さくため息をつくと、テメエが熟睡してるときばっか来ちまってすまねえなと恋次が零す。
やっぱ全然コイツ分かってねえと思ったら、がっかりするよりおかしくなる。
だから俺は、真昼間だったらガッコだし会えねえだろバカやろうと返す。
すると恋次はくつりと笑い、なんだかんだで俺たちゃ死神だし、闇の生き物かもしれねえなあと呟く。

「闇の生き物?」
「そう。闇の生き物」

目が合うと、恋次がもう一度、一護と俺の名を呼んだ。
それが余りにも優しい響きだったから、俺は改めて恋次の胸に額を寄せた。
するとどくんと恋次の胸が大きく鳴った。
それは口下手な恋次にしては余りにも雄弁な音だったのだけど、俺は顔を上げることなく、ただ恋次の胸に頭を押し付けて、こんな時だけ妙に遠慮深くなってしまう恋次の手が、少し勇気を出して抱き締めてくれるのを待った。






2009 10万hit企画 清原浩輔さまへ
「ただ身を寄せ合って抱きしめて、頭や背を撫でるだけの静かな過ごし方をしている二人を。大人しい一護がポイントで」というリクエストで考えこんでしまったのは、果たして一護が大人しくなるか?ということ。なので、きかん気の強いあまのじゃくが起こした叛乱は静かになることだろと逆説的に書いてみました。
清原さんが展開してる「恥じらい」というよりは「こっ恥ずかしー」って感じになってしまったのですが、お納めいただければ幸いです。
リクエスト、ありがとうございました!

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