そうだよな。
だって恋次、俺にちゃんと応えてくれたじゃねえか。
だからああいうことになってんじゃねえか、オトコ同士だってえのに。
好きとか何だとかそういうの、お互い口に出しちゃあいねえけど、でもそれが何だってんだ。
俺、恋次が好きだ。
改めてその気持を確認すると、
ドクンドクンと心臓が気合を入れて動き出すのを感じる。
さっきまで凍えてた身体が、隅々まで温かくなっていく。
そうだ。
俺が恋次が好きなんだ。
だったら俺がキッチリしねえとダメだ。
多分、恋次の分も。

覚悟が付いた。
「出ねえ」
とキッパリと言い切った。
なんだかスッキリした。
すると二人は顔を見合わせた。
そしてやっぱりまた同じような口論を始めた。

「ハッ! 当ッたり前だっつーの!!」
「つか何でッ?! 尸魂界のスーパーアイドルになれるチャンスだぞッ!!」
「ああもういいからホラ、檜佐木さん、もうアッチ行ってくださいって」
「あ、テメエ! なんだその手、シッシッってッ!!!」
「シッシッ」
「今度は音付きかよ?! テメエ、それが先輩に対する態度か?!」

これ、永遠に終わんねえんじゃねえか?
テメエら、どっちもしつこすぎるぜ。
つかこんなんで尸魂界、大丈夫なのか?

「行くぞ、恋次」

時間がねえんだ。
こっちに居られるのはあと半日ちょい。

「あ・・・?」
「卍解」
「え・・・? ちょ、ちょっと待て、オイッ、一護ッ!!!」

明らかにドン引きした恋次の手首を掴んだ。
マジかよという檜佐木の声を蹴飛ばし、霊子を固めて宙に思いっきり駆け上がると、ビュウと耳の側で鋭い風の音がした。
そして、
「うわぁぁぁぁぁぁッ・・・」
恋次の情けない声が辺り一面に木霊した。



もの凄いスピードで上昇し、重力に従って急降下。
その一瞬に目にしたのは、無限に広い空。
すごく青い。
気持いい。
だって ここには誰もいねえ。
俺と恋次の二人っきりだ。
邪魔は入らねえ。
恋次を見ると、必死の形相で俺の手を握り締めてる。
つか副隊長なんだし、落ちても死ぬわけねえし、せっかくなんだから浸れよ。
少し不満に思いつつも、恋次の手の強さがすごく心地いい。
それに、さっきまでの苦しさとか痛みとかそういうのが全部取れてしまってて、なんだかすごくスッキリと感じた。

地面がぐんぐんと近づく。
なんだか笑いが漏れる。
だってヘンじゃねえか。
すっげえ意気込んで尸魂界に来て、そのくせイライラしまくって。
挙句の果てにこんな風に恋次をぶら下げて空、落っこちてる。
こんなことに卍解使ってんだから、斬月のオッサンに怒られるかもな。
けどやっぱりすっげえ気持ちいいんだ。
何にも遮るもんが無いから、太陽が俺たちを真っ直ぐ照り付けてくる。
きっと地上では俺たち二人分の影が飛んでたはず。
みんな、何事かと空を見上げたんだろ。
けど誰も俺たちに届かねえだろ。
なんかそういうのが気持いい。

「へへッ・・・」

思わず、笑いが漏れた。



そしてすとんと軟着陸したどっか山の奥、
こりゃあ盛大に二人っきりだな、まるでさっきの空の続きみてえだと思って卍解を解いた途端、

「こんのバカ一護ッ」
「イ・・・テェッ」

恋次に思いっきり殴られた。

「んでこんなとこ来てんだよッ」
「ってそりゃ・・・、成り行き?」
「俺に訊いてんじゃねえッ」
「イテッ! つかテメエ、ガスガス殴んじゃねえよッ」
「殴りたくもなるだろッ。何、こんなとこで卍解してんだ、このガキがッ」
「ガキって言うな!!」
「ガキはガキだッ」
「んなこと言うテメエがガキだッ!!」

うーと唸りながら睨み合うと、恋次が先に折れてガクリと肩を下ろした。
そして、
「つかなあ。アイツら全員、目当てはテメエだっつーの」
とため息混じりに言った。
「え・・・?」
「前線で必死に防衛してた俺の身にもなってみろ。隊長は隊長でテメエに礼をしたかったみたいだけど、何しろあの性格だ。素直に招待できねえんだよな。ったく・・・」
「はぁ・・・?」

何が何だかサッパリ分からないで戸惑ってる俺を、じーっと至近距離でひとしきり睨みつけた恋次は、
「あーもう、ほんっと何にも分かってなかったんだなテメエ、ああクソ、面倒くせえ」
鼻の頭を掻きながら空を見上げた。

俺の位置からだと顎の線しか見えない。
けどその分、首筋の墨がはっきりと映る。
昨夜、唇で辿ったあの滑らかさが脳裏に甦る。
それは怯んでしまうほどの鮮明さで、俺は思わず一歩下がる。
ザリっと足音が響く。
すると恋次は俺に向き直って、ほらまたと小さく零した。

「何がだよ?!」

ぜんっぜん、意味、分かんねえよ!
つか俺、声が裏返ってんじゃねえか!
テメエも覗き込んでくんじゃねえ!

「オマエなあ、一護。結構、恥ずかしいぜ?」
「な、何がだよ!」
「ニヤニヤしてるし」
「ニヤ・・・!!」
「誰か来ると敵対心丸出しだし」
「テ、テキって・・・!!」
「だからちょっかい出されまくってたんだろ。・・・自覚無かったのかよ。最悪だな」

恋次は白い眼で俺を見た。
俺は顔から火が吹きそうだった。

「ああもう、テメエを尸魂界に連れてくんのはコレで最後だ」
「ええッ?!」
「つか」

恋次は俺の両肩をガッシと掴んだ。

「頼むから」
頼むから?
「頼むからせめてバレないようにな?」
「・・・んだよ、それ」

つか俺だってバラす気はカケラもねえよ、こんな妙な関係!

「あ・・・!」
「何だ?」
「い、いや! 何でもねえ」

そうだ。
こうやってバラしていけば、恋次は俺んもんだって皆、分かるんじゃねえか?
そしたらあんなふうに気安く恋次に手を出しちゃ来ねえだろ!
つか恋次だって楽になるしな。
俺って天才かも。

「・・・一護」
「ん?」
「またニヤけてる」
「・・・ッ!」

すると恋次は小さくため息をついた。
そろりと見上げると、本気で怒ってはいないみたいだ。
だいぶ高度を下げて来た太陽の逆光でよく見えないけど、さっきまでの呆れ顔は消えて、なんだか微笑んでるみたいだ。

だから俺は思いっきり抱き締めた。
自分に言い聞かせるように、俺、恋次が好きだと呟くと、たっぷり三十秒の沈黙の後、知ってるよと応えてくれた。
その声がすごく小さくって、でもやっぱり笑ってるみたいで。
俺はそれがすごく嬉しくって、恋次の肩に額をグリグリと押し付けた。
そして言葉にはしなかったけど、もう少ししたら、この肩にもきっちり顎乗せられるようになって、しっかり抱き締めてやるよと誓った。




2009 10万hit企画 2009 10万hit企画 匿名の方
付き合い初めの頃、隙だらけの恋次に構う修平や兄様の様子を目撃して焦る一護の独占欲の芽生え的な話をとのことでしたが、なんだか芽生えが高じて爆発・・・? どんどん暴走して行った上にコメディ化してしまいました。すみません。でも書いててすごく楽しかったです(笑) お受け取りいただけると幸いです。リクエストありがとうございました!

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